米国の対ASEAN外交

2016年02月10日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
石井 順也

概要

  • 米国の対ASEAN外交において大きな要素を占めているのは①中国への対抗であり、オバマ政権において最大の成果と考えられているのは②環太平洋パートナーシップ(TPP)と③ミャンマーとの関係の改善である。
  • ベトナムとフィリピンについては、南シナ海における領有権問題をめぐる中国との対立が深刻化しており、同海域における中国の活動を牽制するという観点から、政治経済両面において米国との関係強化という方向に大きく傾斜している。
  • TPPは米国の対アジア外交の中核といえる政策であり、これに参加しているベトナムとマレーシアは、米国にとって重要なパートナーと位置づけられている。
  • インドネシアについては、南シナ海における領有権問題が存在するが、中国との対立は顕在化していない。このため、米国との関係は良好であるが、中国との間でも懸案は少なく、ジョコ政権は実利重視のスタンスから中国からの投資に強い期待を寄せている。
  • タイ、ラオスおよびカンボジアは、南シナ海における領有権問題と直接の関係がなく、また物流インフラの整備が重要な課題となっているため、この分野で積極的な投資と支援を行う中国の影響力は極めて強い。ただし、ラオスにおいては、南シナ海問題への対応について、ASEAN議長国としての立場があり、米国の政治的イニシアチブ次第では、従来以上にASEANの連帯を重視する方針をとる可能性がある。
  • ミャンマーは、オバマ政権の方針転換、制裁解除を経て、中国寄りの姿勢からの脱却方針が鮮明に表れており、欧米への接近を重視している。
  • 今後の注目点は、①中国の経済力、②TPPの拡大、③米国の政治的イニシアチブである。
  • ①ASEANにおける中国の経済的プレゼンスは極めて大きく、特に近年、インフラ分野での進出が目覚ましい。その影響力の伸長が顕著に見られるのは、陸のASEANにおける鉄道・道路のインフラ開発である。習近平政権の「一帯一路」構想に基づく中国の投資と支援は、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー相互の連結性のみならず、これらの国々と中国との間の連結性を向上させ、経済的な一体化を促進することにつながる。アジア投資インフラ銀行(AIIB)はこの流れを一層加速させるだろう。
  • 南シナ海における領有権問題は、ベトナムとフィリピンにとって大きな懸案事項であるが、両国とも、米国と政治・安全保障面での関係を強化し、中国を相対化させる動きを見せつつも、国内には中国との経済の結び付きから得られる実利を重視する勢力も強く、基本的には米中との間で是々非々の対応をとっているのが現状。
  • ただし、中国経済の減速が、ASEANへの投資、インフラ整備に向けた支援、貿易関係を後退させることがあれば、中長期的には中国のASEANにおける影響力も低下する可能性がある。
  • ②TPPの加盟国を拡大することは米国にとって極めて重要な戦略的意義がある。TPPには既にフィリピン、インドネシア、タイが参加意欲を表明しているが、これらの国々が参加すれば、ASEANの経済圏の9割にTPPのルールが適用されることになる。
  • ③米国の政治的イニシアチブについては、2016年2月に開催される米・ASEAN首脳会議、9月のオバマ大統領の現職大統領として初めてのラオス訪問(東アジア首脳会議出席)、ミャンマーの制裁解除の進展が注目される。

 

 

1. 米・ASEAN首脳会議

 2015年12月30日、米ホワイトハウスは、オバマ大統領が2016年2月15日および16日にカリフォルニア州サニーランズにおいてASEAN首脳と会談することを発表した。オバマ大統領は、2015年11月のクアラルンプールでの東アジア首脳会議に出席し、ASEAN首脳と会合しているが、米国の大統領がASEAN首脳を米国に招待し、米・ASEAN首脳会議を開催するのは初めての試みである。

 オバマ政権は、発足以来、「アジアへのピボット」、「リバランシング」という言葉を用いて、アジア重視の外交方針を掲げてきたが、東南アジアとの関係では、環太平洋パートナーシップ(TPP)、ミャンマーとの関係改善、ベトナムとの関係強化といった成果はあったものの、主要な関心は北東アジア(日中韓)に向けられており、ASEANとの関係を積極的に推進するという具体的なイニシアチブは明確に表れなかった。オバマ大統領が、政府機関閉鎖の問題に対応するために、2013年11月のブルネイでの東アジア首脳会議とインドネシアでのアジア太平洋協力会議(APEC)に欠席したことも、消極的な印象を与える一因となった。

 今回の米・ASEAN首脳会議の開催は、米国のASEAN重視の姿勢を明確にしたものであり、これまでの米国の外交方針からすれば異例の決定といえる。米国がASEANとの関係のさらなる強化に踏み切った狙いは、①南シナ海における中国の活動の抑止、②TPPへのさらなる参加の呼びかけ(加えてTPP批准に向けた議会へのアピール)にあると考えられる。任期最終年を迎える中で、前例のない会議を主催することで、③米・ASEANの協力の深化をレガシーに加えるという思惑もあるとみられる。

