デイリー・アップデート

2025年8月8日 (金)

[お休みのお知らせ] 

2025年8月12日~2025年8月15日のデイリーアップデートはお休みいたします。

[メキシコ] 

メキシコ中央銀行は利下げのペースを緩和し、過去4回の会合で実施してきた50ベーシスポイント(bp)ずつの利下げから、25bpへ減速させ、政策金利を7.75%とした。今回の決定は、理事5人のうち4人が賛成した。

 

声明文は前回とほぼ同じ内容であり、「調整」という表現が複数形のまま維持されたことから、理事会の多数が今後も利下げに前向きであると考えられる。理事会は、最近のデータから経済活動が活発化していることを認めつつも、「依然として景気は弱く、不確実性や貿易摩擦がリスク要因である」と述べ、次回会合の9月にも追加で25bpの利下げを行うとみられる。また今後は、自国のインフレ率だけではなく、米国のフェデラルファンド金利との金利差がより意識され、FRBの政策に追随する可能性が高い。米国では、雇用統計の弱さを受けて、FRBが短期的な利下げに前向きな姿勢を示していることからも、中銀は金利差を大きく縮小せずに、より長く緩和サイクルを続ける余地が生まれ、市場では11月・12月にも追加緩和を織り込み始めるとみられる。

[南アフリカ(南ア)/米国] 

8月6日、シリル・ラマポーザ大統領は、8月7日から適用が開始された相互関税の発動直前に米・トランプ大統領と電話会談を行った。同会談後、南ア大統領府は「両首脳は米国が現在関与しているさまざまな貿易交渉を認識し、さらなる協議を継続することで合意した。それぞれの貿易交渉チームが、より詳細な協議を進める予定だ」との声明を発した。

 

トランプ氏は1月の就任以降、南アに対する個人的な攻撃姿勢を一切緩めていない。関税引き下げ交渉は困難との見方が広がる中、8月7日に南ア大統領府報道官は「(関税の)見直しの余地がなければ継続的な協議を行う必要はない。交渉を継続しているのは我が国だけではない」と引き続き米国との交渉に臨む姿勢を示した。

 

4月に発表された当初の相互関税案から変更なく、重要鉱物など一部の除外品目を除いて南アから米国向けの輸出品に30%の関税が課された(2025年8月5日デイリー・アップデート参照)。これはサブサハラ・アフリカの中で最も高い関税率だ。4月の発表時には米国が各国の対米黒字額に応じて算出したとみられる数値に沿って、レソト(50%)、マダガスカル(47%)、モーリシャス(40%)、ボツワナ(37%)など、南アよりも高い関税が発表された国もあったが、これらの関税は一律15%に引き下げられた(その理由は明らかになっていない)。

 

そのような中で、米国が南アに対して30%の高関税を維持したことは、中国(交渉中、発動90日延長)、ロシア(経済制裁として2次関税を検討)、インド(追加関税と相互関税あわせて50%)、ブラジル(対米貿易赤字国だが50%に修正)といった、南アと友好な関係を築くその他のBRICS原加盟国に対しても厳しい関税を課している状況と符合している。

 

南アにとって米国は中国に次ぐ第二位の輸出相手国(全体の7.5%)であり、相互関税の影響は自動車や農業を除いて限定的との見方もある。しかし、これらの産業は米国向け製品に特化していたため代替市場の獲得は容易ではなく、雇用を含め影響は甚大だとみられる。南ア政府は米国との外交関係の改善と貿易交渉を継続する構えを崩していないが、一方で相互関税が開始された8月7日に、南ア・貿易産業競争省(DTIC)は、「南アと中国の貿易・投資パッケージ(2025~29 年)」を発表。米国の相互関税による負の影響が不可避な中、最大の貿易相手国である中国との経済関係のさらなる強化に乗り出している。

 

なお、トランプ氏との電話会談の翌日にラマポーザ氏はロシアのプーチン大統領と電話会談を実施。プーチン氏はウィトコフ米特使とのロシア・ウクライナ和平に向けた会談の内容をラマポーザ氏に共有するとともに、和平プロセスを推進する南アの関与に感謝の意を示した、と報じられている。南アとロシアとの緊密な関係も示す内容だ。

[ノルウェー] 

ノルウェー政府は、ソブリンファンド(運用額1.9兆ドル)に対し、イスラエル企業への投資の再評価を命じた。対象とされたのは、Bet Shemesh Engines Ltd(BSEL)で、政府は監督者である中央銀行(Norges Bank)とファンドの倫理委員会(Etikkradet)に対し、15日以内の調査報告を求めている。イェンス・ストルテンベルグ財務大臣は、「ガザでの戦争は国際法に反しており、甚大な人道的被害をもたらしている」と述べ、倫理的責任を強調している。

