2025年8月28日 (木)
[タンザニア]
8月27日、独立選挙管理委員会(INEC)は野党第二党「変革と透明性のための同盟(ACT-ワザレンド)」のエルハガ・ムビナ氏の大統領選の出馬を禁止した。タンザニアでは大統領選を含む5年ぶりの総選挙が10月29日に実施される予定だ。INECは出馬を禁止した理由として、ACT-ワザレンド党内でムビナ氏を大統領候補に擁立する手続きが整っていなかったと説明しているが、ムビナ氏は現政権批判から、与党「革命党(CCM)」を1月に脱退した人物であることからCCMに近いとみられるINECが恣意的に同氏を排除した可能性が高い。
タンザニアは1995年に複数政党制を導入したものの、CCMによる長期一党支配が続いている。前回2020年の大統領選でもCCM政権は徹底した野党弾圧、メディア規制、海外選挙監視団の監視妨害などを行ったと国際社会からも非難される中で、故ジョン・マグフリ前大統領が84.4%の得票で圧勝した。2021年にマグフリ氏が急逝したあと、憲法の規定により当時副大統領だったサミア・ハッサン氏が大統領職に就任。サミア氏は10月の大統領選への立候補を表明している。
「ブルドーザー大統領」との異名を持っていたマグフリ氏とは異なり、サミア氏は就任当初は野党の活動を段階的に認めるなど比較的柔和な姿勢を示してきた。しかし選挙が近づく2024年頃から最大野党「民主進歩党(チャデマ)」幹部の誘拐・殺害や選挙活動の妨害が相次ぐようになった。今年4月には「(与党による不正が蔓延している)選挙システム自体の改革が必要」と訴えたチャデマのトゥンドゥ・リス党首を「反逆罪」の罪状で逮捕。反逆罪は控訴不可で死刑の可能性がある中、リス氏は現在も収監されており、INECはチャデマの選挙への出馬も禁止した。タンザニア議会393議席のうち、CCMが364、チャデマが20、ACTワザレンドが4議席を占めていることから、二大野党の出馬排除によりサミア大統領の圧勝による再選がほぼ確実な状況にある。
南アフリカに拠点を置く「アフリカ安全保障研究所(ISS)」は、「10月の選挙はタンザニアの民主主義の後退の度合いを明らかにするものになる」と指摘。選挙は定期的に実施しているものの、今回の選挙においても政府批判者の逮捕をはじめとする弾圧や、地域経済共同体(注)の選挙監視団の受け入れを拒み続けているタンザニアの政治体制は「選挙権威主義(Electoral Autocracies)に転落している」と警鐘を鳴らしている。アフリカでは選挙権威主義とみなされる国は少なくないが、世界的な民主主義の後退が叫ばれる中で、ケニアと並ぶ東アフリカの大国・タンザニアの選挙戦の動向に注目が集まる。
(注)8月5日にINECは海外の選挙監視団の受け入れリストを発表。EUや米国などは認められたが、タンザニアが加盟する「東アフリカ共同体(EAC)」と「南部アフリカ開発共同体(SADC)」の選挙監視団はリストから除外された。
[ノルウェー/イスラエル]
8月25日、ノルウェー政府年金基金(NBIM)は、イスラエルによるパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸およびガザ)での人権侵害に関与しているとして、米建設機械大手キャタピラーへの投資を撤退すると発表した。キャタピラーはイスラエルにブルドーザーを販売しており、これらが違法な家屋破壊などに使用されていると指摘されている。NBIMは同社の主要株主トップ10に入り、株式の1.2%(約24億ドル相当)を保有していたが、すべて売却した。
同日、NBIMは、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地建設に資金を提供したとして、イスラエルの5銀行の株式(合計6.6億ドル相当)についてもすべて売却したと発表した。国際法上、占領地での入植地建設は違反とされている。
NBIMは総資産約2兆ドルを運用する世界最大の政府系ファンドで、全世界上場企業の約1.5%に相当する株式(8,400社以上)を保有する。運営はノルウェー財務省が設置した独立の倫理評議会の方針に基づき、定期的な勧告を受けて投資先を見直している。
ノルウェーでは9月に予定される議会選挙を前に、NBIMの対イスラエル投資をめぐる議論が高まり、世論や政治的圧力を受けてイスラエル企業株の売却が相次いでいる。NBIMはイスラエルによる人権侵害を理由に、2025年に入ってすでに20社以上のイスラエル企業株を売却しているが、イスラエル以外の企業が同理由で売却対象となったのは今回が初めてである。
[米国/ベネズエラ]
8月18日、米国はベネズエラ沖に駆逐艦3隻を派遣する計画を公表した。目的はラテンアメリカの麻薬カルテルに対処するためというもので、8月27日に報じられたところでは、揚陸艦、巡洋艦などを含む合計8隻の艦艇をカリブ海および太平洋域に増強して展開しているとされる。
この動きに対し、ベネズエラ・マドゥロ大統領は米国の動きを「違法な政権転覆の試み」と非難し、450万人規模の治安民兵の動員を発表し、国内で義勇軍参加を呼びかけている。現時点では直接の軍事衝突は発生しておらず、米国の軍事プレゼンスによる圧力や抑止が主目的と見られる。
