商品:「日常」になった異常気象~ラニーニャ現象が継続、3年連続となる可能性も~ 

2022年05月30日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

2022年5月25日執筆

 

 気象庁が5月12日に公表した定例のエルニーニョ監視速報によると、この春で終息するとみられていたラニーニャ現象が長引き、夏まで続く可能性が高いという。24日に発表した6~8月の国内3か月予報では、梅雨期間の大雨に警戒が必要で、夏の気温は平年より高くなるところが多くなると予想されている。

 

 米海洋大気局(NOAA)も12日、4月の海面水温異常は過去8回のラニーニャ2年目に比べ最も顕著だったとし、夏にいったん弱っても、秋~初冬にかけ新たなラニーニャ現象が発生する確率が61%に上昇したと述べている。3年連続発生なら史上3度目となる。ラニーニャは太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけ、海面水温が平年より低くなる状態が続く現象で、世界の天候にさまざまな影響を及ぼす(例:下図)。

 

 

(例)ラニーニャ現象発生時の6-8月の天候の特徴(気象庁)(出所:気象庁ホームページより引用)

 

 

 既に「異常」気象は日常的になりつつあるが、2022年も干ばつや洪水などの気象災害が多発している。ただでさえ需給変動が大きくなった現在の国際商品市場では無視できないリスク要因だ。最近注目を集めている例を以下にいくつか紹介する。

 

 

 豪州: 2021年11月の降水量は過去122年で最多を記録。12月には西部沿岸で森林火災、東部で大規模な洪水・豪雨と2つの災害に見舞われ、2022年2月下旬からは東部を中心に「雨爆弾」と呼ばれる豪雨と観測史上最悪とされる大洪水が発生した。2022年はこれまでにクイーンズランド州やニューサウスウェールズ州の石炭や牛肉などの輸出に影響が出ている。

 

 なお相次ぐ気象災害で有権者の気候変動問題に対する意識も高まる中、5月21日の総選挙で野党・労働党が勝利した。同党は2030年までにCO2を2005年比43%削減する目標を掲げており、再生可能エネルギーやEVの普及促進を公約としている。同党は、環境基準を満たした炭鉱開発は認める方針だが、上下院で議席を伸ばした緑の党は新規石油ガス開発の阻止を掲げている。

 

 

豪州:6-8月も多雨の予報(出所:FAO、豪州気象局ウェブサイトより引用)

 

 

 南アジア:インド・パキスタンなどの一部地域で3月から4月に連日酷暑が続き、石炭・電力不足が深刻化し、停電も発生。農産物にも損害が出ている。一般炭の国際価格は高騰しているが、インド政府は電力会社には石炭輸入拡大を求め、鉄道会社には石炭輸送を優先させるよう求めている。エアコンがない住宅や建物が多いため、車で涼もうとガソリン販売が急増したとも報じられている。インドの2022年度小麦収穫高は当初、1億1,132万トンと過去最高の予想で、政府は輸出拡大を目指していたが、作柄が急速に悪化し減産見込みとなると一転して輸出を制限した。エネルギーや食料価格の値上がりを受けて政府はこのところインフレ抑制を重視する姿勢を強めており、5月22日付で一部商品の税率を変更した。その主なものとして、無煙炭・PCI炭・原料炭の輸入関税撤廃、ガソリン・ディーゼルの物品税やプラスチック原料の輸入税軽減、鉄鉱石の輸出税引き上げ、鉄鋼製品への輸出関税導入などがある。5月24日には砂糖輸出に対して6年ぶりに数量制限を導入。2021/22年度(21年10月~22年9月)は5月18日までに既に750万トンを輸出しており、次年度開始までの在庫温存のため、6月1日から10月31日まで輸出量に1,000万トンの上限を設けると報じられている。

 

 

インド:記録的熱波(出所:FAO、インド気象局ウェブサイトより引用)

 

 

 欧州:昨年来のエネルギー危機と、ロシアのウクライナ侵攻によって欧州ではエネルギー危機が続いている。ロシア産エネルギーからの脱却に向け、欧州理事会と欧州議会は11月1日までにガス貯蔵率を最低80%まで引き上げることを決定しており、エネルギー需要や水力・再生可能エネルギーの出力を左右する天候の動向には従来以上に注目が集まる。これまでに、フランスやノルウェーで少雨による水不足が伝えられている。5月後半はスペインで記録的な高温となり、ドイツでは竜巻・暴風雨の被害が生じた。なお、フランスはEU最大の穀物生産国だが、一部地域では小麦・大麦などの作物が干ばつ被害を受けている。作柄が大きく改善するには6月上旬までにまとまった降雨が必要になるとみられている。 

 

 

 米国:国土の約半分が干ばつ状態となっている。南西部では2大貯水池の水位が過去最低。ニューメキシコ州では山火事も拡大した。米国では原子力・石炭火力発電所を徐々に閉鎖し、再生可能エネルギーの比率を高めてきたが、電気を貯蔵するバッテリーの導入ペースが追い付いておらず、電力供給には脆弱性がある。バイデン政権は既存の原子力発電所を活用する方針を打ち出しているが、ミシガン州Palisades原発は5月20日をもって約50年の歴史に幕を閉じた。今夏は平年を上回る気温が予想されており、エネルギー需要の増加と水力発電量低下が重なると、米国の広域で停電のリスクが高まる。また、冬に作付けされ間もなく収穫期を迎える冬小麦は、カンザス州・オクラホマ州・コロラド州・テキサス州などの主要産地で総じて作柄が悪く、4月下旬以降、作柄が「良(Good)」ないし「優良(Excellent)」と評価された冬小麦の比率は全体の3割を切っている。他方で、中西部のトウモロコシ産地では3~4月の低温多雨のため作付け作業が遅れ、5月に入り急ピッチで作付けを進めているが、5月22日時点で作付けを終えた耕地面積は作付け予定面積の72%。ノースダコタ州ではまだ進捗率20%にとどまる。2022年度はもともと米国のトウモロコシ生産面積は前年を下回るとみられていたが、理想的な時期を過ぎてからの作付けが多くなることで、生育期における天候ストレスによる影響が大きくなることも懸念される。

 

 

米国:南西部で「メガ干ばつ」(出所:FAO、米国気象局ウェブサイトより引用)

 

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。