 

ノルウェーは過去にも、違法入植地に関与する企業からの投資撤退を実施しており、今回の動きはその延長線上にある。また、年金基金も、イスラエル軍に装備を供給する米独企業との取引を停止している。

 

こうした動きはほかの欧州諸国でも確認できる。アイルランドのソブリンファンドは、イスラエルの銀行や小売企業6社からの投資撤退を発表した。一方、湾岸諸国のソブリンファンド(サウジアラビア・PIF、UAE・ADQ、カタール・QIAなど)のように、イスラエル企業への投資を継続・拡大している例もある。

[英国] 

イングランド銀行は8月7日、政策金利を0.25%引き下げて4.0%にすることを決定した。2024年8月に5.25%から利下げを開始して、合計の引き下げ幅は1.25%になった。今回の会合では、投票が2回行われ、最終的に9人の政策委員のうち0.25%利下げ支持が5人、据え置き支持が4人の僅差の決定になった。

 

1回目の投票では、ピル委員(チーフエコノミスト)やロンバルデリ副総裁ら4人が据え置きを支持した一方で、ベイリー総裁ら4人が0.25%利下げを主張し、テイラー理事が0.5%利下げを支持するなど、意見が割れた。0.25%利下げと据え置きが同数になったため、2回目の投票を実施することになった。なお、1997年に現在の運営方法になってから、2回の投票は初めてのことだった。

 

全会一致の決定は、直近では2021年9月が最後であり、それ以降、意見が割れる中での決定が続いている。それだけ、金融政策の決定が難しい局面に差し掛かっているとも言える。

 

2025年第2四半期(Q2)の消費者物価指数は前年同期比+3.5%であり、9月に+4.0%、Q3に+3.75%まで上昇率を拡大させる見通しになっている。前回の見通しでは9月のピークは3.7%で、今回、上方修正された。食品などの価格上昇や賃金上昇などの押し上げリスクが引き続き警戒されている。その後、物価上昇率は2027年Q2に中銀目標の2%に縮小すると予想されている。前回時点では、2027年Q1に2%に回帰する予想だった。

 

ただし、先行きについて、金融引き締めからのさらなる撤退は「段階的かつ慎重な(gradual and careful)」アプローチが適切という姿勢を維持した。一方で、「政策金利が引き下げられてきたため、金融政策の制約度は低下した」という文言が加わった。また、利下げの時期やペースは、基調的なディスインフレ圧力の軟化の範囲に依存するとしており、金融政策はあらかじめ決まった経路にはなく、委員会は証拠の蓄積に応じる姿勢を維持している。

[米国/スイス] 

4月2日に米国政府が発表したスイスに対する相互関税率は32%と、先進国で最も高い水準だった。スイスの主要な対米輸出品には医薬品や時計、精密機器などがあるが、金額ベースで大きいのは金。金市場の中心地であるニューヨークとロンドンで取引される金地金の標準スペックが異なるため、金現物が両市場を行き来する際に、世界最大の金製錬ハブであるスイスで再製錬して輸出するケースが多い。スイス国立銀行は4月8日、世界的にストレスが高い時期は安全資産としての金取引が増えるため、スイスの金輸出は米国との二国間貿易収支にカウントされるべきでないと文書で主張していた。

 

ところが、米国政府が7月31日付で発表した8月7日からのスイスの関税率は39%とさらに高かった。また、4月時点で貴金属は相互関税の適用除外となっていたが、スイスの貴金属製錬業が米国に対して関税対象品目の明確化を求めたところ、税関国境警備局の7月31日付の文書で、ニューヨーク金先物市場で受渡可能な金のキロ・バー(1キログラムの延べ棒)と100オンス・バーは関税対象となるHSコードに分類されることが分かったという。これについては8月7日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)のみが報じているが、報道を受けて、ニューヨーク金先物はロンドンの現物市場に対するプレミアムを拡大した。

 

スイスの正副大統領は8月5~6日に緊急訪米して高関税回避を目指したが、成果はなかった。スイスは今後も米国との協議を継続する意向。

[EU] 

欧州連合(EU)は、米国との貿易協定には合意したが、さまざまな点での両者の見解の相違や対立は続いている。エネルギーおよびインフラ投資として1兆ドル超を拠出するとの約束についても、欧州委員会は「いかなる意味でも拘束力はない」と明言し、EU・米国間の貿易合意をめぐる緊張の高まりを示している。

