2026年3月9日 (月)
[ロシア/イラン情勢]
3月6日、ロシアのプーチン大統領はイランのペゼシュキアン大統領と電話会談し、即時停戦への支持を表明した。ロシア大統領府によると、プーチン大統領は殺害された前イラン最高指導者ハメネイ師や民間人らへの哀悼の意を伝達し、「外交による解決の道」に早急に立ち返るべきだと強調した。
一方、複数の欧米メディアは3月6日、ロシアが米国などによる対イラン軍事作戦を受け、米軍の部隊や艦船の位置情報を衛星画像などでイランに提供していると報じた。米紙ワシントン・ポスト(米有力紙)によれば、3月1日にイランがクウェートの米軍拠点を無人機で攻撃し米兵6人が死亡した事件でも、ロシアの情報が使われた可能性がある。自前の偵察能力が限られるイランは、ロシアの情報提供により、米軍の早期警戒レーダーなどを精密に攻撃したとみられる。イランはロシアに自爆型ドローンやミサイルを供与するなど軍事協力を深めており、ロシアは米国などの対イラン攻撃を「国際法違反」と非難している。
[中東情勢/アフリカ・金影響]
米・イスラエルによるイラン攻撃を受けた湾岸諸国での空域封鎖が、アフリカからの金の輸出にも影響を及ぼしている。 安定資産の代表格である金の価格は歴史高値付近で推移を続けているが、それに伴ってアフリカ各国での金生産も拡大してきた。ロンドンに拠点を置く非営利団体・ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2024年の世界の金鉱山からの産出量約3,600トンのうち、アフリカ諸国のシェアは24%にも及んでいる。アフリカ最大の金産出国はガーナ(141トン、世界6位)で、マリ(100トン)、南アフリカ(99トン)、ブルキナファソ(94トン)と続く。他方アフリカで産出された金は、国内にアフリカ最大の金精錬所・Rand Refineryを有する南アフリカを除いて、その大部分が世界的な金精錬・流通ハブであるアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに空路で輸出されていた(1オンスあたり1ドル)。そして、ドバイから金の加工・需要地であるスイスやインドに再輸出されていた。
しかし、世界の航空ハブでもあるUAE周辺の空域が中東情勢の悪化を受けて封鎖されていることにより、アフリカの金産出国は金の代替輸送ルートの確保の必要性に迫られている状況だ。英・ロイターによると、アフリカ最大の金生産国のガーナは、ドバイの代替輸出先として南アやインド、中国に金輸出を行う必要があるが、これはコスト増になるため、ガーナ産の金の価格競争力が低下すると指摘している(3月6日付、ロイター通信)。 2024年の国連統計によると、ガーナからUAEへの金の輸出額は約41億ドルで、これは同国のGDPの約5%に匹敵する。ガーナには、南アの金鉱山会社アングロ・ゴールド・アシャンティやゴールド・フィールズ、米ニューモント・マイニングといった外資企業のほか、ガーナ国内企業、小規模採掘者などが金採掘に関わっている。ガーナ政府は2025年3月に小規模採掘者(ASM)から金を購入し、公式ルートで輸出する政府機関「GoldBod」を設立するなど、国ぐるみで金生産の拡大を目指してきた。金収入により2024年にガーナの経常収支は1.8%の黒字に転換し、2025年末時点で外貨準備高は輸入の3.3か月分をカバーするまで回復するなど、金はガーナ経済の大黒柱となっているが、金輸出の停滞は同国経済の下方リスクともなりうる。
影響はガーナだけにとどまらない。UAEへの金の輸出額(2024年、国連統計)はガーナに次いで、ウガンダ(25億ドル)、ジンバブエ(24億ドル)、ブルキナファソ(14億ドル)、チャド(14億ドル)の順で多く、空域封鎖が長期化すればこうした国々の対外収支を悪化させる恐れがある。また、コンゴ民主共和国(DRC)やエチオピア、スーダンなどの紛争地域でASMが採掘した金も、公式・非公式双方のルートで相当量がドバイに輸出されていたことから、貧困層が多いASMの生活にも影響を及ぼす可能性がある。WGCは世界の金生産の約2割がASMで占められており、その従事人口は1,500~2,000万人に及ぶと指摘している。
