2025年7月25日 (金)
[モザンビーク]
7月22日、モザンビーク検察庁は、政治家のヴェナンシオ・モンドラーネ氏を2024年10月の大統領選挙後の抗議活動を扇動したなどの罪で起訴した。
モンドラーネ氏はもともと野党「モザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)」の出身だったが、党内の対立から無所属で同大統領選に出馬。歯に衣着せぬ物言いで現政権批判を展開し、若者らから多くの支持を集め、与党「モザンビーク解放戦線(FRELIMO)選出候補のダニエル・チャポ氏(現大統領)の65%に次ぐ24%の票を得た。しかし、モンドラーネ氏は、FRELIMO政権が選挙結果を不正に操作したと強く反発。SNS上で支持者に抗議活動への参加を呼びかけ、首都マプトを中心に大規模な反政府デモを指揮した。デモ鎮圧のための警察・軍の武力介入により300人以上のデモ参加者が死亡したと報じられている。
1月に大統領に就任したチャポ氏は、モンドラーネ氏との対話の姿勢を強調。両氏は3月と5月に直接対談を実施し、拘束された抗議デモ参加者の釈放や死者・負傷者への補償の支払いなど和解に合意したと報じられていた。しかし、7月10日にモンドラーネ氏は「チャポ大統領が合意は存在しないと嘘をついている」と非難。両氏の関係悪化が噂(うわさ)される中での今回の検察による起訴となった。
報道によると検察の起訴内容はモンドラーネ氏による「テロリズム扇動」を含む5つの罪状で、最大20~30年の懲役刑が科せられるとのこと。モンドラーネ氏は国際弁護士と相談中であるとし、仮に有罪判決が下されたとしても、今後2回まで控訴が可能。しかし、懲役刑が認められれば51歳の同氏に対する「政治的処刑に等しい行為」との指摘がある(独ドイチュ・ヴィレ紙)。
30年間続く現FRELIMO政権に不満を持つ若者らからのモンドラーネ氏支持は厚く、同氏は4月に新党「Anamalala(Alianca Nacional para um Mocambique Livre e Autonomo:モザンビークの自由で自主的な国家を目指す国民同盟)」の設立を発表。「Anamalala」はモザンビークの主要言語であるマクア語で「それは終わる」という意味を持ち、FRELIMO長期政権終結のメッセージを全面に押し出して政治活動を進めてきたが、国家機関を牛耳る政府がモンドラーネ氏人気の抑え込みに踏み切った可能性がある。
米・戦略国際問題研究所(CSIS)は、2024年選挙後の抗議デモも、北部のカーボ・デルガド州における反政府武装勢力の活動も、自己利益に走るFRELIMO政権への若者らの不満の表出という点で共通していると指摘。チャポ氏とモンドラーネ氏が一時進めてきた与野党間の政治対話を重視し、活動に参加した若者らに恩赦を与え、政府と市民との間の「社会契約(Social contract)」を修復する必要があるとの見解を示している。
[米国]
7月24日、トランプ大統領は連邦準備制度理事会(FRB)の本部を訪問し、改めて利下げをパウエルFRB議長に要請した。大統領は、パウエル議長の案内の下FRB本部の改修工事現場を視察し、費用が当初の想定を上回っていることを批判した。視察には、スコット上院議員(銀行委員会委員長)、ボート行政予算管理局長などが同道した。トランプ大統領は、かねてより速やかな利下げをFRBに要求してきたが、実現せず、FRB議長の更迭が取りざたされるようになった。FRB本部の改修工事費用が、当初の19億ドルから25億ドルへとかさんでいることをもって、議長更迭に踏み切るべきとの声も上がっていた中での、大統領による工事視察となった。視察後、トランプ大統領は、パウエル議長更迭の必要はないとの認識を明らかにしている。自身のSNS発信では、工事費用が膨らんだことは問題視しつつも、始まってしまった工事は速やかに終えるしかないと述べ、それよりも速やかな利下げが必要だ、と従来からの主張を繰り返した。
[ECB]
