デイリー・アップデート

2025年7月31日 (木)

[ガーナ/ナイジェリア] 

7月30日、ガーナ中銀(BOG)は金融政策委員会(MPC)を開催し、政策金利を300bps引き下げ、25.0%とした。ジョンソン・アシアマ総裁は、利下げの理由について、中銀の金融引締め政策の継続によりディスインフレプロセスが順調に進行しており、インフレ率が2025年末までに中銀が目標とする8±2%の範囲に収まる見込みであるためと説明した。

 

直近6月のインフレ率は13.7%で、前月5月の18.4%から大きく低下。2021年12月以来の低水準となった。中銀はインフレ率の低下について、金融引き締め効果のほか、財政再建の進展や経常収支の黒字化により信頼の回復と、それに伴う通貨セディの上昇、そして国内の食料供給の制約の緩和を挙げている。また、インフレの低下は金融市場における短期金利の低下をもたらしており、これにより政府の借り入れコストも減少。財政赤字は対GDP比で0.7%まで低下し、今年度予算策定時に目標としていた1.8%を大幅に下回ったとした。公的債務もセディ高、(財政赤字を補てんするための)国内借入の減少、外債再編により2024年末の対GDP比61.8%から、43.8%に低下したとマクロ経済環境の改善を強調した。

 

特に国際収支も著しい改善を見せており、2025年上半期は金とカカオの価格上昇と生産量の増加を背景に、過去最高の経常黒字(34億ドル)を記録。2025年6月末時点の外貨準備高は111億ドルで、商品・サービス輸入の4.8か月分に相当するとして、2024年末の4.0か月分からさらに積み増しが行われたと述べた。こうした経済の安定化を背景に、2022年のデフォルト後に大きく減価した通貨セディは、過去1年で、対ドルで40%強上昇した。

 

英国に拠点置き、アフリカにネットワークを持つスタンダード・チャータード銀行は、ガーナでは2025年末までにさらなる利下げが続き、政策金利は18%まで引き下げられるとの見通しを示している。西アフリカでは経済規模の大きいガーナとナイジェリアは、自国通貨の急落などを主な理由として、過去数年にわたり20%を超えるインフレに悩まされ、厳しい金融引き締め策をとっていたが、それぞれマクロ経済環境の持ち直しの兆しがみられる。

[米国/銅] 

7月30日、トランプ米大統領は、銅管・銅線などの半製品や、ケーブル・電気部品など銅を多用する派生品を対象に8月1日付で50%の関税を課すと発表した。根拠法は1962年通商拡大法232条。2月に232条調査を開始し、7月9日に「8月1日付で銅に50%の関税を課す」とのみ発表していたが、直前になって、銅鉱石・精鉱・地金などは課税対象から外された。

 

トランプ政権下で銅輸入に対する関税発動が確実視されたことから、2025年に入り、NY先物価格は国際価格と乖離(かいり)して大幅上昇。トレーダーや企業はこの値差を収益機会とみなし、こぞって駆け込み輸出を行った。しかし、今回の発表を受けて、NY銅先物は▲20%を超える過去最大の暴落となった。

 

米国は銅需要の半分を輸入に依存。銅精鉱の主要調達先であるチリにとっての最大輸出先は中国で、米国が関税を課しても販売先には困らず、むしろ他国製錬業に有利になる。また、米国で稼働中の製錬所は2か所しかなく、国産原料を輸出して海外から精錬銅を輸入している。現在、世界の銅製錬業界は中国の過剰生産能力と原料の逼迫(ひっぱく)でマージン低迷に悩まされており、製錬所新設の経済性は高くない。パブリックコメントでも銅輸入関税導入には反対意見が多く、半製品に関税を課すか、スクラップなどの原料輸出に関税を課すべきといった意見が出ていた。

[EU/ドイツ] 

ユーロ圏の経済は、世界的な貿易摩擦が続く中でも、第2四半期に予想外に0.1%の成長を記録した。個人消費の回復傾向が見られ、年間成長率は、欧州中央銀行(ECB)が6月に予測した0.9%をわずかに上回る可能性も指摘される。

 

第1四半期の0.6%の成長の要因の一つとなった、米国からの関税前の駆け込み需要が続いたこともあるが、ECBのラガルド総裁は、「ユーロ圏経済は、これまでのところ中央銀行の予想よりもやや好調である」と語っている。

 

しかし、ドイツ経済についての見通しは分かれる。財務省は、2025年の成長率はゼロ、2026~29年にかけては年平均1%と予測するなど慎重だが、一部のアナリストは、防衛・インフラ投資や企業支出を促す減税政策により、2026年は最大2%の成長が見込まれる可能性があると指摘している。

 

ドイツの公式統計では、同国の経済は同期間に0.1%縮小した。今後も、関税の影響が表れてくるにつれ、ドイツ経済の弱さがより明確になる可能性もある。

 

ドイツのメルツ首相は、停滞する経済を再生させると宣言し、厳格な借入制限を緩和し、今後数年間で債務を活用した100億ユーロ規模の投資を可能にする方針を示したが、予算不足についてはリスクを伴う。

 

ドイツでは、年間の純借入をGDPの0.35%以内に抑えるという憲法規定があったが、3月に国防費の増加を可能にするため憲法上の借入制限を緩和し、老朽化したインフラ整備のために5,000億ユーロ規模の特別基金を設立した。

 

7月30日、クリングバイル氏は2026年度予算案を発表し、ベルリンは2029年までに1,700億ユーロの財政赤字を解消する必要があると述べた。連立政権は増税を行わない方針で一致しているため、各省庁の予算削減や福祉制度の見直しが避けられない可能性が高い。

