原油:OPEC+、戦略修正か 高値追求からシェア維持へ

2024年06月06日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

 

 

2024年6月5日執筆

 

 

概要

 

 

  • OPEC+は6月2日開催の閣僚級会合で、全体での生産管理の2025年末までの延長と、8か国による自主的追加減産の3か月延長を決めた。同時に、2025年のUAEの生産割当の増枠と、2024年10月からの自主的追加減産の緩和も決めた。すなわち、2024年9月までは現行の生産水準を維持するが、2024年10月から2025年9月まで、生産量は毎月、日量18万バレル増加。ただし、市況に応じて修正する。更に2025年からUAEの生産枠が日量30万バレル拡大される。

 

  • 原油相場はこの4月、需給が引き締まり、中東の地政学的リスクが高まった局面ですら、1バレル90ドルをわずかに超えるにとどまった。現在は需給の緩みがみられ、OPEC+が向こう3か月間、現行の減産継続を決めたことには何ら驚きはない。ただ、2025年にかけて世界の石油需要の伸びが鈍ると予想されるにもかかわらず減産を緩めることは、高価格追求・減産による価格押上げから、石油収入・市場シェア重視への変化を示唆する。生産枠超過の国が相次いだり、UAEが再三求めてきた生産枠引き上げを認めたりしたことは、OPEC+内で増産を望む圧力が強まっていたことをうかがわせる。

 

  • 財政赤字を抱えるサウジアラビア(以下サウジ)は債券発行や政府保有株売却などによる資金調達を活発化している。OPEC+のシェア低下に対しては、アフリカの新興産油国にOPEC+加盟を働きかけるなど、新たな取り組みを進めている。

 

 

 

綱渡りのOPEC+

 

 

 OPECと、協力宣言(DoC)を結ぶ非加盟産油国から成るOPEC+は、6月2日開催の閣僚級会合で、①DoCに基づく生産管理を2025年12月まで延長する一方、②2025年のUAEの生産割当を日量30万バレル増枠し、③ 2025年の生産計画策定のベースとすべく実施していた、独立系調査会社3社による各国の生産能力評価の期限を、当初予定の2024年6月末から2025年11月末まで延長し、2026年生産基準決定の参考値とすることを決めた。また、④8か国が2024年1月から自主的に行ってきた日量計220万バレルの追加減産は、期限を2024年6月末から9月末まで延長し、10月から1年間をかけて段階的に縮小する。減産緩和については、市況に応じて停止・反転させることも可能とする。具体的な数値は以下、表のとおり。

 

 

 足元で需給が緩み、原油価格が下落する中、今回の会合は「8か国による自主減産の期限を、現行の6月末からどの程度延長するか」「2024年末期限のOPEC+全体の生産管理について、現時点で2025年の方針が示されるかどうか」が焦点だった。OPECは、世界の石油需要について、2024年が前年比日量225万バレル増、2025年が同185万バレル増と予想(または主張)し続けているが、米国政府(EIA)、国際エネルギー機関(IEA)などは2024年の需要は日量100万バレル前後の伸びにとどまり、米国・ブラジル・ガイアナ・ノルウェーなど、非OPEC+産油国の生産増加とほぼ見合うと予測。この予測が正しければ、OPEC+の増産余地は乏しく、OPEC+が減産を緩めれば、需給バランスは供給過剰となり、油価が下落する可能性がある。

 

 

