デイリー・アップデート

2025年12月8日 (月)

[日本] 

厚生労働省によると、10月の実質賃金は前年同月比▲0.7%となり、10か月連続のマイナスになった。名目賃金(現金給与総額)は+2.6%と、9月(+2.1%)から拡大した一方で、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は+3.4%と、9月と同じで高止まりしている。名目賃金の上昇率が物価上昇率に引き続き追いついていない。

 

名目賃金の内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+2.6%。9月(+2.0%)から上昇率を拡大させた。フルタイム(一般労働者)は+2.7%、パートタイム労働者の時間給は+3.3%であり、それぞれ9月から拡大した。また、残業代(所定外給与)も+1.5%となり、9月(+1.0%)から拡大した。残業時間(所定外労働時間)は▲2.8%で、9月(▲2.0%)からマイナス幅が拡大しており、残業の平均単価が上昇していることになる。ボーナスなど(特別に支払われた給与)は+6.7%であり、9月(+3.8%)から拡大した。

 

なお、共通事業所ベースの名目賃金は+2.4%で、9月(+2.5%)から小幅に縮小、2か月連続で2%台の伸びを保った。賃金上昇傾向が継続しているものの、物価上昇率に追いついていない状況が続いている。

 

今後、ガソリンの旧暫定税率の廃止や補正予算による電気・ガス料金補助金などが2026年始の物価上昇率を押し下げるため、実質賃金がプラスに転じる可能性がある。それ以降の賃金動向については2026年度の春闘でどこまで賃上げ機運が継続するかが注目される。

[アルゼンチン] 

12月5日、政府は国際資本市場への復帰を示すドル建て4年物の債券を発行すると発表した。今回発行されるのは「BONAR 2029N」というドル建て債券で、金利は年6.5%で、約8年ぶりの発行となる。アルゼンチンは、2026年1月に40億ドル以上の債務が満期を迎えるため、外貨準備の更なる枯渇が懸念されていた。

 

アルゼンチンは2018年当時、深刻な経済危機に直面していた。通貨ペソの急落、インフレ率の急上昇、そして財政赤字の拡大が重なり、国際的な信用力が大きく低下、国際市場での資金調達がほぼ不可能になった。その後も債務再編やデフォルトなどを繰り返し、新規のドル建て債券を発行するどころか、既存債務の返済に追われる状態が続いた。加えて、慢性的なインフレ(年間100%超)、外貨不足、資本規制などが投資家の不安を増幅させ、国際市場へのアクセスを完全に閉ざした。結果として、2018年以降、アルゼンチンは国際債務市場での新規発行を断念せざるを得なかった。

 

財務省によると、今回の債券発行によりえた資金は2026年1月9日に予定される支払いの一部に充てられる。カプート大臣も、今回の債券発行は、新しい借金ではなく、古い債務を返済するためのものであり、借り換えにより中央銀行のドルを準備金として保持できるようになると強調している。

 

短期的には、債務返済を外貨準備を取り崩さずに賄える点が大きく、これにより、中央銀行の外貨準備を維持しつつ、IMFとの協定で定められた準備金積み増し目標を達成しやすくなる。外貨準備は通貨防衛や輸入決済に不可欠であり、これを減らさずに債務を処理できることは市場に安心感を与える。

 

中長期的な影響としては、今回のオークションで強い需要が確認されれば、国のリスクプレミアムが低下し、今後の資金調達コストが下がる可能性がある。これは企業や政府の借り入れ条件改善につながり、投資環境の安定化を促す。

 

ただし、根本的な財政問題は解決しておらず、リスクも残る。今回の債券発行はアルゼンチンにとって「信用回復の試金石」であり、持続的な改善には財政黒字の維持、インフレ抑制、構造改革の実行が不可欠である。

[欧州/米国] 

12月4日に米国が発表した国家安全保障戦略における欧州に関する批判的な記述をめぐって欧州からの反発が相次いでいる。

 

今次戦略における欧州に対する批判は非常に辛辣かつ多岐にわたっており、最も深刻な批判は、欧州が「文明的な消滅(civilizational erasure)」の危機に瀕しているという指摘であり、文明としての自信(civilizational self-confidence)や西側としてのアイデンティティ、そして国民的アイデンティティを喪失しつつあるとされている。また、現在の欧州政治は「エリート主導」であり、欧州各国政府が極右などの「愛国的な政党」を不当に弾圧していると非難し、米国はこれらの政党と協力して欧州の「軌道修正」を支援するともいえる内容に言及している。さらに、過剰な規制と誤ったエネルギー政策が経済的停滞を招いているとの指摘もなされている。

 

今次戦略においては、ウクライナ侵略を続けるロシアへの批判は乏しく、ロシア政府はこの文書を「自国の見解とおおむね一致する」と歓迎するに至っている。

 

欧州各国からは、米国がもはや欧州やウクライナの側に立っていないとし、米国が価値観を共有するパートナーではなくなったとの声がさらに強まっている一方で、多くの欧州政府首脳は、トランプ大統領を刺激して経済・安全保障上の報復を受けることを恐れ、声高な批判は控える姿勢が目立つ。

 

EUのカッラス上級代表は、米国の批判的なトーンを認めつつも、「米国は依然として最大の同盟国」であると強調し、中国やロシアといった共通の脅威に対して団結すべきだと訴えている。

