デイリー・アップデート

2025年8月21日 (木)

[ブラジル] 

トランプ政権によるブラジルへの圧力が急速に強まっている。米国政府は、8月6日から50%の関税を正式に課すと発表したが、石油や航空機部品など694品目が免除対象となり、ブラジル輸出の約45%が実質的に関税の対象外となっている。

 

ルーラ政権は報復関税を課していないが、WTOに申し立てを行っている。また、米国の利益に反する「ビッグテック」規制法案を国会に提出する予定と報じられている。

 

米国財務省は、モラレス判事を制裁対象に指定したが、この対応についてブラジルの金融機関は米国制裁と国内法の間で板挟みとなり、罰金や国際金融システムからの排除のリスクが生じている。

 

米国との貿易摩擦は、ブラジルの国際収支に悪影響を及ぼす可能性がある。2024年のブラジル総輸出はGDPの18%を占め、そのうち12%が米国向けとなっており、GDPに占める割合は約2%となっている。追加関税の45%が免除されるため、直接的な影響はGDPの1%にとどまる。しかし、BRICSの一員であることや、ロシアとの貿易関係に起因する新たな関税リスクが懸念される。特に、ロシアからの肥料輸入が国内需要の約30%、ディーゼル燃料の18%を占めている点が重要である。さらに懸念されるのは、米中間の貿易合意でトランプ大統領は、中国に対し対米大豆輸入を4倍に増やすよう要求している。ブラジルが中国に輸出した大豆の総額は370億ドルに相当し、品目ではブラジル輸出品目の第2位であり、GDPの2.0%を占める。中国ではブラジルからの大豆輸入の割合が拡大しており、2016年は46%だったが、2024年には、69%まで拡大していた。貿易の構造的変化は、ブラジルの輸出に悪影響を及ぼし、輸入コストを増加させる可能性があり、健全な貿易収支を悪化させ、現在の経常収支赤字にさらに圧力をかける可能性がある。 ブラジルの経常収支赤字は、過去数四半期にわたって大幅に拡大しており、2025年上半期には、2024年上半期のUSD17.6億ドルからほぼ倍増のUSD32.8億ドルに達しており、これは輸入増加と輸出減少によるものであり、内需の拡大も影響している。

 

このような赤字は純直接投資で完全に賄われるわけでなく(2024年はGDPの2.1%)、さらに、米国はブラジルへの外国直接投資の主要な投資元となっている。緊張の継続は資金調達に影響を与える可能性がある。国際準備高は安定しているが、中央銀行のネット為替ポジションは縮小している。7月末時点のネットの国際準備高は7月にUSD241億ドルで、5年前からUSD303億ドル減少している。

[フランス] 

マクロン大統領は、フランソワ・ベイルー政権が予算案の審議で崩壊した場合でも、早期の議会選挙は実施しない方針を明らかにした。ベイルー首相は7月に、来年度の予算案として、歳出の凍結、増税、祝日の削減などを含む赤字削減策を発表したが、ベイルー政権は少数与党であり、極右政党「国民連合(NR)」または中道左派の「社会党(PS)」の支持がなければ、予算の成立は困難とみられ、今年後半の審議で政権が崩壊する可能性が高いとみられている。NRとPSは極左政党「不服従のフランス(LFI)」が予算案の強行採択に対して出した内閣不信任案には加わらなかったものの、予算案に対しては今後もさらなる修正を求めていくとみられている。

 

マクロン大統領は、仮にベイルー政権が崩壊した場合、昨年ミシェル・バルニエ前首相が失脚した際と同様に、新たな中心人物を任命して政権を維持したい考えだが、現在の議会構成を踏まえると、マクロン大統領が新政権を組織するには、ベイルー政権と連立を組んでいる中道右派「共和党(LR)」の協力が不可欠となっている。しかし、LRの指導部は2027年の大統領選挙を見据え、マクロン大統領との距離を取ろうとしている。そのため、マクロン政権や中道勢力との連携を拒否する可能性があり、もしLRの支持が得られなければ、マクロン大統領は議会選挙の実施を受け入れざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。

