「サウジ主導連合軍とイエメンのフーシ派が停戦合意」中東フラッシュレポート(2022年3月後半号)

2022年04月14日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年4月7日執筆

 

1. サウジアラビア主導連合軍とイエメンのフーシ派が停戦に合意

 3月29日、サウジアラビア主導連合軍は、4月初旬からイスラム教の断食月であるラマダンが開始することをきっかけに国連が打診していた停戦案に応じ、3月30日からのイエメンでの軍事行動停止を発表した。先立つ3月26日には、イエメンの反政府武装勢力であるアンサール・アッラー(通称フーシ派)も3日間の停戦を一方的に発表しており、サウジ側が空爆を停止しイエメンに対する包囲を解けば停戦を継続するとしていた。ただ、湾岸協力会議(GCC)がサウジで主催する和平会議に関しては、敵国での交渉には応じないとしてフーシ派は出席を拒否した。

 

 その後サウジ主導連合軍およびフーシ派は、国連の仲介で4月2日からの2か月間の停戦に合意した。合意内容には、イエメン国内における陸・海・空全ての攻撃の停止に加え、イエメンからサウジなどへの越境攻撃の停止も含まれる。また、サナア空港における週2便の商業便の運航やホデイダ港への燃料船の入港も許可され、イエメンの人道状況の多少の改善が期待される。ただ、過去の2度の停戦は停戦違反で崩壊した経緯もあるため、今後の展開には依然注視が必要だ。

 

2. イスラム圏でラマダン開始

 サウジアラビアは、4月2日からラマダンが開始したことを発表した。エジプトやリビア、湾岸諸国などでも同日からのラマダン開始が発表されたが、イランやイラク、ヨルダン、インドネシアなどでは翌4月3日からのラマダン開始が発表された。

 ラマダンはイスラム暦の9月。健康なイスラム教徒は、1か月間、日の出から日没まで断食をする。欲望を抑え信仰心を深めることが目的とされる。

 

3. サウジアラムコが原油・ガス生産能力の増強計画を発表

 サウジアラムコは、2027年までに原油生産能力を現在の日量1,200万バレル(bpd)から1,300万bpdまで増強することを発表した。ガスの生産量も2030年までに現在の1.5倍以上に増強する。2021年は油価の上昇もあり、アラムコの純利益は前年比2.2倍の1,100億ドルに増加した。2022年は設備投資も増額予定だ。またサウジは、中国に対する原油販売の一部に人民元建て支払いを認めることを検討している。中国にとっては、米ドルシステムからの脱却やサウジを自陣に取り込めるなどのメリットがあり、サウジにとっても原油の大消費国である中国のシェア確保につながる。現在中国はサウジの原油輸出の25%(米国の3倍)を購入している。

 

4. シリアのアサド大統領がUAEを訪問

 3月18日、シリアのアサド大統領がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、ムハンマド・アブダビ皇太子(MbZ)やムハンマド・ドバイ首長などと会談を実施した。人道支援や経済協力、シリア領土の主権などについて話し合われた。2011年のシリア内戦開始以来、アサド大統領が他のアラブの国を訪問するのは初めて。アサド大統領は民衆デモに対して厳しい武力弾圧を行ったことで2011年にアラブ連盟から資格を停止されたが、その後UAEはアサド政権との関係改善に舵を切り、同国のアラブ連盟への再加盟を支持している。米国務省のプライス報道官は、今回の訪問に関して「深い失望」を表明した。

 

5. エジプト、イスラエル、UAEの3者首脳会談、米国・イスラエル・アラブ諸国を含む6者外相会談の実施

 3月22日、エジプトのシシ大統領、イスラエルのベネット首相、UAEのムハンマド・アブダビ皇太子(MbZ)がシナイ半島のシャルム・アッシェイクで史上初の同3か国首脳による3者会談を実施し、エネルギー市場や食料安定供給について会談した。また、3月27-28日にはイスラエル南部においてブリンケン米国務長官とアラブ4か国(UAE、バーレーン、モロッコ、エジプト)の外相を招いての6者外相会談(通称ネゲブ・サミット)が開催され、食糧・エネルギー価格高騰の問題やイラン核合意再建交渉、地域安全保障の問題などが話し合われた。

 

6. リビア情勢

  • 3月初めにリビア東部をベースとする代表議会(HoR)の承認を受けてバシャガ新首相率いる国家安定政府(GNS)が誕生したが、依然同国西部の首都トリポリには権限移譲を拒否し続けるドゥベイバ首相率いる国民統一政府(GNU)が存在し、1国2政府状態が続いている。ウィリアムズ国連事務総長特別顧問が提唱した東西政府の交渉には、西部からの代表団のみが参加し、東部は代表団を送らず。

 

  • 3月27日、東部をベースとするリビア国民軍(LNA)のハフタル司令官とサーレハHoR議長がエジプトを訪問し、改めてバシャガ新首相率いるGNSへの支持を求めた。3月29日にはメンフィー大統領評議会議長もエジプトを訪問し、シシ大統領とリビアの政治情勢について話し合った。エジプトは2019年4月に始まったリビア東西内戦時にハフタル氏、サーレハ氏率いる東部陣営を強く支持した。バシャガ新首相の就任時にも、エジプト政府は歓迎の意思を表明している。現状が続くと、分裂したリビア東西政府をエジプトとトルコがそれぞれ支援するという対立構図が再度構築されてしまうリスクをはらんでいる。

 

  • 国営石油会社(NOC)のサナッラー会長は、ロシアの代わりとなる新たなガス供給源を求める欧州の需要を満たすため、ガスの生産拡大を目指すと発言した。同氏と対立するアウン石油相は、ガスの生産拡大には数年単位の時間と巨額の投資が必要であり、ロシアの代わりになるというのは非現実的であると発言した。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。