キューバに対し比較的融和的な(無関心な)方針を打ち出しているのに対し、米国内の麻薬や不法移民、さらにギャングなど、問題の起点になっていると思われるベネズエラに対するトランプ政権のスタンスは厳しい。2025年3月にトランプ政権はベネズエラ産原油などを輸入する国に対し、25%の「副次関税」を課す大統領令(EO14245)を発動しており、輸入国への制裁を視野に入れた措置をとっている。ベネズエラ国内の油田で操業しているシェブロンに対しては限定ライセンスを付与しているが、期限は最大6か月、マドゥロ政権への直接的な支払いを禁止するなど厳しい条件を課している。ベネズエラ外務省は、イランとの電話協議を通じて、米国からの圧力に対抗するための連帯と支持を確認したとしている。
[日本]
8月の「月例経済報告」によると、国内の景気判断は「緩やかに回復している」に据え置かれた。 個別項目のうち、企業収益は7月の「改善している、通商問題が及ぼす影響等に留意する必要がある」から、「米国の通商政策等による影響が一部にみられる中で、改善に足踏み」に引き下げられた。米国関税措置の影響などから、自動車関連産業の収益悪化が影響した。また、住宅建設は「おおむね横ばいとなっている」から「建築物省エネ法等改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、ここのところ弱含んでいる」へ、23か月ぶりに下方修正された。4月に省エネ基準が厳格化され、その前の駆け込み着工の反動減が続いているためだ。
その他、個人消費や設備投資は「持ち直しの動きがみられる」、輸出や生産は「おおむね横ばいとなっている」に据え置かれた。同じように、国内企業物価は「このところ上昇テンポが鈍化している」、消費者物価は「上昇している」に据え置かれた。
海外経済は、「持ち直しが緩やかになっており、一部の地域において足踏みがみられる」とされ、米国は「景気の拡大が緩やか」に据え置かれた。その一方で、ユーロ圏は「持ち直しの動きが続いている」から「持ち直しのテンポが緩やか」へ引き下げた。 ドイツの米国向け輸出が減少している動きなどを反映した。
日本経済の先行きについては、「雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクには留意が必要である」に据え置かれた。
[オランダ]
オランダでは、2025年10月29日に総選挙が実施される。これは、極右政党「自由党(PVV)」が移民政策をめぐる対立により、連立政権から離脱したことで現政権が崩壊したため。もともと、PVVは2023年選挙で最大与党となったものの、党首のウィルダース氏は首相にはなれず、自由民主人民党(VVD)、農民市民運動(BBB)、新社会契約(NSC)による内閣を発足させていた。
世論調査では、従来の4党連立政権を構成した政党はいずれも支持を失っている。PVVは17~20%の支持率で首位を維持しているが、過去の水準からは低下している。VVDは13~15%で第4位となっており、支持率は下落傾向にある。BBBは支持率が約2%にまで低下し、議席数も2~4議席と予測されている。NSCも支持率が約1%にまで落ち込み、前回選挙で獲得した20議席の大半を失う見込み。
一方、中道右派のキリスト教民主同盟(CDA)は13~16%の支持率を得て第3位に浮上しており、前回選挙の3.3%から大きく伸ばしている。党首アンリ・ボンテンバルは有権者の間で最も人気のある政治指導者であり、44%が次期首相に彼を望んでいる。中道左派のGL-PvdAは平均16~18%の支持率でPVVに僅差で迫っている。
ただし、オランダでは選挙直前に投票行動が急変する傾向があり、まだ結果は変動しうる。主要争点次第で結果に大きく影響する見通しだ。ウィルダース氏が移民・難民問題を争点化できれば、PVVは前回選挙の成功を再現する可能性があるものの、2023年の結果を大幅に上回るのは難しいとみられている。
ガザ地区の紛争は国内問題化しており、選挙戦の重要な争点となる可能性がある。パレスチナ側への同情が強いオランダでは、この問題は中道・左派政党に有利に働くと考えられる。
ウィルダース氏は前回政権で他党との関係を悪化させたため、PVVが連立政権に入る可能性は低く、PVVを除いた場合、CDAとVVDだけでは右派多数派政権を構成できない。そのため、左派も含めた中道連合が最有力な政権構成案となっている。CDAの動向が次期政権の形成と方向性を左右する鍵となる。
[ボリビア]
8月26日、選挙当局は8月17日におこなわれた総選挙の公式結果を発表し、右派の中道派と保守派が次期議会を主導する見通しが明らかとなった。なお、同日行われた大統領選については、中道派キリスト教民主党(PDC)のロドリゴ・パス氏と保守派の自由民主主義同盟(LIBRE)のホルヘ・トゥト"・キロガ元大統領が10月19日に決選投票をおこなうことになっている。
議会ではPDCが最多得票を獲得し、下院では130議席中49議席、上院では36議席中16議席となり、上下両院で最大勢力となる。一方LIBREは、下院で39議席、上院で12議席を獲得し、その他、中道右派の統一同盟(UN)が、下院で26議席、上院で7議席を獲得している。
この議席配分は、中道派と保守派の優位性を裏付けるものであり、左派勢力は下院で10議席(全体の10%未満)にとどまり、上院では議席を獲得できなかった。
このような力関係により、PDCとLIBREのいずれかが他方の支持を得るだけで、法律の承認に必要な単純過半数を確保できる。したがって、次期大統領は比較的容易に実務的な連立政権を構築できる見込みとなっている。さらに、憲法改正に必要な2/3の票を集めることも可能となっているが、改正には国民投票が求められるため、これが大きな壁となる可能性がある。
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