デイリー・アップデート

2025年12月1日 (月)

[アフリカ連合/ギニアビサウ] 

11月28日、アフリカ連合(AU)平和安全保障理事会(PSC)は緊急会合を開催し、11月26日にクーデターが発生したギニアビサウのAU参加資格停止を決定した(11月27日付デイリー・アップデート参照)。AU・PSCは、AU制定法第4条に政府の違憲な変更に対する「ゼロ・トレランス(一切の例外を認めない)」の姿勢が表明されていることを再確認し、憲法秩序の回復が行われるまでAUのあらゆる組織・活動へのギニアビサウの参加を直ちに停止するとした。2002年に発足し、アフリカ諸国55か国が加盟しているAUは、民主主義の推進を基本原則に掲げている。クーデターに対しては厳しい姿勢を貫いており、スーダン、ニジェール、マリ、ブルキナファソ、マダガスカルが参加資格停止処分となっているが、ギニアビサウがこれに続いた形だ(ガボンは民主的な選挙の実施により5月に停止処分が解除された)。

 

11月23日に6年ぶりに実施された大統領選の開票作業が続く中、ギニアビサウ軍は11月26日に「完全な支配権を掌握した」と事実上のクーデターを宣言。その後、ホルタ・インタア少将を暫定大統領に任命し、1年間の政権移行期間を即時開始すると発表した。また、軍は11月28日にイリディオ・ヴィエイラ・テ前財相を首相兼財相に任命。形式上は文民による暫定統治をアピールしたい考えとみられる(11月29日付、France24)。

 

大統領選で自らの勝利を主張していたエンバロ前大統領は、軍に一時的に拘束されたあと、隣国セネガルで保護されている。同選挙でエンバロ氏との接戦を繰り広げたとみられるディアス氏は、自身の安全のため居場所を明らかにしていないが、軍によるクーデターは、エンバロ氏が敗北を免れるために仕組んだ罠だと主張している(11月27日付、Reuters紙)。現在もディアス氏を支持していた最大野党のペレイラ党首は現在も軍の拘束下にあるとみられている。実際に軍に首相に任命されたテ氏はエンバロ大統領政権で財相を務めており、エンバロ氏の側近である。

 

今回のクーデター発生を受けて、AUのほかにも西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)もギニアビサウの参加資格停止を発表。国連や欧州連合(EU)も、AUとECOWASを支持する形で、憲法秩序の回復と開票の継続、拘束されている関係者の解放などを勧告している。

 

他方で、2020年以降、サブサハラ・アフリカでたびたびクーデターが起こっている現状は、AUやECOWASといった地域共同体が違憲な体制変更を行う国に対して課している「参加資格停止」が十分な抑止力を持っていない現実を露呈している。クーデター後に軍事政権が発足したマリ、ニジェール、ブルキナファソに対してECOWASは参加資格停止処分のほか、経済制裁も加えたが、結局2025年7月に同3か国はECOWASを正式に脱退し、独自の連帯を強めている。また、「Z世代」を中心とする反政府抗議活動の拡大を受けて、軍が最大2年間の暫定移行期間を設けると発表したマダガスカルに対しても、AUはすぐに参加資格停止処分を下したが、多くの国民は軍による悪政を続けてきたラジョリナ前大統領の追放を望んでいたことも事実だ。国際安全保障研究所(ISS)は、マダガスカルの政変の例を取り、「クーデターや違憲的な政権交代に対する AU の事後対応的なアプローチは、統治上の課題や民衆の抗議に直面している国々に対処できないことを明らかにしている」と指摘。その結果、AU のゼロ・トレランス政策は、追放された文民の国家元首を間接的に保護しているように見えることが多いとの見解を示している。

[EU] 

2026年、EUのグリーントランジション政策において重要な節目となるのが、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格施行となる。さらに、2027年に予定されている排出権取引制度(ETS)の拡大に向けた準備も進んでいる。しかし、こうした政策は、加盟国や産業界で高まる反発を背景に、一部の規制が緩和される方向に動いている。

 

CBAMは、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力など炭素集約型製品の輸入業者に対し、製品に含まれる排出量に応じた炭素コストを課す仕組みであり、規制が緩い国からの輸入による「カーボンリーク」を防ぎ、EU企業の競争力を守ることが目的となっている。2023年に導入が決まった際には大きな政治的論争はなかったが、2026年以降の完全施行を前に、経済への影響や貿易摩擦を懸念する声が強まっている。特に中東欧諸国やポルトガルなど、対象製品への依存度が高い国では反対が顕著であり、規制緩和や免除を求める動きが広がる可能性がある。一方、北欧諸国は脱炭素化した産業を守るため、CBAMを強く支持している。

 

ETSについても、2027年に導入予定の「ETS 2」が焦点となる。EUは、ETS 2によって2030年までに排出量を42%削減できると見込んでいる。しかし、導入延期を求める声が強く、消費者物価への影響を懸念する加盟国も多く、ETS 2は極めて敏感な政策となっている。

