デイリー・アップデート

2025年6月20日 (金)

[メキシコ] 

メキシコの2025年第1四半期のGDPは前期比+0.2%で確定した。前年同期比では+0.8%となり、メキシコ経済が潜在成長率を下回っていることを示している。

 

低成長の要因として内需の鈍化が挙げられる。特に投資は、前期比▲4.0%、前年同期比▲5.2%と大幅に縮小した。民間投資は前期比▲3.6%減、公共部門は前期比▲7.8%となり、メキシコ経済の足かせとなっている。また、労働需給の悪化により、消費は前期比▲0.4%、前年同期比▲0.6%となった。一方、公共消費は前期比+0.4%、前年同期比+1.5%となった。が、これは政府投資を除く。全体として、内需は前期比▲1.2%、前年同期比▲1.5%と弱さが目立っている。

 

一方、純輸出が経済を支えた。輸出は前期比+1.1%、前年同期比+12.7%となったがこれは関税への懸念の中で米国企業がメキシコ製品の輸入を前倒ししたためと考えられ、この傾向が続く可能性は低い。輸入は前期比▲4.3%、前年同期比▲2.3%減となったが、これは内需が低迷したことが要因と思われる。

 

先行きについては、メキシコ経済の見通しは依然として不透明だ。最悪の事態は過ぎ去ったかもしれないが、短期的には成長が回復する可能性は低い。今年は横ばいの成長が予想されている。

[ケニア] 

6月19日、ケニア国会で2025年7月~2026年6月までの歳入・歳出の方針を定めた「2025年度財政法案(The Finance Bill, 2025)」が可決された。昨年同時期に発表された「2024年度財政法案」は市民生活に直結する増税案が多数盛り込まれていたことから、「Z世代」の若者らを中心に全国規模で抗議デモが発生。60名以上の死者が生じる事態となり、政府は混乱を抑えるために増税案の撤回と、野党幹部の内閣への受け入れを余儀なくされた。そうした背景を受けてか、2025年度財政法案では目立った増税は明記されなかった。現在のところ財政法案可決に対する抗議デモの動きはみられない。

 

財政法案の可決に先立ち、ジョン・ムバディ財相(野党・オレンジ民主運動)が発表した「2025年度予算教書(Budget Statement 2025)」によると、ケニアの2025年度の歳入は増税案の撤回により3兆3,220億シリング(約257億ドル、GDP比14.3%)に対し、歳出は4兆2,920億シリング(約332億ドル、GDP比16.3%)となり、財政赤字は対GDP比で4.8%となる見込み。増税案撤回前の2024年度予算教書では歳入3兆3,430億シリング(約259億ドル、GDP比18.5%)、歳出3兆9,920億シリング(約309億ドル、GDP比22.1%)、財政赤字は対GDP比3.3%を見込んでいた。すなわち、この1年の間にケニアの実質GDPは5%程度増加したにもかかわらず、2024年度当初比では歳入は減少し、財政赤字も拡大していることとなる。

 

ムバディ財相は財政赤字を補填するために2,877億シリング(約22億ドル)を海外から、6,355億シリング(約49億ドル)を国内からの借り入れで調達すると述べた。海外からの新規借り入れはアラブ首長国連邦からの15億ドル、中国からの2.8億ドルが大半を占めるとみられる。2021年から国際通貨基金(IMF)の総額36億ドルの財政支援プログラムを受けてきたケニアだが、同プログラムは約5億ドルの融資枠を残したまま3月に終了した。これは増税撤回による財政悪化によりIMFの融資の条件を満たせなかったためとの見方がある。ケニア中銀(CBK)は6月10日に開催された金融政策委員会(MPC)において、IMFとの新規プログラムについて9月に協議を行うとの意向を示している。しかし、2027年の総選挙に向けてケニアではさらに財政支出圧力が高まる可能性が高く、IMFとの協議の進展は容易ではない可能性もある。

[インドネシア/ロシア] 

6月19日、インドネシアのプラボウォ大統領がロシアを訪問し、サンクトペテルブルクでプーチン大統領と会談した。両首脳は戦略的パートナーシップ宣言に調印した。インドネシアでの原子力発電の導入に向けた協力を含む経済連携の拡大を議論した。プラボウォ大統領は6月18日にサンクトペテルブルクを訪問し、「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」 に主賓級の待遇で参加した。6月16~17日にカナダで開かれたG7サミットに招待を受けていたが、シンガポールとロシアへの訪問がすでに決まっているとして参加を見送った。プラボウォ大統領は就任以来、ロシアをはじめとする米欧以外の国々とも積極的に関係を強化している。2024年11月にはロシアと初の海軍合同軍事演習を実施し、2025年1月にはBRICSに正式加盟した。

