「ラマダン時期に高まるイスラエル・パレスチナ間の緊張」中東フラッシュレポート(2022年4月後半号)
調査レポート
2022年05月10日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2022年5月2日執筆
1.2021年同様ラマダン時期に高まるイスラエル・パレスチナ間の緊張
4月15日、エルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地アル・アクサー・モスク(ユダヤ教徒は「神殿の丘」と呼ぶ)で、イスラエル警察とパレスチナ人の大規模な衝突が発生し、158人が負傷し300人以上が逮捕された。17日にも同地で衝突が発生(19人が負傷、9人が逮捕)。18日には、ガザからのロケット砲に対してイスラエルがミサイル防衛システムで迎撃。イスラエルは報復として、ガザのハマスが所有する武器工場を空爆した。
ラマダン期間中最後の金曜日となる4月29日にも、同地でパレスチナ人42人が負傷する衝突が発生。また西岸では、パレスチナ人がイスラエル治安部隊に撃たれて死亡する事件や、国際的には違法とされるユダヤ人入植地の門番をしていた20代のイスラエル人がパレスチナ人に殺害されるなど、複数の事件が発生。4月中~下旬には、イスラム教の断食月ラマダンと、ユダヤ教の過越の祭、キリスト教のイースターが重なり、各々の宗教心の高まりや物理的に人が集まる機会が増えることで、必然的に衝突も増える傾向にある。
2.サウジアラビアとイランによる第5回非公式対話の実施
4月21日、サウジアラビアとイランの緊張緩和のための非公式対話がバグダッドで実施されたとイランのメディアが報じた。
両国は2016年に断交して以来対立してきたが、2021年4月に政府高官による非公式対話が始まり、今回が5回目の対話となる。イエメンでサウジが支援する暫定政府とイランの支援が指摘される反政府勢力は、7年以上にわたって軍事対立を続けているが、2022年4月初めに停戦が成立し現在も停戦が継続している。
3.サウジアラビア:原油価格の高騰を受けて経済見通しが好調に
5月1日、サウジアラビア政府は、2022年第1四半期(1‐3月)の経済成長率を、予測値で+9.6%(前年同期比)と発表した。この数値は過去10年で最高の伸び率。石油部門の成長率が+20.4%、非石油部門が+3.7%と、石油部門の伸びが大きく寄与している。IMFは、4月に発表した「世界経済見通し」でサウジアラビアの2022年の成長率を+7.6%と予測し、2021年10月の発表時から2.8%上方修正した。また、サウジアラビアのJadwa Investmentも同成長率を+7.7%(石油部門の成長率が+15.5%、非石油が+3.4%)と予想、2022年の財政収支もGDP比+3.4%の黒字(1年を通した財政黒字は2013年以来)になると予想している。
4.アルジェリアがスペインへのガス輸送停止を示唆
アルジェリア政府は、スペインがモロッコにガスを供給しようとしていることに反発し、アルジェリアからスペインに輸送しているガスを止めると警告した。アルジェリアは長年にわたって陸続きの隣国モロッコにガスを供給してきたが、2021年に両国関係が悪化したことで契約が更新されず、同年11月以降アルジェリアからモロッコへのガス供給は停止した。モロッコはスペインからガスを購入しようとしたが、アルジェリアから「待った」がかかった形となった。欧州では、ロシア産ガスの代替供給源として、北アフリカの産ガス国に注目が集まっている。
5.トルコ/サウジアラビア:エルドアン大統領が約5年ぶりにサウジアラビアを訪問
4月28-29日、エルドアン大統領はサウジアラビアを訪問し、サルマン国王およびムハンマド皇太子と会談、また聖地メッカへの巡礼も行った。同大統領によるサウジアラビア訪問は2017年以来5年ぶり。2018年10月にイスタンブールのサウジアラビア領事館で発生したサウジアラビア人ジャーナリスト殺害事件以降、同大統領はサウジアラビア政府が事件に関与したとして糾弾してきたが、最近その批判を和らげていた。2023年に選挙を控えるエルドアン大統領は、サウジアラビアとの関係改善により、経済関係の正常化やサウジアラビアからの投資および通貨スワップ協定の締結を期待しているものと思われる。
6.リビア情勢
- 4月13-18日、ウィリアムズ国連事務総長特別顧問の呼びかけで、リビア西部の国家高等評議会(HCS)と同国東部の代表議会(HoR)それぞれの代表団各12人が、エジプトのカイロで、リビアでの選挙実施のために必要な憲法改正などについて話し合った。話し合いは、5月初めのラマダン明け休暇後に持ち越された。
- 4月中旬以降、リビア国内の複数の油田や石油輸出ターミナルが武装集団によって閉鎖され、国営石油会社(NOC)は不可抗力(フォース・マジュール)を宣言した。これらの閉鎖によって、日量約60万バレルの石油生産が停止し、リビアの石油生産量は半減した。1バレル当たり100ドルの単純計算でも、毎日約6,000万ドル(78億円)の石油収入が失われている計算になる。背景には、石油輸出を停止することでドゥベイバ政権に圧力を掛けバシャガ新政権に権限を委譲させたいリビア東部勢力の思惑があると考えられる。
- 4月18日、リビアの経済貿易省は経済・貿易管理や国内の価格上昇抑制の目的で、全ての電池・バッテリー類、太陽光パネル、鉄・銅・アルミ製などの工業用パイプ、金属弁・金属管、全ての電気ケーブル、アルミ・鉄・ステンレス鋼板、変圧器、発電機、ガスボンベ、電気・電子部品など、輸出禁止品を追加で発表した。
- リビア航空は、同国東部の町ベンガジとトルコのイスタンブールを結ぶ航空便を4月26日から週2便就航させることを明らかにした。同国東部からトルコへの航空便は、2014年のリビア内戦開始以降停止していた。
以上
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