他方で、非公式ルートの存在は金生産に伴う環境破壊や人権侵害にもつながることから、この空域閉鎖を機に非公式ルートを見直す機会になるとの見方もある(3月6日付、ロイター通信)。 中東情勢緊張の長期化は、エネルギーや食糧を輸入に頼るアフリカ諸国にインフレをもたらし、経済成長を鈍化させる恐れがあるが、アフリカ経済の成長を支えてきた金の輸出の制約がさらに経済に打撃を与える可能性がある。
[パキスタン・サウジアラビア/相互防衛協定とイラン]
3月7日、サウジアラビア政府のハリド国防相は、Xにてパキスタン国軍のムニル陸軍参謀長兼軍最高司令官と会談を実施したと発表した。イランによるサウジアラビアへの攻撃に関し、2025年9月にサウジアラビア・パキスタン間で締結された相互防衛協定の枠組みの中での対処方法について協議したと発表した。同協定は、いずれか一方の国に対する侵略が両国に対する侵略とみなされると規定している。なお同日には、パキスタンのダール外相がイランのアラグチ外相と会談を実施している。
イラン情勢をめぐり、パキスタン政府は外交的立場に苦慮しているとの分析が複数存在する。同国にはイラン、イラクに次ぐ世界最大規模のシーア派人口(人口約2億5,000万人のうち15~20%)が存在するなど、イランとの宗教的・思想的な結びつきが強い。例えばイランのハメネイ最高指導者が米国・イスラエル軍により殺害された際には、国内でシーア派主導の抗議デモが暴動化して23人が死亡した。そのため、仮にサウジアラビアを防衛面で支援する立場を明示した場合は、国内シーア派による政府に対するデモが拡大する恐れがある。
また、イランとの国境付近のバルチスタン州では分離独立運動が継続しており、アフガニスタンのタリバンとの間でも戦闘が激化するなど、防衛装備品や兵士など軍事面でのリソースがすでに割かれている中で、サウジアラビアに対し防衛面での支援を実施できる余裕がないとの懸念も存在する。
加えて、イランのイスラム革命防衛隊によって訓練・資金提供を受け、シリア内戦で実戦経験を積んだパキスタン人のシーア派民兵組織「ゼイナビユーン旅団」の存在も懸念材料となっている。パキスタン政府がサウジアラビア支援の立場を明確化した場合には、同組織の兵士によるパキスタン国内でのテロ実施や、主な活動拠点であるパキスタン北部で軍事活動を活発化させることなどが懸念される。
[中南米/米国と軍事連合]
3月7日、米国フロリダ州ドーラルにおいて、トランプ大統領は中南米12か国との首脳会議を行った。トランプ大統領の2期目における対中南米政策の核心となる「麻薬カルテルの掃討」と「西半球における米国の主導権(ドンロー・ドクトリン)の再確立」を鮮明にした。今回の会議は「志を同じくする(右派・保守派)」指導者が中心に招かれ、中南米の主要経済大国である左派政権は除外された。具体的には、アルゼンチン、ボリビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、ガイアナ、ホンジュラス、パナマ、パラグアイ、トリニダード・トバゴ、そしてチリ次期大統領が参加し、中南米諸国と軍事連合を結成する「アメリカ大陸の盾」の設立宣言に署名した。トランプ大統領は、これらの国々には大きな可能性があるとして、その実現にはカルテルや犯罪組織の支配を打ち砕く必要があると語った。一方、メキシコのシャインバウム大統領、ブラジルのルーラ大統領、コロンビアのペトロ大統領などは招待されなかった。トランプ大統領は参加国に軍の投入を促し、米国との共同作戦も提案したうえで、軍事力を解き放つことが唯一の解決策と強調し、同盟国に対して自国領内でのさらなる軍事行動を許可するよう求めた。
