商品市況:ガス価格に集約されるロシアコスト、ドル高に無益化される価格調整機能

2022年09月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行

 

2022年9月7日執筆

 

 

 ロシアのウクライナ侵攻により、かつてないほどボラティリティの高まりを経験した商品市況はようやく落ち着きを取り戻しつつあるように見える。

 

 

 22年3月に1バレル当たり139.13ドルと2008年以来の水準まで急騰したブレント原油先物は、変動幅を抑えながら水準は低下し、90ドル台半ばで8月の取引を終えた。その後のOPECプラス会合で10月の生産量について若干の減産方針が表明されたものの、目標値まで生産拡大ができていない状況でもあることから、原油価格は調整の範囲内にとどまっている。この減産の方針において、ロシアがどの程度影響力を発揮したかについては詳らかになっていないことで、産油国の生産方針に対する疑念は燻り続けるが、ボラティリティを高めるほどの不安を市場参加者は、今のところは感じていないようだ。

 

 

CRB指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

 3月に1ブッシェル当たり14.25ドルと2008年の高値すら超えてしまった小麦先物価格は、黒海からの小麦輸出が再開されたことで食糧供給への安心感が広がり、1ブッシェル当たり8ドル近傍へと大きく値を削っている。ニッケルやアルミニウム、パラジウムなど、その取引には厳しい制約があったわけではないが、ロシア産比率の高い商品の価格も一時の高値水準からは大きく離れている。構図としては、物流状況も含めて需給面で数量調整が機能したことで価格も総じて安定してきている。

 

 

ガス価格(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 一方でガス市場ではこうしたスタビライザーは機能していないようだ。それどころか冬を前にリスクは再び膨張し、多方面へと波及しつつある。ロシアとの対立で生じるコストはガス市場に集約されてしまっているようだ。欧州のガス市場における不均衡がそのサプライチェーン、とりわけ欧州電力市場を通じて域内のみならず、米州やアジアのガス、石炭市場のバランスを崩してしまっていることは殊更に厄介だ。この不均衡は商品市場だけに収まらず、実体経済では近年例のないインフレーションが顕在化し、程度の差こそあれ、金融から安全保障まで各国政府は政策変更を余儀なくされている。長期の需給バランスを安定させるために、時間をかけて構築してきた仕組みが短期間で崩壊していることもあって、過去の政策を踏襲できない可能性も指摘できよう。実体経済では、供給体制の再構築に関して集中から分散へと主題がシフトしていきそうだ。また、インフレーションをコントロールできなかったことで、金融政策は、政府や当局からの丁寧な説明の上、市民からの同意なり納得なりが得られない限り、インフレーションの端緒になるような金融緩和策の実行は難しいという政策面での制約を受けることになりかねない。むしろ、政策効果が表れなかった場合、同意を得られなければ、社会そのものが耐えられないほどの不安や動揺を生むことが懸念される。不安定な商品市況が社会不安を経て政府や企業に攻撃的になる時代は過去にもあった。歴史は同じことを繰り返さないかもしれないが韻を踏む。

 

 

 インフレーションへの対応で米国では金融引き締めが進められている。40年ぶりのインフレーション、2四半期連続のマイナス成長にもかかわらず、米国経済の持つ強さや金利上昇の期待で米ドルが選好されているという説明には釈然としない。特に景気動向に対して遅効性のある雇用統計を状況把握する材料として捉えるのはやや危険ではないかと感じながらも、米ドルが強いという事実は残る。米ドルと商品の関係は、通常時であれば逆相関になることが多いが、今のところはその関係を取り戻せていない。米ドル建ての商品価格はウクライナ侵攻前の水準まで低下してきており、安定の兆しがうかがえる。しかし、米ドルが強いため非ドル建ての商品価格は十分低下しているといえる状況にはない。我々が直面しているインフレーションは高値付近で粘着質となっており、水準低下には相応の時間を要する、もしくはウクライナ侵攻前の水準に戻らないことも念頭に置いておく必要がありそうだ。

 

 

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