コモディティ・レポート 2017年4月号 ~強気材料に乏しく失速~

コモディティ・レポート

2017年04月06日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

 経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 3月の商品市場は総じて冴えない値動きとなった。中国全人代、オランダ総選挙、FOMC、英国のEU離脱通告などイベントは多かったが、相場に方向性を提供するものとはならず、個別需給に専ら左右された。下げ幅が大きかったのがエネルギーと農産品で、原油・大豆・トウモロコシなどいずれも年初来安値を記録した。原油・農産品ともに在庫が潤沢にも関わらず、OPEC減産期待や南米の天候懸念を材料に投機筋が買いを主導してきたが、供給面に期待したほどの影響が見られないことに失望したことが大きい。原油はOPECの減産が遵守されていても需給調整ペースが緩慢なことから、減産延長を望む声がOPEC内外から増えている。非鉄金属は3月も底堅く推移したが、銅やニッケルは生産・輸出障害の回復目途が立ったこと、価格上昇を受けた休止設備の再稼働やスクラップ回収率の増加が警戒され、上昇基調に歯止めがかかった。

 

 上昇機運が剥落したのは商品相場だけではない。米主要株式指数は、トランプ大統領当選から109日間にわたり1%以上の下げを記録しなかったが、オバマケア改廃法案を巡る与党内での意見調整が難航するなか、3月21日に前日比1%超下げ、トランプ相場の変調を感じさせた。結局、共和党保守派を説得できず、共和党多数の下院での採決すら断念せざるを得なくなった。オバマケアの見直しは、トランプ氏の選挙公約の柱であり、今回改廃が阻まれたことは大統領の政権運営能力の欠如を露呈する結果となった。市場は、国防費の大幅増を計画する予算案や、目玉とされる税制改革・規制緩和についても実現性が低いのではと懐疑的な見方を示し始めている。

 

 こうした中、トランプ氏が唯一成功を印象づけているのが、エネルギーの規制緩和だ。就任早々大統領令で指示したKeystone XLパイプラインの承認迅速化については、3月に国務省が建設計画を承認。さらに3月にはオバマ前大統領が導入した複数の規制につき撤廃に向け見直すよう指示する大統領令にも署名した。対象規制には、州政府に発電所の二酸化炭素排出削減を義務付けるClean Power Plan、連邦所有地を炭鉱開発向けにリースすることを禁止した措置、石油・ガス生産に伴うメタンガス排出削減を定めた規制などが含まれる。規制を撤廃しても石炭はすでに米国内において価格競争力を失っていることから、トランプ氏が掲げる石炭産業・石炭火力発電所の復権には至らないが、エネルギー業界は総じて規制緩和を歓迎している。

 

 3月のFOMCでは市場予想通り0.25%の利上げが実施された。イエレン議長が利上げペースの加速に言及しなかったことや、トランプ氏の政策実行能力に対する懸念も重なり、利上げにも関わらずドルは3月に主要通貨に対し軒並み弱含んだ。最も上昇率が高かったのがメキシコペソで、対ドルで7.4%上昇と米大統領選前の水準まで回復。トランプ氏は、3月末に貿易赤字要因の徹底調査を指示する大統領令に署名したが、移民制限やオバマケア改案での巻き返しに通商・為替問題で強硬姿勢を取れば、為替市場の動揺を招く恐れもある。

 

 3月29日には、メイ首相がEU離脱を正式に宣告。既定路線だったため市場はほぼ無反応だったが、英国はEUとの離脱交渉以外にもスコットランドの独立要求、北アイルランドのアイルランドへの併合要求など新たな問題に直面、引き続き政治リスクを抱える。4月には仏大統領選挙もあり、欧州政治への注目が高まる見通し。

 

 

CRB指数 vs. ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成) 

 

主要株式指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

原油(ドル/バレル)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 5月25日に開催予定のOPEC総会で減産延長の有無が決まるまで相場を大きく動かす材料に乏しく、年初からの価格レンジ48~56ドル台での推移を予想する。減産延長については、ほぼ全てのOPEC加盟国が支持を表明。サウジのエネルギー大臣も、世界在庫が適正水準である過去5年平均まで減少しなければ、減産延長を検討すると前向きな姿勢を示す。4月以降は米製油所が定期修理を終え原油処理量を増やすことから、早ければ4月中にも原油在庫は取り崩され、3月につけた安値を再訪する可能性は低い。

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

金(ドル/トロイオンス)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成) 

 

 金は目先的には1,260ドル付近の上値抵抗線突破の可否が焦点。上抜ければ1,300ドルを目指す動き、反落するとレンジ回帰が予想される。トルコ国民投票、フランス大統領選挙などの政治イベント、北朝鮮を巡る緊張増大、米国経済減速やトランプ氏の政策手腕への失望を背景とする株式市場変調など、山積するリスク要因が価格を下支えする。他方、需給バランスは大幅な余剰であり米FRBは利上げの途にある以上、投資主導の上昇には戻り売りが向かい不安定化しやすい。

 

 

◆アルミ(ドル/トン)

 

アルミ(ドル/トン)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成) 

 

 一時は2015年5月以来の高値を記録。プレミアムが高止まりする米国への在庫移動が続きLME在庫は2008年以来の低水準。4~6月期対日プレミアムは前期比35%高の128ドルで決着。豪州の減産もありセンチメントは改善。また中国の大気汚染対策に伴う北部4省のアルミ製錬に対する3割減産指示や、環境当局による監視強化など政策変更がゲームチェンジャーとなり2016年の石炭のような価格急騰を引き起こすリスクが売り手の買戻しを誘っている。だが在庫はなお潤沢、中国では設備新設・再稼働による増産もあり、一方向の価格上昇は見込みづらい。

 

 

◆粗糖(セント/ポンド)

 

粗糖(セント/ポンド)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 3月末の粗糖価格は16.75セント/ポンドと2016年5月以来の安値をつけ、月間の下落率も13%の大幅安となった。発端は、不作による輸入増が期待されていたインドで、輸入関税引き下げの計画はないとの意向が示されたことにある。4月の相場は、特段の価格上昇材料のない中、収穫の始まるブラジル産の供給圧力が意識され、引き続き軟調に推移すると見込む。ブラジルではサトウキビ生産量は減少と予想されているものの、品質の改善から産糖比率の大幅な上昇が見込まれている。

 

 

◆主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品年初来騰落率(%)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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