2025年11月21日 (金)
[南アフリカ(南ア)/米国]
11月22~23日にかけて南ア・ヨハネスブルグで開催される第20回G20サミットを直前に控え、議長国の南アと米国の外交上の駆け引きが過熱している。11月20日に開かれた記者会見でラマポーザ大統領は、「米国から、G20サミットに何らかの形で参加するとの意向を受け取った」と述べた。
米・南アの二国間関係の悪化のほか、今回のサミットではトランプ政権が反対する気候変動対策や開発途上国の債務軽減といったテーマを主として扱うことから、11月8日にトランプ氏は「米国はG20のサミットをボイコットする」と発言(11月10日デイリー・アップデート参照)。これを受けてヴァンス副大統領は南ア・ケニア訪問の予定をキャンセルした。
ラマポーザ大統領はかねてから「ボイコット政治は決して機能しない。テント(G20を指す)の外にいるよりも、テントの中にいる方が良い」と米国を諭す発言を繰り返していた。今回の米国からの出席の通知を受けて同氏は、「米国との協議は継続中だが、米国の方針転換の兆候は喜ばしい」と述べた(11月20日付、南ア・News24紙等)。
このラマポーザ氏の発言を受けて、米国のホワイトハウスは「フェイクニュース」だと一蹴。レビット報道官は、サミット終了時の式典に、G20議長職の引継ぎのために在南ア米国大使館のディラード臨時大使が出席するが、公式会談には参加しないとし、ラマポーザ氏の発言は軽率だ(running his mouth)と非難した(11月20日付、NYT紙等)。この発言に対して南ア・外務省のフィリ報道官は「ラマポーザ大統領は米国臨時代理大使には議長職を渡さない」と反論するなど、外交上のつばぜり合いが続いている。
米政府からの参加者および参加形式は依然として明らかにはなっていないが、今回のG20には米国のほかにも、中国、ロシア、アルゼンチン、メキシコ、サウジアラビアが首脳級の参加を見送っており、G20の存在感の低下を指摘する声も多い。米国が不参加となれば、1999年のG20発足以降はじめて「首脳宣言」が採択されないこととなり、「議長声明」に留まる可能性は高い。
その一方で、南アで開催されるサミットをアフリカ諸国との関係強化の機会にしようとする国も少なくない。南アを訪問中のコスタ欧州議会議長と、フォンデアライエン欧州委員会委員長は、南ア政府との間で「重要鉱物に関するパートナーシップ」の協定に署名。また、サミット後にアンゴラを訪問し、「第7回EU・アフリカ連合(AU)サミット」を開催する予定だ。8年前の大統領就任以降、アフリカ諸国を40回訪問しているフランスのマクロン大統領は、モーリシャス、ガボン、アンゴラを訪問し、フランスの対アフリカ外交政策の見直しを図ろうとしている。ブラジルのルラ大統領も同じポルトガル語圏として関係の深いモザンビークをあわせて訪問する予定だ。また、英国のスターマー首相はサミットに参加予定のイタリアのメローニ首相と、トルコのエルドアン大統領とウクライナ支援強化に関する会談を行うとも報じられており(11月20日付、英The Guardian紙)、G20サミットは引き続き加盟国間の結束を示すとともに、他の重要な議題を議論する場としても一定の機能を果たしている。
[中国]
2024年から2025年にかけて、生成AI向けデータセンター投資が世界的に急拡大している。SKハイニックスやサムスン、マイクロンなどの大手メーカーは、最も利幅の大きいAIサーバー向けメモリを優先的に供給するようになり、その結果、汎用メモリの供給がひっ迫するようになっている。
こうした背景の下、中国最大の半導体受託製造企業である中芯国際(SMIC)は、2026年にメモリ不足が深刻化し、自動車・スマートフォン・家電向け製品の生産に制約が生じる恐れがあると警告したとブルームバーグが報じている。
SMICの共同CEOである趙海軍氏は、メモリ価格の上昇予測や確保の不透明感から、中国企業は 2026年初めの受託製造注文を控えていると説明し、「メモリを使うすべての産業が、2026年は価格高騰と供給制約の圧力に直面する」と述べた。
SMIC自身も需要超過の状況で、生産能力が追いつかないとしている。同社の2025年の設備投資は、2024年(約73.3億ドル)比で横ばいかやや増加にとどまる見通しであるが、中国の半導体企業全体では設備拡張を加速する動きが続いている。
また、半導体製造装置大手のASMLが、2026年に中国向け売上比率の低下を見込むと発表したことについて、趙氏は「多くの中国企業が2024年より前にリソグラフィ装置を前倒しで発注した結果であり、中国の需要減少を意味するものではない」と説明した。
AIブームによるメモリ偏重の供給構造が、中国の幅広い製造業に影響を及ぼす状況となっている。
[ウクライナ]
11月20日、ゼレンスキー大統領は国営原子力企業エネルゴアトムを巡る汚職事件をめぐり、政権与党の幹部と今後の対応を協議した。与野党から、内閣総辞職やイェルマーク大統領府長官の更迭に踏み切るべきだとの意見が出ていたが、ゼレンスキー大統領は与党「国民の奉仕者」の幹部と協議し、イェルマーク氏が職務を続けると明言した。イェルマーク氏はゼレンスキー氏の最側近として政権を支え、大統領府長官としてロシアとの和平協議や欧米との支援交渉に大きな役割を果たしている一方、今回の汚職事件の中心人物である実業家ミンディッチ氏と面識があり、「汚職を把握していた」との批判が出ている。与党の議員はイェルマーク氏が留任した場合、議会で重要法案や閣僚人事で可決に必要な賛成票が集まらない可能性もあると言及している。与党の一部は野党に同調し、政治危機に対応するために「挙国一致内閣」が必要との声もある。ウクライナは今後、内政が不安定化し、ロシアとの戦争継続に影響を及ぼす懸念が出ている。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2025年11月20日(木)
「景気とサイクル」景気循環学会40周年記念号第80号に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之が寄稿しました。 - 2025年11月17日(月)
『Quick Knowledge 特設サイト』に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のQuick月次調査・外為11月レビューが掲載されました。 - 2025年11月13日(木)
『日経ヴェリタス』に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のコメントが掲載されました。 - 2025年11月11日(火)
『週刊金融財政事情』2025年11月11日号に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行が寄稿しました。 - 2025年10月31日(金)
『日刊工業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。