 上記①②の目的は、いずれも中国を念頭に置いたものである。TPPは経済問題であるが、AIIBに代表される中国のASEANに対する積極的な経済攻勢に対抗するという政治的な側面がある。このように、米国の対ASEAN外交は中国とASEANの関係から大きな影響を受けている。

 以下では、近年の米国の対ASEAN外交がどのように展開されてきたのか、ASEAN主要国それぞれとの関係について、近年の中国と各国との関係と対比しつつ、分析する。

 

 

2. 米国の対ASEAN外交

(1) 序論

 ASEANは多様であり、米国の対ASEAN外交もASEAN各国によって様々に異なる。そこで、本稿では、まず、米国の対ASEAN外交において中国への対抗が大きな要素を占め、またTPPが対ASEAN外交において大きな成果と評価されていることにかんがみ、①ベトナム、②フィリピン、③マレーシアを取り上げる。次に、ASEANの大国であり、米中いずれとの間でも関係を進展させている④インドネシアを取り上げる。次に、ミャンマーとの関係改善がTPPと並ぶ米国外交の大きな成果と評価されていることにかんがみ、⑤ミャンマーを取り上げる。最後に、陸のASEANの国々として、⑥タイ、⑦カンボジアとラオスを取り上げる[*1]

 

(2) ベトナム

 ベトナムは、冷戦時代、ソ連をはじめとする社会主義国家との関係を重視していたが、冷戦の終結により全方位外交の方針に転じ、1991年のカンボジア和平協定調印により国際社会への復帰を果たした。これに伴い、1995年、米国との国交正常化が実現し、それ以来、米越間では政治経済両面において関係の強化が進んだ。

 政治・安全保障面では、米越の協力関係は主に中国への対抗という観点から進展した。ベトナムと中国は西沙諸島と南沙諸島の領有権をめぐって争っており、中国は1974年に南ベトナム(当時)軍と交戦して西沙諸島を占領し、1988年にはベトナムが支配する南沙諸島の岩礁にも侵攻した。2011年、米越の海軍は合同軍事演習を実施して中国に対抗する姿勢をみせ、その後、米国はベトナムに対し海上警備に関する支援を行うようになった。

 2014年5月、西沙諸島海域で中国の国営企業の中国海洋石油が石油掘削装置を設置したことに端を発し、両国の船舶が衝突する事態に発展した。その結果、ベトナム国内で反中デモが発生し、デモ参加者が中国企業の工場を襲撃する事件も起き、ベトナムと中国の関係は決定的に悪化した。米国は、同年10月、武器輸出禁止措置を海上警備に限定して一部解除した。

 2015年に入り、中国が南沙諸島で人工島の埋め立てを拡大すると、ベトナムは反対姿勢を明確にした。同年6月、米国のカーター国防長官が訪越し、両国は初の防衛協力に関する共同声明を発表した。同年10月、米国は「航行の自由」作戦を実施し、中国が建設した人工島の12カイリ内に駆逐艦を航行させた。2016年1月、米国は再び駆逐艦を西沙諸島海域に航行させた。

 2015年は米国との国交正常化20周年、ベトナム戦争終結40周年という記念すべき年にあたる。同年7月にはグエン・フー・チョン共産党書記長が書記長として初めて訪米しオバマ大統領と会談した。

 経済面では、2014年時点で米国はベトナムにとって輸出相手国1位(19.1%)[*2]であり、重要な貿易相手国である。またベトナムはTPPに参加している。

 これに対し、ベトナムと中国は、前述のとおり、南シナ海の領有権問題をめぐり対立を深めている。2015年11月、中国の習近平国家主席が訪越し、首脳会談等を行ったが、深刻な対立は続いている。2016年1月16日、ベトナムは中国企業による石油掘削に対して懸念を表明した。また、中国は、後述のとおり、石炭火力発電所などの建設に向けた支援を行っているが、発電所の設備の不備や地元民の雇用を行わない点はベトナム国民の反中感情の原因となっている。

 経済面では、2014年時点で中国はベトナムにとって輸出相手国2位(9.9%)、輸入相手国1位(29.5%)[*3]であり、最大の貿易相手国である。中国はインフラ整備のために積極的な資金援助を行い、石炭火力発電所、鉄道、道路などの建設が進められている。メコン圏の物流インフラの整備は中国南部(雲南省、広西チワン族自治区)とベトナム北部の経済圏の一体化を一層促進するとみられる。また、ベトナムはアジア投資インフラ銀行(AIIB)に創設メンバーとして参加している。

 以上のとおり、米国は、中国への対抗という観点から、ベトナムとの政治・安全保障面での協力を強化しており、2015年には首脳レベルの交流も実現し、両国の関係は着実に進展している。経済面でも米国は最大の輸出相手国の地位を占め、両国の貿易はTPPにより一層発展するとみられる。一方で中国は、経済面では最大の貿易国の地位を占め、インフラ整備でも重要な役割を果たしているが、政治面ではベトナムとの対立が深刻化している。ベトナムは、近年、中国への依存から脱却し、米国との連携を強めるという方針を強化している。もっとも、中国との歴史的・経済的つながりを考慮して、高いレベルでの交流を維持し、決定的な対立を回避すべく慎重に対応している。また、体制内ではグエン・タン・ズン前首相に代表される親米派とグエン・フー・チョン書記長に代表される親中派の間に見解の相違があるとみられている。2016年1月に開催された共産党大会では、チョン書記長の留任とズン首相の退任が決定した。米国との関係強化、中国の相対化という大きな方向性に変化はないとみられるが、従来以上に体制内のコンセンサスに重きを置いた慎重な方針をとることが予想される。

