景気見通しの下方修正は収まりつつある

2016年11月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行

 

 各国の16年第3四半期の経済指標の多くが出揃ったが大きなトレンド変化は見られず、緩やかな景気回復が続いている。各機関が公表している17年以降の経済成長見通しでも下方修正の幅は徐々に小さくなっており、過去数年に渡って支配してきた先行きに対する過度な悲観論は後退した。期待ほどではないにせよ成長は続いており、供給削減が過ぎた一部の市場では需給バランスが崩れ需要超過に転化。また、17年も緩やかな成長が続くとの期待から一部のコモディティーには投機資金が流入し、価格は上昇している。米国の利上げについては織り込まれてきているのでもはやリスクではなく既定路線。むしろ「現状維持」とされる方が米国経済や米国に成長依存している国の経済への下押しリスクが意識されることになるのではないか。目先のリスクは「もしトラ」、「OPEC総会での合意内容」「イタリア国民投票」。

 

先進国GDP成長率予測の変化(出所:IMF, WEOより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

新興国GDP成長率予測の変化(出所:IMF, WEOより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国経済

 

 減速が続いていたが16年Q3の実質経済成長は前年比(+1.5%)、前期比(+0.7%)、前期比年率換算値は+2.9%と比較的高い成長となった。成長寄与度からその構造を見ると消費+1.47%、国内民間投資+0.52%、純輸出+0.83%、政府支出・投資+0.09%(計2.91%)。

 

 更に詳細をたどるといくつか不安な点が浮上する。まず、消費の寄与度の内訳は財(モノ)消費0.48%、サービス(コト)消費0.99%。モノ消費では自動車など耐久財消費が0.69%と好調が維持された一方で非耐久財は12年Q4以来のマイナス寄与。その落ち込み幅(▲0.21%)は09年Q2(▲0.43%)以来の大きさとなっている。次に国内民間投資は+0.52%と15年Q3以来のプラス寄与となっている。これは非農業部門のおける在庫品増加(+0.6%)によるもので設備投資(▲0.09%)は4四半期連続のマイナス寄与、住宅(▲0.24%)も2四半期続けてのマイナス寄与となった。純輸出の成長寄与度は+0.83%、特に財輸出(+1.08%)がドル高にも関わらず成長を下支える要因となった。財輸出は前期比+14.5%でも高い伸びとなっているがその背景は農産品輸出によるもので季節や価格の影響を受けるため持続的な輸出増につながり難い。投資と輸出を除くと前期比では1%前半の成長にとどまっている点には留意すべきだ。

 

 

米国の経済成長は持ち直しの兆し、持続的な成長につながるか注目(出所:米国経済分析局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

輸出の寄与度が0.83%と高水準、農産品輸出がけん引したとされる(出所:米国経済分析局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

中国

 

 実質経済成長は年初来前年比6.7%、前期比では1.8%と16年Q2と同程度の成長ペースを維持しているがこれは政策支援による押し上げ効果が大きい。中央政府の歳出は前年比約12%増で、この増加分だけで15年の名目GDP比2%以上となっているように景気下支え効果を発揮している。重点的に投資されている交通インフラ関連では16年2.6兆元の投資が予定され、7月までにそのうち1.4兆元が実行され、8月以降1.2兆元執行される。年末にかけて予算消化が順調に進むことを念頭に置くと実体経済の落ち込みは回避され、16年の成長目標は達成されるだろう。実体経済における注目点は今後考えられる不動産業の成長鈍化の影響と元安進行にも関わらず成長に寄与していない純輸出の行方。

 

 

16年に入り6.7%成長が続く(出所:中国国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

前年比12%以上のペースで歳出が増加(出所:中国国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

日本

 

 消費や生産活動は引き続き低調だが政府支出増により16年度の成長率は潜在成長率を上回る1%前後になるだろう。低金利と相続税対策を背景に貸家を中心とした住宅着工が好調で16年Q3でもこの傾向は継続している。しかし、空き家率の上昇や家賃下落が消費者物価の抑制要因になっているように供給過剰が指摘され始めている。総務省が5年に一度公表している住宅・土地統計調査によると平成25年(2013年)10月の空き家率は13.5%と平成20年(2008年)調査から0.4%ポイント上昇し、今後も増加が見込まれている。住宅投資を下支えしてきた貸家建設だが空き家率の上昇や家賃(収入)の伸び悩みは住宅建設の抑制要因になることから楽観的な見方は後退している。

 

 

堅調な住宅着工は貸家建築が水準を押し上げ(出所:国土交通省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

欧州

 

 英国のEU離脱に関しては、17年3月までに離脱が宣言され、実務交渉に入ると見られていたが英高等法院が離脱には議会承認が必要との判断を下したことで宣言が遅れる可能性が出てきている(英政府は上訴)。離脱ショックによる景気鈍化を防ぐために利下げしたBOEは年内追加利下げに否定的なコメントを出している。輸出を中心に景気は堅調、また物価が上昇基調となっていることから追加金融緩和策は当面見送りとなった。

 

 欧州の実体経済は堅調。リスクは実体経済もより金融(債務)問題で、ドイツ、イタリアの民間銀行やギリシャ等南欧諸国の動向に引き続き注目が集まる。

 

 

以上

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