キエフ/ウクライナ ~個人消費の実相~

2016年09月05日

住友商事株式会社 キエフ支店
喜納 政生

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キエフ アンドレイ教会 1744年建立のバロック様式 (筆者撮影)
キエフ アンドレイ教会 1744年建立のバロック様式 (筆者撮影)

 2014年2月の「マイダン革命」、続くロシアによるクリミア併合から東部紛争で、連日のように日本の報道をにぎわせたウクライナですが、情勢が落ち着くに連れて話題に上らなくなっているようです。その間、GDP成長率は2014年▲6.6%、2015年▲9.9%と下落を続け、インフレ率は2014年25%、2015年43%と庶民の懐を直撃し、為替レートも1米国ドルが8グリブナから現在は25グリブナへと3分の1の価値になってしまいました。依然としてビジネスには非常に厳しい環境が続いていますが、一方で市民生活はどうなっているのでしょう?あくまで外国人として首都キエフに暮らす私が見た一断面に過ぎないことを断った上で、惨憺(さんたん)たるマクロ経済の状況とはかけ離れたトレンドをレポートします。

 

 

その①-男性専門バーバーショップ

 ウクライナ女性がおしゃれに気を遣うのは当然として、最近流行しているのが男性専門の"Barber Shop"です。普通の床屋なら100グリブナ(約400円)以下で散髪できるところを、その4倍の約400グリブナもかけてカットする専門店が繁盛しているのです。あえて"Barber Shop"としたのには理由があり、単なる床屋とは違ってインテリアにも凝り、美容師は全て男性、ウィスキーやコーヒーも無料で供されます。男による男のための雰囲気を大切にした店作りがされています。ヒゲを整えるための別メニュー(カット並みの料金)があるのも特徴です。それにしても「戦時下」にあるウクライナで、男が外見を飾るのにお金をかけるというのは理解に苦しむところです。

 

 

その②-おしゃれなカフェ・レストラン

キエフ ソフィア広場 イースターエッグの展示会 (筆者撮影)
キエフ ソフィア広場 イースターエッグの展示会 (筆者撮影)

 おしゃれと言えば、日本に出店しても恥ずかしくないような、小ぎれいで趣味の良いカフェやレストランが続々とオープンしています。料理がおいしいのは言わずもがな、驚くのはデザートの質の高さです。以前ならば甘過ぎ・大き過ぎで口に合いませんでしたが、上品に仕上がっています。イタリア製のコーヒーマシーンが普及したおかげで、エスプレッソからカプチーノまでおいしいコーヒーも飲めるようになりました。コーヒーの流行もここ最近の現象で、マシーンを積んだミニバンが屋台営業する姿を街角のあちこちで見掛けるようになりました。

 

 

その③-スマートフォンの普及

リヴィウ オペラ・バレエ劇場 (筆者撮影)
リヴィウ オペラ・バレエ劇場 (筆者撮影)

 UBS銀行が発表した"Prices and earnings 2015"によると、キエフの労働者がiPhone を買うために要する労働時間は627時間だそうです(東京なら40時間)。3か月以上の給与を充てなければ買えないはずにも関わらず、周りを見渡すとiPhoneだらけなのはなぜでしょう?正規品ばかりとは限らないかもしれませんが、分不相応に普及しているのは不思議としか言いようがありません。

 

 

結論?

 うがった見方をすれば、貧しくて将来に希望を持てないからこそ、楽しく生きることに限られた金を費している、ということかもしれません。しかし、マクロの数字に表れないところで、個人消費は着実に改善しつつある、と私は楽観的に信じています。

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