 

(3) フィリピン

 フィリピンは、かつて米国の植民地だった歴史的経緯から、政治・経済・社会全般にわたり米国と緊密な関係を築いており、冷戦時代からタイとともに東南アジアにおける米国の同盟国であり、アジア太平洋における重要な軍事拠点としての役割を果たしてきた。

 冷戦終結後、フィリピンの軍事的重要性は低下し、1991年、民族主義の高まりを背景に、フィリピン上院が米比軍事基地協定延長の批准を否決したことを受け、1992年、米軍はクラーク空軍基地およびスービック海軍基地から撤退した。しかし、米比両国は、中国への対抗という観点からフィリピンにおける米国のプレゼンスの重要性を認識しており、1995年、中国はフィリピンが領有権を主張する南沙諸島のミスチーフ礁に施設を建設し、同諸島の領有権をめぐる両国間の対立が深刻化した後、1998年、米比両国は訪比米軍の地位に関する協定を締結した。2000年以降は合同軍事演習(バリカタン)が毎年実施されている。2010年に就任したアキノ大統領は中国に対して毅然とした対応をとり、2012年、スカボロー礁近くに停泊していた中国漁船をフィリピン海軍が拿捕し、両国間で緊張が高まった。2013年、フィリピンは国連海洋法条約に基づいて中国を提訴した[*4]。その後も中国の強硬姿勢が続いたことを受け、米比両国は、2014年4月、米軍のフィリピン展開強化を柱とする米比防衛協力強化協定を締結した[*5]

 経済面では、2014年時点で米国はフィリピンにとって輸出相手国2位(13.9%)、輸入相手国2位(8.8%)[*6]であり、重要な貿易相手国である。ただし、その構成比は近年低下している。米国はフィリピンにとって最大の投資国でもあり、2001年~13年の投資累計額は1位(11.3%)[*7]である。TPPに関しては、2015年10月の大筋合意後、アキノ大統領が参加意欲を表明している。また、2014年時点で米国のフィリピンへの海外送金額は1位(42.6%)[*8]である。

 これに対し、中国とは南シナ海領有権問題で対立を深めている。2015年に入り、中国が南沙諸島で人工島の埋め立てを拡大するとフィリピンは反対姿勢を明確にした。フィリピンは、2014年、AIIBに創設メンバーとして参加する旨の覚書に署名していたが、領有権問題の深刻化を受けて、2015年6月の設立協定の署名式では署名を見送った。もっとも、その後、署名期限である同年12月31日には署名を行った。

 一方で、経済面では、2014年時点で中国はフィリピンにとって輸出相手国3位(13.6%、1位は日本)、輸入相手国1位(15.1%)[*9]であり、重要な貿易相手国である。いずれの構成比も年々増加している。また、観光業はフィリピンの重要産業であるが、この分野で中国人旅行客が果たす役割は大きい。フィリピンがAIIBの創設メンバーとなったことは前述のとおりである。

 以上のとおり、米国は、政治・経済両面においてフィリピンとの間で深い関係を築いている。一方で中国は、南沙諸島の領有権問題をめぐりフィリピンとの対立を深めているが、経済面では、貿易国としての重要性を増しており、今後、AIIBを通じてインフラ整備でも存在感を増すとみられる。フィリピンは、米国との強力な同盟関係を背景にして中国に対抗する姿勢を鮮明にしているが、経済面での中国の存在感の高まりに配慮する姿勢もみられる。同国では2016年5月に大統領選が予定されているが、有力候補の一人であるジェジョマール・ビナイ副大統領は中国との経済関係を重視する姿勢を強調している。

 

(4) マレーシア

 マレーシアは、かつてマハティール政権の米国に対する批判的な言動や人権問題により、米国との関係は冷却化していたが、2001年9月の米国同時多発テロ以降、テロ対策の観点から両国の関係は改善に向かった。

 政治面では、2014年4月、オバマ大統領が現職大統領として48年ぶりにマレーシアを訪問し、ナジブ首相と会談した。2015年版の国務省の人身売買報告書は、ロヒンギャ族の人身売買問題が深刻視されていたにもかかわらず、マレーシアの評価を2014年度の最低ランクから1段階引き上げた。背景にあったのは、同人身売買報告書で最低ランクに分類された国とTPAに基づく交渉を行うことを禁止する米貿易促進権限(TPA)法の規定であり、TPP交渉を進めるための政治的配慮があったとみられる。

 経済面では、2014年時点で米国はマレーシアにとって輸出相手国4位(8.4%)、輸入相手国4位(7.7%)[*10]であり、重要な貿易相手国である。またマレーシアはTPPに参加している。

