デイリー・アップデート

2025年12月22日 (月)

[中南米] 

現在、中南米では複数の国で政治的な緊張や重要な動きが続いている。

 

ベネズエラでは、米国との地政学的緊張が一段と高まっている。トランプ米大統領は、ベネズエラに出入りするすべてのタンカーに対して「完全封鎖」を命じると発表した。さらに、米軍の増強や陸上攻撃の可能性を示唆し、圧力を強化している。これにより、ベネズエラの闇市場での石油輸出が抑えられ、政府の収入が急減する可能性が高い。シェブロンを通じた輸出による資金流入は続くかもしれないが、政府にとって十分な資金源にはならないとみられる。米軍による軍事行動の可能性は排除されていないが、まず経済的圧力を最大化し、他の選択肢を試すとみられる。これらの措置は、米国が潜在的な地上軍事作戦を実行する期限の延長を意味し、市場が期待する迅速な解決を妨げる。一方、解決が長期化することは、輸出減少による人道危機や移民問題の悪化の可能性があることから、米国には事体を長期化させ過ぎないようにするという逆の動機も存在している。

 

ホンジュラスでは大統領選挙後の不確実性が続いている。選挙から約3週間経過しても、正式な当選者は決まっていない。最新の集計では、国民党候補ナスリー・アスフラが自由党候補サルバドール・ナスララに対し、わずか4万3,000票、約1.3ポイント差でリードしている。選挙は比較的平和的に行われ、国際監視団からも評価されているが、12月30日の法定期限が迫る中、選挙管理委員会による再集計の遅れが懸念される。軍は結果を尊重すると表明しているが、自由党が選挙無効を求める動きもあり、政治的緊張は残っている。

 

ブラジルでは、元大統領ジャイル・ボルソナロ氏が拘置所からインタビューを受ける許可を得た。彼は2026年の大統領選に息子フラビオを擁立する意向を示しており、これが政界に波紋を広げている。今後の世論調査では、フラビオ氏が現職のルーラ大統領にどれほど対抗できるかが注目される。

 

アルゼンチンでは労働市場改革の議論が激しくなっている。政府は選挙後の勢いを利用し、採用や解雇の柔軟化、賃金決定の改善などを目指している。ただし、労働者からの反発も強く大規模なデモも発生している。そのため、ミレイ大統領は現実的な妥協点をさぐりながら改革を進めるとみられる。

[EU] 

欧州経済の2025年末の経済はやや鈍化したものの、比較的安定した成長となった可能性が高い。ただし、国やセクターごとの違いは依然として大きい。

 

第4四半期のユーロ圏総合PMIは平均52.4で、第3四半期より約1.3ポイント高かった。PMIは経済成長の方向性を示す有力な指標であり、この数値は四半期全体で基礎的な活動が改善したことを示唆している。しかし、月次では12月に総合指数が0.9ポイント下落し51.9となり、減速傾向が確認された。

 

業種別では、12月のサービス業PMIは52.6と底堅かった。一方、製造業は49.7と好不調の境である50を下回り、縮小傾向が続いた。これは、10月の工業生産が前月比+0.8%と好調だったものの、その勢いが四半期後半には維持されなかったことを示している。

 

国別の12月PMIは、ドイツは51.5(前月比▲0.9)、フランスは50.1(▲0.3)と下落幅が大きかった。しかし、ドイツがIfo景況感指数も減速を示し、12月は87.6(▲0.4)となった一方、フランスではINSEE調査がやや明るい結果を示し、総合ビジネス環境指数は98.7(+1.0)に上昇、製造業環境は102.3(+4.2)と改善した。

[南アフリカ(南ア)/米国] 

12月17日、南ア内務省は米国へのいわゆる「難民」申請を処理する施設で違法に就労していたケニア人7人を逮捕したと発表した。同施設は「南アのアフリカーナー(オランダ、ドイツ、フランス系移民の子孫)が迫害を受けている」とのトランプ米大統領の主張に基づき設置されたもの。施設の運営は米・非営利団体「チャーチ・ワールド・サービス」傘下のケニア企業「RSCアフリカ」と、南ア白人による米国移住支援団体「アメリカーナーズ」が支援しているとみられている(12月17日付、NYT紙等)。第2期トランプ政権では、年間の米国への難民の受け入れ数を125,000人から7,500人に大幅に削減した一方で、南アのアフリカーナーの受け入れを優先的に行っている。これまで約50人が米国に移住したが、その後の申請数の状況などは明らかになっていない(12月19日付、英BBC) 。

