緊迫する北朝鮮情勢

ウィークリー・トピックス

2017年04月18日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
貞川 晋吾

1.はじめに

 北朝鮮の軍事力と弾道ミサイルの概況ならびに緊迫する北朝鮮情勢について解説する。

 

 

2.北朝鮮の軍事力

【図表1】北朝鮮の軍事力(出所:「平成28年版防衛白書」より住友商事グローバルリサーチ作成)

 2016年度の防衛白書によれば、北朝鮮の軍事力の概要は、総兵力119万人の内、ほとんどが陸上兵力で、即応態勢を維持しており、陸・海・空軍の装備はあっても多くが旧式であると言えよう。

 通常兵器の比較では、韓国軍と在韓米軍の方が圧倒的な優位性があるが、北朝鮮の陸上兵力の3分の2がソウル中心部からわずか30キロメートル程の非武装地帯付近に展開しており、旧式とはいえ、戦車を含む機甲戦力と多数の火砲を保有し、ソウル市は勿論、射程の長い火砲については、韓国の北部主要都市も射程に収めている。さらに、10万人規模の特殊部隊があり、生物、化学兵器を保有し、サイバー部隊なども強化していると伝えられている。

 

 

3.北朝鮮の弾道ミサイルの概況

 わが国の安全保障に直接関わる北朝鮮のミサイルについては、「スカッドC」と「スカッドER」、「ノドン」、「ムスダン」が既に実戦配備されており、「スカッドER」で日本の一部が、「ノドン」で日本の全域が射程に入る。開発中のミサイルでは、「ICBM KN-08」や「テポドン2号改良型」が、北米大陸に届く能力を持つ。

 次に、2017年に入ってからの北朝鮮の主なミサイル発射実験について【図表2】に示したが、液体燃料ではなく固体燃料を使用し、また、移動式発射台を使用することによって、いつでも場所を選ばずに素早い発射が行えるようになった。【図表2】2017年の主な弾道ミサイル発射実験(出所:各種報道等を基に住友商事グローバルリサーチ作成)特に、3月6日に行った4発同時ミサイル発射は着弾場所も正確であったことから、「実験ではなく、在日米軍を想定した攻撃訓練」とし、自信を高めていると感じ取れるが、4月5日と4月16日のミサイル発射実験は失敗したとみられている。

 

 

4.日本の弾道ミサイル防衛(BMD)の現状

 日本側の弾道ミサイル防衛の現状は、まず海上に展開しているイージス艦が相手国の弾道ミサイルをレーダーで捕捉し、Standard Missile 3(SM3)と呼ばれる短・中距離の弾道ミサイルを使って迎撃する。万一、SM3の迎撃が失敗した場合でも、陸上のPatriot Advanced Capability3(PAC3)と呼ばれるミサイルで再度迎撃を試みるという二段構えになっている。日本では、現状のミサイル防衛力をさらに向上させるため、在韓米軍への配備が進んでいる終末高高度防衛ミサイル(Terminal High Altitude Area Defense Missile「THAAD」)採用案や敵の基地を日本が攻撃する案なども防衛省で検討されている。

 

 

5.北朝鮮の核・ミサイルを取り巻く現状

 次に、北朝鮮の核やミサイルを取り巻く現状などについて解説する。

 米国のトランプ大統領とティラーソン国務長官は、北朝鮮問題について、複数回にわたり、「中国の協力が得られない場合は、米国が単独で問題を解決する」という軍事行動を示唆する発言をしている。4月13日のトランプ大統領のツイッターでは、「米国単独」が、「米国と同盟国」に変更され、中国に投げている協力要請のボールをさらに強めたものと解釈されている。空母打撃群について、4月15日韓国釜山港に入港したと報道された。米韓合同演習に参加予定だが、同時に北朝鮮に対する圧力を強める効果を狙った派遣とみられている。

 北朝鮮は、リビアのカダフィ政権が倒れたのは核の放棄が原因で、シリアも核兵器がないから4月6日に米国の攻撃を受けた、ゆえに核の選択、軍の強化は正しいのだと主張している。これが4月11日の核・軍の強化という発言の背景である。なお、4月15日の故金日成国家主席の生誕記念日を祝う軍事パレードでは、「(米国との)全面戦争には全面戦争で、核戦争には核攻撃戦で対応する」と強気の発言を行っている。パレードでは、新型とみられる複数のミサイルや、白い軍服を着た化学、生物、放射能兵器を担当する部隊が公開されたと報道されている。

 中国は、北朝鮮に核実験やミサイル発射の自制をメディアを使って呼びかけており、その中には、核放棄の代償に金正恩体制の保障という提案もあるようだが、北朝鮮側の反応については情報がない。韓国紙は、中国の武大偉 朝鮮半島問題特別代表の訪朝が事実上拒否されたと報道しており、また、4月14日に中国の王毅外相がロシアのラブロフ外相に電話で協力を要請するなど、実情は不明だが、中国はボールの投げ返しに苦慮している模様である。

 大統領選真最中の韓国は、対話の条件は北の非核化であると、朴政権時代の原則的な発言を維持している。なお、米国のペンス副大統領が4月17日、韓国の黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行と北朝鮮情勢についての協議を行った。

 日本は、菅官房長官が、米韓と連携して対処するとしている。4月14日には、北朝鮮が相当量の化学兵器を保有しているとみられること、北朝鮮の挑発について高度な警戒監視態勢を維持すること、などを記者会見で述べている。

 

 

5.今後の可能性

 今後、4月25日の軍隊創設85周年記念日の午前に、最大200キロトン規模の核実験が行われるという予想がある。核実験については、実験場の準備が既に完了しているようで高い確率で遂行されるとみられている。ミサイル実験が4月16日にあったが、失敗に終わっている。米軍への攻撃は、金正恩体制の自殺行為に等しく確率は低いとみられる。

 いずれにせよ、仮に米国が軍事行動に出た場合、日本を含む周辺諸国が被るリスクは大きく、中国が良いボールを投げ返すことを切に期待したい。

以上

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