 マレーシアと中国との間には、南シナ海の領有権問題が存在するが、マレーシアは、ベトナム、フィリピンと異なり、深刻な懸念を表明するといった行動はとらず、ASEANの枠組みを通して問題の解決を図るというアプローチをとってきた。しかし、2015年に入り、中国が南沙諸島で人工島の埋め立てを拡大すると、同年6月、マレーシアは、中国船がマレーシアの排他的経済水域に侵入したと主張して抗議し、緊張が高まった。同年4月および11月のASEAN首脳会議では、マレーシアがASEAN議長国を務め、中国の活動に懸念を表明する議長声明を発表した。一方で、マレーシアと中国は2015年9月、マラッカ海峡で初の合同軍事演習を実施しており、相互信頼関係を進展させる動きもみられる。

 経済面では、2014年時点で中国はマレーシアにとって輸出相手国2位(12.1%)、輸入相手国1位(16.9%)であり、最大の貿易相手国である。中国はインフラ投資も拡大させており、2014年の投資認可額は1.4%[*11]と大きな割合は占めていないが、都市鉄道・輸送インフラ分野の実績は、最大の投資国である日本をしのぐと言われている。また、マレーシアはAIIBに創設メンバーとして参加している。さらに、マレーシアでは国営投資会社1MDBの巨額の債務が問題視されているが、2015年11月および12月、1MDBは子会社の株式を中国の国有企業である中国広核集団と中国中鉄が加わっている企業連合に売却した。この取引でマレーシアは中国に「借り」をつくったとみられている。

 以上のとおり、米国は、政治面において、中国への対抗という観点からマレーシアとの関係を進展させており、特にマレーシアのTPPへの参加を高く評価しているとみられる。一方で中国は、南シナ海の領有権問題をめぐり対立が顕在化する場面もあるが、ベトナム、フィリピンと異なり、深刻な問題に発展する状況は稀で、軍事演習等を通じ、政治面での関係を強化する動きもある。中国とマレーシアの経済関係は貿易・投資の両面で深化を続けている。マレーシアは、米中いずれに肩入れすることもなく、基本的には等距離の外交を展開している。

 

(5) インドネシア

 米国は、冷戦時代、スハルト政権と反共産主義で一致し、インドネシアに対する軍事協力を行った。その後、東ティモールの人権問題が深刻化すると、1992年、米国は軍事協力を停止し、東ティモール情勢の悪化もあり、1999年には武器輸出を禁止した。2001年9月、メガワティ大統領は米国同時多発テロ直後に訪米し、反テロの立場で一致した。2001年、米国がアフガニスタンを攻撃するとインドネシア国内では反米機運が高まり、反米デモが発生した。さらに、2002年に発表されたブッシュ・ドクトリンはさらにインドネシアを刺激し、メガワティ政権は米国批判を行うに至るが、米国側の配慮もあり、両国の関係が深刻に悪化することはなかった。2002年、バリ島爆弾テロ事件が起こると、両国は軍事交流の強化を進め、2005年、米国は武器輸出を含む軍事協力を再開した。その後両国は緊密な関係を続けており、2010年にはオバマ大統領がインドネシアを訪問し、「米・インドネシア包括的パートナーシップ」を締結した。2015年10月、ジョコ大統領は就任後初めて米国を訪問し、オバマ大統領との首脳会談では、海上安全保障協力等で一致した他、TPPへの参加意欲を表明し、中国の南沙諸島における活動に対する懸念を表明した。

 経済面では、2014年時点で米国はインドネシアにとって輸出相手国4位(9.4%)[*12]であり、重要な貿易相手国である。TPPに関しては、前述のとおり、ジョコ大統領は参加意欲を表明している。

 中国との関係は、1990年の国交正常化以来、緊密化が進んでいる。2005年には「戦略的パートナーシップ」を締結し、2013年には習近平国家主席がインドネシアを訪問し、150億ドル相当の通貨スワップ協定を締結するなど包括的な経済協力を行うことで一致した。2014年11月にはジョコ大統領がアジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため中国を訪問し、AIIBへの参加等について合意した。ジョコ大統領は2015年3月にも中国に公式訪問し、インフラ投資の強化等で一致した。一方で、南シナ海の領有権問題に関しては、インドネシアは中国と関係諸国間の仲介者としての立場をとってきたが、インドネシアが領有権を主張しているナトゥナ諸島の海域では、中国漁船による密猟が多発しており、インドネシア政府に拿捕されるという事件も発生している。インドネシアは同海域に対する中国の領有権の主張を警戒し、2015年11月には国際司法裁判所に提訴する構えをみせた[*13]

 経済面では、中国とインドネシアの貿易は近年増加を続けており、2014年時点で中国はインドネシアにとって輸出相手国2位(10.0%、1位は日本)、輸入相手国1位(17.2%)[*14]で最大の貿易相手国である。特にエネルギー面での関係強化が顕著であり、また、中国は天然資源の開発に積極的な投資を行っている。ジョコ大統領就任後、中国は上記のとおりインフラ投資を強化することを明らかにし、2015年9月にはジャカルタ・バンドン間の高速鉄道計画を中国が受注することが決定した。

