デイリー・アップデート

2025年10月14日 (火)

[米国/中国] 

一時的に緩和に向かっているとみられてきた米中間の対立は険しくなっている。10月14日から米国は中国船舶から、中国は米国関連船舶から入港料を徴収する。また、中国はレアアースの管理対象を拡大するなど輸出規制をさらに厳格化し、トランプ政権は関税を引き上げる方針を示している。

 

対立が先鋭化するなか、米CBSは中国系企業による米軍基地周辺の重要地域で土地取得を国家安全保障上の懸念として報じている。元国家安全保障担当官デイビッド・フェイスは『60ミニッツ』のインタビューで潜在的なリスクを以下のように説明した。「広大な土地、特に米軍の重要施設や政府機関に近い土地を所有する能力は、現代技術の性質上、非常に大きな問題を引き起こし得る。世界中の敵対勢力が、土地や建物・倉庫へのアクセス、あるいはコンテナ数個へのアクセスさえも容易に悪用し、諜報面でも軍事面でも甚大な損害を与え得る」

 

具体例としてウクライナによるロシアへの最近のドローン攻撃を挙げた。6月、ウクライナ軍は密輸した遠隔操作ドローンでロシアの核搭載可能な爆撃機を攻撃した。また、フェイス氏は、中国が米国農地を所有することは、米国の地政学的ライバルに潜在的な攻撃の余地を拡大させるという。

 

実際、こうした懸念を背景に、2023年、ノースダコタ州では中国企業によるグランドフォークス空軍基地近くの工場建設を阻止しているという。こうした農地問題に加え、中国系資本による米国内の仮想通貨マイニング事業への懸念も高まっていると同氏は指摘している。

 

いわゆる「仮想通貨採掘場」は巨大データセンターである。2024年5月にバイデン大統領は中国系企業がワイオミング州に所有する不動産の売却と、同地での仮想通貨マイニング事業の撤去を命じた。この決定は国家安全保障上の懸念に基づくもので、同施設は空軍基地の近くに位置しているからだとしている。中国法では企業に政府への協力を義務付けているため、米国で事業を行う中国企業が民間企業としての独立性を主張するだけでは不十分だと主張している。

[マダガスカル] 

10月13日、アンドリー・ラジョエリナ大統領は、自身のFacebook上で、自身に対する「暗殺計画」があったため「安全な場所に身を隠している」と述べた。ラジョエリナ氏は身を隠している場所については明言を避けた。9月25日から続いている反政府デモ(2025年10月6日デイリー・アップデート参照)を解決する方法は、「憲法を尊重することだ」と述べ、大統領職の辞任を拒んだ。

 

電力・水道供給の問題や、長引く生活苦を原因としたZ世代を中心とする反政府抗議デモは、ラジョエリナ大統領に対する退陣要求へと発展。10月11日にはデモ開始以降最大となる数千人規模の抗議者が首都アンタナナリボの中心部に集結した。治安当局が抗議デモを催涙ガスなどで抑え込もうとする中、突如、軍の特殊精鋭部隊「CAPSAT」がデモ隊に参加。マダガスカルのクーデターの象徴となる5月13日広場までのデモ隊の行進を護送した。CAPSATは2009年にラジョエリナ大統領がクーデターを率いた際に協力した部隊だが、今回はそのラジョエリナ大統領に対するクーデターを支援した形だ。

 

翌10月12日早朝、CAPSATは「マダガスカルの陸海空・全軍を掌握した」と発表。CAPSATのピクラス将軍を新たな軍最高責任者(陸軍参謀)とする就任式の動画をFacebook上で放映し、ラコトアリヴェロ国防相もそれを承認した様子が映し出された。

 

大統領府は声明で「権力の奪取(クーデター)」が行われようとしている」とCAPSATの動きを強く非難。そのうえで、「ラジョエリナ大統領は国内で執務を行っている」と同氏の国外逃亡の憶測を否定したが、ラジョエリナ氏自身から「安全な場所」に避難したことが告げられた形だ。

 

仏RFI紙によると、ラジョエリナ氏はフランス政府との「合意」のもと、10月12日夜にヘリコプターでマダガスカル東海岸沖のサント・マリー島に移動。そこでフランス軍が用意したCASA輸送機で仏領レユニオン島に渡り、さらにプライベート・ジェットでドバイに移動したとみられる。ラジョエリナ氏の側近とみられていたンツァイ前首相や、「大統領の影の顧問」ともいわれていた実業家のラバトマンガ氏も同様に隣国・モーリシャスに避難している(Jean Afrique紙)。エジプトで開かれた「中東和平サミット」に参加していたフランスのマクロン大統領は「(マダガスカル政府との合意については)何も知らない」と関与を否定したうえで、マダガスカルの実質的なクーデターについて「深刻な懸念」を表明した。英ロイター紙は、ラジョエリナ大統領は国外退避の前に、2021年のマダガスカルでのクーデター未遂事件を企図した容疑で有罪判決を受けたフランス人2人に対して恩赦を与えたと報じている。

 

ラジョエリナ大統領は辞意を表明していないが、最大野党「私はマダガスカルを愛する(TIM)」党首のマーク・ラヴァロマナナ元大統領(2009年のクーデターでラジョエリナ氏から大統領職を追放された当人)は、国会の3分の2の賛成が必要となる大統領弾劾決議を行う意向を示している。仮に弾劾決議が可決されるか、もしくはラジョエリナ大統領が自ら辞任を決断したあと、30~60日以内に大統領選が行われると憲法上規定されている。現時点で実質的に国内を掌握したCAPSATが速やかな選挙・民政移管を支援するかは不明。また、仮に大統領やその側近を追放したとしても、国民の生活苦といった根本的な問題解決には時間を要するだけに、今後国内の抗議活動が収まるのかなど見通しが不透明な状況が続く。

