デイリー・アップデート

2026年3月13日 (金)

[中国/民族団結進歩促進法] 

3月12日に閉幕した中国の全国人民代表大会(全人代)で、「民族団結進歩促進法」が可決された。これにより、習近平政権が進めてきた少数民族の同化政策が、包括的な法律として制度化されることになった。同法は、教育、住宅、文化、移住、メディアなど社会の幅広い分野に適用され、政府だけでなく、企業や保護者を含む社会全体に「民族団結」を推進する責任を課す内容となっている。

 

中国には漢族を含む56の民族が存在するが、法律の目的は、人口の9割以上を占める漢族文化を軸とした共通の国家アイデンティティを形成することにある。具体的には、学校教育や公的な場面で標準中国語(普通話)を基本言語とすること、国家が定めた歴史観・文化観・宗教観を広めること、保護者が未成年に中国共産党と祖国への愛を教えることなどが規定された。さらに、民族間の交流や混住を促進し、民族や宗教を理由に結婚を妨げる行為を禁じるなど、民族融合を後押しする措置も盛り込まれている。

 

新疆やチベットでは、宗教活動や民族言語の使用を制限し、政治教育や監視体制を強化するなど、強硬な統治がすでに進められてきた。専門家の中には、この法律がこうした政策を全国レベルで制度化するものであり、従来掲げられてきた民族自治の理念からの後退を象徴する措置だと指摘する声もある。

 

中国政府は同法について、各民族の文化を尊重しつつ、国家の統一と現代化を促進するものだと説明している。しかし、一部の研究者や人権団体からは、少数民族の言語や宗教、文化的アイデンティティを弱め、漢族中心の国家観を強化する同化政策だとの批判が出ている。また、法律には、民族分裂を助長したとみなされる国内外の個人や団体を処罰できる規定も含まれており、海外に対する法的圧力の拡大につながる可能性も指摘されている。例えば台湾当局は、この法律が対台湾政策や、いわゆる「法律戦」に利用される可能性に警戒感を示している。

[ブラジル/ディーゼル減税] 

政府は、イラン情勢を背景とした燃料価格の急上昇を和らげるため、連邦税のディーゼル課税をゼロに引き下げ、生産者および輸入業者に対する補助金を新設し、原油輸出税の引き上げを実施した。また、国家石油・天然ガス・バイオ燃料庁が市場監視の透明性と執行力を強化する方針も打ち出した。

 

今回の政府対応は、ブラジルが純石油輸出国という立場を背景に、財政の安定を損なわずに燃料価格上昇を緩和しようとしている。税免除は約200億レアル、補助金は約100億レアルと見積もられるが、これらは3月12日から施行される原油輸出税12%によって相殺される見込みとなっている。国際価格の高騰で得られる超過利益の一部を国内に取り込むとともに、生産者が国内精製を選ぶインセンティブが働くため、輸出偏重になりつつある石油産業のバランスを調整することも狙う。

 

ブラジル政府がディーゼル価格への介入を急いだのは、イラン情勢の激化による国際原油価格の急騰が、国内の物流や農業を直撃し、短期間で深刻なインフレ圧力を生む可能性が高まったためである。税務計画研究所によれば、3月最初の8日間で一般ディーゼル価格は8.7%上昇した。ブラジルは作物の収穫・輸送の大半をディーゼルに依存しており、国内物価の急激な上昇につながることは避けられない状況だった。迅速な対応は政治的ダメージの抑制につながるとみられ、最近低下傾向にあるルーラ大統領の支持率への影響も意識されたと考えられる。

 

一方で、これらの措置は基本的に一時的であるものの、イラン情勢が長期化すれば延長される可能性が高い。ディーゼル価格の上昇が続く場合には、補助金拡大や輸出税率のさらなる引き上げが検討される可能性があり、石油産業に対する規制リスクは一段と高まる。

 

また、石油輸出税は一時的措置と位置付けられているにもかかわらず、業界側には恒久的な税制変更につながるのではないかという懸念が根強い。政府は今回の措置が世界的危機による短期的ショックに対応するためのもので、2026年末に期限切れになると説明しているが、石油企業は税制の不確実性が投資判断を阻害すると主張している。

 

ディーゼル輸入依存度を下げる手段として、バイオディーゼルの混合比率引き上げも議論されている。農業ビジネス界は、現在の15%(B15)から16%(B16)への早期引き上げを主張しているが、即効性は乏しい。

[米国/雇用の底堅さ] 

労働省によると、3月7日までの1週間の新規失業保険申請件数は21.3万件(▲0.1万件)だった。 減少は3週間ぶりで、ここ3週間は21.3~21.4万件のレンジを推移しており、安定している。また、2月28日までの週の継続受給者数は185.0万人(▲2.1万人)であり、2週ぶりに減少した。2025年始めから180万人台で推移しており、これも今のところ大きな変化を見せていない。