 以上のとおり、米国はインドネシアとの間で、主にテロ対策の観点から政治的・軍事的協力関係を強化しており、近年は、中国の南シナ海での活動を念頭に、海上安全保障分野での協力も進めている。一方で、インドネシアは中国との経済関係をますます深化させており、貿易、投資、インフラ開発いずれの面においても中国は存在感を増している。南シナ海の領有権問題は両国間の懸案事項として存在しており、インドネシアは海上安全保障の分野で米国に接近しているが、中国は、インドネシアに対しては、他の関係諸国と比べ、主権を尊重する姿勢をみせており、対立は顕在化していない。ジョコ政権は、ユドヨノ前政権と比べると、国際協調よりも国益を重視し、特に経済的利益を重視する外交をとるようになっており、その結果として、ASEANや日本が相対化され、中国との経済的結び付きを強める傾向が強まっている。このため、政治・安全保障面で米国との関係を強化し、経済面で中国との関係を強化するという、是々非々の外交が引き続き展開されるとみられる。

 

(6) ミャンマー

 1988年のクーデター以降、欧米諸国はミャンマーの軍事政権に対し経済制裁を行い、このためミャンマーは中国一辺倒の外交を展開してきた。しかし、2009年に発足したオバマ政権はこれまでの方針を転換し、同年9月、軍事政権との直接対話路線を発表した。2011年3月の民政移管後、同年11月、クリントン国務長官が現職国務大臣として57年ぶりにミャンマーを訪問した。そして、2012年7月、米国は制裁の一部を緩和した。さらに、同年11月、米国は輸入禁止措置(一部の宝石を除く)を解除し、これにより両国の経済関係の大半が正常化した。その直後、同年同月、オバマ大統領が現職大統領として初めてミャンマーを訪問した。2013年5月にはテインセイン大統領が国家元首として47年ぶりに米国を公式訪問し、オバマ大統領と会談した。米国はさらなる制裁解除には慎重な姿勢をとっているが、2015年11月の総選挙で国民民主連盟(NLD)が大勝したところ、新政権が発足すれば、民主化の進展を評価して、制裁解除を進める可能性がある。

 中国は、1988年のクーデター後、すぐに軍事政権を承認し、経済的・軍事的支援を行って関係構築に努め、ミャンマーは中国への政治的・経済的依存を深めた。しかし、民政移管後、ミャンマーは欧米諸国への関係改善を追求するようになり、日本の援助も再開されたため、中国のミャンマーにおける存在感は相対的に低下した。2011年にはミッソン水力発電ダムの建設が凍結され、中国からの投資も減少した。2010年に発表されたチャオピュー・昆明間の鉄道プロジェクトも中止されており、2015年12月には開発に向けた覚書が失効した。2015年3月と5月には中国系少数民族コーカン族との紛争において、ミャンマー国軍の誤爆で中国の民間人が死亡する事件が発生し、両国間で緊張が高まった。中国人による翡翠と木材の不法輸出も大きな問題となっている。2015年7月には北部カチン州の裁判所が木材を不法伐採した中国人153人に終身刑を下したが、月末には恩赦により釈放された。また、中国と軍事政権の協力関係、ミャンマーの資源収奪と環境破壊のイメージ(上記ミッソンダムはその代表例)はミャンマー国民の反中感情の原因となっている。

 とはいえ、中国は2013年時点で輸出相手国2位(24.6%、1位はタイ)、輸入相手国1位(39.6%)[*15]であり、最大の貿易相手国である。中国は、軍事政権時代から、資源確保の観点より大規模な経済協力プロジェクトを進めている。2013年にはチャオピュー・昆明間のガスパイプラインが稼働し、2015年1月には同パイプラインに併設して建設された石油パイプラインが稼働した。同年12月にはチャオピュー経済特区の開発を中国の国有企業を核とするコーンソーシアムが担うことが決まった。中国のミャンマーへの投資は2010年から急増しており(2010年と2011年の投資額は1位)[*16]、急速に存在感を高めている[*17]。ミャンマーはAIIBに創設メンバーとして参加している。

 以上のとおり、米国のミャンマーとの関係改善はオバマ政権の大きな外交成果であり、両国の関係はNLD政権の発足により一層強まるとみられる。中国は、ミャンマーの中国離れを懸念しており、2015年6月にはアウンサン・スーチーNLD党首に対して、北京に招き、習近平国家主席が会談するという、野党党首に対しては異例の歓待を行った。今後も、投資と支援を拡大しながら、コーカン族やワ族といった自らの影響下にある少数民族武装勢力を利用して圧力をかけるという外交を続けるとみられる。ミャンマーのNLD新政権は、欧米諸国への接近と中国への依存からの脱却を一層推し進めるとみられる。

 

(7) タイ

 タイは、冷戦時代からフィリピンとともに東南アジアにおける米国の同盟国であり、陸のASEANにおける反共産主義の拠点として重要な役割を担った。クーデターや民主化運動の弾圧の時期には軍事援助や合同軍事演習が一時的に中断されたこともあったが、両国は緊密な友好関係を維持してきた。

