2025年7月1日 (火)
[南アフリカ(南ア)]
6月28日、連立政権(GNU)内第二党である「民主同盟(DA)」は、シリル・ラマポーザ大統領が8月15日に実施すると発表した「国民対話」に参加しないと表明した。DAのジョン・スティーンハイゼン党首は、「大統領が自身の陣営内の腐敗に対応しない限り、意味のない議論には参加しない」と怒りを露わにした。
1994年の全人種参加型選挙以降、30年間にわたり単独政権を維持してきた「アフリカ民族会議(ANC)」は政権運営能力の低さや党内にはびこる汚職等の理由から支持を落とし、2024年5月の選挙で大敗。ANCは野党第一党だったDAらとのGNUの組成を余儀なくされた。ANCはGNU内第一党の座は維持してきたものの、改革推進派のDAとの対立がたびたび起こっていた。
今回のDAの国民対話のボイコットの大きな理由に、6月25日にラマポーザ氏が、DAに所属するアントニー・ウィットフィールド貿易産業競争副大臣を突如解任したことがある。ラマポーザ陣営は2月にウィットフィールド氏が米国に出張する際に、大統領の正式な許可を得ていなかったと主張。これに対しDA側は「事前に申請していたが、大統領側からの反応が得られなかった。そして、DAの閣僚に対しては厳しい対応をとる一方で、汚職疑惑があるANCの大臣らに関しては見て見ぬふりをしているのは二重基準だ」と強く批判。DAのGNUからの脱退を示唆する48時間の「最後通告(Ultimatum)」を大統領に突きつけたが、脱退はしない代わりに国民対話に参加しないとの意思表示を行ったものだ。
ラマポーザ氏が発表した「国民対話」は2012年に定めた「国家開発計画2030(NDP)」の後続となる計画を国民との対話を通じて構築することを意図したもの。犯罪、失業、貧困対策などが引き続き主要な論点となり、32名の南ア国内の著名な有識者・指導者らが対話の促進役に指定されている。しかし、野党からはラマポーザ政権が自ら決定すべき政策を国民に委ね、問題を先送りにするとの批判が上がっているほか、この対話に740億ランド(約6,000億円)の税金が投入されことを疑問視する声も多い。
南ア人種関係研究所(IRR)の4月の世論調査では国民の約半数はGNUを支持する一方、ANCの支持率は29.7%まで低迷しているとの結果も出ている(DAが30.3%)。2026年の統一地方選までにANCがどこまで国民の支持を集めることができるかは、2028年で任期が満了するラマポーザ氏、およびANC内の後継者候補にとって最重要課題となる。
[欧州]
6月30日、欧州中央銀行(ECB)は、新たな5か年の金融政策戦略を発表した。主なポイントとして、①理事会は中期的な対称的な2%の物価目標を確約すること、②対称性は、物価上昇率が目標からいずれかの方向に大きく、持続的に乖離(かいり)した場合、適切に力強く、もしくは持続的な政策対応を必要とすること、③利用可能なすべての政策ツールは政策手段のままであり、その選択、設計、実施は新たなショックに対する機敏な対応を可能にすること、④地政学・経済的な分断やAIの利用拡大などのような構造変化は、物価環境をより不確実なものにしていること、の4点が挙げられた。
前回(2020~21年)の見直しでは、物価上昇率が低位にとどまることを意識していたものの、今回は上下双方向を意識した内容になった。これは、コロナ禍後の物価目標からの上振れと、ECBスタッフ見通しに示されたように、2026年にかけて下振れ予想を共に考慮した結果と言える。上振れも下振れも等しく望ましくないとして、期待インフレ率がアンカーとなり、物価上昇率が中期目標の2%に落ち着くことを意図している。また、これまでの非伝統的な金融政策については、手段として保持することも示した。ただし、それらの利用については、副作用も指摘されているため、包括的な比例評価の対象となると記載された。
次回の見直しは2030年ごろに予定されている。
[欧州]
英国の自動車生産台数は5月に前年同月比33%減の49,810台となり、1949年以来の低水準に落ち込んだ。生産高は5か月連続で減少し、2020年のCovid-19のロックダウン中に自動車工場が閉鎖されたときを除いて、76年間で最悪の月間パフォーマンスを記録した。英国の自動車会社は、トランプ政権が米国に輸入される外国製車に対する関税引き上げを実施したため、4月から米国への車両出荷を停止したことが影響した。 5月の米国への自動車出荷は前年同月比55%減少し、輸出に占める米国のシェアは18%から11%に減少した。ただし、毎年英国から出荷される10万台の自動車に対しては、米国の関税を27.5%から10%に引き下げる米国-英国貿易協定が合意されたため、輸出は再開される見込みとなっており、今後は改善が見込まれる。それでも、英国の自動車産業は米国の貿易戦争が勃発する前から「ゼロエミッション車指令」のコスト高もあり低迷しており、課題も多い。
一方、EUはまだ米国と貿易に関する協定などは締結できていないが、ドイツのメルツ首相は、欧州委員会に対し、自動車などの主要産業に絞って早期に協定を妥結するよう圧力をかけている。 欧州委員会の当局者は、ドイツからの自動車輸入を減らすことがトランプ大統領の大きな目的の一つであることや、複数の国が迅速に協定を結ぶために譲歩しすぎることを警戒していることもあり、早期の協定妥結は難しいと述べている。