 

その一方で、先週発表された雇用統計では、2月の非農業部門雇用者数が前月比▲9.2万人と、予想外に減少していた。寒波のような天候要因などがあったことは事実であるものの、新規失業保険申請件数とはやや異なる結果になっていた。また、足元にかけて、米企業からは人員削減計画が相次いで発表されており、雇用環境に下押し圧力がかかりやすい。

 

エネルギー価格の上昇に伴う物価上昇率の高止まり、それによる需要減をきっかけとした景気減速などから今後の雇用環境の悪化も懸念される中で、週次ベースで発表される新規失業保険申請件数の動向が注目される。

[米国・アイルランド/肥料市場] 

ホルムズ海峡の航行が困難になったことで、世界の肥料、特に窒素系の尿素・アンモニアの海上取引の約1/3が直接の影響を受けている。農産物の春植えの適用時期に重なり、世界的な価格急騰と供給遅延が発生している。米国やブラジル、南・東南アジアの需要期と重なっているため世界的な悪影響が危惧される。窒素系は天然ガス依存のため、LNG供給混乱がコストを増幅している。尿素・アンモニア・硫黄・リン酸などの原料・製品双方に影響している上、タンカーの保険(戦争リスク)打ち切りで積み荷の流動性の悪化を招いている。足もとの尿素価格は過去1か月で約30%上昇との指摘もある。パンデミック以降の高値はロシアによるウクライナ侵攻によるもので、まだその水準には達していないが、航行困難が続くと、近々この高値を 抜いていくことも懸念される。

 

2月末に440ドル/ショートトンで取引されていた米国湾岸地域の尿素のスポット価格は、足元では570ドルまで上昇しており、騰勢を強めている。高値は2022年の910ドルだが、航行困難の長期化見通しが強まると、この水準が見えてきそうだ。なお、この時期のコーンは6ドル/ブッシェルで取引されていたものが、侵攻をきっかけに8ドルまで上昇している。また、欧州に目を向けると、アイルランドでは1月時点で肥料価格が前年同月比+11.6%と上昇基調にあったが、ホルムズ混乱とエネルギー価格の急騰で、原料や製品でも価格の一段高が懸念されている。今春の農業コスト上昇が不可避との論調が主流で、硝酸アンモニウム石灰など窒素系の上げが既に生じているとの報告もある。対応としては、これまでの危機時のように在庫積み増し、商品の引き取りの前倒しとなるだろう。また、可能な限りの供給先の分散も推奨されているが、供給元によってはそれも限られる。やはり、早期の事態収拾が最も有効な解決策となる。

[独BMWの売上] 

3月12日、独高級車?メーカーBMWは2025年通期の純利益が前年比▲3%の74億5,000万ユーロとなったと発表。貿易障壁が中核の自動車事業を圧迫する中、3年連続の利益減となる。

 

一方、同社は米国の自動車関税や中国市場での低迷にもかかわらず、販売台数を0.5%増加させ、合計約250万台を達成させることができたとのこと。同じく独高級車メーカーでは、メルセデスベンツの販売は220万台未満に落ち込んでおり、アウディも販売台数が170万台に満たず、BMWは低迷に悩む自動車業界の中では比較的危機にうまく対応している形となった。報道等によれば、内燃機関車、プラグインハイブリッド車、電気自動車を単一ラインで生産し、市場の需要変動に柔軟に対応できる仕組みを取っていることが功を奏しているとのこと。

 

欧州市場での販売台数は+7.3%となったが、主要な市場である中国での売上は12.5%減少した。

[イラン/新最高指導者初声明] 

3月12日、イランの新たな最高指導者に就任したモジタバ・ハメネイ師が、就任後初めての声明を発表した。声明は国営プレスTVでニュースキャスターによって読み上げられたが、本人の映像や音声は公開されず、ハメネイ師は依然として公の場に姿を見せていない。このため、戦争中に負傷あるいは死亡したのではないかという噂を完全に払拭するには至っていない。ハメネイ師は3月9日に後継者として選出されたと公表されたが、それ以降も写真や映像は一切公開されていない。

 

声明では、国民に団結を呼びかけるとともに、ホルムズ海峡の封鎖を継続して敵国に圧力をかけると強調した。ホルムズ海峡は世界のエネルギー輸送にとって極めて重要な海域であり、その封鎖を「戦争の圧力手段として使う」と明言したことは、米国との対決姿勢を強く示すものとなった。さらに米国に対しては、中東地域にあるすべての米軍基地の即時閉鎖を要求し、従わなければ攻撃対象になると警告した。一方で、周辺国との友好関係を重視すると述べつつ、アラブ諸国にある米軍基地への攻撃は今後も続けると強調した。