 

欧州委員会の報道官ギル氏は「米国政府に伝えた内容は、EU企業によるエネルギー支出および米国経済への投資に関する包括的な意向であり、法的拘束力はない」と説明し、「欧州委員会にはそのような投資を強制する権限はなく、今後もその権限を求めることはない」と述べている。一方、トランプ米大統領が、EUが3年半の任期中に6,000億ドルのインフラ投資を履行しない場合、EUに対して35%の関税を課すと警告している(この投資約束は、2週間前にトランプ大統領と欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が合意したEU・米国間の枠組みの柱であり、EUが2028年までに7,500億ドル相当の米国産エネルギーを購入するという別の約束も含まれる)。また、デジタルサービスについては、マルコ・ルビオ米国務長官は、EUのデジタルサービス法(DSA)を「廃止または修正する」よう指示したとの報道も出てきている。これに対し、ギル氏は「EUの規制と基準は交渉の対象ではなく、今後も変わらない」と述べ、懸念を否定している。DSAについては、バンス米副大統領が、DSAが政府による検閲にあたると主張し、同法に対する強い批判を展開していた。さらに、米国政府は、EUとの間で半導体を含む製品に対して15%の関税を適用することで合意したと発表した直後に、半導体の輸入に対して100%の関税を課す方針を明らかにしたことに対しても、ギル氏は「米国は他の関税措置にかかわらず、EUの半導体輸出には15%の関税上限を適用することを約束している」と述べ、合意の有効性を強調している。

[アルメニア/アゼルバイジャン] 

8月8日、トランプ米大統領はホワイトハウスにアルメニアとアゼルバイジャンの首脳を招いて、和平協議と南コーカサス地域の和平枠組みの署名を行う予定。ロイター通信によると、アルメニアは、アゼルバイジャン本土と飛び地ナヒチェヴァン州を結ぶ戦略的回廊(ザンゲズール回廊)の開発権を米国に独占的に与える可能性がある。同プロジェクトは、「国際平和と繁栄のためのトランプ・ルート(TRIPP)」と名付けられ、回廊はアルメニアの法律の下で運営され、米国はインフラ整備を担う企業連合に土地を再貸与する形になる。

 

アルメニアとアゼルバイジャンは係争地ナゴルノカラバフの支配権を巡って争っており、両国首脳は2025年7月、アラブ首長国連邦(UAE)で和平交渉に臨んでいた。ナゴルノカラバフは、ロシアと同盟関係にあったアルメニアが実効支配していたが、アゼルバイジャンが2023年9月に奪還した。アルメニアはその後、米国との安全保障関係の強化を進めてきた。 米国にはアルメニア系住民が数十万人いるとされる。

 

トランプ氏は2024年10月、アルメニアとアゼルバイジャンの対立制止について、SNSに投稿していた。

[中国/アフリカ/ブラジル] 

中国は、海外サプライチェーンの多角化を進める中で、アフリカのコーヒー生産国からの輸入を拡大している。中国国内におけるコーヒー需要の高まりと、米国の関税政策がこの動きを後押ししている。

 

アラビカコーヒー発祥の地であるエチオピアや、ロブスタ種が有名なウガンダは、巨大な中国市場へのアクセス拡大を図っている。中国ブランドの「コッティ・コーヒー」(ラッキン・コーヒー元幹部が設立)も、2025年6月にルワンダ農業省と新たなコーヒー産業開発パークへの投資協定を締結した。コッティ・コーヒーは、エチオピアおよびウガンダとも契約を結んでいる。

 

アフリカから中国へのコーヒー輸出は、2025年第1四半期に前年同期比で70.4%増加した。エチオピアからの輸出は2025年上半期に約5倍の30,621トン、ウガンダからは2倍以上の6,150トンに拡大した。さらに、中国政府が2025年6月にアフリカ53か国に対して関税ゼロ政策を打ち出したことも追い風となり、ケニア、タンザニア、ブルンジ、コートジボワールなども中国への輸出拡大を目指している。

 

また、ブラジル産コーヒーに対して米国が50%の関税を課す方針を示した数日後の7月30日、中国政府はブラジル企業183社に対し、中国へのコーヒー輸出を許可すると発表した。ブラジルコーヒー協会の専務理事は、通常、新たに認可を得るのは20社~30社ほどであり、183社が認可を得るのは通常ではないとコメントしつつ、コーヒー豆収穫後の時期の発表は、ブラジルの輸出業者にとって助けになるとコメントした。

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