 

さらに、2035年以降のガソリン車・ディーゼル車販売禁止の見直しを求める圧力も高まっており、ドイツとイタリアがこの動きを主導している。

 

総じて、EUのグリーントランジション政策は、政治的現実と経済的負担を背景に、当初の厳格な規制から柔軟化へとシフトしている。2026年は、CBAMの完全施行とETS 2をめぐる議論が、EUの気候政策の方向性を決定づける重要な局面となるだろう。

[日本] 

財務省「法人企業統計調査」によると、2025年7~9月期の経常利益は前年同期比+19.7%と、4四半期連続で増加した。内訳を見ると、製造業(+23.4%)が3四半期ぶりに増加した。そのうち、電気機械(+87.5%)や生産用機械(+65.9%)がけん引だった一方で、輸送用機械(▲14.0%)や業務用機械(▲15.2%)の減少が目立った。また、非製造業(+17.6%)はプラスを続けた。特に、サービス業(+31.8%)や建設業(+48.6%)が増加した。

 

売上高は+0.5%と増加した。増加は18四半期連続だった。製造業(+0.2%)と非製造業(+0.6%)ともに増加した。設備投資は+2.9%で、3四半期連続で増加した。製造業(+1.4%)は増加基調にあり、特に鉄鋼(+36.9%)や電気機械(+18.6%)などが伸びた。非製造業(+3.9%)も3四半期連続で増加した。情報通信業(+26.8%)や不動産業(+14.2%)などの増加率が大きかった。

 

なお、足元の瞬間風速とも評される前期比でみると、売上高は前期比▲0.1%となり、2四半期連続で減少した。Q2(▲1.0%)から下落ペースは減速しており、減少と言ってもおおむね横ばい圏の動きだった。製造業(▲0.5%)は4~6月期と同じで、2四半期連続のマイナスだった。非製造業(0.0%)は横ばいであり、2四半期ぶりにマイナスではなくなった。

 

経常利益は+3.3%、2四半期連続のプラス、4~6月期(+2.0%)から増加ペースを加速させた。製造業(+5.9%)がQ2(▲3.0%)から3四半期ぶりにプラスに転じた。一方、非製造業(+2.1%)は4四半期連続のプラスだった。設備投資は▲1.4%と減少に転じた。非製造業(+0.7%)は2四半期ぶりに増加したものの、製造業(▲5.1%)がマイナスに転じた影響が大きかった。

[アルゼンチン/米国] 

ミレイ政権が中間選挙で勝利したことで、外交方針がより米国寄りになることが指摘されている。この動きは、米国トランプ政権にとって、中国の影響力を弱める好機となっている。ベッセント米財務長官も「ミレイ政権は中国をアルゼンチンから排除することにコミットしている」と述べ、財政支援の発動の背景を説明している。

 

報道によればアルゼンチンへの中国関連プロジェクトの累計契約額(コミットメントベース)は、約233億4,500万ドルに達している。また、バカ・ムエルタ頁岩層への資金供給や北部のリチウム鉱床など重要な資産の取得もしてきた。トランプ政権は、既存の投資の撤回までを求めるとは考えられていないものの、今後の米国の戦略的分野への新規投資を抑制することを目指しているとみられている。

 

ただし、中国は単なる投資家ではなく、アルゼンチンにとって「銀行」の役割を果たしてきた。中国の融資は、その大半がベルグラーノ・カルガス貨物線の改修や南部の水力発電ダムなど、国家の物流・エネルギー基盤を支えるインフラに集中している。これらのプロジェクトはミレイ政権発足後に国による財政支出を抑えることを理由に停止されたものも多く、契約不履行や未完成の公共事業が問題化している。

 

また、中国は約81億ドルを企業買収に投じ、石油会社や金・リチウム鉱床の株式を取得してきた。化石燃料分野への投資が約60億ドル、鉱業分野が約20億ドルと資源の「鍵」を握る戦略となっている。こうした今後のアルゼンチンの復興の原動力となる分野において、中国の影響力は大きく、このまま「中国を排除する」という方針を続けることが、アルゼンチン経済に及ぼす影響も懸念される。

 

また、鉄道関連では140億ドル規模の投資がコミットされており、アルゼンチン北部からロサリオ港などの輸出拠点へ穀物を運ぶ貨物鉄道網は、全長約7,000km、17州を結ぶ重要なインフラであり、農産物輸送コスト削減に不可欠な路線となっている。米国がこの空白を埋めるには、新たな資金投入が不可欠であり、地政学的・経済的な課題は極めて大きい。

[イスラエル] 

11月30日、ネタニヤフ首相は、現在進行中の汚職裁判について、自身への恩赦を求める書簡をヘルツォグ大統領に提出した。ネタニヤフ氏は書簡の中で、「裁判を最後まで戦い、無実を完全に証明したいという個人的な思いはある」としつつも、「裁判の継続は国家の分断を招き、社会の亀裂を深める」として、恩赦請求の理由を説明した。これに対し、ヘルツォグ大統領は「極めて異例な要請」としながらも、「真摯に検討する」と述べた。

