レバノンとの海上係争地にイスラエルがガス掘削船を派遣」中東フラッシュレポート(2022年6月前半号)

2022年06月23日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年6月20日執筆

 

1.レバノンとの海上係争地にイスラエルがガス掘削船を派遣

 6月5日、イスラエルがレバノンとの海上国境周辺で両国間の係争地に存在するカリシュ・ガス田にガス生産貯蔵積出船(FPSO)を送ったため、レバノン政府は「係争地におけるいかなる掘削・探査活動も挑発であり侵略行為である」とイスラエルに警告した。同ガス田は、両国がそれぞれ自国の排他的経済水域(EEZ)であると主張しているエリアにあり、急遽両国の仲介のため米国特使がレバノンを訪問した。

 

 レバノンはイスラエルの存在を認めておらず両国には国交がないため、海上国境画定に向けて、2020年以降国連や米国の仲介で話し合いが行われている。両国沖合の東地中海の海底は天然ガスの埋蔵量が豊富なことで知られており、イスラエルは2009年以来巨大ガス田を立て続けに発見・開発し、既にガス輸出国となっている。周辺のエジプトやキプロスのEEZ内でも巨大ガス田が発見されているが、レバノンは政情が落ち着かずいまだガス田発見には至っていない。

 

2.OPECプラスが増産幅を拡大

 6月2日のOPECプラス閣僚会合で、7月に当初予定されていた日量43.2万バレル(bpd)の減産緩和幅を、1.5倍の64.8万bpdに増やすことを発表した。

 しかし、既にOPECプラスの多くの国はさまざまな理由から生産上限量に到達できておらず、実際の増産量は限られるとの予想から、原油価格は一時的に下落したものの、その後上昇に転じた。次回のOPECプラス閣僚会合は6月30日。

 

3.アルジェリア:スペインとの友好協定を一方的に破棄し、貿易を停止

 6月8日、アルジェリアはスペインとの20年にわたる友好協定の即時停止を発表。翌9日にはスペインとの貿易取引を停止した。両国は、2022年3月にスペインが西サハラ問題においてモロッコによる自治提案を支持したことで関係が悪化した。アルジェリアは隣国モロッコとの関係悪化に伴い、2021年10月の契約満了時点でガス供給を停止しており、今後アルジェリアがスペインに供給しているガスを止めたり価格を上げたりする可能性が懸念される(現契約は2032年までで、価格は3年毎に変更可能)。スペインは昨年来米国産LNGの輸入を増やし、アルジェリア産ガスへの依存度を減らしている(2021年:42% → 2022年1-3月:26%)。

 

4.イラン:IAEA理事会がイラン非難決議を採択

 6月8日、ウィーンで開かれている国際原子力機関(IAEA)の理事会で、米・英・独・仏が共同で提出したイランに対する非難決議が採択された(ロシアと中国は反対した)。イランが核合意(JCPOA)から大きく逸脱して60%濃縮ウランの保有量を43㎏まで増やしたことや、IAEAの調査に対する非協力的な態度などがその理由。イラン政府は、非難決議への対抗措置として、4か所の核施設にある27の監視カメラを撤去するとIAEAに通知。3月以降中断してしまっているJCPOA再建協議にも悪影響を与えそうだ。

 

5.チュニジア:サイード大統領が裁判官57人を免職

 6月1日、サイード大統領は汚職やテロ擁護などを理由に裁判官57人を免職した。同大統領は2021年7月に首相を解任し議会を閉鎖、2022年2月には最高司法評議会を解散するなど自身への権力集中を進めている。反発した裁判官協会がストライキを実施するも、大統領は即座に裁判官の減給を発表。大統領は、改憲を問う国民投票を7月25日に実施し、12月17日に議会選挙を実施する予定だが、議会最大政党エンナハダはボイコットを表明しており、同国最大の労働組合も全土で大規模ストを実施するなど、社会不安が加速している。

 

6.リビア情勢

  • 選挙実施のための憲法改正に関するリビアの東西勢力による協議が、6月12日からエジプトのカイロで再開。協議を仲介する国連は、この第3ラウンドを最終ラウンドとし、全ての点で合意に至ることを目指している。

 

  • リビアの5月の産油量は、4月中旬から続く一部油田や原油輸出ターミナルの閉鎖の影響を受けて、77万bpdまで減少した。バシャガ新首相率いる国家安定政府(GNS)を支持する部族や武装勢力が、ドゥベイバ首相の国民統一政府(GNU)の退陣を求めて油田やターミナルを閉鎖したため生産量が半減。6月に入って、さらに多くの油田やターミナルが閉鎖されたため、現在の原油生産量は2021年の10分の1以下に当たる10万bpd程度まで激減してしまっている。

 

  • 6月15日、代表議会(HoR)はバシャガGNS政権の2022年予算(897億ディナール、約185億ドル)を承認した。バシャガ首相は「中央銀行がGNS政権に予算を提供すれば、石油施設の閉鎖は解除されるだろう」と述べており、今後中央銀行や国連・国際社会がどのように動くのかが注目される。

 

  • 6月13日、トルコはリビアへの自国軍の派兵期間延長を決定。トルコ議会での採決を経て、7月2日から18か月間の延長が認められる見通し。トルコは、ハフタル将軍率いる武装勢力から首都トリポリを守るために、2020年1月にリビア西部に軍を派遣し、以降駐留を継続している。国際社会はすべての外国軍・傭兵のリビア国外への撤退を求めているが、トルコはリビア政府から正式に要請されたものとして撤退を拒否し続けている。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。