中国経済:持ち直しの兆しも、低調さ続く(マンスリーレポート9月号)

2022年09月21日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元、景気回復の勢いは鈍っている。2022年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+0.4%となり前期の同+4.8%から大きく減速した。前期比(季節調整済み)では▲2.6%。前期比でのマイナスはCOVID-19感染拡大の打撃を初めて受けた2020年第1四半期(同▲10.3%)以来となった。ゼロコロナ政策の下でのロックダウン実施に加え、不動産セクターの低迷が響いた。先行きについては、景気刺激策により持ち直しの兆しはみられるものの、世界経済の減速に加え、国内でのCOVID-19再拡大と不動産セクターの低迷などを背景に、低調な動きが続くと予想する。8月の主要経済指標では、持ち直しの兆しがみられたものの本格的な復調とは言えない。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率の見通しは、それぞれ+3.3%、+4.3%、+4.0%。注目点は、減税により収入が減少している一方、支出が増加しており財政収支の悪化が懸念される点だ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:持ち直しの動きがみられるものの依然低調さが続いている。8月の小売売上高は前年同月比+5.4%と、7月の同+2.7%の伸びを上回った。ただし、前年同月(+2.5%)が低かったことも影響している。小売売上高の約10%を占める自動車の売上は同+15.9%と、7月の同+9.7%から伸びが加速した。COVID-19拡大で成都などでロックダウンが実施されており、小売売上高は低調な伸びが続くとみられる。

 

生産:緩やかな回復が続いている。8月の鉱工業生産は、前年同月比+4.2%と、伸びが7月の同+3.8%を上回った。製造業への投資などが増加したことが寄与した。特に新エネルギー車(NEV)などの自動車生産が同+30.5%と7月の同+22.5%から伸びが拡大、3か月連続で2桁台の伸びとなった。だたし、猛暑による電力不足で鉱工業生産が鈍化した地域もあった。今後は、自動車、特にNEVの需要増が期待できるものの、自動車関連以外の国内需要が総じて弱いため、生産は緩慢な回復が続くとみられる。

 

固定資産投資:持ち直しの動き。1~8月の固定資産投資(年初来累計)は前年同期比+5.8%と1~7月の同+5.7%から伸びがやや加速。うちインフラ投資は同+8.3%と1~7月の同+7.4%より伸びが加速したが、不動産投資が同▲7.4%と1~7月(同▲6.4%)より落ち込んだ。住宅ローン返済拒否、ロックダウンなどが逆風になっている。当面、不動産投資の回復の兆しがみえず、固定資産投資は低調さが続くだろう。

 

貿易:鈍化している。8月の輸出額は前年同月比+7.1%の3,149億ドルと7月の同+18.0%から伸びが鈍化した。金利上昇で景気減速懸念が高まっている米国向け(同▲3.8%、7月同+11.0%)が減少に転じた。8月の輸入額は同+0.3%の2,355億ドルと、7月(同+2.3%)から伸びが鈍化。最大の輸入品目である集積回路(IC)が同▲12.4%(7月同▲2.7%)と落ち込んだ。貿易収支は793億ドルの黒字(7月は1,013億ドル)。今後は、自動車輸出の拡大が続くとみられるが、世界経済が減速傾向にあり、世界的なCOVID-19抑制策の緩和で、巣ごもり需要で拡大したモノの輸出が鈍化する可能性がある。

 

    主要経済指標(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

主要経済指標(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

物価:低水準にとどまっている。8月のCPIは前年同月比+2.5%と7月(同+2.7%)より伸びがやや鈍化した。ただし、食品価格が同+6.1%(7月同+6.3%)と前月に続き高かったが特に豚肉価格が同+22.4%(7月同+20.2%)と高水準だった。一方、卸売物価指数(PPI)は同+2.3%と7月の同+4.2%から鈍化。年内、CPIは政府目標である前年比+3%を上回らないだろう。

 

金融政策:緩和を維持。9月20日に発表した最優遇貸出金利(LPR)は1年物を年3.65%、住宅ローン金利の目安となる5年物を年4.30%と据え置いた。8月に年内3回目となる利下げに踏み切っている。景気回復を下支えするため、引き続き緩和を維持するとみられる。

 

財政政策:政府の財政収支は、減税による収入減、景気刺激策などの支出増により悪化している。2020年の同財政収支のGDP比は▲10.7%、2021年は同▲6.0%(IMF)。2022年は、歳入減、歳出増で増加するとみられ、▲7.7%(IMF)の見通し。

 

    物価(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

為替(対ドル):下落が続いている。4月中旬から5月中旬は大幅に下落。それ以降はもみ合いが続いていたが、8月中旬の第2四半期GDP発表以降、下落が続いており、9月中旬には1ドル=7人民元を超えた。今後も、低調な国内経済、米国との金利差などを背景に通貨安傾向が続くとみられる。

 

株価:軟調な推移になっている。7月以降、COVID-19感染再拡大、不動産デベロッパーの資金繰り悪化、米国でのインフレと利上げ、台湾をめぐる緊張などが懸念材料となり、軟調な動きが続いている。今後も軟調な動きが続くとみられる。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

以上

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