「イスラエルがパレスチナ・ガザ地区への空爆を実施」中東フラッシュレポート(2022年8月前半号)

2022年08月24日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年8月19日執筆

 

1.イスラエルがパレスチナ・ガザ地区への空爆を実施

 8月5日、イスラエルがガザ地区に対する空爆を行い、パレスチナ・イスラム聖戦運動(PIJ)の司令官を殺害した。PIJは報復としてイスラエルに対して計1,000発以上のロケット弾を撃ち込んだが、ほぼ全てがミサイル防衛システムで迎撃・撃墜され、イスラエル側に大きな被害はなかった。イスラエルとPIJの攻撃の応酬は3日間続き、7日夜にエジプトなどの仲介によって双方が停戦に合意した。

 

 3日間のガザにおける人的被害は、死者49人(子供17人を含む)、負傷者は350人以上。2021年5月のガザ空爆以来の大規模な応酬であった。PIJはイスラエルを駆逐してパレスチナ国家の樹立を目指す武装勢力。今回は停戦合意が成立したとはいえ、根本的な問題は何ら解決しておらず、今後も戦闘の火種は残ったままである。

 

2.トルコ:インフレ率が80%に近づく

 トルコ統計局(TUIK)は、7月の消費者物価指数(CPI)が前年同期比+79.6%と発表した。通貨リラ安と世界的な商品価格の上昇が影響し、1998年以来24年ぶりの高水準となった。前月比では+2.37%の上昇。生産者物価指数(PPI)は、前年同期比+144.6%。各国がインフレ抑制のために利上げに動くが、トルコは年初から7か月連続で政策金利(14%)を据え置き、実質金利は▲65.6%となっている。

 

3.トルコ:約2年ぶりに東地中海にガス田掘削船を派遣

 8月9日、トルコ国営石油会社(TPAO)が所有するガス田掘削船が、東地中海での探査・掘削活動のため出港した。出港式典に参加したエルドアン大統領は、「トルコの主権範囲内での作業なので誰からも許可を得る必要はない」と発言。2019~20年には、トルコが東地中海のギリシャやキプロスとの係争海域に探査船を派遣し一触即発の事態になったが、以後は同海域での活動を停止していた。今回は、地震探査で得たデータを基に試掘井を掘ることが目的とみられる。掘削船は10月7日に帰港予定。係争海域ではないエリアでの活動から始めるとのことだが、その後船は場所を移動する可能性がある。エネルギー価格が高騰し世界がロシア産ガスの代替を探す中、東地中海でも天然ガスを巡って緊張が再燃する可能性がある。

 

4.イラン:JCPOA再建交渉がウィーンで再開

 2021年4月に開始し2022年3月以降中断していたウィーンでのイラン核合意(JCPOA)再建交渉が、8月4~8日に再開された。交渉最終日にEUは、もう議論はされ尽くしたとして「最終合意案」なるものを作成し提出。EUは「同案が"最終"でありさらなる交渉の余地はない」としたが、イラン政府は「まだ交渉が必要な点がある」として、8月15日にEUに書面で回答を提出した。イラン側は、①米政府によるイランの革命防衛隊の外国テロ組織指定解除の問題、②将来の米政権が再度JCPOAから離脱しない保証、③イラン国内の未申告地点から発見されたとされる人工核物質に対する国際原子力機関(IAEA)の査察の終了、の3点において何らかの提案をしたものとみられ、米・EUからの回答が待たれる。

 

5.「悪魔の詩」の作家サルマン・ラシュディ氏が講演会で刺される

 8月12日、1988年に出版された小説「悪魔の詩(The Satanic Verses)」の作家サルマン・ラシュディ氏(75歳)が、米ニューヨーク州の講演会場でレバノン系米国人の男(24歳)に首や腹部を刺される事件が発生した。事件後同氏は手術を受け、現在容体は安定しているもよう。同作はイスラム教を冒とくする内容であるとして、イスラム諸国などで発売が禁止され、当時イランの最高指導者であった故ホメイニ師が同氏および出版関係者に対して死刑を宣告。日本でも、同作を日本語に翻訳した筑波大学の助教授が、1991年に何者かに学内で刺殺される事件が発生している(未解決事件)。

 

6.リビア情勢

  • 8月1日、上院に相当する国家高等評議会(HCS)は議長選を実施し、ミシュリ現議長を再選した。HCS議長の任期は1年間。ミシュリ議長は2018年に初めて議長に選出され、今回5期目となる。

 

  • 8月1~2日の日程で、下院に相当する代表議会(HoR)のサーレハ議長がトルコを訪問し、エルドアン大統領やシェントップ国会議長と会談した。サーレハ議長はトルコに対し、バシャガ国家安定政府(GNS)首相に対する支持を要請したものとみられる。ここ数年リビアは東西で激しく対立しており、トルコはリビア西部の国民統一政府(GNU)を支持し、対立する東部をベースとするHoRやハフタル・リビア国民軍司令官と対立してきたが(ロシアやエジプト、UAEなどが東部を支援)、この東西対立構造が変化しつつある。ドゥベイバGNU首相(西)とハフタル司令官(東)の間で結ばれたとされる裏合意や、HoR(東)が西部出身のバシャガ氏を新政権GNSの首相に擁立したことなどもその兆候である。

 

  • リビアの7月の産油量は日量68万バレル(bpd)。7月中旬まで続いた石油関連施設の閉鎖が産油量に影響した。7月末には生産量が120万bpdまで回復したので、8月の生産量は大幅増が見込まれる。8月9日、ドゥベイバGNU首相、メンフィー大統領評議会議長、石油相、財務相、中央銀行総裁、リビア国営石油会社(NOC)会長などが集まり、NOCに対する特別予算と今後リビアで200万bpdまで増産する計画について話し合った。

 

  • 現在空席となっている国連リビア特使のポストに、セネガル国籍の外交官バシリ氏を任命する動きが出ているが、リビアの国連大使が反対を表明している。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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