[日本/アフリカ/ケニア] 

8月20~22日の日程で「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」が横浜で開催されている。日本国内での開催は6年ぶり。初日に石破首相は、「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」を発表。2023年に岸田前首相が表明した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の枠組みの下で、インド、中東諸国とインド洋に面するアフリカ諸国との連結の強化や、アフリカの産業発展のために協力を強化していく方針を示した。具体的には、東アフリカ最大級の取扱量を持つケニアのモンバサ港からウガンダ、ルワンダ、ブルンジを結ぶ「北部回廊」や、モザンビークのナカラ港からマラウイ、銅産出国のザンビアを結ぶ「ナカラ回廊」の開発支援などが改めて表明された。

 

なかでも、東アフリカで最大の経済規模を持つケニアは同イニシアティブの推進において要になるとみられており、TICAD9会期中の国別の首脳会談で石破首相がケニアのウイリアム・ルト大統領と最初に会談を行ったことからも、日本政府が同国を重要視している姿勢がうかがえる。

 

一方で、ケニアは主に中国からの借り入れによりインフラ整備を進めてきた背景から、2024年の公的債務は対GDP比で68%と新興国の中では高い水準にある。国内債務だけでも2025年中に38億ドル(GDPの約3%)、2026年中にさらに63億ドルが満期を迎える予定のなか、国際通貨基金(IMF)の財政支援プログラムの再開を待っている状況のため、資金調達の多様化が急務となっている。2024年にルト大統領が訪日した際にも5億ドルのサムライ債(円建て国債)の発行で合意に至ったが、今回の訪日のタイミングにあわせてサムライファイナンス融資(日本の銀行による円建て融資)契約を締結するなど日本政府からのさらなる金融支援を確保した形だ。

 

ケニアは中国の「一帯一路政策」の要衝として引き続き中国との関係も重視しており、4月にルト大統領が中国を公式訪問している。その際に同氏が「ケニアと中国は新たな世界秩序の共同設計者だ」と発言。これに対し、バイデン米前政権時代にケニアを「主要な非NATO同盟国」に認定した米国は警戒感を示し、8月1日に共和党議員がケニアの地位の見直しを提案する法案を提出するなど、トランプ政権下では、両国の関係が微妙になりつつある。国内でも反政府抗議活動の抑え込みにより過去3か月で60人以上の死者が出るなど内政上の課題もある。世界の多極化や民主主義の後退が指摘される中で、アフリカの主要国であるケニアがどのような立ち振る舞いを行っていくか注目が集まる。

[ロシア/ウクライナ/米国/欧州] 

ロシアは、ウクライナ防衛の今後の取り組みについて、ロシア政府に実質的な拒否権を与えるウクライナの安全保障にのみ同意すると述べており、和平協定を仲介しようとする米国の努力に冷や水を浴びせている。8月20日、ロシアのラブロフ外相は、ヨルダンの外相と会談したあとの記者会見で「集団安全保障の問題をロシア抜きで解決しようとしていることには同意できない。それは不可能だろう」と述べ、ロシアの立場を尊重するよう欧米をけん制した。ラブロフ外相はそのほか、国連安全保障理事会の常任理事国である米国、英国、フランス、ロシア、中国が参加する案が「良い事例」だと述べ、ウクライナへの「安全保証」提供について、ロシアや中国も参加するべきだとの考えを示唆した。

 

8月15日に米アラスカで行われた米ロ首脳会談の際、プーチン大統領は停戦後、「ウクライナに安全保障の確保が必要」だということを容認したが、詳細は不明だった。8月17日、米ロ首脳会談に同席したウィトコフ特使は、米CNNのインタビューで、米国とヨーロッパ各国がウクライナに対し、NATO(北大西洋条約機構)に類似した形で安全の保証を提供することについて、ロシアと一致したと述べていた。

[イラン] 

