2025年9月12日 (金)
[中国]
中国政府が、地方政府が民間企業に対して抱える未払い債務(推定で1兆ドル超)への対応を検討していると9月11日付のブルームバーグが報じている。
関係者によれば、中国開発銀行などの国有政策銀行を通じて資金を融資し、地方当局が滞納分を支払えるよう支援する案が浮上している。第1段階では1兆元(約1,400億ドル)規模を対象とし、2027年までの解消を目指すという。習近平総書記は2025年2月の演説で、未払いが企業の経営や社会全体の信頼を損ないかねないと警告しており、党・政府としてもこの問題を優先課題に位置付けている。
対象となるのは地方政府関連の融資平台などが抱える10兆元規模の債務で、GDPの7%に相当するとの推計もある。すでに当局は主要銀行に短期流動性融資を通じた支援を求めており、今年は特別債2,000億元を充当して滞納分の解消を進めるとの見方も出ている。しかし、銀行側は貸倒リスクの増大を懸念しており、規制当局からの保証が不可欠だとする声も強い。実際、中国の大手銀行は景気下支えのための低利融資を続けた結果、収益力が低下し、不良債権が増加傾向にある。2025年前半には5大商業銀行が計3.51兆元の貸倒引当金を計上し、前年末比6%増となった。今回の政策は民間部門には救済となる一方、国有銀行のリスク負担をさらに押し上げる可能性が高い。
[フランス]
マクロン大統領は、バイルー内閣の総辞職を受けて、新首相にルコルニュ氏を任命した。ルコルニュ新首相は、赤字危機と分裂した国民議会という困難な状況を引き継ぐことになる。
ルコルニュ氏は、8年前に中道右派からマクロン大統領の「中道革命」に加わって以降、急速に台頭してきた人物で、マクロン大統領に近い存在として知られている。野党の反応としては、極右のルペン氏も社会党の議員らも否定的だが、社会党はルコルニュ氏がバイルー氏の予算案を放棄し、企業や富裕層への課税を強化する路線に転換するならば、協力体制への可能性を示唆している。今週、政権発足前に野党と会談を行う予定となっているが、この社会党との交渉が政権の将来を左右するとみられる。
バイルー前首相は、2026年の赤字をGDP比4.6%に削減するため、440億ユーロの増税と歳出削減を提案していた(2025年の予測は5.4%)。一方、ルコルニュ新首相は、350億ユーロ規模の増税と5%の赤字目標を提示するとみられている。社会党は、バイルー氏が提案した福祉や年金支給の凍結、祝日の廃止に反対しており、富裕層への「ズクマン税」の導入を求めている。さらに、医療や教育への新規支出を求めており、2023年に実施されたマクロン大統領の年金改革の見直しも要求している。
新首相は、10月13日までに予算案の修正を議会に提出する必要があり、社会党に対して一定の譲歩を提示する可能性が高いものの、大幅な譲歩ではなく、就任後に予想される不信任決議を成立させない程度のものになるとみられている。そのため、憲法第49条第3項に基づく特別権限を用いて予算案の強行採決を行う可能性も指摘されている。
フランスの財政問題と政治の不安定さは、解決に向かうことは考えにくいと、米信用格付け会社S&Pグローバルは指摘している。S&Pと、今週金曜日にフランスの格付けを見直す予定の同信用格付け会社フィッチ・レーティングスは、政府支出の増加と債務残高が国内総生産(GDP)の110%を超えている現状を踏まえ、フランスの格付け「AA-」に対して「マイナスの見通し」を維持している。赤字削減が進まなければ、国債市場において新たな売り圧力が生じる可能性があると以前から警告しており、ルコルニュ新首相が議会の承認を得ずに予算案を強行採決するようであれば、2027年4月に予定されている大統領選挙に向けて、政治的不確実性が続くことを意味するとしている。
[ブラジル/米国]
ブラジルのボルソナロ元大統領は、政権維持を目的に軍事クーデターを企てたとして、ブラジル最高裁判所から懲役27年3か月の有罪判決を受けた。これは同国史上初めて、元大統領が民主主義への攻撃で有罪となった事例となる。
判決は、5人の判事による合議制で決定され、そのうち4人が有罪を支持した。ボルソナロ氏は、武装犯罪組織への参加、民主主義の暴力的廃止、政府財産への損害など複数の罪に問われた。