[米国/イラン/イスラエル] 

6月19日、トランプ大統領がイランに対する攻撃を実施するかどうかを「今後2週間以内に決める」と発言したことを、米ホワイトハウスのレビット報道官が記者会見で発表した。その間にイランとの交渉が行われるとみられている。同報道官は、イランがウラン濃縮を行わないことと核兵器を持たないことがイランとの合意に関する条件であると付け加えた。米国のウィトコフ中東特使とイランのアラグチ外相が電話会談を行っていることが報じられており、イスラエルとイランの攻撃の応酬が始まってからも米・イラン間の核問題に関する交渉は継続中であるとのこと。

 

6月20日には、アラグチ外相と、英・仏・独の外相およびEUのカラス外務・安全保障政策上級代表との協議がジュネーブで行われる予定。英国のラミー外相は、「今こそ中東の悲惨な状況に終止符を打ち、誰の利益にもならない地域の緊張の高まりを阻止すべき時だ」と語っており、また前日の19日にラミー外相はルビオ米国務長官と会談を行い本件について議論した。

 

イスラエルのネタニヤフ首相は、「Rising Lion(立ち上がるライオン)」作戦(イスラエルが現在イランに対して行っている軍事作戦)が予定よりも早く進んでいるとインタビューで語っており、既にイランのミサイル発射装置の半分を破壊したと付け加えた。また、トランプ氏の発言に関してネタニヤフ氏は、トランプ氏がイランに対する軍事作戦に参加したいかどうかは「完全に彼の決定だ」と述べた。

[欧州] 

6月19日、スイス国立銀行は、政策金利を0.25%引き下げてゼロ%にすることを決定した。2024年3月に利下げを開始してから、6会合連続の利下げ。5月の物価上昇率が前年同月比▲0.1%まで下落しており、スイスフラン高も進んだ。米国の関税政策や地政学リスクの高まりから不確実性が高まっている。

 

スウェーデンのリクスバンクは6月19日、政策金利を0.25%引き下げて2.0%にすることを決めた。市場予想どおり。声明文で、2024年に始まった景気回復が勢いを失っていること、物価上昇率が前回見通しから下方修正されたことなどを指摘した。また、先行きについて年内の追加利下げの可能性がいくらか(some probability)あるとしており、追加利下げは9月とみられている。

 

ノルウェー中央銀行は6月19日、政策金利を0.25%引き下げて4.25%にすることを決定した。利下げは5年ぶりで、予想外だった。物価上昇率は依然として高いものの、物価の基調は前回3月の見通しよりも落ち着いており、経済活動を必要以上に抑制しないようにする上で、今回の利下げが適切と判断した。バーチェ中銀総裁は2025年内にあと1~2回の利下げが実施される可能性を指摘した。

 

イングランド銀行は6月19日、市場予想どおり政策金利を4.25%に据え置くことを決めた。ただし、6対3での決定だった。失業率が2021年以来の高水準まで上昇し、賃金上昇率が鈍化したため、労働需給が緩んだと判断した。ベイリー総裁は「金利は引き続き緩やかな低下基調にある」としつつも、次回8月利下げを予想しているわけではないと述べた。なお、追加利上げについて「緩やかで慎重な」アプローチをとるというガイダンスを維持した。

[カナダ] 

6月19日、カナダ政府はカナダの鉄鋼・アルミ生産者と労働者を保護するための措置を発表。主な内容は、①鉄鋼・アルミ製品に対する既存の報復関税を7月21日に米国との貿易協議進展に応じた水準に調整する、②6月30日から「相互調達政策」実施。連邦政府の調達品へのアクセスはカナダのサプライヤーと、信頼できる貿易相手国に限定する、③FTA非締結国からの鉄鋼製品輸入に対し、2024年水準の100%の関税枠を設定、④今後数週間は追加関税措置を適用、⑤鉄鋼・アルミそれぞれに政府関係者タスクフォースを創設、⑥大企業向けタリフローン制度で流動性支援。

 

米国の鉄鋼・アルミ関税は現在50%、カナダの米国産鉄鋼・アルミに対する関税は25%。米加両国は、通商交渉の暫定的期限を7月中旬に設定しており、不調に終わった場合は関税を引き上げるとみられる。米国の高関税により他国から安価な鉄鋼がカナダに流入することも抑制する。カナダの2025年5月の失業率は7%と、コロナパンデミック期間を除くと2016年9月以来の高水準。製造業と輸出部門の雇用創出が大きい。

[EU/中国] 

