デイリー・アップデート

2025年11月5日 (水)

[米国/イスラエル/パレスチナ] 

11月3日、米国が国連安全保障理事会に提出を予定している「ガザにおける国際安定化部隊(ISF:International Stabilization Force)の設立に関する決議案」を、安保理の複数のメンバー国に事前に送付したと米メディアAXIOSが報じた。ガザへの派遣が想定されているISFは、9月末にトランプ大統領が発表したガザに関する「20項目の計画」にも盛り込まれている。

 

米政府は、この決議案を数週間以内に安保理で採択し、2026年1月から2027年末までの少なくとも2年間にわたり、ガザにISFを派遣することを視野に入れている。同案では、部隊の設置および活動が「エジプトおよびイスラエルとの緊密な協議と協力のもと」で行われることが強調されている。

 

決議案によると、ISFはガザとイスラエルおよびエジプトとの国境警備、民間人および人道回廊の保護、新たに設置されるパレスチナ警察部隊の訓練を担う見通し。また、ガザの非軍事化プロセスを確実に進め、治安環境の安定化を図ることも目的とされている。その中には、軍事・テロ・攻撃用インフラの破壊と再建の阻止、非国家武装組織からの武器の恒久的廃棄が含まれる。つまり、ハマスが自主的に武装解除に応じない場合、ISFの任務にはハマスの武装解除も含まれる可能性が示唆されている。

 

なお、ISFへの派遣については、インドネシア、アゼルバイジャン、エジプト、トルコなどが参加の意向を示しているという。同日11月3日、トルコのイスタンブールでは、インドネシアやサウジアラビアなどアラブ・イスラム諸国7か国の外相や閣僚が集まり、ガザでの停戦や国際部隊派遣について協議を行った。これらの諸国は、国連安保理決議に基づく部隊設立を支持するとともに、その任務内容が明確に定義されることを求めている。

 

また、10月10日の停戦合意以降だけでも、イスラエル軍による空爆などでガザでは約240人が死亡しており、派遣された国際部隊がイスラエルの攻撃を受ける危険にさらされる可能性があることについて、各国から懸念の声が上がっている。

[スーダン] 

11月4日、国連のグテーレス事務総長は、2023年4月から内戦が続くスーダンの紛争当事者達に対し、即時停戦と交渉の開始を呼びかけた。スーダン国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との戦闘により、これまで民間人を含め15万人以上が死亡し、1,500万人が国内避難民となっている。10月26日には、西部の北ダルフール地方で唯一SAFの軍事拠点が置かれていたエル・ファシールがRSFの攻撃により陥落。RSFが非アラブ系の住民を中心に数百人を殺害したと報じられており、国際刑事裁判所(ICC)は11月3日、大量虐殺に関する証拠を収集していると発表した。エル・ファシールの陥落により、スーダン国内は、首都ハルツームや紅海の港湾都市ポートスーダンを含む東部をSAFが、国内最大級の金鉱山を有するダルフール地方を含む西部をRSFが実効支配することとなり、事実上二分された。国際機関は18か月以上もRSFに包囲されていたエル・ファシールでは「飢饉」が発生していると警鐘を鳴らしている。

 

1994年に起こった「ルワンダ大虐殺」に迫る人道上の危機的状況に陥っているスーダンをめぐっては、米国、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアの4か国で構成される「クワッド」が紛争終結に向けた協議を続けている。9月にクワッドが発表した共同声明では、3か月間の停戦の実施と、その後9か月以内に民政移行プロセスを開始の要求が盛り込まれた。しかし、10月25日に秘密裡で行われたクワッドの会合で、RSFに対して軍事支援を行うUAEが交渉を妨害し、協議が頓挫したことを受け、その翌日にRSFがエル・ファシールへの大規模攻撃を行ったとの見方がある(11月3日付、仏ル・モンド紙)。UAEはRSFへの支援を一貫して否定しているが、RSFのダガロ司令官(通称:ヘメティ)が所有する金鉱山からの金のほか、スーダン新政権誕生後の利権獲得(港湾、農地開発など)を目的として、中国製高性能ドローンなどの軍事物資や、コロンビア人傭兵などの兵力をソマリア、チャド、リビア経由で供給していると広くみられている。また、SAFはムスリム同胞団と関係の深いイスラム原理主義の支援を受けていることも、同勢力らに厳しい対応を取るUAEがRSFを支援する理由との見方もある。他方で、SAF側には以前はイランが、現在はエジプト、サウジアラビア、トルコなどが支援に回っており、外国勢力の二分化も事態の複雑化と紛争の長期化を招いている。

