デイリー・アップデート

2025年7月7日 (月)

[日本] 

厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、5月の実質賃金は前年同月比▲2.9%となり、5か月連続のマイナスだった。消費者物価指数(除く持家の帰属家賃)は+4.0%と、2024年12月以降、4%台を維持していることもあり、実質賃金のマイナス幅は2023年9月以来、20か月ぶりの大きさになり、市場予想(▲1.7%)を超えた。

 

名目賃金(現金給与総額)は+1.0%と増加したものの、4月(+2.0%)から上昇率を半減させた。内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+2.1%で、4月と同じであり、上昇ペースを維持している。フルタイム労働者(一般労働者)は+2.5%、おおむね4月(+2.6%)並みで、パートタイム労働者の時間給も+4.0%で、4月(+4.1%)並みを保った。それに対して、残業代(所定外給与)は+1.0%、4月(+1.3%)から縮小し、ボーナス等(特別に支払われた給与)が▲18.7%と、4月(+0.1%)からマイナスに転じた。

 

なお、共通事業所ベースでは、名目賃金は+2.3%、4月(+2.6%)から小幅に上昇率を縮小させた。内訳を見ると、基本給(+2.6%)は4月(+2.5%)から小幅に拡大した一方で、残業代(+2.8%)は4月(+4.0%)から縮小し、ボーナス等(▲3.6%)は4月(+2.4%)からマイナスに転じた。

 

夏場にかけて、2025年度春闘の賃上げ効果が表れると予想されている。

[米国/アフリカ] 

7月9日、トランプ米大統領はアフリカ5か国の首脳をホワイトハウスに招く予定であると、英ロイター紙などが報じている。対象となる国は西アフリカのモーリタニア、セネガル、ギニアビサウ、リベリア、そして中部アフリカのガボンの5か国。ホワイトハウスによると、これらの国々と「商業的な機会」について議論を行うことを目的とし、9日に昼食会を催す予定とのこと。同会合が実現すれば、アフリカの首脳の米国公式訪問は5月にトランプ大統領と対談した南アフリカのラマポーザ大統領以来となる。仏メディア「ジュヌ・アフリック」系のAfrica Report紙は、招待された5か国はアフリカの西海岸に位置し、鉱物資源が豊富であること以外は旧宗主国や言語もバラバラであり、一見共通点はないようにみえるが、米国は「戦略的」に選択しており、決して急ごしらえの計画ではないと分析している。同紙は米国の目標はアフリカ54か国全ての国と関係を強化することではなく、あくまで戦略的機会がある国に絞っている。また、中国の影響力拡大の抑制や、過激派組織の拡大と民主主義の後退を防ぐなどの観点が重視されていると指摘している。

 

第1期トランプ政権では、同氏のアフリカへの関心の低さがたびたび指摘されてきたが、第2期政権では、より「取引的(transactional)」なアプローチを重視。6月27日には米国の重要鉱物のアクセス拡大のために必要な、コンゴ民主共和国(DRC)とルワンダの和平協定の締結を仲介した(2025年6月30日デイリー・アップデート参照)。さらに米政府は7月中にDRCのチセケディ大統領とルワンダのカガメ大統領をホワイトハウスに招く意向も示している。

 

他方で、米平和研究所は、ルワンダの支援を受けてDRC東部を実効支配している武装勢力「M23」は同和平協定に一切関与していない点を指摘。また和平協定に則ってルワンダが90日以内に「防衛措置(注1)」を解除したとしても、M23は重要鉱物の違法採掘・売買等で独自の資金調達能力を確保しているため、即時停戦・撤退には応じないとの見方を示し、米国の仲介努力の意義を疑問視している(注2)。

 

7月4日、ルワンダのカガメ大統領は記者団に対して、トランプ大統領による仲介努力に謝意を示しつつも、DRCが和平協定で定められた90日以内の「ルワンダ解放民主軍(FDLR、注3)」の無力化を履行できなければ、和平合意は失敗に終わるとの意見を述べた。

 

(注1)ルワンダはDRC東部へのルワンダ国軍の越境派遣を否定し続けているため、和平協定においても「軍の撤退」ではなく、「防衛措置(Defensive measures)の解除」という文言が盛り込まれたもの。