 

南ア内務省は観光ビザで入国し、不法就労していたケニア人7人は明らかに入国の条件に違反していると非難し、国外退去と5年間の再入国禁止を命じたと発表した。また、米国職員は逮捕されておらず、また、外交施設で実施されたものではないと明言した。

 

しかし、これに対し米国務省は12月18日の声明で、「南ア政府がアフリカーナーの人道支援活動に従事していた米国政府職員を拘束したことを強く非難する」としたうえで、南ア政府が(逮捕の)責任者を追求しない場合、「深刻な結果(severe consequences)を招く」と威嚇した。

 

南アと米国の両国間の意見の食い違いと、外交的緊張は第2期トランプ政権発足直後から顕著となっている。米政府は11月に南アで開催されたG20サミットへの出席をボイコットした後、現在米国が議長国を務めているG20に南アを招待しないと宣言。実際に、12月15~16日にワシントンで開催されたG20シェルパ会合にも南アは出席しておらず、米国の招待を受けたポーランドが「完全なゲスト参加者(full guest participant)」として参加した。また、12月11日に米上院で次期駐南ア米国大使の就任が可決されたレオ・ボゼル氏は熱心なトランプ氏擁護者として知られ、11月の事前公聴会でも「不当な人種差別から逃れたいと思っているアフリカーナーの移住を推進したい」旨を述べていることから、トランプ氏の「嫌南ア」の姿勢に強く同調するものとみられる(12月21日付、南アDaily Maverick紙)。

 

南ア・米国間の関係改善の兆しが全く見えない状況が続くが、英FT紙は、南アにとって中国に次ぐ輸出相手先である米国に対して南アが強硬手段を取る可能性は低い、と指摘。また、今回の南ア政府によるケニア人らの逮捕は、米国に対する批判的なメッセージよりも、これまでトランプ政権に対してアフリカーナーの迫害についてロビイングしていた南ア国内の一部のアフリカーナー団体への「警告射撃」だとの専門家の見方を紹介している(12月17日付、英FT紙)。

 

また、米国主宰のG20への南アの参加排除については、加盟国の間でも南アの出席を求める声も出ている。これまでもドイツのメルツ首相が記者会見の場で「南アのG20出席についてトランプ氏に相談する」と発言したほか(11月27日付、英Reuters紙)、12月12日に中国外務省も「中国は南アフリカが引き続きG20に参加することを支持する」と表明している。G20シェルパ会合では、ほかにも欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)、フランス、英国、カナダなども南アの参加を米国に求めたが、最終決定には至らなかったとの報道もある(12月21日付、Daily Maverick紙)。

 

中国、ロシア、イランとの関係も深く、イスラエル・パレスチナ問題では米国が支援するイスラエル側を批判する南アが、今後トランプ政権との関係を修復できるかに注目が集まる。

[バングラデシュ/デモ] 

12月18日、ダッカにて2024年7月のハシナ元政権転覆に携わった学生運動の指導者であるシャリフ・ハディ氏がシンガポールの病院にて死亡した。12月12日、ハディ氏はダッカで正体不明の男性に頭部を発砲され危篤状態となり、集中治療を受けるためにシンガポールの病院に搬送されていた。支持層の間ではインド政府が殺害に関与したとの疑いが広がっており、現在にかけてダッカなどの都市部で若年層による街頭デモが激化している。

 

バングラデシュでは、2026年2月12日に総選挙・国民投票を控えている。各種世論調査の結果を踏まえると、2001~2006年に政権を担っていたBNP(バングラデシュ民族主義党)の勝利が予想されているが、ほかにもイスラム教組織のJI(ジャマアテ・イスラミ)や、2024年7月に大規模なデモを実施しハシナ政権打倒に貢献した学生や都市部の若年リベラル層等を支持母体とするNCP(新市民党)も候補者を擁立予定である。今回暗殺されたハディ氏の支持層はNCPの支持層と重複していた。また同氏は反インド的な主張を繰り返していた。

 

今回の暗殺事件でハディ氏に発砲した容疑者はインドに国外逃亡したとの噂が広がっていることから、インド政府が関与したとの見方が広がっている。なおハシナ元首相は2024年7月の政変以降、インドのコルカタに逃亡後、インド政府の保護下にある。バングラデシュ暫定政権はハシナ氏の身元引き渡しを求めているが、インド政府は応じていない。このような経緯もあり両国間の外交関係は悪化している。

