「習近平のサウジアラビア訪問、イランでデモ関連逮捕者に死刑執行」中東フラッシュレポート(2022年12月前半号)

2022年12月27日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年12月22日執筆

 

1.中国/サウジアラビア:習近平国家主席がサウジアラビアを訪問

 12月7~9日の日程で中国の習近平国家主席がサウジアラビアの首都リヤドを訪問した。前回の訪問は2016年1月だったので、約7年ぶりの訪問。その間2017年にはサルマン国王が、2019年にはムハンマド皇太子が中国を訪問している。今回の訪問中、中国とサウジアラビアの間でエネルギー、ハイテク(5G、6G)、建設、産業、防衛など多岐にわたる34件、総額300億ドル超の投資協定が交わされ、戦略パートナーシップ関係の強化やサウジアラビアの「ビジョン2030」と中国の「一帯一路」の調和計画への署名も行われた。また、アラブ諸国のリーダーもリヤドに集まり、習近平は17か国のリーダーとのバイ会談を実施、さらに湾岸協力会議(GCC)諸国およびアラブ諸国とのサミットにも参加した。

 

 中国はサウジアラビアの最大の石油輸出先・貿易相手国で、中国はサウジアラビアから最も多く石油を輸入しており、2021年の両国の貿易総額は870億ドルに達する。サウジアラビアにとっては、80年以上戦略パートナー関係にある米国との関係が最も重要な外交関係だが、昨今この関係が米国のシェール革命やアジアへのリバランス政策など様々な理由で揺らぎつつあり、逆に中国との関係は拡大している。2022年7月のバイデン米大統領のサウジアラビア訪問時に、「米国は中東から去らない。中国、ロシア、イランが埋めてしまう空白地帯を作らない。」と宣言したが、今回の習近平の大々的なサウジアラビア訪問と中東諸国リーダーたちとの会談は、中国の中東地域でのプレゼンスの拡大を大きく印象付けるものとなった。

 

2.イラン:9月以降のデモに関連する逮捕者に対する死刑が執行される

 12月12日、イランの司法当局は、9月半ばから続いているデモ関連の逮捕者(23歳の男性)の死刑執行を発表した(今回で2人目)。2人の治安関係者を殺害した罪が自白によって確定したとのことだが、逮捕されて1か月弱という短い期間での死刑執行で(公開での絞首刑)、国連や人権団体、欧米諸国政府などは非難声明を出している。同日、EUは人権侵害を理由にイラン人20人と1団体(国営放送)に対する制裁を発動した。人権団体によると、イラン各地でのデモ参加者と治安部隊の激しい衝突で既に500人弱が亡くなり、18,000人以上が逮捕されている(うち10数人に対しては既に死刑宣告が下されている)とのこと。

 

3.トルコ:イスタンブール市長に禁錮2年7か月の判決

 12月14日、トルコの裁判所はイマモール・イスタンブール市長(最大野党所属)に対し、公務員を侮辱した罪で2年7か月15日間の禁錮刑と政治活動停止を命じた。2019年のイスタンブール市長選挙のやり直しを決めた選挙管理委員に対する同氏の発言が問題視された。同氏は無罪を主張。禁錮期間が短いとして、既に検察側が上訴している。判決を受けて、同氏の支持者数千人が市庁舎前に集まり、判決に対する反発を表明。同氏は、2023年の大統領選挙においてエルドアン大統領の有力対抗馬になる可能性が高いとみられており、今回の判決は現政権による政敵排除との見方が出ている。

 

4.チュニジア:大統領による権力掌握後初の議会選挙実施も、投票率は過去最低の11%台

 12月17日にチュニジアで議会選挙が実施され、12月19日に選挙管理当局は投票率を11.2%と発表した(前日に発表した暫定投票率8.8%を上方修正)。2021年7月に国家権力を掌握したサイード大統領が主導する選挙に多くの主要政党がボイコットを呼びかけたことや、同国最大の労働組合UGTTが今回の選挙プロセスを拒絶したこと、権力掌握後も状況が良くならないため大統領に対する支持の低下や、国民の政治不信、さらにはサッカーW杯の3位決定戦(同じ北アフリカのモロッコが出場)の日程が重なったことなどが原因とみられ、異例の低い投票率となった。これを受けて、ボイコットを呼びかけた複数の主要政党から成るグループ「救国戦線」は記者会見を開き、サイード大統領に辞任を要求した。

 

