中国経済(2015年6月)
2015年06月09日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行
中国の2015年1Qの実質経済成長は年率7%と政府目標とほぼ一致、IMFの2015年予測の6.8%よりも高めの成長を記録している。一方、中国人民銀行(PBOC)は4月19日には異例とも言える幅(1%)で預金準備率を引き下げ、5月10日には貸し出し金利を引き下げている。PBOCの緩和的なスタンスから2015年2Qの拡大ペースも物価上昇もより緩やかなものとなっていると推察できる。主要経済指標から中国経済の現状について以下簡単に纏めた。
◇ PMIはやや持ち直し
5月の製造業PMIは50.2と4月50.1からほぼ横ばい、2015年1Q平均(49.93)との比較はやや改善傾向を示している。企業規模別で「中堅企業」が2014年9月以来となる50台を回復。大企業の景況感もやや改善している様子だが、中小企業の事業環境は依然厳しい状況に置かれている。中国経済も他の先進国同様、経済活動に占める非製造業の割合が製造業より大きくなっており、非製造業PMI(5月53.2)は安定しているがそのトレンドは2014年以来低下傾向を示している点に留意が必要。
◇ 住宅価格の持ち直しは一級都市中心
70都市の新築・中古住宅価格は3月以降徐々に上昇してきており「一級都市」と言われる大都市中心に持ち直している様子がうかがえる。株価上昇が始まってからは深センでは新築、中古問わずその上昇が目立つ。しかし、その他の都市での住宅価格はようやく下げ止まった段階で上昇傾向に転じたと判断するのは早計だろう。また、住宅着工件数も2014年末以降伸びが鈍化している。価格下落、着工件数の伸び悩みは共に供給過剰に起因すると考えられ調整期間も長引くものと思われる。

◇ 油価下落により伸び率鈍化が目立つ小売売上高
2014年の小売売上高は通年で前年比12%以上の伸びを記録したが2015年に入り鈍化が目立つ(2015年4月:前年同月比9.8%)。油価下落が大きく影響しているとみられるがそれ以外では自動車売上の落ち込みが顕著。油価の低位安定は本来自動車販売にポジティブな効果をもたらす。しかし、販売台数の伸び悩み、消費者物価における自動車セクターの低迷などを踏まえると自動車販売は数字以上に厳しい競争に晒されている。

◇ 伸び悩む鉱工業生産と電力消費量
2012年1Qにおける鉱工業生産の伸び率(数量ベース)はそれまでの前年比14%近いペースから年率10%平均へ、この1年(2014年5月-2015年4月)だけを見ると7.5%平均へ鈍化している。第2次産業の電力消費量推移もまた鉱工業生産の傾向と一致し、消費量そのものが頭打ちになっている。現在の中国経済は構造的要因(産業構造の変化、過剰設備の調整)と循環的要因(景気循環)が混在しておりそれぞれの影響度合いについてもうしばらく見極めが必要。
◇ 物価低迷
消費者物価上昇率は鈍化している。PBOCの消費者物価上昇の目標は3%とされるが現状は1.5%前後で推移している。都市部、農村部に差異はないことから物価上昇率の鈍化は全国的な事象とみられる。エネルギー・食料品を除いたコアCPIも低迷し、実質と名目GDP伸び率は急速に収縮しつつある。過剰生産による影響、不動産市況の低迷が主な原因として考えられる。物価低迷は実質金利の高止まりとなるため、今後は預金準備率や貸出金利引き下げ以外の積極的な金融政策(量的金融緩和)を含めた対応がなさせるか注目される。


以上
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