堅調な経済と先行き不透明な政治~米国経済(26年1月)

2026年02月10日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

概要

  • 米国経済は、堅調に推移している。米国政治は引き続き先行き不透明感が強い。引き続き貿易・関税が懸案である上、南米などの地政学リスクも高まった。外交に加えて、内政でも課題が山積しており、米国がリスクの発生源になっている。
  • 先行きの米国経済は緩やかな成長を続けると期待される。ただし、経済の堅調さを、政治の先行き不透明感が崩すリスクが高まっている。秋の中間選挙に向けて、米政権は物価や金利の抑制など手ごろさ(アフォーダビリティ)を求める姿勢を示している中で、狙い通りに景気を維持できるかは不透明な情勢だ。2026年も引き続き、米国政治の先行き不透明感を経済の下振れリスクとして注視する必要がある。

1. 経済の堅調さ、政治の不透明感
 図表①のように、米国経済が堅調に推移しているのに対して、米国政治を巡って引き続き先行き不透明感が強い。
 まず経済面について、1月28日にかけて開催された連邦公開市場委員会(FOMC)では、米国経済の現状評価は「堅調に拡大」と、前回12月時点の「緩やかな拡大」から上方修正された。前回示された雇用の下振れリスクも後退し、失業率にも「安定の兆し」がいくらか見られるようになった。
 しかし、雇用の下振れリスクが払しょくできたわけではない。早期退職に応じた連邦職員の給与支払いが9月末で終わり、労働力の移動が顕在化しつつある中で、雇用環境には変化の兆しも見えている。例えば、コロナ禍後の過剰雇用の整理や事業形態の変化、生成AIの活用などから人員削減を発表する企業が目立つようになった。生成AIの活用は確かであるものの、それが人員整理を正当化させる理由になっているようにも見える。移民政策の強化などから労働供給が減少する一方で、新規採用の抑制などによって労働需要が減少することで、失業率の上昇が抑えられる労働市場の奇妙なバランスが、崩れつつあるのかもしれない。

 

図表①実質GDP成長率

 

 次に政治面について、2026年初めから不透明感がさらに強まった。米国によるベネズエラ侵攻に加えて、イランへの圧力強化もあった。米国はドンロー主義の下、西半球を中心とした外交に比重を移しており、欧州への対応が厳しくなるなど、新たな問題の火種になると懸念されている。また、カナダに対して中国との貿易協定の締結など条件付きながらも100%関税を示唆したことに加えて、韓国に対して貿易合意履行の遅れを理由とした自動車や木材、医薬品への25%への関税引き上げを示すなど、引き続き関税を武器にした交渉が続くことが印象づけられた。キューバへの原油供給などを理由に、事実上メキシコに圧力をかけるなど、2026年7月に見直しが迫るUSMCAもあり、貿易や関税が引き続き景気の下振れリスクになっている。
 内政を見ても、課題が山積している。例えば、移民政策強化をきっかけとしたミネソタ州の事件やつなぎ予算を巡る議会の対立もあり、再び政府機関の一部が閉鎖された。また、FRBへの政治的な圧力なども挙げられる。パウエルFRB議長に対する刑事捜査について、欧州中央銀行(ECB)など主要な中央銀行総裁がパウエル氏支持の姿勢を示すなど、国際金融市場への悪影響も懸念される状況になっており、米国の内政にとどまらない問題になる恐れがある。後任議長としてウォーシュ元FRB理事が指名され、市場では過度な警戒感が後退したものの、ウォーシュ氏の上院の承認、就任後の金融政策運営など懸念は尽きない。このように、米国がリスクの発生源になっている。

 

