商品:国際銅研究会(ICSG)短期銅需給予測
国際銅研究会(ICSG)が10月18~19日に秋季会合を開き、主要銅生産・消費国の政府代表や業界関係者により銅市場に関する協議が行われた。ICSG統計委員会がプレスリリースした2022/23年度需給予測は以下の通り。
なお前回予測は4月28-29日開催の春季会合の結果として5月3日にプレスリリースされている。
鉱山生産:2022年は南米の生産が大幅に下振れ
ICSGによると、2022年の世界の銅鉱山生産量は前年比3.9%増の2,189.7万トン。2021年の1.9%増から伸びは加速するが、4月時点の予測2,225万トン(5.0%増)からは大幅に下振れる。2023年の生産量の予測は2,306万トンで、前年比5.3%の増産が見込まれている。
2017~20年は大型の増産案件が少なかったが(主にコンゴ:Kamoto再稼働&拡張、パナマ:Cobre Panamaの新規稼働)、2021~23年は比較的多い(コンゴ:Kamoa-Kakura、Tenke拡張、ペルー:Quellaveco、チリ:Spence-SGO、QB2 その他)。このため、2022年も増産への期待は高かったが、コンゴ・インドネシアでは増産が実現した一方、その他地域では新型コロナウイルス関連の制約、労働力不足、操業上・地質的問題、ストライキ・抗議行動、鉱石品位の低下など様々な理由から伸び悩んだ。2023年はコンゴのほか、メキシコ・ペルー・米国で増産の見込み。
補足すると、2022年は南米の生産が当初見込みより大きく下振れた。チリは鉱石品位の低下や長引く干ばつの影響による水不足などで生産の安定に苦慮している。増産には投資が必要だが、2019年秋に発生した弱者救済・社会格差是正を求める大規模な反政府デモ後に新憲法起草や鉱業ロイヤリティ引き上げの議論が進められており、規制・税制上の不透明感を生んでいる。ただ「急進的」な内容とみられた新憲法草案は9月の国民投票で大差で否決され、ロイヤリティ法案も増税とチリ鉱業の競争力維持のバランスをとる方向で修正が図られているという。世界2位の産銅国・ペルーでは2021年に富の再分配を掲げる急進左派カスティジョ大統領が就任したが、膨大な鉱物資源の恩恵を受けていないと主張する地域コミュニティとの社会的紛争が頻発。2022年はCuajone、Las Bambasなどの大型プロジェクトが影響を受けたが、ペルー政府は社会格差是正、鉱業セクターでの紛争回避、投資促進に取り組んでいる。南米は世界の銅鉱山生産の4割を占める重要な地域だけに注目度も高い。2023年は世界生産量の伸びも同地域が鍵を握ることになりそうだ。
地金生産
2022年の地金生産は前年比2.8%増の2,550万トン。4月時点の予測4.3%増から下方修正された。主にチリ・ブラジル・メキシコ・米国・ザンビア・欧州などにおいて、生産障害、SX-EWプラントの計画遅延、計画外停止やメンテナンス延長といった問題が発生した。2022~23年の地金生産の伸びは、主に中国の電解精錬能力増強と、コンゴではSX-EW生産能力新設・拡張によるもの。2023年は前年比3.3%増の2,634万トンの生産を見込んでいる。一次生産は銅精鉱の供給増加が地金増産に寄与し、 SX-EWはチリの減産により生産伸び率は前年より低くなる見通し。二次生産(スクラップ再生)は精錬能力の拡張で増産の見込み。(※SX-EW:日本語では「溶媒抽出・電解採取法」。酸化鉱の湿式製錬)
見掛け消費:中国の輸入堅調、中国以外も需要はプラス成長 在庫は減少
世界経済見通しの悪化により、需要は4月時点の予測を下振れている。「中国を除く」世界の消費の伸びは、2022年は2.8%⇒1.8%増、2023年は3.9%⇒2.5%増に下方修正された。ただし、中国に関しては、ICSGは「国内生産+純輸出入±上海先物交易所の在庫変動」から単純計算した「見かけ需要」を採用しており、2022年は1-7月の純輸入量が前年比10%増えたとして上方修正された。2023年の中国の見かけ需要は1%増と予想。
世界経済は厳しい状況にあるが、銅を消費する多くのセクターで製造業活動は伸びが続く見通し。銅は経済活動と近代技術には不可欠の存在で、主要国のインフラ開発やクリーンエネルギー・EV化というグローバルトレンドは銅消費を長期にわたり下支えするとみられている。
バランス:需給は比較的タイト
世界の需給バランスは様々な要因でブレるため、生産・消費ともに見通しは変化し、特に近年は予期せぬ展開で予想通りになっていないことに留意……と断り書きがあるが、そのうえで、ICSGは2022年の世界需給バランスは32.5万トンの需要超過、2023年は15.5万トンの供給超過と予想。春季予測では2022年は14.2万トン、2023年は35.2万トンの供給超過の見込みだった。最近の値動きが示すほどには、需給が悪化しているわけではないことが示唆されている。
以上
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