2026年3月25日 (水)
[アフリカ/船舶迂回増加]
ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、船舶が南アフリカの喜望峰周りの航路に迂回する動きが強まっている。
ケープタウン商工会議所によると、現在進行中の中東紛争の影響により、3月上旬時点で喜望峰を迂回する船舶が112%(2倍強)増加したとのこと。これによりスエズ運河~バブ・エル・マンデブ海峡航路と比べて輸送時間が10~14日ほど延び、世界貿易における燃料費と保険料が大幅に増加していると指摘している。
この喜望峰ルートの船舶交通量の増大により、一時的にアフリカ沿岸諸国でのバンカー(船舶給油)事業が活況を呈している。2024年の国際バンカー産業協会(IBIA)の報告書によると、ガーナを主とする西アフリカ諸国の月間給油量は約25万トンと最大で、南アフリカ(南ア)の8万トン、モーリシャスの6万トンと続く。近年は南ア国内での石油精製量の減少や環境規制などを受けて、ナミビアのヴォルビスベイやリューデリッツ港にアラブ首長国連邦(UAE)のフレックス・コモディティ社がバンカー事業で進出。モザンビークでもマプト港、ナカラ港などでの給油が増加している。中東情勢の緊張が長期化すれば、船舶各社にとっても所要日数もコストもかさむものの、こうした安全な喜望峰ルートの選択を続けざるを得なくなる。
他方で、喜望峰ルートで今後大きな懸念材料となるのが、バンカー用燃料の調達だ。サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)は大半の国が石油の純輸入国である(2026年3月24日デイリー・アップデート参照)。先に挙げた南アフリカとモザンビークの中東産石油(UAE、クウェート、オマーン、サウジアラビア、バーレーン)の輸入の割合は石油輸入量の約70%を占めている。大西洋に面したナミビア(同50%)や産油国ナイジェリアなどに近いガーナ(約33%)の中東依存度は相対的に低いが、ホルムズ海峡の封鎖による石油輸出の停滞が長期化すれば、燃料の確保がますます困難となる。南アでは中東からの石油輸入に依存した結果、国内の石油精製施設の閉鎖が相次いだこともエネルギー安全保障上のリスクとして顕在化している。南アでは4月1日にはガソリン価格が大幅な値上げが見込まれているが、船舶に供給する燃料の高騰も船会社にとってコスト増となり、最終的にコスト上昇分の一部が消費者に転嫁されていく恐れがある。
また、喜望峰ルートを通る船舶の交通量増加は、新たな安全保障上の懸念を生じさせるとの見解もある。英・王立国際問題研究所(チャタムハウス)は、インド洋沿岸の港湾での船舶の混雑が起こるほか、警備体制が不十分であることから停泊中・航行中の海賊等の違法行為を誘発する恐れがあると指摘。モザンビーク海峡では南ア、フランス、インドが頻繁に海賊対策パトロールを行っているものの、ソマリアでの海賊行為は再び増加傾向にあることから、船舶の増加がリスクを高める可能性があるとの見方を示している。
[豪州/EUとのFTA締結に合意]
3月24日、オーストラリアのアルバジーニー首相と訪豪中のフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、両国・地域がFTA締結に合意したと発表した。FTAにより、オーストラリアの対EU輸出のうち金額ベースで98%分の品目について関税が撤廃される。特に、ワインやナッツ、野菜・果実、酪農品など輸出品についてオーストラリア政府は国内農家が恩恵を受けると指摘している。またEUからの輸入に関しても同じく98%分の品目で関税が撤廃される。他方で牛肉・羊肉等の一部のオーストラリア産農畜産物は輸出割当枠の対象となるなどEUの政治的反対に配慮したほか、EUによる国境炭素調整措置(CBAM)については合意されていない。
オーストラリアの主要輸出先国1位は中国(30%)、2位は日本(9%)であり、EU向け輸出は輸出全体の3%程度と規模は限定的(輸入は15%)。石炭・銅鉱石・貴金属のほかにナタネなど農産物が主要輸出品。
