「サウジアラビア・UAEなど6か国が新たにBRICSに加盟」中東フラッシュレポート(2023年8月号)

2023年09月21日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

2023年9月14日執筆

 

1.サウジアラビア・UAEなど6か国が新たにBRICSに加盟

 8月22~24日、南アフリカのヨハネスブルグでBRICS首脳会議が開催され、会議最終日に、2024年1月から新たに6か国をBRICSの正式加盟国として招待することが明らかになった。6か国(サウジアラビア、UAE、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチン)のうち、4か国は中東・北アフリカ(MENA)地域の国からとなる。

 BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国で構成。新興国中心の枠組であり、欧米・先進国主導のG7と対比されることが多い。新たに加盟することになるMENA地域4か国のうち、サウジアラビアとUAEのBRICS加盟は、最近両国で顕著になっている外交関係の多角化の一環と捉えることができる。エジプトは特に経済的な要因から、そしてイランは欧米との対立が続く中で、非欧米諸国の枠組であるBRICSへの加盟を希望してきた。

 

2.サウジアラビアでウクライナ和平会議開催

 8月5~6日、サウジアラビアのジェッダでウクライナ和平会議が開催され、40を超える政府や組織の代表(国家安全保障担当者や外交顧問など)が参集した。ウクライナ主体の会議なのでロシアは招待されておらず、ウクライナ政府の主張する10項目の和平案「和平の公式(Peace Formula)」が協議された。ウクライナ主体の会議に、ロシアに近い立場とみられる中国が参加したことが注目された。ロシアの外務次官は「グローバルサウスをゼレンスキー支持に動かそうとする西側の無駄で不毛な努力」として同会議を批判した。会議では和平に関する具体的な進展はなく、共同声明も採択されなかったが、ウクライナ政府は「生産的だった」と会議を評価した。

 

3.トルコ:大幅利上げを実施

 8月24日、トルコ中央銀行は政策金利を7.5%ポイント引き上げて25%とした。事前予想は20%への利上げだったので、予想を大きく上回る利上げとなった。利上げは6月から3か月連続。これを受けて、通貨リラも一時的に1ドル25リラ台まで回復した。とはいえ、7月のインフレ率は47.8%であるため、依然として実質金利は大幅なマイナスの状態となっている。これまで利上げに強硬に反対し低金利政策を続けてきたエルドアン大統領が、利上げをどこまで許容するのかに注目が集まる。

 

4.米・イラン:囚人交換で合意

 米・イラン両政府の間で、囚人交換とイランの凍結資金の解放を巡る合意が成立した。イランが拘束している米国人5人を解放する代わりに、米国が拘束しているイラン人5人と韓国にあるイランの凍結資金(イラン政府の資金だが米国制裁のため動かせなくなったもの)60億ドルが解放される。60億ドルは、スイスの銀行を経由してカタール中央銀行内のイラン政府の口座に送金される。今回の交渉は、オマーンとカタール、スイスが仲介したとされている。イラン外務省報道官は8/21の記者会見で、すべての手続き完了までに最長で2か月程度かかると発表。米共和党議員は同合意を批判し、60億ドルをイラン政府に解放することに大きな懸念があるとして、バイデン政権に説明を求めている。

 

5.イラン/サウジアラビア:イラン外相がサウジアラビアを訪問

 8月17日、イランのアブドラヒヤン外相が、2023年3月のサウジアラビアとの国交回復以来、初めてサウジアラビアを訪問し、同国のファイサル外相と会談した。安全保障や経済協力に関して協議したとのことで、アブドラヒヤン外相は会談後の共同記者会見で「重要で実り多い会談だった」、「両国の関係改善は順調に進んでいる」と発言した。当初は日帰り訪問の予定だったが、急遽1日サウジアラビアでの滞在を延長し、翌18日には当初予定されていなかったムハンマド皇太子兼首相との会談も実施した。国際情勢や地域動向について協議し、アブドラヒヤン外相からムハンマド皇太子にテヘラン訪問を要請したところ、招待を受け入れたとのこと。

 

6.国連人権理事会がサウジアラムコへの質問状を公開

 8月26日、国連人権理事会は、理事会が任命した専門家5人がサウジアラムコおよび同社を資金支援する金融機関などに対して6月26日に提出した書簡を公開した。同書簡には、「同社の石油生産やさらなる資源開発が気候変動に関連する人権の促進と保護に悪影響を与える」と記されており、60日以内に10項目の質問に対する返事がない場合は書簡を公開するとしていた。

