原油市況(2024年10~11月)深まる需要悪化懸念
2024年11月20日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美
2024年11月15日執筆
市況
ブレント原油相場は9月10日に一時68.68ドルと約3年ぶり安値を付けた後、10月に入り中東情勢の緊迫化を受けて80ドル超まで急騰したが、10月中旬には再び70ドル台前半に戻している。地政学的緊張は続くが、これまでのところ原油供給は比較的安定しており、ロシアやイランも石油収入が切実に必要な状況でもあることから、市場は供給より需要悪化を懸念している。中国人民銀行は9月に金融緩和パッケージを発表したが、中国政府から石油消費増加につながる財政刺激策は打ち出されていない。2025年は原油供給の伸びが需要の伸びを上回ると予想される中、OPEC+が増産開始をさらに1か月延期したことで、1バレル70ドルが心理的サポートとなっている。
中東情勢
イスラエルによるハマス・ヒズボラ・イラン革命防衛隊幹部殺害に対し、イランは10月1日、テルアビブに報復攻撃を実施。イスラエルの報復必至とみられる中、イランはハルグ島の石油ターミナルからタンカーを退避し、米国や周辺国は中東の紛争拡大回避に努めた。米国は10月11日にイラン産原油・石油化学品の輸送に関与したタンカー17隻と10の関連組織を制裁対象に追加。イスラエルは10月26日にイランの軍事施設を攻撃したが、米国の説得もあってか、石油・核施設への攻撃を回避した。イランは報復を宣言しているが、どのようなものになるかは不明だ。現段階ではイラン・イスラエル間の緊張増大は実際の原油供給に大きな影響を及ぼしていない。イランの原油輸出量は大半が中国向けで、日量170万バレル程度だが、供給リスクがイランに限定される限りにおいては、サウジやUAEの増産でカバーできると考えられている。ホルムズ海峡を通過する湾岸諸国の原油供給まで脅かされる場合には状況は一変するが、現段階ではリスクシナリオの一つにすぎない。
需要見通しの悪化
中国の10月の原油輸入量は日量換算1,053万バレルと6か月連続の前年割れ。石油精製量は7か月連続の前年割れとなっている。EV・LNGトラックの普及による道路輸送燃料の需要低下と生産能力過剰により、精製マージンが低迷。9月の中国全体の工業部門利益が前年同月比▲27.1%もの落ち込みとなったのは、製鉄業と石油精製業の業績不振が響いている。この中国の需要低迷は世界全体の需要成長見通しを押し下げている。国際エネルギー機関(IEA)の最新予測では、世界の石油需要の前年比増加幅は2022年の日量253万バレル、2023年の同198万バレルに対し、2024年は同92万バレル、2025年も99万バレルに減速すると予想。OPECは4か月連続で需要見通しを引き下げたが、2024年に日量182万バレル増、2025年は同154万バレル増となお強気の見通しで、中国の需要減少とは整合性がない。
精製不足
精製マージンの低下に悩むのは欧米石油メジャーも同様。2022年に業界は空前のマージンを享受したが、第3四半期決算では多くの企業が精製部門の業績悪化を報告した。原油安で精製マージンが改善すれば、精製業は上流の収益低下に対するヘッジの役割を果たすが、今年は原油も精製マージンも低下。中東・アジアでの精製能力増強が石油需要の伸びを上回り、高コストの古い製油所が閉鎖の危機にある。
OPEC
サウジアラビアなどOPEC+加盟8か国は、2023年11月に開始した日量220万バレルの自主減産を2024年12月末まで延長することを発表。12月に予定されていた日量18万バレルの増産が1か月先送りされる。アジアの需要下振れ、米国の選挙結果見極め、生産割当の順守違反国の順守待ち、といった状況が背景にある。需給状況が変わらなければ増産をさらに延期する可能性もあるが、12月OPEC+閣僚級会合で2025年の方針が再度確認される見通し。
米国
トランプ次期大統領はエネルギーコスト低減に向け、規制を緩和し、増産を促す方針。2025年の米国産油量はさらなる増加が期待される。しかし、優良鉱区が減少し、損益分岐点が上がっているとみられること、民間企業は収益性や財務規律・株主還元を優先するとみられることから、かつてのような大増産とはなりにくい。他方、バイデン政権下では油価高騰への懸念から対イラン制裁の執行が厳格でなく、イランも「影のタンカー」を利用するなどして原油輸出を継続したため、イランの産油量は過去4年間で急増したが、トランプ新政権はより厳格な対応を取ることで、イラン原油の供給減少につながる可能性が比較的高いとみられている。中国などとの貿易戦争が激化し、世界経済を圧迫すれば原油にはマイナスとなる。
以上
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