中国による産油国向け資金援助について

調査レポート

2015年04月03日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子


原油安の機会を捉える中国

中国は、主に旧共産国の中南米やアフリカ産油国向けに、2000年代初めから政府系銀行を中心とした融資を実施してきた。2014年の原油安以降は、財政悪化に苦しむ産油国に対する支援を強化し、融資や通貨スワップを活用することで中国企業の海外展開、人民元の国際化、資源確保を図る姿勢を見せている。融資の多くは原油を返済原資としたもの(Oil-backed finance)であり、低油価が長期化すれば計画通りの返済は期待できないリスクはあるが、油価下落の機会を捉え、積極的に影響力拡大を図る中国の状況につき、以下まとめることとしたい。

 

◇アンゴラ

アンゴラは原油生産の半分を中国に輸出しており、中国にとってもサウジアラビアに次ぐ重要な原油輸入先。中国は2003年から原油を返済原資とした融資を供与しており、総融資額は145億ドル(日本国際問題研究所)にのぼる。2015年1月には、中国の国家開発銀行が国営石油会社Sonangolに対し20億ドルの融資供与を発表、同資金はLobitoの製油所建設をはじめとする石油・ガスプロジェクトに充てられる予定となっている。アンゴラの石油・ガス開発には中国国営企業のSinopec、CNOOCも参画しており、中国にとって支援が実を結んでいる成功事例に位置づけられる。

 

◇エクアドル

同国は油価下落に伴い予算削減に直面していたが、2015年1月に中国・同政府間で75億ドルの融資・信用供与枠に加え、15億ドルの追加融資契約が締結された。中国は、2008年に同国が債務不履行に陥って以来、本格的に石油産業への投資を進めPetroChina、CNPC、Sinochem、Sinopecが探鉱・開発や石油サービスを提供している。なお、中国国家開発銀行から20億ドルの融資を受ける見返りとして、2013年からPetroChinaに2億バレル(4年間)の原油販売を行っている関係から、2014年のエクアドルの原油輸出の8割近くをPetroChinaが扱っているとされる(JOGMEC)。ただし、同国産原油は中国ではなく主に米国・他中南米諸国に販売されている。

 

◇ベネズエラ

世界最大の石油埋蔵量を誇る同国に対する融資額は、2004年以降総額560億ドルと、中国の中南米向け投資総額1,190億ドルの半分以上をベネズエラが占めている。深刻な経済危機に陥っている同国に対し、中国は2014年12月に500億ドルの返済期限延長に応じたほか、2015年1月には200億ドル、3月には50億ドルの融資を決定している。同国向け融資は、日量45万バレルの原油供給が担保となっているが、悪化するベネズエラ情勢に鑑み、新規融資については資金使途を中国企業の参画するプロジェクトに限定するなど、融資条件を厳格化する方向にある。

 

◇ロシア

欧州のエネルギー需要が鈍化するなか、ロシアは新たな輸出先として中国へのシフトを強化し、中国の原油輸入におけるシェアは2011年の8%から2014年には11%に上昇している。ウクライナ危機以降はさらに関係強化を図り、2014年12月には240億ドルの通貨スワップ協定を締結した。また、ロシアは同国上流権益への投資にも門戸を開き、昨年9月にCNPCはロスネフチの陸上油田生産会社Vankorに10%資本参加を提案し、2015年には中国が陸上油田・ガス田について権益の過半を取得できるよう検討していることを明らかにし、中国優遇を鮮明にしている。

 

中国 対主要輸入相手国内訳
(出所:中国税関統計より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

中国と関係を深める産油国の状況
(出所:Bloomberg、BP統計、JOGMECより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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