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、G7サミットでの演説で中国を強く批判した。フィナンシャル・タイムズ紙は、EUは中国と7月24日から25日で予定されている首脳会談に先立ち、数多くの貿易紛争で進展が見られないため、北京との主要経済協議の開催を拒否したと報じている。ライエン委員長は、中国の貿易慣行に対するトランプ米大統領の批判は「正しい」と述べ、中国が欧米諸国との貿易関係において「支配、依存、脅迫のパターン」を永続させていると非難し、特に、中国企業が欧州の競合他社に対して不公正な優位性を確保するために国家補助金を活用していることを批判している。

 

EUが協議を拒否したことは、トランプ大統領の関税戦争の中で、中国が米国に対抗する力として欧州に接近しているにもかかわらず、両者の間の深い溝を浮き彫りにしている。またこの協議は、首脳会談の事前準備の場として開催される予定だった。2025年の首脳会談は、二国間関係樹立50周年という、外交上特に重要な意味を持っていた。

 

EUと中国は、貿易について多くの課題を抱えている。EUは昨年、中国電気自動車産業が巨額の国家補助金の恩恵を受けているとして、対中電気自動車関税を導入した。これに対し中国は、EU産ブランデーに反ダンピング関税を課し、豚肉や一部乳製品に対する補助金調査を開始し、追加関税につながる可能性がある。またここ数週間、EUは中国製医療機器を公共調達契約から排除し、建設資材についても反ダンピング関税を課した。また、中国が4月の米関税措置への報復としてレアアースの輸出制限を導入したことでさらに関係は悪化している。中国の輸出許可証の発行遅延により、一部の欧州の生産者が操業停止を余儀なくされる事態となっている。

 

事前協議の中止は首脳会談の具体的な成果への期待を低下させる。この報道が事実であれば、対話の中止により、首脳会談自体が開催されるかどうかも疑わしくなる。そもそも首脳会談は北京で開催され、記念すべき年であるにもかかわらず、中国からは習近平国家主席ではなく、李強首相が代表として出席するとされていた。ライエン委員長の中国に対する強硬な姿勢は、米国のトランプ大統領へのアピールとなり、7月9日まで延期されている関税について、有利に協定を締結したいとの考えによるものもある。しかし、これは欧州委員会が中国に対する姿勢を大幅に強硬化したことを示すものであり、米国による市場制限により、中国が欧州への安価な製品の輸出を拡大しようとする動きにはつながらないことを意味する。

[カザフスタン] 

6月14日、カザフスタン原子力庁は、同国初となる原子力発電所の建設に向けた企業連合の主幹社としてロシア国営の原子力企業ロスアトムを選出したと発表した。原子力庁は原発の完工が2035~36年になると見込んでいる。今後、ロスアトムと協力して国際コンソーシアムの組成を行う。一方、原子力庁のサトカリエフ長官は同14日、中国の原子力大手企業、中国核工業集団(CNNC)がもう1つの原発建設に関する企業連合の主幹社になると発言した。「核燃料サイクル全体を自力で行える国は世界で多くない。中国は必要な技術と産業基盤を持つ国の1つで、われわれの次の最優先事項は中国との協力だ」と述べ、中国側と交渉を行う意向を表明した。トカエフ大統領は、3カ所の原子力発電所を建設する必要があるという見解も表明していた。

[中国] 

6月19日、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は電話会談を行い、中東情勢について重点的に意見交換を行った。習主席は、紛争当事国に対して停戦と戦闘の停止を求め、対話と交渉による問題解決の必要性を強調した。一方で、中国によるイスラエルへの非難の姿勢は徐々に後退している。

 


6月13日にイスラエルがイランを攻撃した後、16日にイランのアラグチ外相と中国の王毅外相が会談した際には、王外相は「イスラエルがイランの主権、安全、領土を侵害したことを明確に非難し」、「イランが国家主権を維持し、正当な権利と国民の生命安全を守る権利を支持する」と述べ、極めて強い口調でイスラエルを批判、イランの対抗措置(武力対応)を支持する姿勢を示した。

 


しかし、6月17日にウズベキスタンのミルジヨエフ大統領との会談で習主席が中東情勢に言及した際には、「イスラエルがイランに対して軍事行動を発動し、中東地域の緊張が急激に悪化していることに対し、中国は深刻な懸念を抱いている」と述べるにとどまった。さらに、19日のプーチン大統領との会談では、「現在の中東情勢は非常に危機的であり、衝突がさらに激化すれば、紛争当事国のみならず地域諸国にも深刻な被害が及ぶ」とした上で、「紛争当事国、特にイスラエルは直ちに停戦し、情勢のさらなる悪化を防ぎ、戦争の拡大を断固として回避すべきである」と述べている。

 


このような発言の変化は、紛争におけるイスラエルの圧倒的な軍事的優位を踏まえ、中国が発言のトーンを調整したことを示すとともに、現時点で中国がこの問題に対して持つ影響力が極めて限定的であることを反映していると考えられる。

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