2025年12月4日 (木)
[ブラジル/米国]
12月2日、ブラジルのルーラ大統領と米国のトランプ大統領は、関税と組織犯罪対策について電話会談を行った。米国がブラジル産農産物に対する関税を引き下げ、両国の間で建設的な動きが見られ、合意成立の可能性が高まっている。先日、米国が農作物への関税を引き下げたことより、ブラジルにとっての緊急性が後退し、両国の合意は後ずれするのではとの見方もあった。
ルーラ大統領も、トランプ大統領も合意に前向きな姿勢を示している。ルーラ大統領は、メキシコのシェインバウム大統領の成功事例を参考に、米国側との連絡を頻繁に取り、協力関係の強化を目指している。さらに、ルーラ大統領は組織犯罪対策における米国の支援を求めており、これにより両国間の対立を減らし、建設的な協議の道を開こうとしている。
この協力は、ブラジル国内の犯罪組織が米国でテロ組織に指定される事態を防ぐ可能性がある。仮にテロ指定されれば、経済制裁につながり、ブラジル経済に深刻な影響を与える恐れがあることから、ルーラ大統領は、組織犯罪対策で米国と積極的に協力することで、このリスクを減らすことを目指している。
一方で、合意に至るまでの時間は依然として厳しい状況にある。米国は2026年の両国選挙に伴う政治的混乱を避けるため、迅速な合意を望んでいる。現在の交渉は主に重要鉱物の分野に焦点を当てており、米国はブラジルに対し、最低価格保証や鉱物開発のための金融支援を提示し、リスク軽減を図ろうとしている。リチウムやニッケルなど、電気自動車や再生可能エネルギーに不可欠な重要鉱物の安定供給が最大の狙いであり、ブラジルにとっても鉱物開発の加速が見込める。
この交渉は農業・鉱物資源・治安対策の三分野で両国の経済に直接影響を与える重要な局面を迎えている。
[ドイツ]
2027年予算の財政見通しが改善し、連立政権への圧力を一部緩和している。財務省は、以前予想されていた340億ユーロの財政赤字が、現在では約120億ユーロに縮小すると見込む。ただし、この改善は、構造的な改革によるものではなく、歳出の一時的な調整によるものであり、連立政権崩壊のリスクは依然として高い。
連立内では、改革政策をめぐる内部対立が続いており、政権は不安定なままとなっている。メルツ首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)、CSU、そして社会民主党(SPD)の三者による妥協案である年金パッケージについては、CDUの青年部は合意に反対し、持続不可能な年金制度を固定化し、将来世代に不当な負担をかけると主張している。一方、SPDは「連立の将来が危うくなる」と警告している。
議会は12月5日に年金法案を承認する見込みだが、CDU/CSUもSPDも、解散総選挙を望んでいないため、連立は即座に崩壊はしないものの、この対立は政府の分断と非効率性というイメージを強めている。
さらに、主要な社会福祉プログラム「Burgergeld」の改革をめぐっても膠着状態が続く。12月10日の議会投票を前に、SPDの青年部は妥協案に強く反対し、より厳しい条件付きや権利制限を拒否している。一方、CDU/CSUは合意の再交渉を受け入れず、両党間の溝は深まっている。連立は「代替案がないから維持されている」という脆弱な状態にある。
極右政党AfDの支持率上昇も連立を揺るがす要因である。AfDはCDU/CSUに対して約2ポイント、SPDに対して約10ポイントの差をつけており、政府の支持率は11月6日時点でわずか22%にとどまっている。2026年予定される5つの州選挙は、政府の安定性を測る重要な指標となり、極右の躍進が州政府の構成や議会運営に影響を与える可能性がある。
AfDの台頭とSPDの弱体化が重なれば、連立崩壊のリスクはさらに高まる。CDU内部では、これまで拒否してきたAfDとの関与を検討する圧力が強まる可能性があるが、SPDにとってこれは受け入れがたい選択であり、連邦レベルでのCDUの立場にも悪影響を及ぼすことになる。
[世界銀行/サブサハラ・アフリカ]
12月3日に世銀が発表した「国際債務報告書」によると、2024年末時点の世界の低・中所得国(注1)の対外債務残高は8兆9,370億ドルで、2023年の8兆8,363億ドルから1.1%の微増となった。
うち、サブサハラ・アフリカ(注2)の対外債務残高は9,008億ドルで、低・中所得国全体の10%弱に留まったが、前年比で+3.4%となり平均を大きく上回った。世銀はサブサハラでは純債務流入額は487億ドルで前年のほぼ3倍増となったが、これはフローの21%を占める南アフリカ(南ア)が対外借入を増加させた(ほとんどが民間部門)ことが主な要因だとした。南アを除くサブサハラの対外債務残高の伸びは2024年は前年比+2.8%となり、2023年の+3.9%、2021~2022年平均の+4.8%から減速していると指摘。これは2020年以降、デフォルトに陥ったザンビアやガーナで債務再編や減免が進展したためだと説明している。