FTAの交渉自体は2018年より開始されていたが、牛肉、羊肉(ラム・ヤギ肉)などオーストラリア側の主要輸出品である農畜産物につきEU側が関税引き下げを躊躇(ちゅうちょ)したことから、交渉が停滞していた。また米国・英国からの原子力潜水艦供与を決定したことでフランス企業との潜水艦建造事業が中止され、フランスとの外交関係が悪化したことも交渉を阻害したとの指摘もある(ABC News、2021年10月22日付記事)。
他方で2025年に米国がオーストラリア・EU向けに相互関税課税を公表して以降、両者での交渉が加速した。 また今回は、リチウムなどのクリティカルミネラルの他にも、EV電池に使用される水酸化リチウムや水素のEU向け輸出に課される関税についても撤廃することが合意された。オーストラリアはリチウム、コバルト、ニッケルなどの鉱物が採掘されるが、最大輸出先である中国への輸出依存傾向が続く(2023年の水酸化リチウム輸出額の98%が中国向け)。他方でEUはリチウムを含めた重要鉱物について中国への輸入依存が深刻な状況である。中国によるレアアースや重要鉱物の「武器化」リスクが顕在化する中で、EUとしては中国への輸入依存度低減を狙うほか、オーストラリアとしても輸出先を多様化する狙いがあるとみられる。
水素に関しても、オーストラリアは水素製造を自国の主要産業にすることを狙っている。2024年9月には国家水素戦略を改定しており、その中でブルー水素・グリーン水素の製造事業向けの税控除・製造コストと売価の差額への補助金供与を目玉政策としている。グリーン水素をEUに輸出することでEUのエネルギー安全保障確保や脱炭素化を支援することが狙い。
FTAと並行して、安全保障面・防衛面での協力を確認した「防衛・安全保障パートナーシップ」の締結を公表した。両者は2017年 に、大量破壊兵器の不拡散やテロ対策などでの協力を確認した枠組み協定に署名している。今回締結したパートナーシップは本枠組み協定と同様に法的な拘束力を持たずNATOのような相互防衛義務や同盟関係を伴うものではないが、オーストラリアにとってはQuadやAUKUSなど既存の安全保障関連の枠組みを補完する位置づけとなる。また本パートナーシップ締結を契機として、EUが2025年に新設した最大1,500億ユーロ規模のEU加盟国向けの融資制度「欧州の安全保障行動(SAFE)」へオーストラリア企業が参画する可能性を指摘するなど(Euractiv、2026年3月24日付記事)、両者の防衛産業面の協力も期待される。
[リトアニアと中台関係]
リトアニアのルギニエネ首相は、地元メディアとのインタビューで、首都ビリニュスに設置した「台湾代表処」を巡る2021年の決定について「戦略的な誤りだった」と述べ、中国との関係改善に向けた動きを進めていることを明らかにした。
首相は、台湾の代表機関に「台湾(Taiwanese)」の名称を認めた判断について、欧州連合(EU)や米国と十分に事前に調整されておらず、中国との関係悪化を招いたと指摘し、「リトアニアは列車の前に飛び込み、結果として負けた」と述べた。
欧州諸国の多くは台湾の代表機関を受け入れているが、通常は「台北代表処」という名称を用いることで、中国との実務関係を維持している。これに対しリトアニアは独自に行動し、「世界が評価してくれると考えたが、誰も評価しなかった」として、今後の対中政策はEUと歩調を合わせ、国益を最優先に進めるべきだと強調している。また、台湾がリトアニアとの「約束を果たしていない」と不満を述べているが、台湾からの投資を指しているとみられる。
2021年にビリニュスで「台湾代表処」が開設されると、中国はこれに強く反発し、リトアニアと中国の関係は急速に悪化した。中国は外交関係を格下げし、リトアニア側も中国大使を召還するなど、外交関係は冷え込んだ状態が続いている。2024年にはリトアニアが中国外交官3人をペルソナ・ノン・グラータとして追放し、中国はリトアニアの銀行2行に対する取引禁止措置を取るなど対立は長期化した。