[米国] 

ミシガン大学の「消費者調査」によると、12月の消費者信頼感指数(1966年Q1=100)は52.9となり、11月から1.9pt上昇した。ただし、市場予想(53.4)を下回った。消費者マインドはさえず、個人消費の重荷になっている。

 

内訳を見ると、足元の状況を表す現況指数は50.4(▲0.7pt)となり、過去最低を更新した。また、先行きを表す期待指数は54.6(+3.6pt)へ4か月ぶりの高水準まで上昇した。物価高や雇用環境への懸念から、足元の状況が厳しい中でも、先行き改善という期待感を残した。

 

また、1年先の期待インフレ率(中央値)は4.1%と、11月(4.5%)から縮小し、1月(3.3%)以来の低水準になった。また、3年先の期待インフレ率は3.2%で、11月(3.4%)から縮小した。4月の相互関税の発表以降、期待インフレ率は拡大したものの、足元では落ち着きつつあるようだ。

[日本/中央アジア] 

12月20日、日本と中央アジア5か国は初めての首脳会合「CA+JAD(中央アジアと日本の対話、カジャッド)」を東京都内で開いた。高市首相と5か国の首脳は、脱炭素化と物流網整備、人材育成の重点3分野での協力を柱とする共同宣言「東京宣言」を発表。今後5年間で総額3兆円規模のビジネスプロジェクトを実施する目標を設定し、重要鉱物のサプライチェーン(供給網)の強靱化などを通じて経済関係の強化を図る。日本政府は首脳会合の開催に合わせ、同日都内でビジネスフォーラムも開いた。日本側は資源やデジタルなどの分野に関し、5か国との間に官民で100件を超える協力文書を交わしたことを報告。人口増で市場規模が拡大しているほか、重要鉱物も産出する同地域との協力を深め、経済成長を取り込む狙いである。

[イスラエル/エジプト] 

12月17日、イスラエルのネタニヤフ首相は、エジプトへの天然ガス供給拡大に関する契約を承認したと発表した。米シェブロンなどが関与する本契約は、レヴィアタン(リヴァイアサン)ガス田から今後15年間ガスをエジプトに供給するもので、総額350億ドルに上り「イスラエル史上最大のガス取引」とされる。イスラエルはシナイ情勢の緊張を受け9月以降輸出を凍結していたが、今回改めて2019年の既存契約を修正し、2040年までに1,300億立方メートルの追加供給を認めた形となる。CNNは、ネタニヤフ首相が発表に踏み切った背景には、トランプ米大統領がエジプトのシシ大統領とネタニヤフ首相の会談実現を後押しする意図があったと報じている。

 

エジプト側は、この天然ガス契約は「純粋に商業的取り決め」であり、政治的意味合いは一切ないと強調した。エジプト国営情報局は、契約は民間企業間の合意であり政府は関与していないと説明し、同国が東地中海の唯一の地域ガス取引拠点としての地位を強化するものであると述べた。

 

エジプトは国内ガス生産が2022年以降急減し、エネルギー不足が深刻化している。輸入量は過去最高の水準に達し、ガス輸入費用は2023年に24億ドル、2024年に50億ドル、2025年は10か月で72億ドルに膨れ上がった。これにより外貨準備や財政への圧力が高まり、当局は特に夏季に計画停電を余儀なくされた。イスラエル産ガスはLNG輸入の半額程度の価格とされ、エジプトのエネルギー危機を緩和する効果が期待される。

 

一方、エジプトのイスラエルに対するガス依存が強まることは、イスラエルが政治的梃子として供給停止を利用するリスクも高める。実際、2023年以降はガザ情勢やイスラエル・イラン間の12日間戦争の影響で供給が繰り返し中断し、エジプトの一部産業は一時操業停止に追い込まれた。こうした不安定さから、エジプトは代替供給源の開拓を進めており、キプロスとのガスパイプライン接続協定、カタールとの供給契約交渉、さらに2030年までにエネルギーミックスの40%を再生可能エネルギーに転換する計画も加速している。

 

将来的に代替調達が進めば、エジプトはイスラエル産ガスを国内消費ではなく再輸出に振り向ける余地が生まれ、価格交渉力を高める可能性がある。東地中海で唯一LNG液化施設を持つエジプトにとって、本契約は当面のエネルギー危機を和らげると同時に、地域ガスハブとしての地位強化にもつながると言える。

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