デイリー・アップデート

2025年11月4日 (火)

[チェコ] 

11月3日、2025年10月の総選挙で第1党になった、バビシュ前首相率いるポピュリスト政党「ANO2011」は右翼政党など2党との連立協定に署名した。ANOとの連立政権樹立で合意したのは、極右の「自由と直接民主主義(SPD)」と右派の新政党「モタリスト」。SPDは反移民で日系のトミオ・オカムラ氏が率いる。3党での獲得議席は108議席となり、過半数(100)を上回る。3党はEUや北大西洋条約機構(NATO)からの離脱については、政策テーマにしないことで合意した。

 

バビシュ氏が首相に再任され、閣僚人事案などを詰め、2025年12月中旬までの新政権発足を目指している。SPDが国防相、モタリストが外相のポストをそれぞれ獲得する見込みである。 バビシュ氏は食品、肥料会社などを傘下に持つ企業グループを率いる富豪で『チェコのトランプ』とも呼ばれる。フィアラ首相率いる現政権によるウクライナへの積極支援や、防衛関連支出を国内総生産比5%に増やす方針を批判しており、新政権で見直す可能性がある。

[米国/中国] 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、10月末に韓国で実施された米中首脳会談の直前、米国政権内で行われていたエヌビディアの最新AIチップ「ブラックウェル」の対中輸出をめぐる攻防について報じている。

 

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、中国市場を維持するため、トランプ大統領に対して輸出許可の発出を個人的に働きかけていた。トランプ氏も、性能を落としたブラックウェルの輸出には前向きな姿勢を示していたが、ルビオ国務長官、グリア通商代表、ルトニック商務長官らが「国家安全保障上の重大なリスク」として、首脳会談直前に強く反対したという。彼らは、中国のAIデータセンター能力が飛躍的に向上することで、米国の技術的優位が損なわれると警告した。また、米政府はすでにレアアース磁石をめぐって中国側への譲歩を検討していたため、半導体分野でさらに譲歩することには政権幹部の大半が反対した。その結果、トランプ氏は首脳会談の場でこの件を議題にせず、ルビオ氏ら強硬派が勝利した形となった。

 

ホワイトハウスは「決定の基準は常に米国民の利益」と説明し、トランプ氏は会談後に「最先端チップは他国には渡さない」と発言したものの、性能を30~50%落とした中国向けバージョンの輸出には含みを残した。

 

一方、エヌビディアのフアン氏は、依然としてトランプ大統領と連絡を取り続けており、来年(2026年)4月に予定されているトランプ氏の訪中までに、引き続き働きかけを行うとみられている。議会やシンクタンクでは、フアン氏の姿勢に対し「冷戦時の核競争でソ連の勝利を容認するようなもの」との批判の声も上がっており、エヌビディアに対する圧力は今後も続く見通しだ。

[パレスチナ] 

パレスチナ政策調査研究センターは、10月22日から25日にかけて、ガザおよびヨルダン川西岸のパレスチナ人1,200人を対象に対面式インタビューによる新たな世論調査を実施した。同調査によると、過半数(50%超)のパレスチナ人が、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃について、「ハマスは正しい判断をした」と考えていることが明らかになった。また、パレスチナ人の70%(ヨルダン川西岸では80%)がハマスの武装解除に反対していることも分かった。さらに、回答者の過半数(53%)が「二国家解決案」に反対しており、その主な理由として、イスラエルの入植地拡大と和平案実現への期待の低さが挙げられている。

 

停戦開始から1年以内にパレスチナで大統領および議会選挙を実施すべきと答えた割合は65%に上ったが、一方で60%は「パレスチナ自治政府が本気で選挙をするとは思わない」と回答した。アッバス大統領の辞任を求める声は80%に達しており、仮に大統領選がアッバス大統領、ハマス指導者ハーリッド・メシャアル、そしてイスラエルの刑務所で終身刑に服しているマルワン・バルグーティの三者で争われた場合、バルグーティが49%の支持を得る一方、アッバス大統領への支持はわずか13%にとどまるという結果となった。