 

声明ではまた、戦闘に参加する「抵抗戦線」の戦士たちを称賛し、戦争で命を落とした人々への哀悼を示した。父である前最高指導者ハメネイ師の「殉教」にも触れ、自身も家族を失ったと語りながら復讐を誓った。特に南部ホルムズガン州で女子小学校がミサイル攻撃を受け、多くの児童が死亡した事件について言及し、敵に対する報復を強く訴えた。この攻撃は米軍の誤爆との見方も出ている。

 

イラン国内では革命防衛隊の影響力が強まっているとの見方もあり、モジタバ師を象徴的な指導者として担ぎ上げ、体制を主導しようとしているという指摘も出ている。さらにイスラエルは新指導者も暗殺の標的になり得ると警告しており、イエメンやイラクの親イラン武装組織がイランへの支援を表明するなど、地域情勢は一層緊張を高めている。

[イスラエル・ソマリランド/フーシ派対策] 

イスラエルがソマリア国内の国連未承認国家・ソマリランドで軍事基地の建設を計画していると、米Bloomberg等複数のメディアが報じている。

 

紅海とインド洋を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡は、世界の貿易量の約2割を占める海上物流の要衝であり、ソマリランドはその出口に位置している。ソマリランドからアデン湾を挟んで対岸にあるイエメンの反政府勢力・フーシ派は、イランとの連帯を示し、2023年のイスラエルによるガザ侵攻以降、イスラエル本国やイスラエル船籍に対するミサイル・ドローン攻撃を行ってきた。2月28日に開始された米・イスラエルによるイランへの軍事作戦以降、イランのほかヒズボラなど親イラン勢力が反撃を強める中で、イスラエルはフーシ派による南部からの攻撃への対策を強化するために基地建設を本格的に検討しているとの見方が多い。

 

イスラエルのソマリランド内の基地建設候補地の一つは、ベルベラ港から約100km離れた高台とみられている(3月12日付、英Middle East Eye)。同港はアラブ首長国連邦(UAE)のDPワールドが港湾を運営しており、UAEの軍事滑走路もある。仮にイスラエルが軍事基地を設置すれば、イスラエル~イエメン間が1,700km程度あるのに対し、ソマリランド~イエメンは最短で240kmと近いことから、イスラエルはより効率的にフーシ派に対する攻撃を行えるようになる。

 

米・イスラエル軍の合同作戦実施以前からイスラエルはソマリランドの地政学的重要性を認識しており、2025年12月26日にソマリランドを国連加盟国としてはじめて国家承認した。ソマリアをはじめアフリカ諸国やトルコ、サウジアラビアなど中東諸国の多くはこのイスラエルの承認を「国家主権の侵害」だと非難している。しかし、UAEは、ソマリランドから得られる戦略的利益から、イスラエルによる国家承認を非公式に支援しているとみられている。こうした動きも受けて、ソマリアは1月にUAEと事実上の断交を決定。ソマリアは、イスラエルによるソマリランドの軍事基地設置の報道に対しても、「自国領土が軍事作戦の拠点として利用されることを許さない」とイスラエル・ソマリランド双方を警告している(3月12日付、Al Jazeera)。また、このイスラエルのソマリランドへの接近は、イスラエルの元首相がトルコを「新たなイラン」としてイスラエルの脅威であると示す中、ソマリアで大きな軍事・経済プレゼンスを有するトルコの影響力拡大をけん制するためとの見方もある(3月11日付、米Bloomberg)。

 

一方で、フーシ派は2月28日の開戦以降、イスラエルや湾岸諸国への攻撃を行っていない。これに関してはさまざまな見方があるが、一つには米・イスラエルがイランへの攻撃を続けている中、フーシ派が報復の標的になることを避けようとしているという見方。もう一つは、イランがフーシ派という「切り札」を「温存」しようとしているという見方だ。Al Jazeeraはフーシ派のドローン・ミサイルによるイスラエル・湾岸諸国への攻撃能力は、紛争後期の段階でこれらの国々での防空システムが不足する事態に直面した場合に、より大きな効果を発するとの見方を示している(3月7日)。

 

フーシ派のほか、フーシ派と連携するソマリアのアルカイダ系武装組織・アルシャバブとソマリアのイスラム国(ISIS)は、イスラエルがソマリランドに軍事基地を有すれば攻撃対象となると威嚇している。また、ソマリランドに国境を接するジブチの米軍基地も標的となる恐れがある。世界のエネルギーの約2割が通行するホルムズ海峡の事実上の閉鎖が続く中、迂回路としての重要性も持つバブ・エル・マンデブ海峡周辺で軍事衝突が拡大すれば、世界的な物流の混乱がさらに悪化しかねない。

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