デイリー・アップデート

2025年8月7日 (木)

[米国/イタリア] 

Googleはイタリア企業・Energy Domeと提携し、二酸化炭素(CO2)を使った革新的なエネルギー貯蔵技術「CO2バッテリー」を導入することを発表した。この技術は、再生可能エネルギーによる発電量が多いときに余剰電力を蓄えて、発電量が少ないときに放出する「長時間エネルギー貯蔵システム(LDES)」に分類される。電力を使ってCO2を液体に圧縮して蓄え、必要なときに加熱・膨張させて気体に戻し、タービンを回して電力を生成するというのが仕組みの概要となる。閉じた環境でのエネルギー循環利用のため、プロセスの繰り返しが可能で、最大24時間の電力供給が可能だという。高価で入手困難な材料を使わず、既製の機械部品と物理原理で構成されており、化学的ではなく機械的に電力を蓄えるため、コスト効率と持続可能性に優れているともされる。

 

Googleと提携したEnergy Domeは、すでにイタリアで商業設備を3年以上稼働させており、20MW・200MWhの容量を保有している。また、オーストラリア・ヴィクトリア州では、7.8GW規模の蓄電プロジェクトを建設している。Googleではデータセンターや再生可能エネルギー拠点にこの技術の導入を予定しているとされ、蓄電することによるベースロード化が期待されている。現在のコストは100ドル/Mwh未満と見られており、今後はコスト半減を目標に、競争力を高めていくとしている。

[パナマ] 

港湾コンセッションに関する裁判所の判断は、迅速に進む可能性が高い。8月1日、パナマ最高裁判所は、港湾運営会社に対する契約延長の合憲性について異議申し立てを受理した。この判断は、政治的圧力の影響を受ける可能性が高い。今回の訴訟受理は、CKハッチンソン(香港)、ブラックロック(米国)、コスコ(中国)などの企業間で進行中の港湾協定交渉に影響を与えるものであり、政治的な対応を求める圧力が高まっている。CKハッチソンによる港湾資産の売却計画は、中国当局による独占禁止法調査の対象となっており、国際的な緊張も高まっているが、7月30日には会計検査総長が、契約延長は違憲であると主張し、正式に異議を申し立てていた。この法的対応は、ムリーノ政権が米国の対中圧力に応じて、中国関連企業を港湾事業から排除する政策の一環とみられる。裁判所は政治的な動きに敏感であり、契約延長を違法と判断する可能性がある。ただし、こうした判断は、パナマがすでにファースト・クォンタム社との国際投資紛争解決センター(ICSID)での係争を抱えている状況下で、新たな国際仲裁リスクを生むことにもつながる(※)。

 

港湾契約が無効化となれば、外国企業との投資保護について、国際的な信用を失う可能性もある。さまざまな課題を抱える中で、ムリーノ大統領の国民支持率の急激な低下も重なり、政治的な政策断行力も制限されてきている。最新の世論調査では、5年間の任期中、わずか1年しか経過していない中で、大統領が正しい道を進んでいると考える回答者はわずか10.4%まで低下している(1月は51.2%、3月は26%)。この感情の悪化は、経済と雇用に対する国民の不満に多く起因している。また、7月には議会の議長が野党から選出されたことも、政治的にデリケートな問題に挑むことを難しくしている。

 

政権は先週、2026年の国家予算案を議会に提出した。予算案には、財政責任法に基づくGDP比3.4%の財政赤字目標が盛り込まれているが、歳入と支出の前提には不確実性があり、財政統合に向けた具体的な道筋は示されていない。

 

(※)コブレ・パナマ銅鉱山をめぐり、2023年11月、パナマ最高裁判所がコンセッション契約(鉱業権契約)を違憲と判断。この判決を受けて、鉱山は操業を停止した 。ファースト・クォンタム社は、契約無効に対して異議を唱え、パナマ政府を相手取り、国際商業会議所(ICC)およびカナダ・パナマ自由貿易協定(FTA)に基づく2件の国際仲裁請求を行った。その後、2025年3月末、仲裁請求は取り下げられたものの、鉱山再開には至っていない。

