ドイツで増大する移民と経済への影響

2017年11月28日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
伊佐 紫

◇要旨

 ドイツの人口は長らく死亡数が出生数を上回る自然減にある中、移民の流入に伴う社会増が人口減少を食い止めている。移民の多くはトルコや中東欧諸国の出身者だが、近年では南欧出身者も増え多様化している。また、その多くは年齢が若く、低賃金で仕事を請け負うため、飲食業や宿泊業等のサービス業、建設業などの労働集約型産業では移民に頼らざるを得ない状況にある。しかし同時に、多くの移民が低賃金で就労することにより、企業の労働生産性だけでなく、産業全体の労働生産性の向上にもつながっている。

 

 9月に実施された下院選挙では、反移民政策を掲げる右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)がかつてない高い得票率を得て政治的な影響を増しつつある。ドイツ国内に移民に対する漠然とした社会的な不安感や不公平感が広がっており、従来の移民受け入れ政策に何らかの影響が生じる恐れもある。仮に移民の受け入れ制限や排斥といった政策が実施されると、多くの移民を雇用する労働集約型産業で労働需給が逼迫し、人手不足によりサービス価格や小売価格が上昇するなど国民の生活に直接的な負の影響を及ぼす恐れがある。こうした状況はひいてはドイツ経済の成長の足かせとなることから、ドイツの移民政策の今後の動向が注目される。

 

 

◇ドイツは欧州一の移民大国

 ドイツの人口は長らく死亡数が出生数を上回る自然減にあるが、移民の流入に伴う社会増が自然減を上回り人口減少を食い止めている(図表1)。ドイツ連邦統計局の人口統計(2016)によると、現在、ドイツに居住する外国人は約896万人で全人口8,243万人の約11%を占め、ドイツの外国人比率は他の欧州主要国と比較して最も高い。英仏では旧植民地から多くの移民が流入しているのに対し、ドイツでは高度経済成長期の労働力として1950年代からトルコ、イタリア、ポルトガルなどから流入した。当時これらの人々は一時的な滞在を前提としていたが、その後ドイツに家族を呼び寄せ定住し、ドイツで生まれ育った2世、3世が増え続けた。現在、こうした移民の背景を持つドイツ人を合わせると全人口の約23%に達している(図表2)。

 

図表1 ドイツの人口増減数/自然増減数/移民の流出入数 (出所:Eurostatより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

図表2 ドイツの全人口に占める外国人の割合(2016) (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇移民の出身国は多様化

 移民の出身国別人口統計(2016)によると、最も多い出身国はトルコで約280万人と全体の約15%を占める。次いで、ポーランドが約187万人で約10%、ロシアが約122万人で約7%となっている(図表3)。トルコからの移民はドイツの東西分断後の比較的早い時期から西ドイツに流入した。2000年代後半になるとEUに加盟した中東欧諸国からの移民が増え、ポーランド、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリアの4か国の合計数は約314万人に達し、今やトルコを上回る勢力となっている。また、最近ではギリシャ、スペイン、イタリアなど南欧からの移民も目立っている。

 

図表3 移民の出身国別構成(2016) (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇ドイツの生産年齢人口の約3割は移民

 移民の年齢別人口統計(2016)をみると、15歳以上65歳未満の生産年齢人口の割合は移民全体の約65%を占める(図表4)。また、ドイツ人全体の平均年齢は46.2歳であるのに対し、移民の平均年齢は35.4歳と若い世代が多い。さらに、ドイツ全体の生産年齢人口に占める移民の割合は約24%に上る(図表5)。

 

図表4 移民の年齢別構成 (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

図表5 ドイツの生産年齢人口に占める移民の割合 (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇移民は労働集約型産業の労働生産性向上に貢献

 移民の産業別雇用統計(2016)によると、全産業に占める移民の割合は約20%であるのに対し、商業、輸送、宿泊、飲食サービス部門では約25%、工業部門では約23%と労働集約型産業で移民の占める割合が相対的に高くなっている(図表6)。工業部門の中では建設業でかなり多くの移民が就労している。

 

 移民の年収別人口統計(2016)では、ドイツにおける平均年収は月額2,620ユーロ(工業・サービス・建設部門の賃金/2014, Eurostat)であるのに対し、移民の年収は月額500ユーロ以下、同500~900ユーロ、同900~1300ユーロの範囲に多く、ドイツにおける平均年収よりも低くなっている(図表7)。

 

 そもそも飲食・宿泊サービスなどのサービス業や建設業などは賃金が安く、ドイツ人求職者の求める水準に達していないため、低賃金で仕事を請け負う移民を雇用せざるを得ない。しかし同時に、こうした労働集約型産業で多くの移民が低賃金で就労することにより、企業の労働生産性だけでなく、産業全体の労働生産性の向上にもつながっている。

 

図表6 移民の産業別構成 (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

図表7 移民の年収別構成 (出所:ドイツ連邦統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇ドイツの移民政策と増大する社会的な不安感

 ドイツは移民大国である一方、移民の受け入れ制度の整備は遅れがちであった。政府は2005年に移民法を制定し、ようやく移民受け入れについて制度化した。具体的には、移民の受け入れにかかる制度の整備や長期滞在の移民の社会統合政策を実施したほか、IT技術者などを対象にグリーンカード制度を採用し、専門的かつ高度な技術を持つ移民の受け入れを促進した。こうした取り組みは一定の効果をもたらしているが、依然として移民の受け入れに抵抗感を抱くドイツ人も少なくない。

 

 2017年9月に実施された下院選挙では、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)が移民排斥を掲げ、得票率12.6%を獲得し第三政党に躍り出た。AfDが得票率を伸ばした東部の州に暮らす移民の数はもともと西部の州に比べてかなり少ないが、依然として高い失業率や移民に対する漠然とした社会的な不安感が相まって得票率の高さに影響したといわれる。

 

 現在、メルケル首相率いるキリスト教・社会同盟(CDU/CSU)による連立交渉は難航しており、今後ドイツ議会では多党化が進むともいわれる。こうした中、AfDなどの極右の少数政党の議会への影響力が強まると、従来の移民政策の方向性に何らかの影響を及ぼす恐れもある。

 

 

◇移民の受け入れ制限による経済への影響

 移民の流入が2010年以降急増する中、ドイツの失業率は東西ドイツ統一後で最も低い水準まで低下しており、増え続ける移民がドイツ人の雇用を奪っていないことを示している。しかし、移民の中にはドイツ語を十分に話せない者や失業状態にある者も多数おり、こうした移民が社会的な保障を受けていることに対してドイツ人の間で不公平感や不平等感が増しているのも事実である。

 

 こうした状況を受けて、仮に政策上、移民受け入れ制限や排斥のような措置をとられると、移民の就労比率の高い労働集約型産業では大きな影響が出るだろう。具体的には、人手不足の深刻化により賃金が上昇し、飲食業や宿泊業などのサービス部門ではサービス価格や小売価格が上昇し、また、建設部門ではインフラ建設が遅れるなど国民の生活に直接的な負の影響が出るだろう。今後もしばらくの間、ドイツ経済は好調さを維持する見込みであり、労働需給もさらに逼迫すると予想される。こうした中、反移民政策はドイツ経済にとって持続的な成長の足かせとなる恐れがあり、ドイツの移民政策の今後の動向が注目される。

 

以上

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