5.イラク情勢

  • 内政・外交
  • 12月3日、スーダーニ政権樹立後まだ決まっていなかった2つの閣僚ポストがようやく承認された。建設住宅相にはバンギン・レカニ氏(KDP所属)が、環境相にはニザール・ムハンマド氏(PUK所属)が就任。
  • 12月7~9日、スーダーニ首相は就任後初めてサウジアラビアを訪問。同じくサウジアラビアを訪問中の中国の習近平国家主席と会談を行い、イラクも一帯一路に参加し中国との協力関係を拡大したい旨を申し出て、習近平も二国間協力の拡大を歓迎すると応じた。サウジのムハンマド皇太子とも会談し、イラク・サウジ調整委員会の活動や既に合意されている覚書の実施について話し合われた。
  • スーダーニ首相は、首相就任から1か月の間に、内務省のインテリジェンス部門トップ、国境警備隊司令官、警察高官など治安関係職員を中心に900人以上を「調整枠組み(スーダーニ首相を推薦したシーア派政治連合)」に忠実な人物と入れ替えており、政治的粛清ではないかとの疑念を呼んでいる。
  • 「国境なき記者団」による「世界報道自由度ランキング」の2022年度版で、イラクは180か国中172位となり、前年より9ランク下げた。イラクではジャーナリストが殺されたり脅迫を受けたりする事件が発生している。
  • 治安・その他
  • 12月7日、イラク南部ナシリヤでデモ隊に向かって治安部隊が発砲し、2人のデモ参加者が死亡した(負傷者は21人)。20歳の活動家が、故ムハンディス人民動員部隊(PMU)副司令官(2020年1月にイランのソレイマニ革命防衛隊クッズ部隊司令官とともに米軍事作戦により殺害された)への批判をSNSに投稿したとされることに対し(本人は否定)、12月5日に3年間の禁錮刑が言い渡されたことに抗議するデモだった。
  • 12月14日、首都バグダッド北部でイスラム国(IS)による爆弾攻撃があり、軍司令官を含む兵士3人が死亡した。12月18日には北部キルクーク近郊で警察車列に対する爆発と銃撃で警官少なくとも8人が死亡する事件が発生し、こちらも事件後ISが犯行声明を出した。国連の報告によると、いまだに6,000~1万人程度のIS戦闘員がイラクおよびシリアに潜伏しているとのこと。
  • 石油・経済
  • 12月8日、IMFは4条協議ミッション終了後の声明を発表。イラクの2022年の実質GDP成長率は8%と予想。2022年は原油価格が高かったので財政・経常収支ともに黒字で、外貨準備も900億ドル以上ある。しかし、石油依存経済で油価の変動に大きな影響を受けるため、収入に余裕のある今こそ経済多角化のための改革を推し進め、成長と雇用創出のために重要な民間セクターの発展を促すような構造改革が必要と提言した。

 

6.リビア情勢

  • 12月9日、メンフィー大統領評議会(PC)議長は中国・アラブサミット出席のためサウジアラビアを訪問し、習近平国家主席との会談を実施。リビアが安定を取り戻すためには中国の支援が必要として、中国企業のリビアへの復帰が話し合われた。サウジアラビアのムハンマド皇太子との会談も実施。その後同氏は米・アフリカサミット出席のためワシントンを訪問し、12月16日にはバイデン大統領やペロシ下院議長らとリビア情勢について話し合った。
  • 12月18日、バシリー国連リビア特使はラーフィーPC副議長に対し、PCが選挙実施に向けた政治プロセスを進めていることへの支持を伝え、選挙実施のための問題解決を遅滞なく行うべきと伝えた。ラーフィー氏は選挙実施に向けた重要な一歩として、2023年1月に国民和解のための会議を開催すると説明した。
  • 12月7日、リビア中央銀行は、2022年1~11月の収入が192億ドル、支出が178億ドルだったと発表した。収入の97.5%が原油販売やロイヤルティー収入によるもので、かたや支出の48%が公務員給与だった。
  • 11月のリビアの原油生産量は日量115万バレル(bpd)で、前月(118万bpd)より微減。12月5日、リビアの国民統一政府(GNU)は石油・ガスの探査に関するフォースマジュールの解除を発表し、外国石油会社に対しリビアでの上流部門の活動再開を呼びかけた。同国の石油・ガスに大きく投資するイタリアのEniとフランスのトタルエナジーズは、既に活動再開に向けて動き出している。政府は今後2~3年で原油生産量を160万bpdまで増産する方針を発表している。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出社:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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