コモディティ・レポート 2017年3月号 ~資金の流れに変化の兆し~

コモディティ・レポート

2017年03月06日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

 

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 2月もトランプ相場の賞味期限は切れずに注目を集め続けた。閣僚人事の停滞でインフラ投資や国境調整税などの経済政策が具体化せず、中弛みしつつあった相場を支えたのは、金融規制改革法(ドット・フランク法)見直しを指示する大統領令の発行と、「驚くべき」大規模な税制改正を行うという大統領の発言だった。2月末に実施された上下両院本会議での施策方針演説でも、経済政策の具体策に触れなかったが、トランプ氏が攻撃的な姿勢から融和的な姿勢に転じたことで「これまでになく大統領らしいスピーチ」と好感され、期待感の剥落には至らなかった。

 

 

 一方、2月に入りフランスで大統領選挙戦が本格化したことで、市場の目は欧州にも注がれた。大統領選の有力候補とされるフィヨン氏の不正給与疑惑が浮上したことで第1回世論調査では極右政党のルペン氏が得票率で首位に浮上。フランスのEU離脱を掲げるルペン氏の思いがけない躍進にBrexitの二の舞ともいえるFrexitを懸念した投資家は、ユーロ売りやフランス国債売りに走った。

 

 

 ドル指数は100台を維持したため一見強く見えるが、構成通貨の6割を占めるユーロが欧州の政治リスクから弱いことが主因であり、個別通貨でみるとドルは年初から全面安となっている。特に資源価格の回復を受けた新興国通貨に対してドルは弱く、ロシアルーブル、南アランド、ブラジルレアルなどの上昇が目立った。主因としては、縮小傾向にあった先進国と新興国の経済成長率の差が再び拡大したことや、米国の実質金利が軟調なことから新興国に投資マネーが回帰したことが挙げられる。

 

 

 欧米から還流した資金は、新興国だけでなく商品市場にも流入している。商品市場は、ようやく需給改善の兆しがみられる段階で、投資魅力が高いと言い切れる状況にはない。だが、欧州からの逃避資金や欧米でのインフレ率上昇に対するヘッジ策など、マクロ的見地での商品買いにより、原油や銅の投機筋の買いポジションは過去最高水準まで積み上がっている。中国の商品市場においても、需給に関係なく鉄鉱石や農産品が買われており、人民元安に対する防衛策として商品買いが行われていると指摘されている。

 

 

 商品市場への資金流入は、改善しつつある需給を悪化させるリスクもはらんでいる。特に、原油市場では、OPECの協調減産で需給バランスが均衡に向かいつつあるが、投機筋の買いで原油価格が更に上昇すれば、米国シェールの増産ペースが加速してしまう懸念がある。足元では高い順守率が維持されているOPECの減産も夏場の冷房需要期に近づくにつれて、順守率が下がるとの見立てもあるなど、原油相場は不透明感が依然強い。銅については生産量1、2位の銅鉱山の供給障害に加え、新規鉱山の稼働ラッシュもピークを過ぎたことから原油よりも需給改善が早く進む期待が高い。

 

 3月は政治・経済イベントが目白押しで、中国全人代の開幕、オランダ総選挙、英国のEU離脱通告、米国ではFOMC、予算教書・税制改革案の発表などが控えている。ただし、世界経済そのものは悪くなく、商品需給もゆるやかながら改善傾向にあることから、イベントリスクが顕在化しても商品市場は案外冷静な反応となる可能性も高い。

 

 

CRB指数 vs. ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国商品先物 大口投機筋の建玉推移(出所:CFTCより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

原油(ドル/バレル)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 需給面をみるとOPECの減産順守は3月も継続する可能性が高いが、アジア・欧州の製油所の定期メンテナンスが2016年より多いことから、原油需要は弱く、原油価格も上値を追求しにくい。また、過去最高水準にまで積みあがった投機筋のポジションも、更なる積み上げには心理的な歯止めとなり得る。とはいえ、株式市場が過熱気味になるなか、新たな収益源や資産分散を求めた投機筋が将来的な原油先物値上がりやロール益を期待し、参入を続ける可能性もあり原油需給に連動せずに価格が押し上げられる可能性もある。

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

金(ドル/トロイオンス)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 2月は他商品との相対比較上も高い価格上昇率を記録。トランプ相場は減速しつつも継続中だが、異色大統領の言動への困惑と、期待剥落への不安も併存。またフランス大統領選ではユーロ離脱を掲げる極右ルペン候補の善戦で、2016年のBrexitの経験から「Frexit」リスクを無視できなくなっており、金ETFに資金流入。米FRBは3月追加利上げの公算だが、欧州選挙ラッシュ・インド季節需要で短期的には押し目買い継続と予想。ただ金利の更なる上昇は金の投資妙味を低下させること、実需不振などから基調的な弱さは残る。

 

 

◆亜鉛(ドル/トン)

 

亜鉛(ドル/トン)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 供給不足根強い亜鉛も日柄調整局面の様相。国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)が発表した2016年世界需給バランスは28.6万トン不足となったが、秋季予測からは不足幅が縮小。また、Glencore社は自社鉱山の減産解除を急がない方針を再表明し、中国や韓国の製錬所が鉱石供給逼迫を理由に相次ぎ減産を発表する一方、Nyrstar社がMiddle Tennessee鉱山に続きMyra Falls鉱山も再稼働を検討、Attila Resources社はMMG社が鉱山寿命満了で閉鎖したCentury鉱山の残存資源採掘に投資を決定する等、増産の動きも散見される。

 

 

◆大豆(セント/ブッシェル)

 

大豆(セント/ブッシェル)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 収穫が本格化する南米産大豆の供給圧力と、17/18年度米国産大豆作付面積の増加予想から軟調に推移し、10ドル割れを試す展開を予想する。南米の生産量予想についてはブラジルが過去最高の105百万トン超、アルゼンチンは1月に洪水に見舞われたにも関わらず前年比4%減に収まる見通し。3月末には米農務省から農家への聞き取り調査に基づく作付意向面積報告の発表が予定されており、作付面積を巡る思惑が相場を変動させる材料となりやすい。

 

 

◆主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品年初来騰落率(%)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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