2. 足元の経済環境
 ここでは、足元の経済環境について整理しておく。2025年の政府閉鎖によって公表が先送りになった経済指標が順次発表されつつある。しかし、雇用統計など一部の調査は実施されずに、欠損になっていたり、通常と調査時期が異なっていたりするなど、年末にかけての統計には歪みが生じていた。そのため、ならした上で判断することが必要になっている。
 個人消費は、緩やかに回復している(図表②)。需要面の11月の実質消費支出(前月比+0.3%)は6月以降、6か月連続で増加した。内訳を見ると、財(+0.6%)が個人消費のけん引役だった。特に自動車・同部品(+1.6%)が、10月(▲1.6%)の反動もあって増加に転じた。その他では、娯楽財・乗り物(+0.7%)や衣服・履物(+1.3%)などが増加した。また、サービス(+0.2%)は前月から小幅に減速したものの、9か月連続で増加した。そのうち目立ったのは、増加基調が続くヘルスケア(+0.5%)と、5か月ぶりに増加した宿泊・飲食サービス(+0.4%)だった。それに対して、供給面の11月の小売売上高(+0.6%)は2か月ぶりに増加した。9月(+0.1%)と10月(▲0.1%)はほぼ横ばいだったものの、年末商戦などによって売上高が回復したとみられる。ただし、物価の高止まりなどから、低中所得者を中心に消費者マインドは悪化している。いわゆる「K字型経済」の状況であるため、米政権もアフォーダビリティへ関心を高めざるを得なくなっている。
 設備投資は、持ち直している。11月の非国防資本財(除く航空機)出荷(前月比+0.2%)は、3か月連続で増加した。GDP統計における設備投資のうち構築物は2025年Q3まで7四半期連続で減少した一方で、機械装置は3四半期連続で増加した。非国防資本財の動きから、機械装置の増加基調が足元にかけて継続しているのだろう。また、先行きを表す非国防資本財(除く航空機)受注(+0.4%)は、5か月連続で増加した。ただし、設備稼働率(76.3%)が低水準にとどまっているため、能力増強を目指した投資需要は強くない。そのため、足元の設備投資はAIや半導体関連、省力化投資が底堅く推移しているのだろう。
 輸出は、足踏みしている。11月の実質輸出(前月比▲6.0%)は、3か月ぶりに減少した。4月の相互関税引き上げ前後から、変動が大きい状態が続いている。内訳を見ると、工業財は9~10月に2か月連続で2桁増だったこともあり、11月(▲8.5%)に3か月ぶりに減少に転じた。それとは反対に、資本財(+1.0%)は3か月ぶりに増加した。また、自動車は2023年半ばをピークに緩やかに低下している。消費財(▲13.0%)も9月(+19.3%)の反動もあってここ2か月連続で低下した。なお、11月の貿易・サービス赤字は前月比+94.6%の568億ドルへ拡大した。増加率は1992年3月以来の大きさで、収支の振れも大きくなっている。
 生産は、緩やかに回復している。12月の鉱工業生産指数(前月比+0.4%)は2か月連続で増加した。ならしてみれば、2024年末から生産水準を切り上げてきた。製造業の内訳を見ると、耐久財(+0.1%)は3か月ぶりに増加に転じたものの、ほぼ底ばいである一方で、非製造業(+0.3%)が増加した。

 

図表③鉱工業生産指数

 

 ただし、産業によって、状況は大きく異なっている。図表③のように、足元の増減は異なるものの、ならしてみると一次金属(+2.4%)や金属製品(▲0.1%)、一般機械(+0.2%)、電算機・電子部品(+0.1%)、航空機・他の輸送機械(+1.5%)、化学(▲0.1%)は、足元にかけて増加基調にある。増加基調とはいえ、コロナ禍前に比べて、生産水準を切り上げているのは電算機・電子部品のみだった。また、電気機械(+1.7%)や自動車・同部品(▲1.1%)、食料品(+0.5%)、石油・石炭製品(+1.8%)は、ほぼ横ばいだった。それに対して、織物製品(▲1.3%)や衣服・革製品(▲1.1%)、紙製品(▲0.3%)、印刷(▲0.3%)などはコロナ禍前から減少傾向もしくは低水準にとどまっている。このように、製造業でも、拡大傾向にある産業がある一方で、縮小傾向の産業もある。また、米供給管理協会(ISM)の製造業購買担当者景気指数を見ても、依然として関税などへの警戒感が根強いことがうかがえる。このあたりの不確実性が緩和されないと、国内回帰という話にはなり難いだろう。
 物価上昇率は、やや拡大している(図表④)。11月の個人消費支出(PCE)物価指数(前年同月比+2.8%)は、直近の底の4月(+2.3%)から上昇率を拡大させ、高止まりしている。物価の基調を捉える上で重視されている食品とエネルギーを除くコア指数(+2.8%)は5月以降、横ばい圏にとどまっている。また、エネルギーと家賃を除くサービス(+3.3%)も3月以降、おおむね横ばいであり、上昇率を縮小する動きは見られていない。市場ベースのPCE物価指数(+2.5%)は3~4月(+2.0%)から拡大している。これらを踏まえると、物価上昇率はまだ目標の2%から高い状態にある。この状態を、FRBは許容範囲とは見ておらず、利下げには慎重な姿勢を崩していない。
 内訳をみると、食料品(+1.9%)が4か月ぶりに2%を下回った一方で、エネルギー(+4.1%)は3か月連続でプラスになった。耐久財(+1.2%)や非耐久財(+1.6%)も縮小する動きは見られず、関税コストの転嫁の影響も一部に見られている。それに対して、サービス(+3.4%)は3か月連続で3%台前半になるなど、上昇率を縮小させてきた。相対的に賃金に関係が深いサービスの上昇率が縮小する一方で、関税コストの転嫁と関係が深い財価格の上昇率が拡大するなど、内容としてはあまり好ましいものではない。

 

図表④消費者物価指数、図表⑤賃金と失業率

 