 また、DoCに基づく協調減産体制は2016年から8年に及び、さまざまな歪みが生じている。2023年には生産能力低下を理由に生産枠削減を突き付けられたアンゴラがOPECを脱退。2024年に入りイラク・カザフスタンなどは合意に反して割当量を超過した生産を行い、その分の埋め合わせを求められている。5月半ば、イラク石油相が「これ以上の減産には同意しない」と述べたと報じられたが、UAEは以前から、巨額を費やして増強した生産能力に対して生産割当が小さすぎ、減産の負担感が過大だと不満を訴えている。協調減産を免除されているイラン・リビア・ベネズエラの生産は増加し、OPEC+の減産の一部を相殺している。OPECは4月の月報から、需給統計に従来の「OPEC」の区分に加えて「DoC」の区分を設け、5月号では冒頭にDoC参加国のリストを掲載した上で、統計区分変更の趣旨を「DoCの枠組みにおける連帯と団結を示し、誤解を排除する」ためと説明するなど、22か国の結束をアピール。その一方で、6月会合は当初6月1日にウイーンで対面開催予定だったところ、2日にオンライン開催の予定に変更、さらに土壇場でリヤド開催に変更されるなど、水面下で何らかの事前調整が行われている様子がうかがえた。

 

 

 結果的に、6月末期限の生産能力評価を待たずに2025年の生産割当を決めたことは、2020年4月に「2018年10月の生産水準に一律の減産率をかけて国別の生産割当を決めた」時のようなやり方で公平性を担保するより、目下の各国の不満に配慮した政治的な対処を優先したものと見受けられる。OPEC+をリードするサウジが、生産拡大を望む国に対して減産緩和の方向性を示し、超過生産を行った国には合意遵守を改めて求めた上で、中核国の一つであるUAEの主張にも配慮することで、2025年も協力体制の維持で合意を取り付けた形だ。これまでサウジは、減産による油価押し上げを追求してきたが、方針の修正が必要な時期を迎えていたのだろう。

 

 

2024年世界石油需給予測の履歴(出所:IEA、EIA、OPECより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 サウジのムハンマド皇太子は、2017年に経済多角化計画「Vision 2030」を策定し、未来都市NEOMの建設をはじめとするメガプロジェクトに巨費を投じてきたが、2030年までのちょうど中間地点の現時点で、資金不足などにより計画は難航し、一部プロジェクトは規模縮小を余儀なくされている。サウジは巨額の支出を支えるため、高油価を志向してきたが、大規模減産の長期化で石油収入が伸び悩み、2023年通期・24年第1四半期のGDP成長率はマイナス成長。IMFの4月の発表によれば、2024年の財政均衡油価は1バレル96.2ドルと、UAEの56.7ドル、クウェートの83.5ドル等と比べても高い。サウジは1月に120億ドルの国債を発行、2024年後半にイスラム債も発行予定。6月2日には国営サウジアラムコの政府保有株を一部売却し、120億ドル調達を目指すなど、資金調達に躍起だ。サウジ自身も石油収入を増やしたいのが本音だろう。

 

 

OPEC+シェア低下と新興産油国の台頭

 

 OPEC+は、長引く減産、2019年のカタールに続くアンゴラの脱退、米国・カナダ・ガイアナ等非加盟国の増産により、市場シェアを失い続けている。このため、OPECが加盟国拡大を模索する動きが散見される。2023年6月にはOPECがガイアナに加盟を呼びかけたと報じられ(OPECは公式声明で、OPEC加盟ではなく、7月のOPEC国際セミナーに招待したものと表明)、11月にはブラジルが減産義務のない協力憲章に参加する意向を表明した(正式加盟でなくオブザーバー参加)。

 

 

 最近では、アフリカでも新興産油国が台頭している。内陸国ニジェールは、中国が建設したパイプライン開通を受け、2024年5月に中国向け原油輸出を開始。産油量は現在の日量2万バレルから5倍に増える見通し。セネガルではWoodsideのSangomarプロジェクトが生産開始に近づいている。ナミビアはTotalEnergiesとShellによる大規模な石油発見で注目を集めるフロンティア市場となっており、2029年生産開始・2035年には日量38万バレル以上の生産が期待される。5月にパリで開かれたアフリカ・エネルギー投資フォーラムでは、OPEC事務局長が基調講演を行い、アフリカの新興産油国に協力を呼び掛けたと報じられている。

 

 

OPECプラス生産計画(出所:OPECより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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