対外債務残高の伸びには鈍化がみられるものの、サブサハラの対外債務残高の対GNI(国民総所得)比は平均で49%と、ヨーロッパ・中央アジアの低・所得国と並んで最も高い水準にある。また、政府の元利返済の負担の重さを示す、債務返済の対GNI比は平均で5%と、ヨーロッパ・中央アジアの低・中所得国平均の8%を下回っているものの、世界平均の3%を上回っている状況が続く。なかでも、債務返済比率(対GNI比)が最も高い5か国のうち、モザンビーク(1位、23%)、アンゴラ(3位、15%)、セネガル(5位、11%)といったサブサハラの国々が上位を占めた。なかでもモザンビークとセネガルの対外債務残高(GNI比)はそれぞれ351%、151%と世界で最も高い水準にあり、財政状況の逼迫の程度を表している。
サブサハラ全体での対外債務の内訳は民間部門(国債、民間銀行からの借入等)と多国間援助(世銀、IMF、アフリカ開発銀行等)がそれぞれ40%を占め、残り20%が二国間の債務となる。全低・中所得国の二国間債務の割合は13%のため、サブサハラはこの平均を上回っており、なかでも対中債務が債務全体の10%を占めるのはサブサハラだけだ。今回の報告書の対象となるサブサハラ46か国のうち、31か国で中国が最大の二国間貸付国となっており、赤道ギニアやジブチでは対中債務が対外債務全体の半数以上を占めている。中国政府が「一帯一路」政策に基づき、鉱物・天然資源を有する国や、インフラ整備の需要があるアフリカの国々に対して融資を行ってきたかを表している。また、世銀のデータは、中国以外にもサウジアラビアやクウェート、アラブ首長国といったサブサハラの伝統的パートナーではなかった湾岸諸国からの融資が増加していることも示している。なかでもサウジアラビアは中国、フランスに次いでサブサハラ各国側の対外債務が多い国(債務全体の約1%)となっており、モーリタニア、スーダンなどサブサハラ5か国で中国をしのいで最大の二国間貸付国となっている。ほかにもクウェートはソマリアとシエラレオネで、アラブ首長国連邦(UAE)はチャドの最大二国間貸付国であり、アラブ世界・イスラム教の連帯や湾岸諸国の戦略的思惑に沿ってサブサハラ各国の金融パートナーとしての位置づけを強めている。
(注1)世銀の定義では、2024年時点で1人当たり国民総所得(GNI)が1,135米ドル以下の国を低所得国。1人当たりGNIが1,136米ドル以上13,935米ドル以下の国を中所得国と指す。
(注2)ナミビア、セーシェル、南スーダンは対象外
[ベネズエラ/米国/中国/ロシア]
米国がベネズエラ近海で軍事圧力を強め、大規模介入の可能性が取り沙汰される中、米シンクタンクの「アトランティック・カウンシル」は、ベネズエラに対する米国の軍事介入は、中ロに利益をもたらすとのコラムを発表している。
米国は南米に軍事力を投入しており、その結果、インド太平洋など他地域に投入できる戦力が減少する。中国はマドゥロ政権への米国の姿勢について「外部干渉に反対」と表明しつつ、軍事支援を行う可能性は極めて低い。過去の巨額融資やエネルギー事業で痛手を負った経験から、北京は実利と長期的影響を重視し、ベネズエラへの実質的な支援を避けており、政権交代後を含む「次のフェーズ」での影響力確保に重点を置いている。さらに、米国が中南米で武力行使を正当化すれば、中国は台湾問題に関して、自国の勢力圏であることを主張しやすくなるとの見方もある。
一方、ロシアにとっては、ベネズエラや周辺産油国の供給が混乱すれば、世界のディーゼル市場が逼迫し、燃料輸出価格が上昇する。半年間の紛争でロシアは最大60億ドル規模の追加収入を得られるとの推計もある。また、米国と同盟国の亀裂は、モスクワにとって戦略的利益となる。
欧州は世界最大のディーゼル輸入地域であるため、最も深刻な影響を受けるとみられる。ベネズエラやコロンビアの重質原油の供給途絶は、エネルギー価格の急騰や製造業の停滞、輸送網の混乱を招く。すでに英仏は米国のベネズエラ攻撃に対し法的懸念を表明している。欧州はウクライナ支援を継続する必要があるため、米国への公然たる批判は控えているが、エネルギー危機が深刻化すれば、「戦略的自律」を強め、米中間でバランスを取ろうとする動きが欧州で強まる可能性がある。
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