「北欧2か国のNATO加盟に反対の姿勢を崩さないトルコ」中東フラッシュレポート(2022年5月後半号)

2022年06月06日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年6月2日執筆

 

1.北欧2か国のNATO加盟に反対の姿勢を崩さないトルコ

 ロシアのウクライナ侵略を受けて、スウェーデンとフィンランドがこれまでの中立姿勢を転換し5月18日に北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請したが、それに対して現NATO加盟国であるトルコは、両国(特にスウェーデン)がトルコが テロ組織に指定しているクルディスタン労働者党(PKK)やトルコがPKKと同一視するクルド民主統一党(PYD)などを支援していることや、トルコに対して武器の禁輸措置を講じていることなどを理由に両国のNATO加盟に異議を表明している(NATO加盟には現加盟国30か国の全会一致による賛成が必要)。

 

 5月18日、トルコの外相は「北欧2か国が安全保障上の懸念から加盟を申請したことは理解するが、同様にトルコの安全保障上の懸念も勘案される必要がある」と発言。5月23日、トルコ政府はスウェーデンのNATO加盟に対して5項目の要求(テロリストへの政治・財政・武器支援の停止、トルコに対する制裁の解除など)を発表し、「具体的な措置」を講じることを求めた。6月末のNATOサミットに向けて交渉が加速するとみられる。

 

2.バイデン-MbS会談実現か

 5月中旬から複数のメディアで、バイデン米大統領が 6月下旬の中東訪問時にサウジアラビアを訪問してムハンマド皇太子(MbS)と会談するのではないかとの憶測が流れている。

 バイデン大統領は、MbSは自分のカウンターパートではないとしてこれまで対話を拒否してきたが、関係を改善し原油高を抑えるためにサウジに増産を促すべく、トップ会談を計画しているもよう。

 

3.レバノン国民議会選挙の結果、親ヒズボラ勢力の議席が過半数割れに

 5月15日、レバノンで国民議会選挙が実施された。今回の選挙では親米・親サウジの「レバノン軍団」や独立派議員が議席を伸ばした裏で、親ヒズボラ勢力が過半数を割る結果となった。とはいえ、親ヒズボラ勢力は128議席中61議席を占めており、依然大きな発言力を有する。新議会初日の5月31日には、過去30年間議長職にあるベッリ議長(84歳、親ヒズボラ)が再選され、副議長にも親ヒズボラの人物が選ばれた。今後の焦点は首相の指名・組閣、そして2022年10月末に任期が切れる大統領の後任選びに移るが、組閣交渉は難航することが予想され新政権発足までには数か月掛かるとみられており、経済復興への道のりは長そうだ。

 

4.ロシア人によるトルコ、UAEにおける不動産購入が急増

 ロシア人によるトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)での不動産購入が急増している。トルコ、UAEは欧米の対ロシア制裁に参加しておらず、ロシアへの直行便も継続しているため、ロシア人の資産(プライベートジェットやヨットも含む)の避難先として選ばれている。また、トルコには40万米ドル以上の不動産を3年間保有する外国人への市民権付与制度があり、ドバイでは20.5万米ドル以上の不動産を購入した外国人に3年間の滞在ビザが付与される。ロシア人は、資産保護のためだけではなく、国外に居住地を確保するためにも両国の不動産を購入しているものとみられる。

 

5.UAEとイスラエルが自由貿易協定(FTA)を締結

 5月31日、UAEとイスラエルがFTAを締結。今後両国間で取引する製品の96%について関税が即時ないしは段階的に撤廃されるのに加え、同協定は規制緩和や通関円滑化、電子商取引や商標権管理までカバーされており、両国間のビジネス拡大が見込まれる。イスラエルがFTAをアラブの国と締結するのは初めて。UAEは2022年2月に初めての包括的経済連携協定(CEPA)をインドと締結しており、イスラエルが2か国目となる。UAEとイスラエルの間でFTA交渉が始まったのは2021年11月で、妥結したのが2022年4月、署名が5月と異例のスピードで締結に至った。

 

6.リビア情勢

  • 国連主導で開催されている、選挙に必要な憲法基盤の整備についてのリビア東西陣営の協議(第2ラウンド)が、5月15~20日にエジプトのカイロで行われ、197項目のうち137項目について暫定合意に至ったが、全ての項目での最終合意には至らず、協議は6月に持ち越された。次回第3ラウンド(最終ラウンドと目されている)は、6月11日から同じくカイロで開催される予定。

 

  • 首都トリポリで政権運営を続ける国民統一政府(GNU)は、国連主導のリビア政治対話フォーラム(LPDF)によって2021年3月に発足した選挙実施のための暫定政府であり、2022年6月末が期限とされている。ドゥベイバGNU首相は、2021年12月の選挙が延期された後も「選挙で選ばれた政権にしか権限を委譲しない」として首都トリポリでの政権運営を続けるが、期限が切れる6月末以降の去就が注目される。

 

  • リビア東部を拠点とする代表議会(HoR)によって2022年3月に任命されたバシャガ首相率いる国家安定政府(GNS)を支持しGNUの退陣を求める武装集団によるリビアの油田や石油輸出ターミナルの一部閉鎖は、4月半ば以降現在も続いており、リビアの石油生産量は通常の約半分に減少している。

 

  • リビア中央銀行は2022年1~4月の財政状況を公表。同期間の石油輸出収入は85億ドル(歳入の98%)で、税収は1億ドル。歳出の多い項目は、公務員給与に28億ドル(全体の58%)、次いで補助金に17億ドルとなっている。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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