[デンマーク/EU] 

2025年7月から12月まで、デンマークがEU理事会の議長国を務める。ポーランド、キプロスとともに18か月間の「トリオ議長国制度」の一環として、EUの技術政策における長期目標の達成を目指している。特に注目されるのは、規制の簡素化と技術の安全性強化である。デンマークは、国内でのデジタル技術導入や官民連携の成功経験を活かし、EUの「国際デジタル戦略(IDS)」の実行に向けた具体的な提案を行う予定である。IDSは、AI、量子技術、5G・6G通信、半導体などの分野で、非EU諸国との戦略的パートナーシップを築き、グローバルなデジタルルールの形成を目指すものである。

 

欧州委員会は2025年12月に、AI法やGDPR(EU一般データ保護規則)などを含む「デジタルオムニバス法」を提示する予定であり、これにより規制の重複や複雑さを解消し、中小企業やスタートアップの負担を軽減することが期待されている。

 

デンマークは、GDPRに関して3つの改善案を提案している。具体的には①低リスクのデータ処理に対する苦情の最低基準設定、②「高リスク」の定義の明確化、③企業への事前申し立て義務付けの制度化である。また、デンマークはクラウドとAI開発法、デジタルネットワーク法、改訂EUサイバーセキュリティ法などの重要法案について、加盟国間の合意形成を目指している。これらは、通信インフラの整備、サイバーセキュリティの強化、クラウド投資の促進などを目的としている。さらに、子どものオンラインでの安全確保とディープフェイク対策も優先課題である。

 

デンマークはギリシャ、フランスと連携し、EU全域での「デジタル成人年齢」の統一や年齢確認技術の導入を進める計画である。これまで技術的な課題や文化的な違いが障害となっていたが、10月のデジタル担当大臣会議で進展を図る方針である。EUは技術規制の分野では世界的なリーダーであるが、技術力そのものではまだ課題が残る。デンマークは、デジタル経済と社会指数でフィンランドに次ぐ2位に位置し、デジタル包摂性や公共の信頼度、セキュリティ基準でも高評価を得ている。国連やOECDも、デンマークをデジタル政府の分野で世界的な先進国と認めている。このような背景から、デンマークの議長国期間は、EUの技術政策の方向性を具体化し、国際的な競争力を高める重要な機会となる。規制の合理化、技術主権の確立、そして市民の安全確保に向けた取り組みが、今後のEUのデジタル戦略の鍵を握る。

[セネガル] 

8月1日、ウスマン・ソンコ首相は、経済再生に向けた3か年計画を発表し、財政赤字を現在の対GDP比14%から、2027年末までに同3%に低下させるとした。財政赤字3%は、セネガルが加盟する「西アフリカ通貨同盟(UEMOA)」がターゲットとしている数値である。ソンコ首相は、2024年9月の監査で明らかになった前マッキー・サル大統領政権時代の「隠れ債務」によりセネガルの信用が低下し、資金調達コストが急増していることから、国内の支出削減と国内歳入の増加のみで財政赤字を軽減させると述べた。具体的な歳入増加策として、モバイル決済や、タバコ、賭博への課税のほか、外資との原油・天然ガスコンセッション契約の見直し、旧フランス軍基地の売却などを挙げている。

 

2024年4月の総選挙で平和裏に政権交代が実現し、バシル・ジョマイ・ファイ大統領、ソンコ首相が率いるセネガルは、沖合の深海原油・ガス田開発がけん引する形で2025年の実質GDP成長率は8.4%(IMF4月予測)と、サブサハラ・アフリカで最も急成長を遂げている国の一つである。しかし、元税務官だったファイ大統領の指揮のもとに進めている監査の結果、前政権時代の70億ドル以上の隠れ債務が明らかとなり、公的債務は対GDP比で119%まで増加。大手格付け会社もセネガルの信用を相次いで格下げしており(7月にS&Pはセネガル国債の格付けをB-に引き下げ)、2023年から行われていたIMFの融資も監査終了まで凍結状態となっている。国際的な信用の低下が経済成長にも水を差す状況となっていることから、今回のソンコ首相の発表は、8月下旬にIMFがセネガル当局との融資再開に向けた協議のために同国を訪問することを受けて行われたとみられる。