こうした状況の中でルギニエネ政権は、EU諸国と同程度の外交代表レベルまで中国との関係を回復する方針を掲げている。首相はすでに北京との書簡のやり取りなど「小さな第一歩」を踏み出していると説明し、関係正常化には長い時間と困難な交渉が伴うとの認識を示した。「時計の針を戻すのは非常に複雑だが、段階的に進めれば関係正常化の可能性はある」と述べ、敵対関係ではなく実務的な関係を築くことを目標とするとしている。
一方、ナウセーダ大統領は関係修復には双方の意思が必要だとしつつ、中国との過度な協力にはリスクがあると警告している。中国がロシアのウクライナ侵攻を支えているとの見方を示し、欧州が中国依存を強めることには慎重であるべきだと指摘している。
[燃料高騰がチリ新政権の打撃に]
イラン紛争をめぐり世界経済全体の下押しが懸念される中、中南米は中東からのガス輸入への依存度が低く、原油価格の上昇による恩恵を受ける産油国が複数存在することから、中南米全体でみると他地域と比べて相対的に影響は小さいとみられている。特にベネズエラ、コロンビア、ブラジル、メキシコ、エクアドル、アルゼンチンは、輸出収入の増加、経常収支の改善の可能性がある。
しかし、燃料の輸入依存度が高いチリ、ホンジュラス、ボリビア、コスタリカなどでは、物価上昇と成長鈍化が懸念されており、新政権へと移行したばかりの国が多い中、「ハネムーン期間」が短くなり、支持率も早期に下落する可能性がでてきている。
特にチリでは、3月23日、カスト新政権はイラン危機と深刻な財政制約への対応として、ガソリン価格を31%、ディーゼル価格を60%引き上げると発表した。この決定は事前の説明を欠いたまま行われた。
カスト政権は、国民生活への影響を和らげるための対策として、公共交通運賃を2026年いっぱい値上げせずに凍結することや、タクシーおよび配車サービス向けの補助金支給を発表した。また、燃料価格の急激な変動を抑えることを目的とした燃料価格安定化メカニズム(MEPCO)を今後も維持すると強調したが、世論調査では支持率が前週の57%から51%へと下落している。
今回の値上げ幅は大きく、チリは原油を全量輸入に依存しているとはいえ、インフレへの影響は避けられない。2026年2月時点のインフレ率は年率2.4%と中央銀行の目標範囲(2~4%)内に収まっていたが、今回の措置により物価上昇圧力は避けられなくなる。
国民の間では、財政赤字が拡大しても政府が補助金を出すべきとの意見もあるが、チリの財政赤字は2025年にGDP比3.5%に達し、新型コロナウイルス感染症以降で最悪の水準にあるため、さらなる財政出動は財政不安を招きかねない。
現時点では、2019年のような大規模かつ持続的なデモや深刻な社会不安に発展する可能性は、低いと考えられる。燃料価格は上昇しているものの、雇用や成長が急激に崩れているわけではなく、大規模デモが治安悪化、経済損失、投資の停滞といった負の側面が強かったことも大きい。それでも、事態が長期化すれば、新政権に対する国民の信頼や、過半数を持たない議会での支持にも暗雲をもたらすとみられる。
[ロシア・ベトナム/原発建設で合意]
3月23日、ロシアのミシュスチン首相はモスクワを訪問したベトナムのファム・ミン・チン首相と会談し、両国政府はベトナム初の原子力発電所建設に関する協定に署名した。「ニントゥアン1」という原子力発電所は発電能力強化を目指したベトナムの戦略の一環である。計画では、ロシアが設計する原子炉2基(合計出力2,400メガワット)を建設する。ロスアトムによると、協定には建設プロジェクトの実施における両当事者間の協力条件と主要分野の条項が盛り込まれたが、費用に関する詳細は明らかにされていない。
一方、タス通信によるとロシア天然ガス大手ノバテクのミヘルソン社長はベトナム側と液化天然ガス(LNG)供給に関する仮契約を調印済みで、早急に供給する準備があると述べた。ノバテクは日本も権益を持つ北極圏のLNG開発事業「アークティックLNG2」を主導している。
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