「トルコが北欧2か国のNATO加盟反対を撤回し支持を表明」中東フラッシュレポート(2022年6月後半号)

2022年07月07日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年7月5日執筆

 

1.トルコ:北欧2か国のNATO加盟反対を撤回し、支持を表明

 6月28日、トルコのエルドアン大統領、スウェーデンのアンデション首相、フィンランドのニーニスト大統領、NATOのストルテンベルグ事務総長がマドリードで4時間にわたる4者会談を実施し、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に異議を唱えてきたトルコが、一転同2か国の加盟申請を支持することで合意した。3か国間で締結された覚書では、北欧2か国がクルディスタン労働者党(PKK)関連組織などに対する支援を停止することや、トルコからのテロ容疑者引き渡し要請に迅速に対処すること、トルコに対する武器禁輸措置を解除することなどが記されており、トルコ側の要求がほぼ全て認められた。

 

 翌6月29日、エルドアン大統領は、北欧2か国のNATO加盟を強く推してきた米国のバイデン大統領と1時間の2者会談を実施。バイデン政権は、トルコが昨年来要請しているF-16戦闘機の新規購入および近代化を支持すると改めて発表し、北欧2か国のNATO加盟支持に回ったトルコに対する配慮を見せた(ただ、トルコへの戦闘機売却には米議会の承認が必要)。

 

2.サウジアラビア:ムハンマド皇太子が外交を加速

 6月20~22日、サウジのムハンマド皇太子(MbS)がエジプト、ヨルダン、トルコの3か国を訪問。エジプトとヨルダンとは各種覚書が交わされたが、同2か国は7月のバイデン米大統領のサウジ訪問時に「GCC+3サミット」に参加する予定で、サミットの事前調整が行われたものとみられる。

 MbSは、在イスタンブール・サウジ総領事館でのサウジ人ジャーナリストの殺害事件以来関係が悪化していたトルコも訪問。2022年に入りトルコ側からの歩み寄りが顕著に見られており、4月にはエルドアン大統領が5年ぶりにサウジを訪問している。

 

3.イスラエル:連立政権崩壊で、11月に3年半で5度目の総選挙へ

 6月30日、イスラエルの国会で国会解散法案が可決され、11月1日の総選挙実施が決定した。2019年4月からの 3年半で5回目の総選挙となる。2021年6月に「反ネタニヤフ」で結集した8党連立政権は、連立政権内の政策や理念の違いによる対立から、約1年で終わりを迎えることになった。6月30日にベネット首相は退任し、7月1日からはラピード外相が外相兼任のまま暫定政権の首相に就く。ベネット氏は暫定政権内で首相代行の座にとどまるが、11月の選挙には出馬しないことを発表し、ヤミーナ党党首の座もナンバー2のシャケド内相に委譲した。11月の選挙では、収賄、詐欺、背任などの容疑で現在公判中のネタニヤフ元首相が返り咲きを狙う。

 

4.インド:与党BJP報道官のイスラム教侮辱発言にイスラム諸国が反発

 与党インド人民党(BJP)のシャルマ報道官(発言後に職務停止に)が、テレビの討論番組でイスラム教を侮辱する発言をしたとして、イスラム諸国から激しい反発が起きている。発言が放送されたのは5月末だが、その後SNSで世界に拡散され批判が広がった。イランやカタール、クウェートなどはインド大使を呼び出して抗議、サウジやUAEなどの湾岸協力会議(GCC)諸国やイスラム協力機構(OIC)は同氏の発言を非難した。インドは石油の6割をGCC諸国に依存し、約800万人のインド人がGCC諸国で働いているため、良好な関係維持が求められる。

 

5.イラン:カタールで米・イランの間接交渉実施も進展なし

 6月28~29日の2日間、カタールの首都ドーハでイラン核合意(JCPOA)再建に向けた米国とイランの間接協議がEUの仲介で行われた。同協議には、イランからバゲリ外務次官、米国からマレー・イラン担当特使が参加したが、協議前から両国が互いに「相手側が譲歩すべき」と主張しているという報道が出ていたことから予想された通り、交渉で特段の進展はなかったとのこと。2022年3月以降とん挫しているJCPOA再建協議の再開に向けた新たな動きと期待されたが、交渉の進展にはもう少し時間がかかりそうだ。

 

6.リビア情勢

  • 選挙実施に向けてリビア東西勢力が憲法基盤を話し合うエジプト・カイロでの協議は、6月19日に最終第3ラウンドが終了したが、問題を全て解決することはできなかった。最大の争点は、軍人が大統領選挙に立候補できるかどうかになっているもよう(東部に属するリビア国民軍のハフタル司令官が想定されている)。協議の仲介を行ったウィリアムズ国連事務総長特使は、10日以内に東部勢力を代表するサーレハ代表議会(HoR)議長と西部勢力を代表するミシュリ国家高等評議会(HCS)議長が協議を行って互いの相違を埋めるよう促した。

 

  • 6月28~30日、サーレハ氏とミシュリ氏の直接会談が、ウィリアムズ氏同席の下スイス・ジュネーブの国連事務局で実施され、大統領選の候補者資格などについて話し合われたが、両者は考え方の不一致を解消できなかった。

 

  • 7月1日、長時間にわたる停電や食料価格の値上げなどの生活環境の悪化で、国民の政治に対する不満が爆発し、主に若者を中心とするデモが首都トリポリやベンガジ、ミスラタ、セブハなどリビア各地で発生。東部トブルクにある議会の建物や車両などが襲撃・放火された。デモ隊は、生活環境の改善に加え、HoR、HCSなど全ての現行政治組織の解体や2021年末以来延期されたままになっている大統領・議会選挙の早期実施を求めている。

 

  • 政府は2022年1~5月の燃料補助金が33億リビア・ディナール(LD、約930億円)に上ったことを発表。リビアでは燃料補助金制度でガソリンが1リットル当たり0.15LD(約4円)で固定されており、これが汚職や密売の温床となり、国内燃料不足の原因にもなっているため、代替案として現金給付制度への変更が検討されている。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

以上

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