プラチナ価格低迷と生産企業の動向

2015年03月05日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

◇金との価格逆転、パラジウムとの値差縮小

 2015年に入り、金とプラチナの価格逆転現象が再び発生している。パラジウムとの価格差は2010年初時点の1,210ドルから、直近で350ドルまで縮小しており、プラチナの相対的な弱さが目立つ。白金族資源は南アフリカ・ジンバブエ・ロシアに偏在し供給リスクがつきまとうことから、これまで投資家の選好対象となってきたが、2015年に入り先物・ETFともにプラチナ市場からの資金流出が見られる。

 

CFTC建玉報告:資金運用業者の売買動向
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)
プラチナETF地金保有残高
(出所:Bloomberg、各HPより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 その主な理由として、中国・欧州など主要消費地の景気低迷と、2014年の南アフリカ鉱山スト後の生産急回復による需給緩和が挙げられる。WPIC(データ出所: SFA Oxford)が昨年末に公表を開始した四半期需給統計では、2014年通期の需給バランスは885千Toz不足だったが、スト解除・景気悪化を受け第3四半期には155千Tozの余剰を記録している。ただ、足元で欧州の自動車販売には回復の兆しがあり、南アフリカでは電力不足が深刻化している状況でもあるため、需給悪化は循環的でなく構造的なものとの見方も強まりつつある。特に地上在庫水準の高さ、リサイクル率上昇のほか、欧州やインドで深刻化する大気汚染の一因がディーゼル車普及にあるとしてディーゼル車優遇策の転換を求める声が挙がっていることなども、ディーゼル車触媒に使用されるプラチナの需要下振れ要因として指摘され始めている。

 

 

プラチナ生産企業の動向

 2015年2月に南アフリカの大手白金生産企業が相次いで決算・事業戦略を発表した。2014年はストの影響で軒並み大幅減益となったが、Lonminの2か所の生産設備で12月以降に不具合が発生したのを除くと、下期以降の生産回復は順調。市況低迷への対応として、設備投資額を削減し、労働集約的な採掘事業については中長期的に改良工事・機械化の促進・従業員の集中配置などで生産性向上を図る方向性が示された。また、Amplatsは高コストのRustenburg、Union鉱山を売却または分離上場する計画を再確認。ImplatsはMarula鉱山売却とジンバブエMimosa鉱山拡張の見合わせを発表する一方、Northamは自社が保有するBooysendal鉱山に隣接するEverest鉱山資産・権利をAquariusから買収し生産性を高める方針。GlencoreはXstrata買収時に取得したLonminの保有株23.9%を自社株主に売却する計画を示した。

 

 市況については、Amplatsが過去3年続いた供給不足で地上在庫が急激に取り崩されたとして2015年後半の価格上昇を予想。地上在庫の推定はWPIC四季報の数値を参照している(この数字はETFの地金保有残などを含まない)。これに対し、Implatsは長期的なファンダメンタルズは良好だとしながらも、地上在庫は当面の供給をカバーできるとして2016年下期まで低迷が続くと予想した。地上在庫に関する公式統計の不在が相場観を左右している状況が改めてうかがえた。

 

南アフリカ鉱山生産推移:白金族
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)
プラチナと大手3社株価(2010年初=100で指数化)
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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