 

発足から1年4か月が経過し、国民の支持も依然として高いファイ氏・ソンコ氏らによる新政権だが、選挙時に公約として掲げていた汚職撲滅やさまざまな改革法案の審議の遅れも指摘されている。さらに、ソンコ氏は7月に公然と「(首相である自身に)権威や統治能力が十分に与えられていない」とファイ大統領を批判するような発言を行うなど、両者の関係の変化もみられる。もともとソンコ氏は率直な人柄で国民からの支持が厚く、2019年の総選挙でも3位につけていた実力派の政治家である。2024年の選挙では法的な理由により立候補資格が認められなかったため、自身より年下でそれほど著名ではなかったファイ氏を大統領候補に立て、「勝利させてあげた」という思いもソンコ氏の苛立ちの背景にあるとみられる。

 

他方で、セネガルでは経済問題のみならず、東のマリ国境周辺でアルカイダ系イスラム過激派組織「イスラム・ムスリム支援団(JNIM)」が活動を活発化させていることから、治安面の問題への対処も急務となっている。周辺のサヘル地域にある国々のほとんどが軍事政権下にあるなかでも、これまで独立以来クーデターを経験しておらず、西アフリカの「民主主義の鑑」とも評されるセネガルの経済・政治・治安の安定化の動向に注目が集まる。

[ロシア/米国/ウクライナ] 

8月6日、プーチン大統領はウクライナとの停戦をめぐって、米国のウィトコフ特使とモスクワで首脳会談を実施した。今回の会談について、ロシア側は「有益かつ建設的」だったと評価した。トランプ大統領は自身のSNSに、「非常に有意義な会談で、大きな進展があった」と投稿した。トランプ大統領はロシアに対し、8月8日までにウクライナとの停戦に応じるよう求めており、応じなければエネルギーなどのロシア製品を購入する国に2次関税を課すとして圧力を強めている。

 

一方、8月6日、ニューヨーク・タイムズなど複数の米メディアは関係筋の話として、トランプ大統領が早ければ来週にもプーチン大統領と対面で会談する意向だと伝えた。また、プーチン大統領との会談の直後、ウクライナのゼレンスキー大統領を含めた3者による会談についても可能性があるとされる。8月6日、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、「ロシアは停戦により前向きになったようだ」と述べた。トランプ大統領との電話会談で、この日モスクワで行われたプーチン大統領と米国のウィトコフ特使の会談内容を知らされたという。

[韓国/米国] 

8月6日、韓国のHD現代重工業は、米海軍第7艦隊所属の4万1,000トン級貨物補給艦「アラン・シェパード」の定期整備事業を受注したことを発表した。整備は9月から、韓国南東部の工業都市・蔚山の岸壁で開始される予定である。HD現代が米海軍の維持・補修・整備(MRO)事業を受注するのは今回が初めてだと、韓国の通信社「聯合ニュース」が報じている。なお、韓国造船業では、ハンファオーシャンが昨年(2024年)、米海軍の軍需支援艦「ウォリー・シラー」および第8艦隊の給油艦「ユーコン」の整備を受注している。

 

韓国の造船大手3社(HD現代重工業、ハンファオーシャン、サムスン重工業)は、米造船業界の活性化を目指す「MASGA(Make American Shipbuilding Great Again)」イニシアティブを支援するため、最近、タスクフォースを設立した。各社から社員が1人ずつと、加えて幹部が参加している。

 

韓国政府は、総額3,500億ドルの対米投資イニシアティブの一環として、米国の戦略的分野への投資を目的とした1,500億ドル規模のファンドを発表した。そのうち43%が造船業に充てられる計画となっている。米国との関税交渉において、この造船基金は、韓国製品に対する関税を25%から15%に引き下げる上で重要な役割を果たしたとされている。

 

造船3社によるタスクフォースは、韓国政府のMASGAプロジェクトを支援することを目的としており、8月中旬からプロジェクトに関する詳細な議論を開始する予定となっている。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。

30人が「いいね!」と言っています。