 

連立政権内では、極右政党のスモトリッチ財務相やベン・グビール国家安全保障相が、ネタニヤフ氏への恩赦を支持する立場を表明した。一方で、野党側は強く反発している。ラピード元首相は「罪の認定や悔悛の表明、そして政治からの即時引退なしに恩赦を与えることはできない」と述べ、民主党のゴラン党首も「恩赦を求めるのは有罪者だけだ」、「首相は責任を取り、罪を認め、政界を去るべきだ」とXに投稿した。

 

ネタニヤフ氏は2019年、収賄・詐欺・背任など3件の汚職事件で起訴され、2020年から裁判が続いている。裁判当初は「首相としての職務と並行して裁判に臨める」としていたが、ハマスとの戦闘が始まって以降は、安全保障上の理由などを挙げて出廷の延期を繰り返し求めてきた。

 

本来、恩赦はすべての法的手続きが終了し、有罪判決が確定した後に適用されるのが通常である。しかし、ネタニヤフ氏は罪状を全面否認しており、異例の段階での恩赦申請となっている。さらに、同氏を支持するトランプ米大統領も11月初旬にヘルツォグ大統領へ恩赦を求める意向を伝え、イスラエル訪問時の国会演説でもネタニヤフ氏の恩赦に言及した。このような国際的な要請も異例であり、ヘルツォグ大統領が最終的にどのような判断を下すのか注目されている。

[欧州] 

1975年に欧州各国が共同で設立した欧州最大の宇宙機関であり、英仏伊独など欧州23か国が加盟する欧州宇宙機関(ESA)は、11月26日から27日に開催された閣僚理事会(同機関の最高意思決定機関)の会合で3か年計画予算を決定するとともに、今後の活動方針について議論した。

 

今回決定された今後3年間の予算規模は、前回比3割増となる約221億ユーロとなり、地球観測に約34億ユーロ、安全な通信に約21億ユーロ、欧州ロケット打ち上げ機の開発に約9億ユーロ等が計上されている。

 

また、今回の会合の記者会見では、今後は安全保障と防衛のためにも活動していくと発表された。これまで宇宙の平和利用に注力していたESAにとっては歴史的な変化である。ウクライナ侵略が、情報収集と安全な通信の両方において宇宙資産の重要性を示したとの問題意識があり、デュアルユース(軍民両用)の衛星システム等を開発する計画を示した。

 

また、ポーランドはESAの防衛への関与強化を推進する上で主導的な役割を果たしたと、ヨーゼフ・アシュバッハーESA事務局長は述べており、ポーランド政府とESAは現在、ポーランドに新たなESAセンターを設立し、宇宙安全保障とレジリエンス能力の向上を計画している。

 

また、今回の閣僚理事会会合では、欧州投資銀行(EIB)は宇宙企業向けの初の専用融資制度を発表し、商業銀行との提携により14億ユーロの資金を動員することが見込まれている。

[中国] 

上海市は、2035年までに「世界的金融センター」としての地位を確立する方針を掲げる一方、金融産業の肥大化による製造業の空洞化を回避することを喫緊の課題としていると香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が報じている。第15次五か年計画(2026~2030年)では、製造業のGDP比率を25%以上に維持する明確な数値目標を盛り込む見通しであり、これは大都市として全国でも先進的な取り組みとなる。

 

背景には、上海経済のサービス業偏重が急速に進み、2024年上半期にはサービス業比率が79.1%と過去最高を記録したことがある。製造業比率は約20%に低下し、今年第1~3四半期の工業生産額は前年比+3.9%にとどまり、地域経済全体の+5.5%を下回った。

 

中央政府は「製造業の合理的シェアの維持」を全国戦略として掲げているが、先進都市で金融・サービス業が膨張すると産業空洞化が起こりやすいことは世界共通の現象であり、政策文書でも「逆転は容易ではない」と認めている。このため、上海は香港やニューヨークの経験を踏まえ、金融業と並ぶ強固な工業基盤を次期成長の柱に据える方針だ。

 

上海マクロ経済研究所のエコノミストは、上海には自動車(テスラ)、造船、石油化学、航空機(C919)、半導体(SMIC)など多様で規模の大きい産業クラスターが存在し、他の国際都市にはない「全方位型の製造業体系」を保持していると指摘する。豊富な工業用地や体系的な都市計画を強みとし、上海には依然として産業高度化の余地が大きいという。さらに、製造業強化は単なる地方政策ではなく、国家的な技術・経済安全保障の要所としての役割を担うものだと述べている。

 

次期五か年計画では、金融センター化と製造業集積の「二本柱」を両立させる具体策が示される見通しであり、上海はその成否が国家戦略に直結する重要都市として期待されている。他方で、中国の製造業はGDPの約25%、世界製造業の31%を占めており、中国の過剰生産に対する摩擦と懸念は今後も続くと予想される。

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