 

欧州各国は「見て見ぬふり」との指摘もある中、米国は紛争終結に向けた仲介努力を継続している。米国のマサド・ブーロス中東・アフリカ担当大統領上級顧問は、11月3日にカイロでエジプトのアブデルアーティ外相とスーダンやパレスチナ、ナイル川流域管理問題について協議したあと、「(SAFとRSFの)双方は停戦に原則合意している。現在は細部の調整に注力している」と述べた(11月3日付、スーダン・トリビューン紙)。また、9月のクワッドの声明では、「スーダンの未来は、地域全体の不安定化要因であるムスリム同胞団の一部、もしくは関連する暴力的な過激派グループによって決定されることは許されない」との強い一文が盛り込まれており、これはイスラム系組織対して不寛容なUAEに配慮した内容との見方がある(11月4日付、英The Guardian紙)。「UAEの支援さえなければ内戦は終わっていただろう」との見方も多いだけに(10月28日付、米WSJ紙)、米国がUAEとエジプトの折り合いをどのようにつけるかが、停戦実現に向けた焦点となるとみられる。

[中国/ロシア] 

11月3~4日、ロシアのミシュスチン首相は中国を訪問し、習近平国家主席や李強首相などと会談した。双方は投資を拡大し、エネルギーやサプライチェーン(供給網)を巡る協力を強めることで二国間の関係深化で一致した。また、航空宇宙開発や人工知能(AI)、デジタル経済、気候変動対策といった新領域でも協調すると表明した。さらに両国は一方的な制裁に対して共同で対応することも確約した。

 

ロシアは米国・欧州の対ロ制裁が強まる状況で経済をテコ入れするため、中国との経済交流や貿易の一層の拡大を狙う。一部の海外報道では、中国の石油大手シノペック(中国石油化工)など国有企業が、海上で輸送されるロシア産原油の一部購入を取りやめた。米国がロシア石油大手ロスネフチとルクオイルを制裁対象に加えたことを受けた措置である。ロシア経済の減速も目立ち、同国中央銀行は10月、2025年の国内総生産(GDP)増加見通しを0.5~1%に引き下げた。7月時点では1~2%と予測していた。ウクライナ侵略の長期化に伴う物価上昇の影響が大きい。

[中国] 

中国の地方政府が、国内製AIチップの利用促進のためにデータセンター向け電力補助を大幅に拡充していると『フィナンシャル・タイムズ』紙が報じている。

 

背景には、中国政府が2025年9月頃、国内のテック企業に対してエヌビディア製AIチップの購入を禁止したことによるコスト上昇がある。中国企業は代替としてファーウェイやカンブリコン製チップを使用しているが、これらの電力消費はエヌビディア製比で30~50%多いとされる。たとえば、ファーウェイの主力チップ「Ascend 910C」は、単体性能の弱さを大規模クラスター化で補おうとしており、これが運用電力コストの増加原因となっている。

 

コスト上昇に対する企業側からの不満を受け、政府は補助拡充で対応した。甘粛省、貴州省、内モンゴル自治区などエネルギー資源が豊富な中国の辺境省は、データセンター集積地のホットスポットとなっており、プロジェクト誘致のためにすでにエネルギー補助金や現金インセンティブの提供で競い合っているが、それに追加して大規模データセンターの電気料金を最大50%削減する補助金を導入した。国内産チップを使用している施設のみが対象であり、エヌビディアなどの外国製チップを使うセンターは補助を受けられない。

 

これら地域の産業用電力はもともと沿海部より約3割安く、新たな補助で1kWhあたり約0.4元(約5.6セント)まで引き下げられ、これは米国平均(約9.1セント/kWh)よりも低い水準であると記事は報じている。中国政府が、脱エヌビディア依存と国産半導体のAI競争力強化を狙う動きの一つである。

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