[インド/ロシア] 

ロシアのプーチン大統領は12月4日から5日にかけて訪印し、モディ首相との間で第23回インド・ロシア年次会談を実施した。プーチン大統領の訪印は4年ぶりで、ウクライナ侵攻後で初めて。

 

本会談では主に(1)原子力発電を含むエネルギー分野での協力促進、(2)兵器の共同開発促進、(3)ユーラシア経済連合(EAEU)とのFTA締結を含めたモノ・サービス貿易の拡大や物流インフラ整備、に関して協議された。

 

原油の購入に関し、プーチン氏は会談後の記者会見の中で「ロシアは今後もインドにエネルギーを供給する」と発言。これに対しインド側は共同声明の中で原油の購入に関しては明記しなかったものの、両国企業が石油・石油化学製品に加え石油精製技術の開発などの分野で今後協力を進めると発表した 。また原子力発電所にかかる機材の共同開発・生産を促進すると発表した。

 

兵器に関し、会談前に一部報道にて予想されていたロシア製地対空ミサイルS400の追加供与や最新鋭戦闘機Su-57の供与に関する合意は公表されなかった一方、共同声明の中で装備品の共同開発や、製造業振興キャンペーン「メイク・イン・インディア」の下でのインド国内での装備品にかかる部品の製造や第三国向け輸出も視野に入れた共同生産を進めると公表した 。

 

なおブルームバーグ通信が12月4日、インド政府がロシア側から原子力潜水艦をリースするために約20億ドルを支払うと報じたが、インド政府側は本報道を否定している。

 

貿易に関し、共同声明の中で2030年までに経済協力を促進することを目指すロードマップ「プログラム2030」を採択することを確認したほか、ロシア以外にアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスが加盟するEAEUとインドとのFTA締結交渉を進めることを確認した。物流面にて本取り組みを促進すべく、イラン・アゼルバイジャン等を経由しムンバイ-モスクワ間を結ぶ南北輸送回廊やチェンナイ・ウラジオストク回廊、北極海航路などの物流インフラ整備で協力を深めることを確認した。

[フランス/中国] 

フランスのマクロン大統領は、中国を訪問中に、欧州と中国の経済関係が「危機の最終局面」に近づいているとの強い危機感を示した。背景には、EUの対中貿易赤字が急拡大し、欧州産業が中国の過剰生産に押しつぶされつつあるという構造問題がある。マクロンは習近平国家主席との会談で、中国の巨額貿易黒字は「欧州市場という顧客を殺しつつあり、持続不可能だ」と警告し、改善がなければ米国にならって欧州も関税措置を取らざるを得ないと発言した。これは、欧州の製造業が「中国の超競争力と米国の保護主義に挟まれ、生死の局面にある」との認識に基づく。

 

同時にマクロン氏は、中国との関係でバランスを取るため「相互の攻撃的政策の解除」も提案した。欧州側が半導体製造装置の輸出規制を緩め、中国側はレアアース輸出制限を見直すという案である。また、かつて欧州企業が中国に投資して産業高度化に貢献したように、中国企業も欧州に工場を築き「雇用と付加価値を戻すべきだ」と強調した。ただし覇権的・依存を生む投資には警戒を示し、欧州が戦略産業の保護を強化する姿勢も明確にした。

 

マクロン大統領の警告の背景には、中国経済モデルが世界に及ぼす影響の質的変化がある。中国は内需拡大よりも輸出主導を優先し、生産能力の過剰を海外市場に押し出す形で成長を維持している。ゴールドマン・サックスの分析によれば、かつて中国経済の成長は世界経済を押し上げる効果があったが、現在は「中国が1%成長すると世界の成長率を0.1ポイント押し下げる」負の相関に転じている。安価な中国製品の大量流入は、欧州だけでなく日本、韓国、メキシコなどの中間財・自動車産業を直接的に侵食し、各国の投資サイクルを弱め、産業空洞化を加速させている。さらに、中国は製造業支配力を外交安全保障のレバレッジにも活用している。

 

マクロン大統領は2026年G7議長国として、この「世界経済の歪み」を多国間議題の中心に据える準備をしている。

[米国] 

12月3~5日、米通商代表部(USTR)は米墨加協定(USMCA)の再検討会議に向けた公聴会を開催した。USMCAは2020年7月、トランプ政権一期目に発効した北米3か国間の自由貿易協定。1994年来、米墨加間の自由貿易の基盤となっていた北米自由貿易協定(NAFTA)に代わって、交渉・締結されたもの。3日間に及んだ公聴会では、企業、労働組合、業界団体など100を超える団体等の参加があり、また、書面では1,500以上の意見表明があったもよう。各々の立場に応じて、協定の修正希望などが出されたが、参加者はおおむねUSMCAの存続を求め、その見直しや打ち切りによって大きな混乱が生じることを懸念していることが改めて明らかになった。USMCAは、発効から16年後に終了することになっているが、6年目にレビュー作業を行い、参加3か国の同意があれば、協定を存続させることも可能な仕組みとなっている。トランプ政権からは、2026年7月1日のUSMCA再検討会議に際して、同協定を米墨、米加の二国間協定に切り分ける案や、USMCAからの米国脱退の可能性などへの示唆も出てきている。

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