デイリー・アップデート

2025年12月17日 (水)

[中国/米国] 

パナマ運河をめぐる港湾売却計画が、中国政府の新たな要求により行き詰まっていると『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が報じている。


2024年12月、トランプ米大統領はパナマ運河の通航料引き下げや米国への返還に言及し、その後、米政府がパナマに対し中国の影響力排除を求めるようになった。その結果、香港系複合企業CKハチソンが保有するパナマ運河沿いの主要2港(バルボア港、クリストバル港)を含む世界40以上の港湾を、米ブラックロックと地中海海運(MSC)が約228億ドルで買収することで合意した。


当然ながら中国側は強く反発し、中国政府は国有海運大手COSCO(中遠海運)を「対等なパートナー」として買収に参加させるよう要求したが、交渉が進む中、条件を引き上げた。現在では、中国政府はCOSCOに過半数の持分と港湾運営に関する拒否権を与えることを求めるようになっており、この条件を拒否すれば、規制審査などを通じて売却自体を阻止すると警告しているという。


ブラックロックとMSCは、COSCOの同等出資までは検討可能としていたが、支配権を伴う参加は受け入れられないとしている。ホワイトハウスも「中国によるパナマ運河の実質支配は容認できず、米国とパナマの条約にも反する」として、中国側の条件を拒否しているため、取引は事実上膠着状態に陥っているとのこと。さらに、中国側がこの問題を米中間の通商・関税交渉の交渉材料にしようとしているとの見方もある。
中国が条件を引き上げた背景には、トランプ大統領が4月の訪中や中国とのディールを重視する姿勢を示していることから、中国側は「今なら要求が通りやすい」と判断したか、あるいは将来の交渉に備えて条件を引き上げておく狙いがあると推測される。

[コンゴ民主共和国(DRC)/ルワンダ/米国] 

12月16日、ルワンダ系反政府武装組織「3月23日運動(M23)」は、占領した南キブ州のウビラからの撤退を宣言した。12月4日にワシントンでトランプ大統領立会いのもと、DRCとルワンダの首脳間で「ワシントン平和繁栄協定」の調印が行われた。しかし、その翌日にルワンダが支援するM23は2月以降、実効支配しているDRC東部の主要都市ブカブからの南進を開始。DRC国軍・ブルンジ合同軍との戦闘を有利に進め、ブルンジ国境にある南キブ州のウビラの占領を発表していた。


M23はDRCとルワンダ間の交渉の当事者ではなく、またルワンダのカガメ大統領(ツチ族)もM23(主にツチ族で構成)への支援を否定しているが、国連の調査でもルワンダ軍による大規模な軍事支援の証拠が示されている。平和繁栄協定調印直後の戦闘の激化を受けて、12月12日に開かれた国連安保理の場で、米国のウォルツ国連大使は「M23を支援するルワンダの最近の行動に米国政府は非常に失望している」と非難。追随する形で12月13日にルビオ米国務長官もSNS上で「ルワンダのDRC東部における行動は、トランプ大統領が署名したワシントン合意に対する明らかな違反である。米国は大統領への約束が守られるよう、行動を起こす」とルワンダへの外交的圧力を強めていた。M23はウビラからの撤退は、カタールが並行して進めているM23とDRCの停戦プロセスを最大限成功させるための「一方的な信頼醸成措置」だと主張(12月16日付、英Reuters紙等)。しかし、撤退の時期は明言しておらず、ウビラから数km北上した地域に「緩衝地帯」を設けることと、中立軍の派遣を撤退の条件として示している(12月16日付、仏RFI)。


米国での協定締結直後のM23の進軍に関し、戦略的な意図が不明確であるとの見方もあれば、数か月前からM23・ルワンダは慎重にこのタイミングを狙っていたとの見方に分かれる(12月16日付、仏アフリカ・レポート紙等)。M23による実効支配後に一時撤退したように見せかけて、再度占領する方法は過去にもみられた手段であることから、M23が力があることをDRC政府に見せつけ、反ルワンダのDRCのチセケディ大統領にさらなる屈辱を与える意図があるとの見方もある(12月16日付、Al Jazeera)。


米・トランプ政権が両国の仲介に積極的だった背景には、同氏就任後、「8つ目」の戦争解決として象徴的にアピールしたい意図と、DRCの豊富な重要鉱物へのアクセスを確保したい狙いの2つがあったが、いわゆる和平合意がいかに脆いものであるかはカンボジア・タイの国境での戦闘継続と類似している。M23・ルワンダの米国に対する挑発的な態度に対して、米国が実際に地上部隊を派遣する可能性は極めて低く、M23はさらに南キブ州より南のタンガニーカ州の主要都市や世界最大級のタンタル・リチウム鉱山の実効支配を目論んでいるとの専門家の見方もある。同州はビル・ゲイツ氏の支援を受ける米・鉱物スタートアップ・コボルド社がリチウムの探査を行っている地域であることから、戦況拡大は米国企業にも影響を及ぼしかねない。さらにタンガニーカ州の南には世界最大級の銅生産地域「カッパーベルト」を擁するオー=カタンガ州がある。また、今回M23が占領したウビラは、ブルンジ最大都市ブジュンブラからわずか20km程度の場所にある。M23との戦闘でブルンジ兵が100名以上死亡し、1,000人以上が捕虜となったとの報道もあり(12月16日付、英FT紙)、さらに地域紛争が拡大する恐れがある。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。

30人が「いいね!」と言っています。