欧州中央銀行(ECB)は7月24日の理事会で、政策金利を8会合ぶりに据え置いた。2024年6月に利下げを開始後、7月に据え置いて以来のことだった。ここ1年間でECBは計8回の利下げを実施しており、中銀預金金利は利下げ開始前の4%から現在の2%まで引き下げられており、景気を熱しも冷やしもしないとされる中立水準にある。
声明文によると、「物価上昇率は現在、2%の中期目標になっている」と評価された。前回6月時点の「2%付近にある」という表現から修正されており、目標が達成されている状態にあると言える。また、入手する情報は、物価見通しが前回までの評価におおむね沿っていること、賃上げペースの鈍化とともに、域内の物価上昇圧力が軟化していることなどが指摘された。ユーロ圏経済はこれまでのところ、過去の利下げを反映して、厳しい世界情勢の中でも回復力を見せているものの、経済環境が特に貿易摩擦によって極めて不確実な状態にあるという現状認識が示された。
金融政策について、「特に、政策金利の決定は、基調的な物価動向、金融政策の伝達力ともに、入手する経済・金融データによる物価見通しとそれを取り巻くリスクの評価に基づく」と記された。前回までは、「入手する経済・金融データ、基調的な物価動向、金融政策の伝達力に基づく物価見通しの評価に基づく」であり、物価見通しのリスクが強く意識される文言になった。ユーロ圏では、貿易摩擦などから景気の減速や物価の下振れリスクが懸念されているからだろう。
こうした結果を受けて、市場では次回9月の理事会で利下げを実施して、そこで今回の利下げ局面が終了するとの見方が広がっている。もちろん、最大の不確実要因になっている米国との関税協議次第であるため、それらの動向も合わせて注目される。
[ウクライナ]
7月24日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、汚職対策機関の独立性を回復させる法案を提出した。2025年7月21日週、国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察庁(SAPO)に対して、政治任命される検事総長の統制力を強化する法律が成立した後、戦時下で異例の抗議デモが国内各地で発生し、方針転換を迫られた形である。同国では戦時戒厳令によって集会が制限されているものの、全土で数千人が抗議デモに参加した。
NABUとSAPOは、声明で「大統領が提出したこの法案を通じて両機関は有するすべての権限を取り戻し、独立性が担保される」と述べ、議会に対して速やかに採決するよう要請した。検事総長による統制強化の狙いは、ロシアの影響力排除にあった。7月21日には安全保障当局が汚職対策機関の職員2人をロシアとのつながりがあるとの疑いで拘束し、ほかの職員への捜査にも着手している。
ゼレンスキー大統領は、今回提示した法案でも、ロシアの影響力から法執行システムを守る仕組みが確保されていると強調した。
[イラン/EU]
7月25日に、イランとEUおよびE3(英・仏・独)各国の当局者が、トルコのイスタンブールで核問題に関する次官級協議を行う。イランからはガリババディ外務次官、EUからはカラス外務・安全保障政策上級代表らが参加する予定。イランのアラグチ外相は協議に先立ち、イランがウラン濃縮の権利を堅持し続けることを表明した。
E3諸国は、8月末までにイランが核問題に関して協力姿勢を見せなければ、2015年に締結された核合意(JCPOA)の規定にあるスナップバック(制裁再発動)の手続きを行うと警告している。スナップバックとは、イランがJCPOAの重大な違反をしていると認められた時に、解除された国連制裁をすべて復活させる手続きであり、イランとしてはこれを何としても回避したいと考えている。
なお、会議に先立ち、7月23日にはガリババディ氏が、今後数週間のうちにIAEA(国際原子力機関)のチームが協議のためイランを訪問することを明らかにした。イランは7月初め、IAEAとの協力を一時停止することを決定したが、IAEAとの協議予定を発表することで、イランのIAEAに対する協力姿勢をE3に対して見せる狙いがあるものと考えられる。
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