 しかし、2014年5月にクーデターが発生すると、米国は350万ドルの軍事支援を停止し、予定されていた軍事交流を取りやめ、安全保障の協力関係は後退した。その後、両国は関係改善に努め、2015年2月、米軍とタイ軍が主催する多国間共同訓練「コブラ・ゴールド」が規模を縮小した形で予定通り実施され、また、同年10月には米国からの艦対空ミサイルの売却が承認された。このように、安全保障面での協力が改善される一方で、米国はタイの軍事政権の強権的な統治に対して厳しいスタンスを維持しており、政治面では不安定な状況が続いている。2015年12月には、米国のデービース駐タイ大使が不敬罪違反の容疑により捜査の対象となる事件が発生した。背景には、同大使は事件の前に不敬罪を批判し、これを受け、保守派団体が同大使の発言を非難するデモを行っていたことがあった。また、米国は、タイの人身売買問題に対しても以前から厳しい態度をとっており、2015年版の国務省の人身売買報告書でもタイの評価は最低ランクにされている。

 経済面では、2014年時点で米国はタイにとって輸出相手国2位(10.5%)、輸入相手国3位(6.5%)[*18]であり、重要な貿易相手国である。ただ近年のタイの経済停滞もあり、現状において両国の経済関係が今後大きく発展することは予想しがたい。TPPに関しては、インラック前政権は参加意向を表明したが、その後の政情の混乱により議論が進まなかった。しかし、2015年10月の大筋合意後、ソムキット副首相はTPPへの参加意欲を表明した。

 これに対し、中国は、クーデター発生後も軍事政権に対し友好的な姿勢をとり、プラユット政権もクーデターに対して遺憾の意を表明した日本と米国よりも中国との信頼関係を深めている。タイは南シナ海における領有権問題を抱えておらず、華人が社会問題となる場面も少ないため、中国との間で深刻な懸念事項は存在しない。

 経済面では、中国とタイの貿易は近年増加を続けており、2014年時点で中国はタイにとって輸出相手国1位(11.0%)、輸入相手国1位(19.3%)[*19]であり、最大の貿易相手国である。また、中国は、鉄道をはじめとするインフラ投資を積極的に行う姿勢を明らかにしており、2015年12月には中国・タイ鉄道(タイ東北部ノンカイからバンコクおよび東部ラヨーンを結ぶ鉄道で、中国・ラオス鉄道を通じて昆明に直結する予定)の着工式が行われた。

 さらに、中国は2015年11月に初の合同軍事演習を行うなどタイとの軍事交流の強化を進めている。もっとも、米国とタイの軍事交流と比べれば、その実効性は限定されており、象徴的なレベルにとどまるとみられる。

 以上のとおり、安全保障面では、米国がタイにとって最重要のパートナーの地位を維持しており、中国の存在感は増しているとはいえ米国の地位を脅かす段階にはない。しかし、政治面では、米国の軍事政権に対する厳しいスタンスから、米国とタイの関係は不安定な状態が続いており、その状態は2017年に先延ばしされた民政移行まで続くとみられる。一方、中国はタイとの信頼関係を着実に深化させている。経済面では、タイはTPP参加意欲を示しているが、中国は貿易、投資の両面で最重要国としての地位を築いている。タイは、米国からは安全保障とTPP、中国からは貿易と投資から得られる実利を重視し、是々非々の方針をとっている。

 

(8) カンボジア、ラオス

 米国は政府高官の交流を通じてラオスとの政治関係を強化しており、2012年にはクリントン国務長官(当時)が現職国務長官として57年ぶりにラオスに訪問した[*20]。2016年はラオスがASEAN議長国を務める年であり、同年1月にはケリー国務長官が同年2月の米・ASEAN首脳会議の準備のためラオスを訪問した[*21]。報道によれば、トンシン・ラオス首相は、ケリー国務長官に対し、南シナ海問題に関し、ラオスは、海上の権利を保護し、地域の軍事化と紛争を防止すべくASEANが団結することを望んでいると述べた[*22]。同年9月には同国で東アジア首脳会議が開催され、オバマ大統領が現職大統領として初めてラオスを訪問する見通しである。

 他方、ケリー国務長官は、上記ラオス訪問の後、カンボジアを訪問したが、報道によれば、ホー・ナムホン・カンボジア副首相兼外相は、同長官に対し、南シナ海問題に関するカンボジアの立場はこれまでと変わっておらず、中国と同様、ASEANが関与することなく、各国が問題を解決すべきである、との認識を示した[*23]。また、米国はカンボジアの権威主義体制と人権侵害を問題視しており、ケリー国務長官はカンボジア訪問時に同国の政治体制と人権状況の改善を求めた。

 経済面では、2014年時点でカンボジアにとって米国は輸出相手国1位(24.0%)[*24]であり、重要な貿易相手国である。

 ラオスと米国との間の貿易量は少ないが(2013年時点で米国の輸出構成比は0.6%[*25])、2004年時点で1,076万ドルから2014年時点で5,950万ドルと増加傾向にある[*26]

 一方で、カンボジアとラオスは中国との関係を深めている。2014年時点でカンボジアにとって中国は輸入相手国2位(26.7%、1位はタイ)[*27]であり、重要な貿易相手国である。また、カンボジア経済はドル化の進展が著しい。また中国からの直接投資認可額は、2014年時点の金額および1994年から2014年までの累積額において最大である[*28]

