原油:景気は減速、油価は高止まり ~米EIA短期エネルギー見通し(5月)より~

2022年05月18日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

2022年5月12日執筆

 

 米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が5月10日、月次の短期エネルギー見通し(STEO)を発表した。この中で述べられている原油需給の見通しについて、過去のレポートと比較し報告する。

 


 今回の予測の前提となる世界GDP成長率は、2021年6.0%に対し、2022年は3.4%、2023年は3.5%と、従来予測(4.0%、3.7%)から引き下げられ、米国の2022年成長率予測は3.4%から3.1%に下方修正された(2023年は3.1%で据え置き)。またこの予測は5月5日までに作成されており、EUによる対ロシア経済制裁第6弾は未定であるため、EUによる石油禁輸の「可能性」のみが反映されている。

 

 

 コロナ初期の世界的なロックダウンによる原油需給崩壊後、2020年半ばから2021年にかけて世界の原油需給は当初想定以上に引き締まり、在庫が急速に消化されていく中で価格は高騰した。これに対しEIAは、 2022-23年には需要回復ペースが鈍り供給が増えるため、需給は緩み、価格は低下するというシナリオを描き続けてきた。FRBが「インフレは一時的」とみていたように、EIAも「原油需給逼迫は一時的」とみていたことになる。今回の予測では、2022年上期は中国のロックダウンなどによる需要低下を反映し、第2四半期のブレント原油のスポット価格見通しを前回予測の107.65ドルから106.57ドルに下方修正しているが、従来との違いは先行き、価格下落というより、高止まりの見通しに転じつつあることだ。ブレント原油価格は2022年下期平均103ドルを予想、2023年の価格見通しは平均92.57ドルから97.24ドルに5%上方修正している(図表1)。 これまで、2022年第2四半期から2023年にかけ、需給バランスは供給が需要を上回り、在庫は増えると予想していたが、今回の見通しでは需給はほぼ均衡し、在庫は低いままにとどまるため、価格のボラティリティは高いまま推移すると見通しを修正している。

 

 

図表1:ブレント原油価格見通し(出所:米国エネルギー情報局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

図表2:世界需給バランスの予測(出所:米国エネルギー情報局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 この主因はロシアの生産見通しの変更で、EIAはロシアを含む旧ソ連の原油生産見通しをさらに下方修正したが(図表3)、実際の価格への影響は、従前と今後の対ロシア制裁や企業による自主規制が、どの程度ロシアの原油生産や国際市場への販売に影響するかに大きく左右されるとしている。米国産油量の見通しも2022年平均で日量1,191万バレル、2023年1,285万バレルに0.8%下方修正した。2023年の産油量は過去最高を更新する見通しだが、この油価ですら、コロナ前の予測を下回ったままだ(図表4)。世界供給量の見通しは2022年平均で日量9,989万バレル(前年比432万バレル増)、2023年1億160万バレル(同171万バレル増)、世界消費量については2022年平均で日量9,961万バレル(前年比220万バレル増)、2023年1億155万バレル(同190万バレル増)と予想し、需要以上に供給サイドの見通しが引き下げられている。油価100ドルでも原油需給緩和のめどが立たない厳しい状況にあると言える。

 

 

図表3:旧ソ連(FSU)原油生産見通し(出所:米国エネルギー情報局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

図表4:米国原油生産見通し(出所:米国エネルギー情報局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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