8月20日、イランのアラグチ外相は国営通信社IRNAのインタビューに応じ、自国の核開発に関するさまざまな問いに答えた。国際原子力機関(IAEA)との関係については、イランがIAEAとの協力を全面的に断ったわけではないと強調。その上で、最近成立した国内法により、IAEAによるイラン国内核施設の査察には最高国家安全保障会議(SNSC)の承認が必要となったことを説明した。また、稼働中のブーシェヘル原発における燃料交換にはIAEA査察官の立ち会いが不可欠であり、数週間以内に実施される見通しであると述べた。

 

さらに、IAEAが米国やイスラエルによるイラン核施設への攻撃を非難することに消極的であったと指摘し、今後のIAEAとの協力関係は過去の形とは異なる可能性があると述べた。その上で、8月11日にIAEAのアパロ副事務局長がテヘランを訪れ協議を行ったことに触れ、今後はイラン側が代表団をウィーンに派遣し、協議を継続する可能性があるとの見方を示した。

 

また、英国、フランス、ドイツの3か国(E3)が、イランがウラン濃縮の抑制やIAEAとの協力再開に応じなければ制裁を復活させる「スナップバック」(制裁復活手続き)に踏み切ると主張していることについては、E3にはその権利がないと反論した。ただし、近日中にE3とイランとの間で協議が行われる可能性があることも明らかにした。 一方、米国との核協議については「効果的な交渉を行えるほど成熟した段階には至っていない」と述べ、現時点では否定的な見解を示した。

[米国] 

8月20日、トランプ大統領はSNS上で、連邦準備制度理事会(FRB)のリサ・クック理事の辞任を求めた。クック氏は、バイデン民主党政権時に、初の黒人女性としてFRB理事に就任し、任期は2038年1月末まで。トランプ政権の連邦住宅金融局長が、住宅ローン申請に際してのクック氏による文書偽造を指摘し、司法省に起訴勧告を行っており、それを受けて、大統領による辞任要請がSNS発信されたとみられる。クック氏は辞任の意思はないことを表明している。

 

FRB理事は大統領が指名し、上院承認の下、就任するポストであり、大統領の一存で進退を決めることはできないが、理事の不正等が認められた場合には理事会が当該理事を更迭できる。議長を含むFRB理事7人のうち、現在2人のみが共和党員だが、8月に任期満了前の理事退任があったため、トランプ大統領は政権高官を後任として指名している。

 

トランプ政権が、さらに共和党関係者をFRB理事として送り込むことができれば、FRB理事7人のうち過半を共和党員が占める形となる。トランプ大統領はかねてより、速やかな利下げをFRBに求めており、今回のクック理事に対する辞任圧力は、FRBへの影響力強化を狙ったトランプ政権の政治的動きであるとみられている。

[米国] 

8月20日、連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC、7月29~30日開催)の議事要旨を公表した。同会合では、政策金利の据え置きを決定していた。ただし、ボウマン副議長とウォラー理事は0.25%利下げを支持、32年ぶりの2人の理事の反対だった。また、クーグラー理事は欠席し、投票しなかった。

 

7月末のFOMCでは、雇用環境はおおむね底堅いとして、関税措置の物価上昇への影響が議論されていた。関税の影響は一部の財に表れているものの、経済・物価に及ぼす多くの部分がまだ見えていない。企業が関税引き上げ前に在庫を積み増したことや価格転嫁に時間がかかること、価格が段階的に引き上げられていること、関税政策自体の進捗状況などもあって、関税の影響が緩やかに表れていると指摘された。また、2~3人の参加者は、海外の輸出業者の関税の負担はわずかであり、最終的には国内の企業や消費者が負担することになるという見方を示した。各種調査から、現在の需要状況を踏まえると、時間をかけて最終消費者に転嫁されていくと予想されている。

 

また、経済指標や経済見通し、リスクバランスを評価して金融政策を決定する方針は維持されたものの、時間をかけて関税の影響を見極めることは現実的でも適切でもないという声が、何人かの参加者から出ていた。ボウマン氏とウォラー氏以外からも、そうした意見が出ていた可能性が高い。また、次回9月まで多くのことを知ることができるという考えもあった。これらは、9月のFOMCでの利下げに向けた布石とも読み取れる。

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