 

地域アクターへの支持率では、イエメンのフーシ派が74%と最も高く、次いでカタール(52%)、ヒズボラ(50%)、イラン(44%)の順となった。国際的なアクターの行動に対する評価では、中国が最も高い満足度(34%)を得ており、次いでロシア(25%)、米国はわずか6%と低評価だった。

 

パレスチナ自治政府が優先的に取り組むべき課題として、回答率が高かったのは「ハマスを含む大統領・議会選挙の実施」「ハマスを含む国民統一政府の樹立」「ハマスとの即時和解の確保」であった。これらの結果から、パレスチナ社会では将来の国家形成においてハマスを含めた包括的な統治体制を重視する傾向がみられる。しかし、これはイスラエルや国際社会の方針とは相容れず、今後のパレスチナの政治的な行方は依然として不透明で、多難な道のりが予想される。

[ユーロ圏] 

EU統計局(Eurostat)によると、10月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は前年同月比+2.1%だった。上昇率は9月(+2.2%)から縮小した。6~8月の上昇率は2.0%と、ECBの中期目標と一致していた。食品・エネルギーを除くコア指数は+2.4%であり、9月と同じだった。ここ半年2.3~2.4%であり、安定している。

 

内訳を見ると、食品(+2.5%)は9月(+3.0%)から上昇率を縮小させ、3月以来となる3%割れになった。エネルギー(▲1.0%)は、9月(▲0.4%)からマイナス幅を拡大させた。8か月連続のマイナスであり、物価に下押し圧力をかけている。エネルギー以外の財(+0.6%)は9月(+0.8%)から縮小した一方で、サービス(+3.4%)は9月(+3.2%)から拡大している。引き続き食品とサービスが物価のけん引役になっている。

 

また、国別に消費者物価指数の上昇率を見ると、キプロス(+0.3%)やフランス(+0.9%)が1%を下回った。その一方で、エストニア(+4.5%)やラトビア(+4.2%)、クロアチア(+4.0%)、オーストリア(+4.0%)は4%を上回っており、域内の差は大きい。主要国では、イタリアは1.3%、ドイツは2.3%、スペインは3.2%とばらつきが目立った。

 

ECBは10/30の理事会で3会合連続となる政策金利の据え置きを決定した。市場では、今回の利下げ局面の終了が意識されている。10月の消費者物価指数の発表を受けて、次回12月の会合でも政策金利が据え置かれるという見方が強まった。

[英国] 

11月26日に予定されているイギリスの予算案は、成長促進を主軸としつつ、増税と歳出削減の方策も盛り込まれる見通しとなっている。リーブス財務相は、国民の所得向上と公共サービスの改善を両立させるため、強い経済成長を目指す姿勢を示した。また、外的ショックに備えて100億ポンド(約13.1億ドル)以上の資金を確保する意向も表明している。

 

しかし、予算責任局(OBR)による生産性予測の下方修正を受け、政府は生産性向上策を模索しているものの、財政規律や高水準の政府債務、利払い負担が資金調達の制約となっており、短期的には成長を抑制し、長期的な財政健全化にも大きな改善をもたらさない可能性が高い。

 

経済成長率は依然として低調であり、国際通貨基金(IMF)は2025年と2026年の成長率をともに1.3%と予測している。これはほかの欧州主要国よりは高いが、イギリスの輸出の多くが欧州連合(EU)向けであるため、EUの成長鈍化はイギリス経済にも悪影響を及ぼす。

 

根本的な課題は生産性の低さにある。2008?2009年以降、個人所得の伸びが抑制されてきた背景には、イギリスの生産性が歴史的に低水準であることがある。リーブス財務相は、住宅建設やインフラ整備を促進するための都市計画制度改革などを打ち出している。