[ウクライナ/米国] 

10月12日、トランプ米政権が数か月にわたり、ウクライナによるロシアのエネルギー施設へのドローン(無人機)攻撃を支援していたと、英フィナンシャル・タイムズ紙が匿名のウクライナと米国の当局者の話として報じた。それによると、ウクライナのドローンがロシアの防空網を回避するため、ルートや高度、攻撃のタイミングなどについて、米国から機密情報を提供や助言を受けていたという。ウクライナが攻撃対象を選び、米国が施設の防空体制や脆弱性について情報を伝えていた。

 

この数週間、ロシア各地の製油所を標的としたウクライナの長距離攻撃でロシア国内の燃料危機が深刻化している。ウクライナ側は最近、一連の攻撃でロシアの製油能力を40%低下させたと報告。ロシアは被害の詳細を公表していないものの、ガソリンの価格高騰や国内供給の確保に向けた輸出禁止措置の延長など、攻撃の影響を裏付ける傍証が出ている。従来の姿勢を転換し、ロシアへの圧力を強めるトランプ米大統領には、ロシアの経済を弱体化させ、プーチン大統領を交渉のテーブルに着かせる狙いがあるとみられる。

[オランダ/中国] 

10月12日、オランダ政府は、中国企業ウィングテック・テクノロジー傘下の半導体メーカー、ネクスペリア(Nexperia)を国家管理下に置くと発表した。オランダ経済省は、「深刻なガバナンス上の欠陥」および「技術的能力の流出リスク」を理由に、同社の経営判断を差し止める権限を発動した。これは1952年に制定された「物資供給法」に基づく措置であり、同法の初の適用例として、極めて例外的な対応であると説明されている。

 

この措置により、ウィングテック社による経営支配は実質的に排除されることとなり、裁判所は中国人CEOである張学政氏の職務停止と、独立取締役による管理を命じた。

 

ネクスペリアは、NXPセミコンダクターズから分離したオランダ企業であり、自動車や家電向けの汎用チップを供給している。2018年にウィングテック社が同社の株式を取得し、2021年には完全子会社化した。

 

オランダ政府は今回の措置について、「危機時に同社製品が欧州で利用不能となる事態を防ぐこと」が目的であると説明している。ウィングテック社側は「地政学的偏見に基づく過剰介入」であると反発しており、中国外交部も「国家安全保障概念の濫用」であると非難、報復措置の可能性を示唆している。この決定は、米商務省によるエンティティ・リストの拡大と時期を同じくしており、米国の対中規制を背景とした連鎖的対応との見方もある。

 

オランダ政府の発表を受け、ウィングテック社の株価は上海市場で10%下落した。ネクスペリアはウィングテック全体の売上の約3割を占め、製品の約8割が中国で組立・検査されているため、経営分離はサプライチェーンの分断を引き起こす可能性がある。中国側では、オランダ当局の狙いは単なる企業統制ではなく、欧州の「技術主権」防衛および産業安全保障の確立にあるとの見方が根強い。

[米国/イスラエル/エジプト] 

10月10日にイスラエルとハマスがガザでの停戦・人質交換に合意したことを受け、13日、ハマスは2023年10月7日以降ガザに拘束していた生存する人質20人をイスラエル側に返還した。これを受けてイスラエルは、250人のパレスチナ人終身刑・長期刑受刑者と、ガザ紛争開始以来拘束してきたガザ住民約1,700人を釈放した。ただし、釈放された250人のうち154人は国外追放処分となり、エジプトに移送された。これらの受刑者はその後、エジプトを経由して第三国に送還される予定である。

 

米国のトランプ大統領は10月13日、イスラエルおよびエジプトを訪問した。トランプ政権第2期で大統領が両国を訪問するのは初めてである。イスラエルでは人質家族との面会や議会での演説を実施し、米国大統領としてイスラエル議会で演説を行うのは歴代4人目となった。トランプ大統領は、ガザでの停戦実現を「新たな中東の歴史的夜明け」と位置づけ、「イスラエル人にとってもパレスチナ人にとっても、長く苦しい悪夢がついに終わった」と述べた。

 

その後、トランプ大統領はエジプト・シナイ半島のシャルム・エル・シェイクを訪問し、シシ大統領と共同議長を務める形で、ガザ和平に関する首脳会議に出席した。会議では、ガザの停戦および人質解放に関する合意文書に署名が行われた。英国のスターマー首相、フランスのマクロン大統領など欧州主要国首脳のほか、トルコのエルドアン大統領、カタールのタミーム首長、ヨルダンのアブドゥッラー2世国王、パレスチナ自治政府のアッバス大統領らも出席した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は出席せず、イランも参加を辞退した。ハマス代表は招待されなかった。

 

停戦および人質解放合意の第一段階は、現時点ではおおむね順調に進んでいる。これまでも一時停戦や人質交換は行われてきたが、恒久的停戦やハマスの武装解除といった次の段階に進めず、戦闘が再開される事例が繰り返されてきた。イスラエル軍は依然としてガザに駐留を続けており、完全撤退に合意したわけではない。さらに、イスラエルによるパレスチナ占領やヨルダン川西岸での違法入植地拡大など、パレスチナ問題全体の解決は依然として見通せない状況にある。今後もパレスチナ問題の展開から目を離すことはできない。

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