 

(注2)米国によるDRCとルワンダの和平協定に並行して、カタールがM23とDRCとの直接対話・和平交渉を仲介している。

 

(注3)1994年のルワンダ大虐殺を主導したフツ族を主体とする武装集団。ルワンダ国境周辺のDRC東部で活動。ルワンダはFDLRが国境周辺の安全保障を脅かしているため、自衛・防衛措置を取っていると主張。

[イスラエル] 

イスラエル民主主義研究所が発表した世論調査によると、ネタニヤフ首相に対する支持率は40%(ユダヤ人の間で46%、アラブ人の間で10%)となった。同首相に対する支持率はユダヤ人の中でも政治的右派と左派の人たちの間で大きく異なり、右派の間で64%の支持があるのに対し、左派からの支持率はわずか3%だった。カッツ国防相に対する支持率は、35%(ユダヤ人39%、アラブ人15%)。

 

イスラエルの公人で国民の支持が高かったのは、イスラエル国防軍のザミール参謀総長で68.5%(ユダヤ人77%、アラブ人25%)の支持を集めた。次点はモサドのバルネア長官で、支持率は67%(ユダヤ人74%、アラブ人36%)。イスラエルでは一般的に軍人の人気が高く、軍人から政界入りする人も多い。

 

また、イスラエル国防軍に対する信頼度は84%(ユダヤ人93%、アラブ人41%)と高いのに比べ、警察に対する信頼度は50%と低い(ユダヤ人56%、アラブ人22%)。警察に対する信頼度はユダヤ人の右派と左派の間で大きく異なり、右派の間では63%と比較的高いのに比べ、左派の間では30%と低い。

 

同世論調査は6月22~23日の期間に、745人の18歳以上のイスラエル人(ユダヤ人599人とアラブ人146人)に対して実施されたもの。

[米国] 

週末にテキサス州で発生した鉄砲水で子どもを含む80人以上もの犠牲者が出ており、いまもなお行方不明者の捜索が続いている。

 

甚大な自然災害は行政への不満につながる。とくにトランプ政権では政府の人員や予算の削減が実施されていることもあって批判へとつながりやすい。トランプ政権は2026会計年度予算教書で、米海洋大気局(NOAA)への予算を前年度比約25%(15億ドル)削減するよう要求している。この中には、NOAA傘下の海洋大気研究所(OAR)の廃止や、気象衛星など観測リソースの縮小も含まれている。政権発足直後には連邦政府職員の大量解雇が実際にされている。NOAAでは1,000人以上の科学者・専門家が既に離職・解雇されており、追加で1,000人程度の人員削減が予定されている。これは職員総数約1万3,000人の20%近い削減に相当する。

 

実際、2025年2月には、NOAA傘下で天気予報を担う国立気象局(NWS)の職員約600人が一斉に解雇された。この結果、米政府の気象・気候要員は全体で6%以上減少した。解雇された中には予報モデル開発の科学者や、津波・ハリケーン警報担当者も含まれていたという。政権はまた、NOAAの予報インフラの予算削減に取り組んでおり、天気予報の中枢センター2か所のリース契約を打ち切る方針が伝えられたという。

 

NOAAやNWSの歴代局長の中には連名で公開書簡を発表し、人員不足のためリアルタイム観測体制の維持が困難になり広範囲で予報能力が影響を受ける、と警告していた。米国気象学会も「政府内の科学人材の流出は取り返しのつかない被害を招き、公共の安全と経済に広範な悪影響を及ぼしかねない」と異例の声明で警鐘を鳴らしていた。

 

もちろん、天気や自然災害の発生予測は難しい。今回の豪雨でも、NWSは当初「中程度の洪水」警報しか発しておらず、記録的豪雨の規模を予測しきれていない。人員削減が早期警告の不備につながった可能性があるとの指摘もあるが、その裏付けとなる証拠は今はなく、予測モデルの限界やシステム老朽化も要因との見方もある。

[ロシア/アフガニスタン] 