 

政府債務はGDPの約100%に達しており、利払いも増加している。政府は2030年までに歳出を歳入で賄うこと、借入は投資目的に限定するというルールを設けている。これにより、新規プロジェクトへの資金投入は制限されている。

 

金融政策面では、インフレ率が2026年まで目標を上回る見通しであるため、金利引き下げによる景気刺激策は限定的となる。 歳入減と借入増、生産性予測の悪化にもかかわらず、所得税、国民保険料(NIC)、付加価値税(VAT)の引き上げを行わないという労働党のマニフェスト公約が足かせとなっているが、これを破棄する可能性も出てきている。今後は高所得者向けの年金税制優遇措置の見直しなども検討される。

 

2024年に労働党が政権を獲得した際には、「経済改革による成長の再始動と10年の再生」を掲げていたが、現在ではその楽観的な期待は薄れつつある。

[ブラジル] 

ルーラ大統領は、リオデジャネイロでの治安作戦を受け、犯罪対策の方針を見直す動きを見せた。10月31日、大統領は組織犯罪への関与に対する罰則を強化する法案を議会に提出した。この法案は、犯罪組織の構成員に対する法的責任を厳格化することを目的としている。

 

世論調査によると、リオ州全体で64%、市内では68%、低所得層でも58%が警察の作戦を支持しており、武力行使に対しても一定の支持が見られる。これにより、ルーラ政権は治安対策の強化を迫られる形となった。また、カストロ州知事の支持率は8月の43%から10ポイント上昇し、53%に達した。

 

ルーラ政権は当初、警察の過剰な武力行使を批判していたが、世論の圧力を受けて方針を転換し、反派閥法案の提出に踏み切った。また、連邦政府の治安調整機能を強化する憲法改正案(PEC 18/2025)も検討されたが、州知事らは州の治安権限が連邦に移ることを懸念し、強く反対している。

 

現在、ルーラ大統領の支持率は49%であり、再選に向けて一定の優位性を保っている。ただし、安全保障は依然として有権者の最大の関心事であり、最も重要な課題とされている。

[米国/ナイジェリア] 

11月2日、トランプ大統領は自身のソーシャル・メディア「Truth Social」において、「ナイジェリア政府がキリスト教徒の迫害を続けるのであれば、あらゆる援助と支援を停止する」と発言し、さらに「イスラム系過激派組織を殲滅(せんめつ)するために、”銃を乱射する(guns-a-blazing)”」と述べ、戦争省(国防総省)に対してあらゆる行動の可能性を検討するよう命じた。

 

ナイジェリアでは北東部を中心にイスラム系過激派組織の「ボコ・ハラム」とその分派である「イスラム国西アフリカ州(ISWAP)」による民間人の襲撃が続いている。また、北西部から中央部にかけては、「バンディット」と呼ばれる遊牧民でイスラム教徒が多いフラニ族の過激派グループが、主に農耕民でキリスト教徒のハウサ族(注)を襲撃するなど、治安悪化が拡大している。

 

こうした状況から、トランプ氏の米国内の支持基盤である、キリスト教福音派(Evangelicalism)支持者や保守系・共和党員が、ナイジェリア国内のキリスト教徒保護のためにトランプ政権に強いロビイング活動を行っている。トランプ氏による投稿の2日前には、米国務省が「深刻な宗教的な侵害」に関与しているとしてナイジェリアを「特に懸念すべき国(country of particular concern:CPC)」に指定したばかりだった。CPCにはほかに中国やミャンマーなどが含まれる。サブサハラ・アフリカで指定を受けている国はナイジェリアのほかにソマリアだけだ。トランプ氏は第1期政権時にもナイジェリアをCPCに指定したが、前バイデン政権で除外されていた。トランプ氏はナイジェリアでキリスト教徒が迫害されている証拠を示していないが、先に「白人が虐殺されている」として援助を停止し、30%の相互関税を課した南アフリカへの対応との類似点を指摘する声もある。