この動きは、トランプ大統領がグリーンランドから南米に至るまで西半球での米国支配の確立を目指していることを示す。1月にはカリブ海と東太平洋での麻薬船への空爆に続き、ベネズエラで奇襲作戦を実施し、マドゥロを捕らえるという行動に踏み切っている。2月には、メキシコでハリスコ新世代カルテルのエル・メンチョの殺害作戦に関する情報をメキシコに提供した。
ただし、部隊の派遣自体は行っていなかった。この件についても、カルテルの震源地はメキシコであるにもかかわらず、メキシコが米軍派遣の提案を拒否したことを批判した。米国はメキシコ国内での一方的軍事行動の可能性を示唆しつつ、国家安全保障のためにあらゆる手段を取るとしている。
また、3月3日は、エクアドル軍と共同で補給施設を破壊したと発表し、「麻薬テロリスト」組織の解体を進めている。2025年1月にトランプ大統領がホワイトハウスに復帰して以来、米国はすでに7か国で軍事行動を実施している。国防長官ヘグセス氏は、米南方軍への資源投入を拡大するとし、地域各国に対して米国との協力を求めた。
[米国の雇用と日本の賃金]
米労働省によると、2月の非農業部門雇用者数は前月比▲9.2万人と、2か月ぶりに減少した。市場予想(5~6万人増)に反して減少した。また、1月分は速報時点の13.0万人増から12.6万人増へ、2025年12月分は4.8万人増から▲1.7万人へそれぞれ下方修正された。1月とは打って変わり、労働市場の軟化を示唆する内容になった。
内訳を見ると、民間部門が▲9.2万人と減少した。医療関係者のストライキや寒波など悪天候が下押し要因になったものの、弱めの数字になった。教育・ヘルスケア(▲3.4万人)は2022年1月以来の減少になった。製造業(▲1.2万人)や建設業(▲1.1万人)、専門ビジネスサービス(▲0.5万人)は2か月ぶりに、娯楽・接客業(▲2.7万人)は2か月連続、輸送・倉庫(▲1.1万人)は4か月連続で減少した。また、情報(▲1.1万人)は14か月連続減少している。政府(▲0.6万人)は5か月連続で減少した。
2月の失業率は4.4%であり、1月から横ばい(4.3%)という予想を小幅に上回った。ここ1年の失業率を振り返ると、2025年1月の4.0%から11月の4.5%へ上昇した後、2026年1月にかけて低下していたものの、再び上昇に転じた。また、平均時給は前年同月比+3.8%、25年12月~26年1月(+3.7%)から上昇率をやや拡大させた。 ただし、それ以前は4%前後だったので、それらに比べるとそれほど高い伸び率ではなかった。これまで労働需給の双方が減少しており、失業者数は顕著に増加してこなかった。しかし、足元では新たに職探しをする人は仕事を見つけ難くなっている一方で、企業は専門・熟練労働者などの確保が難しくなっているなど、労働市場で変化は生じている。
また、日本の賃金について、厚生労働省によると、1月の実質賃金は前年同月比+1.4%と、13か月ぶりのプラスに転じた。ガソリン税の旧暫定税率廃止などから、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比+1.7%へ縮小した影響が大きかった。名目賃金(現金給与総額)は+3.0%と、2025年12月(+2.4%)から上昇率を拡大させ、同年7月(+3.4%)ぶりの高い伸びだった。
名目賃金の内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+3.0%で、33年3か月ぶりの高い伸びになった。フルタイム労働者(一般労働者)は+3.2%、パータイム労働者時間給は+3.7%とともに、12月(+3.5%)から上昇率を拡大した。残業代(所定外給与)は+3.3%と、残業時間の減少幅の縮小も重なり、上昇率を拡大させた。ボーナス等(特別に支払われた給与)は+3.8%、12月(+2.7%)から拡大した。賃上げと政策効果の影響から数か月、実質賃金はプラスで推移する可能性が高い。
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