 また、2014年時点でラオスにとって中国は輸出相手国1位(34.2%、前年1位のタイを上回った)、輸入相手国2位(25.6%、1位はタイ)[*29]であり、重要な貿易相手国である。2013年時点の中国からの直接投資実行額は1位である[*30]。特に中国雲南省とラオス北部の経済関係が発展しており、中国は、南北回廊、昆明・ビエンチャン間の鉄道建設プロジェクトに対して支援を行っている。

 政治面においてもラオスとカンボジアにおける中国の影響力は増している。両国は南シナ海における領有権問題を抱えておらず、2012年7月、カンボジアが議長国を務めたASEAN外相会議では、中国寄りの姿勢を示し、共同声明が採択できない異例の事態となった。ただし、ラオスでは2016年1月に人民革命党大会が開催され、親中派の代表格だったソムサワート副首相が政治局員を退任した。

 以上のとおり、米国は、南シナ海問題に関してASEANが団結して中国に対抗する方向に誘導すべく、ラオスとカンボジアに働きかけている。ラオスはASEAN議長国として重要な地位にあり、前述のとおり、2016年1月にケリー国務長官がラオスに訪問した際には、ラオスはASEANの一体性の重要性について述べ、米国寄りのスタンスを見せた。一方で、カンボジアは、同国務長官の訪問の際、ラオスの対応とは対照的に、従来と同様、中国寄りのスタンスを見せている。カンボジア、ラオス両国とも、中国との経済的結び付きは極めて強く、このため南シナ海問題に関して中国に対抗する立場をとることには消極的であるが、ラオスについては、ASEAN議長国としての立場があり、またソムサワート副首相の引退もあり、米国の政治的イニシアチブによっては、従来以上にASEANの連帯を重視する方針をとる可能性がある。

 

(9) 結論

 以上のとおり、ASEAN各国は政治面・経済面で様々に状況が異なり、ASEANと米国との関係も多種多様である。しかし、南シナ海領有権問題、TPP、陸のASEAN、ミャンマーという切り口から、以下のとおり整理できる。

 まず、①ベトナムと②フィリピンについては、南シナ海における領有権問題をめぐる中国との対立が深刻化しており、同海域における中国の活動を牽制するという観点から、米国との関係強化を切実に必要としている。このため、中国との関係の相対化、米国との政治経済両面における関係強化という方向に大きく傾斜している。

 また、TPPは米国の対アジア外交の中核といえる政策であり、これに参加している①ベトナムと③マレーシアは、米国にとってアジアにおける重要なパートナーとみなされており、経済面においても米国との関係強化の動きは著しい。

 一方で、④インドネシアについては、中国との間で南シナ海における領有権問題が存在するが、中国との対立は顕在化していない。このため、米国との関係は良好であるが、中国との間でも懸案は少なく、ジョコ政権は実利重視のスタンスをとっていることから中国からの投資に強い期待を寄せている。

 次に、陸のASEANについてみると、⑤タイ、⑥ラオスおよびカンボジアは、南シナ海における領有権問題と直接の関係がなく、また物流インフラの整備が重要な課題になっているため、この分野で積極的な投資と支援を行う中国の影響力は極めて強い。シンガポール国立大学のヘン・イー・クアン教授や南洋理工大学のプラドゥムナ・ラナ教授は、これらの国々にとっては、TPPのような貿易自由化の取り組みよりも、「一帯一路」構想やAIIBのようなインフラ整備に向けた取り組みの方が強い求心力があると指摘している[*31]。ただし、ラオスに関しては、南シナ海問題への対応について、米国の政治的イニシアチブ次第では、従来以上にASEAN重視の姿勢をとる可能性がある。

 ⑦ミャンマーは、オバマ政権の方針転換、制裁解除を経て、中国からの脱却方針が鮮明に表れており、欧米への接近を重視している。

 これらの国々と米中との関係で考慮すべき主な要素は別表のとおりである。

 

 

3. 今後の展望

 今後の米国とASEANとの関係を考察する上で注目すべきポイントは、①中国の経済力、②TPPの拡大、③米国の政治的イニシアチブと考えられる。

 まず、①ASEANにおける中国の経済的プレゼンスは極めて大きく、特に近年、インフラ分野での進出が目覚ましい。その影響力の伸長が顕著に見られるのは、陸のASEANにおける鉄道・道路のインフラ開発である。習近平政権の「一帯一路」構想に基づく中国の投資と支援は、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー相互の連結性のみならず、これらの国々と中国との間の連結性を向上させ、経済的な一体化を促進することにつながる。AIIBはこの流れを一層加速させるだろう。インフラ投資はインドネシアでも進展しており、また、ベトナム、フィリピンとは貿易面での関係を深化させている。

 南シナ海における領有権問題は、関係国、特にベトナムとフィリピンにとって大きな懸案事項であるが、両国とも、米国と政治・安全保障面での関係を強化し、中国を相対化させる動きを見せつつも、国内には中国との経済の結び付きから得られる実利を重視する勢力も強く、基本的には、米中との間で是々非々の対応をとっているのが現状である。