7月3日、ロシア外務省は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権を正式承認したと発表した。暫定政権の正式承認はロシアが初めて。暫定政権のムッタキ外相は、ロシアのジルノフ大使との会談で「両国関係における重大な進展だ。ほかの国々への良い例となる」と歓迎した。タリバンのロシア駐在大使が7月1日にモスクワに到着し、7月3日には信任状の写しをロシアのルデンコ外務次官に提出した。モスクワのアフガン大使館には、タリバンの旗が掲揚された。ロシアには2021年8月の米軍撤退後のアフガンにおける影響力拡大や、テロ・麻薬対策で協調する狙いがあるとみられる。

[中国/EU] 

7月6日、中国財政部は、中国に事業所を持たない欧州連合(EU)企業を、4,500万元(約630万ドル)以上の政府による医療機器調達から除外する措置を発表し、同日付で発効した。この制限は、中国国内で事業を行っているEU企業には適用されない。

 

また、医療機器に関する政府入札に参加するEU以外の企業については、契約総額の半分以上をEUからの医療機器輸入に充ててはならないとしている。これは、EUが2025年6月に中国の医療機器メーカーに対し、500万ユーロ(約5億8,900万円)以上の公共調達案件への入札を今後5年間禁止したことへの対抗措置だとしている。

 

EUの措置は、欧州委員会の調査により「中国がEUの医療機器メーカーによる政府契約へのアクセスを不公正かつ差別的に制限している明確な証拠がある」と結論づけられたことに基づき発表された。一方、中国政府はこれに対し、「中国の善意と誠意にもかかわらず、EUは制限的措置を取り、新たな保護主義的障壁を築こうとしている」と批判している。

 

7月2日から6日にかけて欧州を訪問した王毅外相は、報道によれば「中国は米国とは異なり、国際協調を重視している」と発言したところ、EUのカラス外交安全保障上級代表から、ウクライナ戦争を引き起こしたロシアへの支援について批判された。それに対して王氏は「(米国の関心が中国に集中しているため)ロシアの敗北は望んでいない」と述べ、さらに、中国は軍事的・財政的にロシアを支援しておらず、「もし支援していれば、紛争は(ロシアの勝利で)とっくに終結していたはずだ」とも語ったとされている。

 

7月24日から25日には北京で中国・EU首脳会議が予定されているが、関税や貿易障壁、レアアースの輸出規制などをめぐる両者の摩擦は依然として解消されていない。王毅外相はレアアースについて、「欧州企業が中国の輸出管理規定を順守し、必要な手続きを履行すれば、通常の需要は保障される」と述べた。しかし、商務省による許認可の手続き期間が6週間から3週間に短縮されるとされても、欧州側にとっては十分な安心材料とはなっていない。また、王毅外相は、中国・EU首脳会議の開催日程が2日間から短縮される可能性にも言及し、欧州側に対して対中政策の見直しを強く求めた。

 

7月4日、王毅氏がフランスのバロ外相と会談した際には、EU産ブランデーに対して事実上の反ダンピング関税を課さない方針を示すなど、欧州に対して硬軟織り交ぜたメッセージを発している。中国は欧州との関係改善を望む一方で、欧州が関税政策などで米国と足並みを揃えることへの警戒感も強く、思うように交渉が進展していないことへの苛立ちも見られる。また、個別の利益集団や国ごとの対応を通じて、欧州の対中政策を分断しようとする意図もあるとみられる。

[ベトナム] 

7月5日、2025年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.96%だったと発表された。前期(+7.05%)から加速し、2022年7~9月期以降で最も高い水準となった。内外需とも大きく伸び、製造業とサービス業の好調が続いた。もっとも、米国の相互関税の一時停止期間中の駆け込み輸出が大きかったとも考えられる。7月2日にトランプ米大統領が米国とベトナムは貿易合意に達し、ベトナムからの輸入品には20%、第三国からの積み替え品には40%の関税を課すと表明した。4月に発表された相互関税の税率である46%から大きく低下したが、合意の詳細には不明の点が多く、今後の協議が引き続き注目される。

[お休みのお知らせ] 

2025年7月8日のデイリーアップデートはお休み致します。

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