ドイツ経済は輸出に依存しており、関税によって特に大きな打撃を受けている。特に自動車産業は、同国のGDPの約5%を占めており影響が大きい。そのため、ドイツの自動車会社らは、米国にある工場で生産した車両を米国外に輸出した場合は、輸入関税の払い戻しを受けるプログラムも米国に求めている。また、仮に英国のようにクォータ制度で合意できたとしても、割り当て数をEU内で争うことになると考えられ、ドイツの自動車産業の課題も多い。
[アルゼンチン]
「リチウム三角地帯」と呼ばれる3つの州が、リチウム開発を推進するため国営企業を設立した。世界的なエネルギー転換において、アルゼンチンは銅、レアアース、特にリチウムを含む脱炭素化に必要となる多様な素材の潜在的な供給国として浮上しており、特にリチウムは、自動車やその他の電気機器のバッテリー生産、再生可能エネルギーの貯蔵などに不可欠となっている。
リチウムの需要は今後数年間でさらに増加する見込みだが、アルゼンチンには、法的安定性に関する投資家の不確実性、環境問題、水資源のほかの産業との競合、地元でのバッテリー生産など付加価値の高い活動促進の困難さなど課題が多い。
そのため、州政府と州所有企業が主導する形で開発が進められている。州政府は、初期段階の鉱業プロジェクトを主導し、民間資本との協力を通じて開発を進め、これにより、鉱業の運営条件を定義し、資源を確保し、民間投資を促進する狙いだ。
ただし、リチウムの開発は資源依存度が非常に高く、電気自動車においてほかの材料の技術が開発されるなど、世界的な需要が減少するようになれば、開発の将来性を制約するリスクも存在する。
[ハンガリー/セルビア/ジョージア]
強権的な政治体制を敷く中東欧各国で、政府への抗議運動が広がっている。6月28日、ハンガリーでは首都ブダペストで、LGBTQ(性的少数者)を支持するプライドパレードが警察の禁止令にもかかわらず強行され、主催者発表によると約20万人が参加した。一方、同日6月28日、バルカン半島のセルビアの首都ベオグラードでも、汚職を糾弾して早期の選挙を求める大規模な反政府デモが開かれた。一部が暴徒化して警察と衝突し、70人超が拘束された。デモ参加者は首都の幹線道路を封鎖するなど混乱が続く。そして、旧ソ連の東欧ジョージアでは政府が野党勢力の抑え込みを狙い、圧力を強める。6月30日までの1週間で、親欧州路線の野党指導者ら6人が相次いで拘束された。ジョージアでは2024年10月に実施された議会選で与党「ジョージアの夢」が勝利を発表。野党側は「結果は不正だ」と主張し、再選挙を求めて大規模な抗議運動を展開している。政府は長期化するデモを鎮圧し、有力野党の解体をもくろんでいるとみられる。
[中国]
7月1日、中国共産党は創立104周年を迎えた。これに先立ち、同党は2024年末時点の党員数が1億270万人となり、前年より約1%(109万人)増加し、1億人を超えたと発表した。ただし、党員数の増加率は鈍化傾向にあり、その一因として、党の最高人事機関である中央組織部による審査の厳格化が挙げられている。
中央組織部は「初めから適切な人材を確保したい」との方針のもと、政治的審査を強化しており、不合格者の増加や審査のための観察期間の長期化が進んでいるという。腐敗撲滅を目的とする機関の調査によれば、多くの腐敗した幹部は入党時点から不適切な動機を持っていたとされている。
中国では、共産党員であることが社会的な出世や有意義な政治的キャリアを築くための前提条件とみなされているため、入党希望者は増加を続けており、待機者リストも拡大している。中央組織部のデータによると、2024年末時点で2,142万人が入党を希望しており、前年より44万人増加した。また、2024年のデータでは、入党希望者のうち約58%が大卒以上の学歴を有している。
また、党員の高齢化も顕著になっている。2024年度には、35歳以下の党員の割合が前年比で2.4%減少した一方、61歳以上の党員数は前年比で4%増加した。
[米国/シリア]
6月30日、トランプ米国大統領は大統領令により、518にわたるシリアの個人や団体を制裁対象リストから削除したことを発表した。シリア政府は、2011年に内戦が勃発する以前から経済制裁を長い間受け続けてきたため、米・シリア関係にとっても大きな転換点となる。シリアでは、2024年12月に、シリア北部を拠点としていた反体制派勢力シャーム解放戦線(HTS)によってアサド政権が倒されて政権交代が起きた。
トランプ大統領は、5月にサウジアラビアを訪問した際に、シリアに対する制裁を解除することを突然発表し、またシリアのシャラア暫定大統領と握手して面談を実施したことで世界を驚かせた。5月末には制裁解除の第1弾を発表しているが、今回の発表はそれに続くもの。シリアのシャイバニ外相は「トランプ大統領の歴史的な大統領令に従い、シリアに課せられた制裁措置の大部分が解除されたことを歓迎する」と発表した。
なお、政権が倒されてロシアに亡命したアサド大統領や彼の協力者、過激派組織「イスラム国」に対する制裁などに関しては今後も維持される。また、2019年のシリア民間人保護法(シーザー法)に基づいて米議会で義務付けられた制裁に関しては、再度米議会によって同法の撤廃が可決されない限り継続される。
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