 雇用環境は、弱含んでいる。12月の非農業部門雇用者数(前月比5.0万人増)は鈍化した(図表⑤)。2か月連続で5万人台と、雇用創出ペースの減速を印象付けた。11月に雇用者数が増えたのは、教育・ヘルスケア(4.1万人増)や娯楽・接客業(4.7万人増)であり、製造業(▲0.8万人)や小売業(▲2.5万人)、建設業(▲1.1万人)などでは減少した。失業率(4.4%)は、11月(4.5%)からやや低下した。2025年初め(4%程度)から上昇しているものの、雇用環境が悪いと言うほどの水準ではない。その一方で、失業者1人あたり求人数(0.92人)が1人割れになるなど、求人数は減少している。
 労働需要(雇用者数)の減少とともに、労働供給(労働力人口)も減少することで、失業者数の増加が抑制されている奇妙なバランスになっている(図表⑥)。企業はこれまでのところ、積極的なレイオフよりも新規採用の抑制を選択してきた。しかし、2025年下半期から人員削減のニュースがたびたび報じられており、もう一段雇用環境が悪化しつつあるのだろう。なお、12月の平均時給(前年同月比+3.8%)は、11月(+3.6%)から上昇率を拡大させ、8月以来の高水準となった。ただし、2025年に入ってから賃金上昇率は4%を下回っており、上昇ペースは緩やかに減速している。

 

3.奇妙なバランスの上で
 先行きの米国経済は緩やかな成長を続けると期待される。足元の物価上昇率の高止まりや消費者マインドの悪化が懸念されるものの、それらの悪影響が和らぐことで、個人消費の回復が続くだろう。2025年からの関税を巡る混乱が落ち着くことで、企業の設備投資意欲も回復すると予想される。
 ただし、経済の堅調さを、政治の先行き不透明感が崩すリスクが高まっている。秋の中間選挙に向けて、米政権は物価や金利の抑制など手ごろさ(アフォーダビリティ)を求める姿勢を示している中で、狙い通りに景気を維持できるかは不透明な情勢だ。政治面がリスク源になっており、高めの球(要求)を投げて、落としどころ(ディール)を探る状態が続いており、それに国内外の企業や家計が翻弄されている。
 これまでのところ、米政権を翻意させる上で一番力強かったのは、金融市場の反応だった。実際、2025年4月に金融市場が混乱することで、相互関税の上乗せ税率の一時撤回に追い込まれたり、パウエル議長の解任を否定するなど火消しに追われたりする米政権の姿がこれまで見られてきた。FRB議長の後任人事にも、金融市場の反応が一役買ったという見方がある。

 

図表⑥失業者数の増減、図表⑦米国債利回りとドル指数

 

 金融市場では、米長期金利が上昇した(図表⑦)。金利が上昇することで、住宅ローン金利などが下がり難くなる。それは米政権が現在進めている政策にとって逆風になり得る。そのため、米長期金利の上昇を招いた一因である日本の長期金利の上昇、円安・ドル高をけん制する姿勢も見られた。実際、1月23日の米財務省の指示によるNY連銀のレートチェック後、ドル安が進み、日米協調介入観測が高まった。そうした中で、トランプ氏がドル安を容認とも受け止められる発言が切り取られて、市場ではドル安が一段と進んだ。ドルが約4年ぶりの安値圏まで低下すると、今度はドル安に伴う輸入物価の上昇をきっかけとした物価上昇も懸念された。行き過ぎとの判断もあって、ベッセント財務長官は1月28日にその動きをけん制する意味で、強いドル志向の姿勢を改めて示した。
 関税政策は、交渉材料であり、米国にとっての経済の武器化の象徴になっている。これまでのところ話半分ということが多いとは言え、ブラジルなど高関税を課されたままの国もある。また、関税引き下げの条件として、米国製品の購入や対米投資の拡大を約束している。今回、対米投資を巡る国内法の成立の遅れなどから、韓国に対して関税率引き上げが示唆されるなど、事前の発表通りに定期的な評価が実施に行われる可能性も示された。そのため、一旦合意に至ったとしても、関税引き上げが蒸し返されることもありうる。秋の中間選挙で与党が敗北すれば、議会承認が必要な政策は通り難くなるため、大統領権限で行われる貿易などで成果を求めるようになり、より強硬な姿勢を示すことも考えられる。
 これまで関税政策や対外政策姿勢の変化など、政治が経済の不安定要因になってきた。しかし、それらの政策は、一定のリスク許容度を超えそうになると、金融市場が鳴らした警鐘を踏まえて、軌道修正されてきた。政治から経済への悪影響は、ある意味奇妙なバランスをとってきたようにも見える。そのバランスの上にある米国経済の堅調さには、脆さがあることは否めない。2026年も引き続き、米国政治の先行き不透明感を経済の下振れリスクとして注視する必要がある。

 

以上

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