ダラス連銀エネルギー調査(2023Q3)

2023年10月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

2023年10月2日執筆

 

 

 米国の原油生産量はEIA(米エネルギー省エネルギー情報局)の最新月次データ(2023年7月)で日量1,299万バレルと、過去最高だった2019年11月(同1,300万バレル)の水準をほぼ回復した。その後、原油価格は上昇し、9月には1バレル=100ドルの大台に迫る場面もあったが、速報ベースの週次データでは原油生産が加速する兆候は見受けられない。米ダラス連邦準備銀行(以下、ダラス連銀)が9月27日に公表した四半期のエネルギー業況調査では、米国シェール生産の中心地で活動する石油ガス企業の景況感は改善しているものの、資本へのアクセス、連産品の天然ガス価格低迷、バイデン政権の政策、金利上昇、テキサス州の電力不足といったさまざまな課題に直面している様子が示された。生産企業とサービス企業とでも景況感に温度差がみられた。以下、簡単に概要を報告する。

 

 

~ダラス連銀エネルギー調査について~

 

 本調査は、米国・ダラス連邦準備銀行が管轄する第11地区(テキサス州・ニューメキシコ州南部・ルイジアナ州北部)に本社ないし事業拠点を置く石油ガス探査生産(E&P)企業と、石油ガスサービス関連企業約200社を対象としている。今回の調査が行われたのは9月13~21日で、147社(E&P98社、サービス49社)が回答した。各設問について、各社は前期比・前年同期比についてそれぞれ増加・減少・不変のいずれかで回答し、指数は全回答中の「増加」の割合から「減少」の割合を引いたもの(つまり、指数は増加・減少の「度合い」ではなく、トレンドの「方向性」を示す)。本稿では足元の基調変化を示す「前期比」について見ていく。

 

 

2023年第3四半期(有効回答数に占める比率)(出所:Dallas Fedより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 まず簡単に指数について確認する。全体の業況を示す企業活動(総合)指数は、前期の0.0に対し第3四半期は10.9に上昇した。原油・ガス生産は前期より増やした企業が多くなったが、探査開発コスト・リース費用の上昇は続き、E&Pの企業活動指数は22.5と、2021-22年に比べると低い。サービス会社の指標は設備稼働率・営業利益率・サービス対価のいずれも悪化し、企業活動指数は▲1.9⇒▲12.2とマイナスが拡大した。企業見通し指数はE&P・サービスとも改善し、全体でも▲9.1⇒36.0に好転。不確実性指数は原油・ガス価格低迷・コストインフレ・地銀の連鎖破綻という環境下にあった3月の調査に比べると大幅に低下した。自由回答欄では「2022年7月から23年1月にかけてリグ数を増やした。最初のリグ増設がサービスコストのピークで、その後契約再交渉を行ってパイプや砂のコストを下げることに成功した」(E&P)、「E&P企業の合併は油田の効率を改善するが、機器プロバイダーにとっては顧客の集約であり、新規サービスプロバイダーの参入障壁は高くなる」(サービス)といった声があり、 E&Pとサービス会社の景況感の違いの背景が垣間見える。

 

 

企業活動指数&不確実性指数(出所:Dallas Fedより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 WTIの2023年末価格の予想は回答中央値で1バレル88.0ドル、Henry Hub天然ガス価格は3.00ドル/mmbtu。原油価格予想は85.0~94.99ドルを中心に、最低70ドル、最高120ドルまで分散したが、ガスは2.5~3.49ドルの回答が7割強を占めた。調査期間中の平均価格はそれぞれ90.29ドル、ガス2.68ドルだった。原油価格の見通しは改善し、ガス価格の予想は過去3四半期ほぼ横ばいだったが、「油価90ドルが続けば資本規律が試される」「油価上昇に伴う増益は設備投資やコストインフレ、金利上昇による債務返済額増加で減殺される」「現政権が探査と生産を減速させる政策を採っているのだから価格は上がる」「ガス価格低迷で、新規プロジェクト開発が遅れている」といったコメントがあった。

 

 

WTI原油&天然ガスの年末価格は?(出所:Dallas Fedより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 Special Questionsでは、それぞれの設問に回答の選択肢と自由回答欄が設けられている。
まず、「5年後を見据えると、エネルギー転換は原油価格にどういう影響を及ぼすと思いますか」という質問では、「大幅に上昇」「若干上昇」がそれぞれ33%、「影響なし」が25%で、下がるという予想はわずか9%。自由回答では「需要減少で一見、価格は下落しそうだが、米国の産油量が減り、OPECの市場シェア拡大が続くと、OPECが価格を一定以上に維持し続けると思われる」という指摘がある。また「2050年の世界の石油消費量は現在水準と比べてどうなると思いますか」と問われると、「大幅に増加」「若干増加」が過半で、「減る」の回答は3割強にとどまった。「6か月後の米国の石油リグ数は現在水準と比べてどうなるか」について見ると、回答全体のうち「現在水準程度」が84%で、「大幅増」の予想は14%に過ぎない。自由回答欄には、「全体として当社のコストは過去1年と比べると横ばいか若干低下したが、3~5年前と比べると大幅に増加している」「小規模独立系企業に対する外部資本はほとんどなく、有機的キャッシュフローでの投資に限られる」「石油ガスリースのための連邦所有地の獲得が困難になっているのは残念だ」などのコメントがある。

 

 

 また、米テキサス州の産油量は米国全体の4割強を占めるが、風力・太陽光・太陽熱の自然エネルギーの利用が近年急速に増加しており、電源構成の約4分の1を占める。同州では仮想通貨マイニングやデータセンター等の産業が拡大しているが、電力網は他州と接続されておらず、電力供給に脆弱性がある。2021年2月にテキサス州を大寒波が襲い、電力需要の急増と再エネ不調・エネルギーインフラの凍結が重なった際に電力危機に陥ったことは記憶に新しい。今夏、テキサス州は酷暑に見舞われ、電力供給の増大と風力・太陽光発電量の不足で、再び電力緊急事態が宣言される事態となった。このため、今回の調査ではテキサス州の電力事情に関する設問がある。最大のシェール産地Permian Basinで新規油井と送電網の相互接続までのリードタイムは、1年前より「若干長くなった」「大幅に長くなった」との回答が45%。電力インフラの大幅な改良なしに住宅・エネルギー・産業の成長は続くのだろうか、西テキサス地域の電力供給が停滞している間に電力需要が増大すれば石油ガスへの投資が抑制される、といった疑問や指摘が出ている。

 

 

米国 主要州別原油生産&米テキサス州の電源構成(2022)(出所:Dallas Fed、米国エネルギー省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

米国原油&ガスリグ数(出所:米国エネルギー省、Baker Hughesより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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