 

7.イラク情勢

  • 内政・外交
  • 8月21日、イラクの石油相がトルコを訪問し、トルコのエネルギー相と会談した。トルコはクルド自治区からの原油輸出を3月25日以降停止しており、本件に関する協議が行われたが、輸出再開の日程などは決まらず。
  • 8月23日、トルコのフィダン外相が、6月の外相就任後の初外遊でバグダッドを訪問。同外相はイラクのラシード大統領やスーダーニ首相などとの会談を行い、イラク北部に潜む「クルディスタン労働者党(PKK)」のテロ組織指定を要請。また、水問題、原油輸出の再開などに関する協議も行った。同外相は、翌24日にはイラク北部のエルビルを訪問。
  • 8月23日、マレーシアの外相がイラクを訪問。在イラク・マレーシア大使館再開に関する詰めの協議が行われた。
  • 8月29日、ラシード大統領はトルコの貿易大臣と会談し、二国間の経済協力や投資機会について協議した。翌30日にはトルコ大統領の水問題担当特使と会談し、二国間の水問題解決のための協力を確認した。

 

  • 石油・経済
  • 7月度原油輸出情報:輸出額 83.30億ドル。輸出量 日量344.4万バレル。平均単価 78.03ドル/バレル。
  • 8月度原油輸出速報:輸出額 88.46億ドル。輸出量 日量342.3万バレル。平均単価 83.35ドル/バレル。
  • 2022年のイラクと中国の貿易額が480億ドルを超えた。中国のイラクからの原油輸入は前年比50%増加し、中国にとってイラクは第3位の原油輸入相手先となっている。また、イラクの原油輸出の約3割が中国向けとなっている。

 

  • 治安・その他
  • イラク通信省は、8月6日にTelegramアプリのイラク国内での使用禁止を発表したが、8月13日に禁止を解除。
  • 8月9~10日、イラク北部でPKK掃討作戦を実施していたトルコ兵6人が戦闘中に殺害された。その後、トルコ軍はPKKの拠点に対する空爆を実施し、4人のPKK分子を殺害。8月24日にも7人のPKK分子を殺害した。
  • 8月28日、スーダーニ首相は、2016年にバグダッドの商業地区における爆発で323人を殺害したイスラム国(IS)による凶悪テロ事件に関与したとして、3人に対する死刑を執行したと発表した。
  • 8月31日、イラクの裁判所は、2022年11月に英語教師をしていた米国人男性を射殺した罪で、イラン人1人とイラク人4人に終身刑を言い渡した。米国務省報道官はこれを歓迎し、「殺人に関与した者は責任を負うべき」と発言した。

 

8.リビア情勢

  • 8月6日、国家高等評議会(HSC)の議長選が行われ、僅差でミシュリ前議長に代わってタカーラ新議長(57歳)が選出された。同氏はコンピューター科学の博士号を持つ元大学教員でドゥベイバ首相に近いとされる人物。

 

  • レバノン当局は、リビアの検事総長が2015年にレバノンで逮捕され拘留され続けているハンニバル・カダフィー(カダフィー元リビア元首の四男、47歳)を釈放するようレバノン当局に要請したことを明らかにした。

 

  • 8月14日、首都トリポリで2つの異なる民兵勢力の衝突が発生し、55人が死亡、146人が負傷した。2つの民兵勢力は特別抑止部隊(SDF)と444部隊で、両方とも国民統一政府(GNU)を支持する勢力。今回の騒動は、SDFが444部隊の司令官をトリポリの空港で拘束したことがきっかけ。拘束の理由は明らかになっていない。ドゥベイバ首相やほかの民兵勢力の仲介で、8月15日の夜には司令官が解放され、双方が停戦に合意した。

 

  • 8月28日、リビアと国交のないイスラエルの外相との会談を実施したことを理由に、マングーシュ外相が解任された。リビア外務省は会談を否定したが、イスラエル外相が、前週にイタリアで2時間にわたる外相会談を行ったと発表。発表後、イスラエルとの関係正常化に反対する民衆暴動がリビア国内で発生し、マングーシュ外相は安全のためトルコに避難した(事前に外相会談を知っていたはずだとしてドゥベイバ首相の解任を求める声も上がっている)。両国の関係正常化を進めようとしていた米バイデン政権も、イスラエル外相の一方的な発表に憤慨している。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)


以上

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