 ただし、中国の経済は、2015年の実質GDP成長率が6.9%と25年ぶりの低水準となり、景気の減速が続いている。中国経済の減速が、ASEANへの投資、インフラ整備に向けた支援、貿易関係を後退させることがあれば、中長期的には中国のASEANにおける影響力も低下する可能性がある。もっとも、米国や日本に比べて中国の貿易・投資のボリュームが圧倒的に高いことは否定できず、少なくとも短期間に大きな変化が生じることは想定しがたい。

 次に、②TPPは、貿易の自由化のみならず、投資、競争政策、知的財産等、幅広い分野でのルールを統一化する試みであり、その加盟国を拡大することは、米国が主導する経済秩序を拡大するという意味で、米国にとって極めて重要な戦略的意義がある。TPPには既にフィリピン、インドネシア、タイが参加意欲を表明しているが、これらの国々が参加し、TPPが発効すれば、ASEANの経済圏の9割にTPPのルールが適用されることになる。そうなれば米国の存在感は一層高まることになるだろう。もっとも、これらの国々が参加を決定するには時間が必要であり[*32]、TPPの発効も数年かかるとみられる点には留意すべきである。

 最後に、③米国の政治的イニシアチブについては、一般的に、ASEANは米国外交において重要なアジェンダとして取り上げられることが少ない。しかし、2016年においては、米国がイニシアチブを発揮する上で適当な機会がいくつも存在する。

 まず2月15日および16日に開催される米・ASEAN首脳会議がある。米国としては、前例のない会議を主催することで、ASEAN重視の姿勢を強調し、ASEANが米国と協調して中国の行動を抑制する方向に進むよう働きかけ、また、TPPへの参加を呼び掛けることが予想される。フィリピン、インドネシア、タイは既に参加意欲を表明しているが、米・ASEAN首脳会議の場でより踏み込んだ発言をする可能性もある。

 また、9月にはラオスで東アジア首脳会議が開催されるが、オバマ大統領が同会議に出席すれば、米国大統領初のラオス訪問という歴史的イベントになる。既にラオスは、南シナ海問題への対応に関しASEAN重視の姿勢を見せており、その傾向が一層強まる可能性がある。

 さらに、ミャンマーでは3月にNLD政権が発足するが、民主化の進展を評価して、米国の制裁解除が一層進むとの見方もある。大統領選との関係では、ヒラリー・クリントン候補が、国務長官在任時にミャンマーとの関係改善に取り組んだことをアピールすることが予想される。

 これらの機会を通じて米国がいかなるイニシアチブを発揮するか注目される。

 

【別表】ASEAN各国と米中との関係

【別表】ASEAN各国と米中との関係
(データの出所等については本文参照)

 

 

 以上


 

[*1] シンガポールとブルネイについては、本稿が主題とする米中関係と関連する部分が少ないため、割愛した。なお、両国ともTPPに参加しており、2014年時点でシンガポールにとって米国は輸出相手国4位(6.0%)、輸入相手国3位(11.7%)(シンガポール国際企業庁)であり、2013年時点でブルネイにとって米国は輸入相手国3位(11.9%)(ブルネイ経済開発庁)である。

[*2] ベトナム統計総局。

[*3] ベトナム統計総局。

[*4] 2015年10月、常設司法裁判所は裁判所に管轄権があると判断し審理を続行すると発表した。

[*5] フィリピン元上院議員らは、米比防衛協力強化協定は上院の同意なくして外国軍の駐留を認めるものであり、憲法違反であるとしてフィリピン最高裁に提訴していたが、2016年1月12日、最高裁は同協定を合憲とする判決を下した。

[*6] フィリピン統計局。

[*7] フィリピン中央銀行。

[*8] フィリピン中央銀行。

[*9] フィリピン中央銀行。

[*10] フィリピン統計局。

[*11] マレーシア中央統計局。

[*12] IMF。

[*13] 2015年11月12日、中国外務省の報道官は、ナトゥナ諸島の主権がインドネシアに属しており、中国としては異議を唱えない旨述べた。

[*14] IMF。

[*15] IMF。

[*16] ミャンマー投資企業管理局(DICA)。

[*17] ただし、中国からミャンマーへの投資は2012年以降減少し、インド、オランダ、韓国、タイが中国を上回っている。

[*18] タイ中央銀行。

[*19] タイ中央銀行。

[*20] 1955年にジョン・フォスター・ダレス国務長官がラオスを訪問している。

[*21] ラオスを訪問した国務長官はダレス、クリントン、ケリーの3人。

[*22] "John Kerry Arrives in Beijing after Push to Urge Regional Unity on South China Sea", The Wall Street Journal, January 26, 2016

[*23] 前掲注22参照。

[*24] IMF。

[*25] IMF。

[*26] IMF。

[*27] IMF。

[*28]カンボジア投資委員会、カンボジア国家統計局。

[*29] IMF。

[*30] IMF。

[*31] 2015年11月16日および17日付筆者インタビュー。

[*32]インドネシアのレンボン貿易大臣は、2015年10月の時点で、TPP参加の最終決定までには2~3年はかかると述べている。

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