ボルソナロ氏は現在、自宅軟禁下にあり、裁判は政治的迫害であると主張している。トランプ米大統領は、ボルソナロ氏の裁判を「魔女狩り」と非難し、ブラジルに対して関税引き上げや判事への制裁、ビザの取り消しなどの報復措置を講じた。トランプ氏は「この判決はひどいものであり、ブラジルにとって非常に悪いことだ」と述べ、ボルソナロ氏を再び称賛している。
今回の判決では、軍関係者を含む7人の同盟者にも有罪判決が下された。軍関係者が民主主義転覆の罪で処罰されたという点でも、ブラジルの民主主義を守る司法の取り組みを象徴するものとされている。
[ザンビア]
ザンビア北部・チャンビシ銅鉱山周辺の地域住民グループは、総額4億2,000万ドルの補償を、同鉱山を所有するシノメタルズ・リーチ・ザンビア社に求めた。同社は、中国国営企業・中国有色鉱業有限公司の現地子会社。2月18日に銅精錬工場の尾鉱ダムから大量の強酸性有害物質がザンビアの主要河川であるカフエ川に流出し、下流のキトウェ市への水道供給が一時停止に追い込まれるなどの環境汚染が生じた。
その後、シノメタルズ社とザンビア政府は有毒物質の流出量は5万トンと断定。政府は同社に対し地域住民への補償を要求するとともに、土壌・河川の中性化のために石灰を空中散布するなどの対応を実施。ザンビア当局による水質検査の結果、世界保健機構(WHO)が定める基準を満たしている主張し、中国政府への配慮からか、環境被害を過小評価しているとの諸外国からの批判を否定してきた。
しかし、8月に在ザンビア米国大使館は新たな(第三者による)調査の結果、有害物質が同鉱山周辺地域に大量に残存していることから、キトウェ市周辺からの米政府職員の即時撤退を勧告。これに対して、ザンビア政府は再度、公衆衛生への深刻な影響はないと否定する姿勢を示したが、8月29日にザンビア政府とシノメタルズ社が独立調査を依頼した南アフリカの調査会社・ドリジッド社は、有害物質の流出量は当初の発表を大きく上回る150万トンだとする報告書を発表。また、現在もシアン化物、ヒ素、カドミウムなど人体に深刻な影響を及ぼす有害物質が90万立方メートルも環境中に残存しており、適切な対処を行わなければ数十年にわたり下流地域は健康被害に晒される危険があるとの見通しを示した。
また、同社は、シノメタルズ社に最終報告書を提出する前日に「契約違反」を理由に一方的に契約を破棄されたことや、さらにドリジッド社がザンビア当局と共謀して調査結果を捏造したとの報道が出回っていることへの反発を強めている。国際人権団体・ヒューマン・ライツ・ウォッチもドリジッド社による報告内容を尊重したうえで、実際にカフエ川での魚の死滅やトウモロコシ畑の被害などが生じていることから、当局は被害を受けている地域住民に適切な対応を取るよう声明で発表した。
アフリカ安全保障研究所(ISS Africa)は、中国とザンビアの長年にわたる政治・経済的な蜜月関係が、中国企業によって度々引き起こされてきた国内での事故・環境問題をないがしろにしてきたと指摘。アフリカ第2位、世界第9位の銅産出国のザンビアは、銅生産と輸出に経済を依存している。鉱業部門には全中国企業による投資の88%が集中しており、政府上層部同士の強い政治的結びつきで保たれてきた。2021年の総選挙で野党候補として立候補したハカインデ・ヒチレマ大統領は汚職の撲滅を掲げ、中国一辺倒ではなく西側諸国との関係強化を重視してきた。しかし、2026年に次回大統領選を控えている中、同氏は有権者である国民の関心が高いこの事件への対応を進める必要がある一方で、中国との関係にも配慮する必要があることから、難しい政権のかじ取りを迫られている。
[モルドバ]
9月28日、旧ソ連のモルドバで総選挙が実施される予定(一院制、定数:101人)。親米欧のサンドゥ大統領が率いる与党「行動と連帯(PAS)」は苦戦し、過半数の議席を維持できるか微妙な情勢となっている。PASは現在、61議席を持っているが、最新世論調査では、ロシアとの関係強化を訴える野党連合が支持率を増やし、今回の選挙で政権批判票を取り込もうとしている。野党第1党でドドン元大統領が率いる社会党は、7月に親ロ派4党による政党連合を形成した。また、首都キシナウのチェバン市長などが設立した中道の政党ブロック「オルタナティブ」も、与党批判の受け皿として今回の選挙で議席数を伸ばす見通し。同党は欧州統合の継続や経済の立て直しを公約に掲げる。野党勢力が政権を握れば、欧州連合(EU)加盟交渉からの後退は避けられない。ウクライナ支援にも影響が及ぶとみられる。
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