 

トランプ氏の投稿を受けて、ナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領(イスラム教徒)は、自身のX(旧ツイッター)アカウント上で、「宗教の自由と寛容は、ナイジェリア国民の集団的アイデンティティの中核をなす原則であり、ナイジェリアを宗教的に不寛容とすることは、ナイジェリアの実情を反映していない」と反論。そのうえで、信仰の保護のために米国との協力を深化させていきたいと述べ、米国との摩擦を回避する発言を行った。ナイジェリア政府も別途、「暴力的な過激主義との戦いを継続することを誓約し、米国が緊密な同盟国であり続けることを望む」と表明した。

 

人口2億3,000万強と、アフリカ最大の人口を有するナイジェリアは、イスラム教徒が人口の53%、キリスト教徒が46%(英・庶民院、2023年)とほぼ半々に分かれている。イスラム教徒は主に北部に、キリスト教徒は主に南部に多く居住している。イスラム系過激派組織は主に北部で活動していることから、実際に襲撃にあっている民間人は、キリスト教徒よりもイスラム教徒の方が圧倒的に多いと指摘する声が多い。米・危機監視団体「ACLED」の調査によれば、2025年にナイジェリアで発生した民間人に対する攻撃1,923件のうち、キリスト教徒を標的としたものは50件に留まるとのこと(11月2日付、アル・ジャジーラ紙)。こうした状況でのトランプ氏の発言は、米国内の支持者層へのアピールであるとともに、ナイジェリア南東部でかつて独立紛争(ビアフラ戦争)を行って敗れたイボ族(キリスト教徒が大半)が、国内でのキリスト教徒発言強化のためにワシントンでロビイングを行っているとの見方がある(11月2日付、英FT紙)。

 

ナイジェリアでは、大統領と副大統領はそれぞれ片方をイスラム教、もう片方をキリスト教とし、どちらかは北部出身、もう片方は南部出身として、それを大統領選ごとに交替で入れ替える「不文律」がある。2023年の大統領選で勝利した南部出身のイスラム教徒であるティヌブ大統領(ヨルバ族)はこの不文律を破り、副大統領に北部出身のイスラム教徒(ハウサ族)を指名。これは「ムスリム・ムスリムチケット」と呼ばれ、国内のキリスト教徒からの反発が強まっていたこともトランプ氏へのロビー活動に影響した可能性がある。

 

なお、ナイジェリアのサハラ・レポーターズ紙等によると、11月4日にティヌブ大統領が米国を訪問し、トランプ大統領と会談を行う方向で調整しているとのこと。同会談が実現すれば、初の両者による首脳会談となる。ティヌブ大統領はかねてから米政権に距離を置いており、フランス政府との関係緊密化を図ってきたとの見方もある(11月3日付、Africa Report紙)。しかし、仮に米国がイスラム系過激派組織への攻撃のために陸上作戦や空爆に踏み切ったとしても、隣国ニジェールの約1,000人の駐留兵が2024年に撤退した中、ジブチの米軍基地からの作戦実施は現実的に困難であるとの見方が多い(11月2日付、米・The Wall Street Journal紙)

 

(注)ナイジェリア国内には約200の民族が存在するが、北部のハウサ族(遊牧民のフラニ族とも同化が進んでいる。主にイスラム教徒だがキリスト教徒も少なくない)、南東部のイボ族(主にキリスト教徒)、南西部のヨルバ族(主にキリスト教徒)の3つに大別される。南西部のヨルバ族でイスラム教徒のティヌブ大統領が大統領選で勝利するためには、北部でも大規模な支持を得ることが不可欠。そのため従来のセオリーとしては北部のキリスト教徒を副大統領候補に指名するところ、結果的に北部で人口の多いイスラム教徒を指名したと広くみられている。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。

30人が「いいね!」と言っています。