 

このような財政削減は、前政権の混乱からの脱却を掲げるメルツ政権にとって、政治的なリスクとなっている。財政的な圧力は、ドイツ経済の先行き不透明感を強めており、輸出依存型の経済は過去5年間停滞しており、米国の15%関税はGDP成長率を0.2~0.3pt押し下げられる可能性も指摘される。財政拡大を経済成長につなげられるかどうかが問われる形になりそうだ。

[ブラジル/米国] 

米国は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、ブラジル製品に対して50%の関税を課す大統領令を発令した。トランプ米大統領は、ブラジルの司法判断がSNS上の言論の自由を脅かしていると主張し、ジャイール・ボルソナロ前大統領に対する法的措置を例に挙げて、この関税措置を正当化した。また、トランプ政権は同日、グローバル・マグニツキー人権説明責任法に基づき、ブラジル連邦最高裁判所(STF)のモラエス判事に制裁(米国内の資産凍結、米国との取引禁止など)を科した。

 

米国の関税措置の例外規定は予想を上回る規模であり、ブラジルの対米輸出の40%以上が対象外となった。これにより、ブラジル政府が報復措置を取るリスクも、免除が撤回される可能性を考えれば低下したと考えられ、紛争のエスカレートの懸念はやや後退した。

 

免除対象には、石油、銑鉄、鉄鋼半製品、航空機および部品、オレンジジュース、化学製品、自動車部品など、ブラジルの主要な対米輸出品が含まれていた。

 

一方で、コーヒー、魚介類、肉類など、一部の重要な輸出品は免除対象から外れている。これにより、ルーラ政権は今後数か月にわたり、追加の免除や関税率の引き下げを求めて交渉を継続するとみられる。

 

米国の今回の決定により、ブラジルが報復措置を取るリスクは低下している。また、米国との関係において懸念されていたハイテク企業への課税や規制強化などの議論も、当面は先送りされる見通しとなった。とはいえ、連邦最高裁が9月にボルソナロ前大統領に有罪判決を下すとみられる中で、米ブラジル間の緊張が再び高まる可能性は残されている。米国政府は、マグニツキー法の適用をほかの判事に拡大したり、ブラジル当局者に対するビザ制限を導入したりするなど、さらなる外交的措置を講じる可能性がある。加えて、関税の追加適用の可能性も残る。

[イスラエル/パレスチナ] 

7月29日、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フィンランド、ポルトガルを含む15か国は、9月に開催される第80回国連総会(UNGA 80)に向けて、まだパレスチナ国家を承認していない国々に対して、パレスチナ国家を承認するよう呼びかける共同声明を発表した。15か国の中には、2024年にパレスチナを国家承認したスペイン、ノルウェー、アイルランドや、7月24日に同国家承認を発表したフランスも含まれる。声明では、二国家解決へのゆるぎないコミットメントを改めて表明した。同時に、イスラエルとの正常な関係を樹立していない国々に対しても、イスラエルとの国交樹立を強く求めた。

 

7月30日、カナダのカーニー首相は、ハマスが参加しない形での総選挙を2026年に実施することと、パレスチナ国家の非軍事化に合意することを条件に、UNGA 80においてパレスチナを国家承認するつもりであることを発表した。フランス、英国に続いてG7の一国であるカナダがパレスチナの国家承認を発表したことに意義がある。駐カナダ・イスラエル大使は、「国際的な圧力キャンペーンに屈しない」とこれに強く反発する姿勢を示した。

 

米ギャラップ社による最新の世論調査によると、米国におけるイスラエルのガザ軍事作戦への支持率は、過去最低水準の32%まで低下し(2024年から10pt低下)、60%が反対を表明している。特に民主党支持者と無党派層、そして若年層の間でイスラエルのガザでの軍事行動に対する支持が低い傾向が表れている。

[米国/韓国] 

7月30日、トランプ大統領は、韓国との関税交渉が妥結したとSNSで発信した。韓国に対する相互関税率が25%から15%に引き下げられる見返りに、韓国は米国産LNGなど1,000億ドル相当のエネルギー輸入を行い、3,500億ドルの対米投資を約束したもよう。さらなる詳細は、韓国大統領の訪米時に発表されるとも述べた。トランプ政権は、同時に、対ブラジル関税を50%に引き上げること、銅輸入に対しても通商拡大法232条に基づく50%関税を賦課することを、正式に発表した。

[米国] 

連邦準備制度理事会(FRB)は7月30日にかけて連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利(FF金利)を4.25~4.50%に据え置くことを決定した。据え置きは5会合連続で、市場予想どおりだった。

 

ボウマン副議長とウォラー理事の2人が反対票を投じ、9対2で決着した。2人は0.25%の利下げを支持した。理事2人の反対は1993年12月以来のことだった。なお、クーグラー理事は個人的な事情によって欠席、投票しなかったと報じられた。

 

パウエル議長は、次回9月の会合について「何も決定していない」と慎重な姿勢を維持した。また、見通しに対するリスクが一部高まっているとして、現在の金融政策は「控えめに制約的な」水準に設定しているという認識を示した。 「ほぼすべての委員にとって、現在の経済活動は、抑制的な政策によって不適切に妨げられているようには見えない」、「解決すべき不確実性は非常に多い」とも指摘した。また、「そのプロセスの終わりが間近に迫っているという感触はない」とも話した。

 

市場では、金利据え置きは予想どおりだったものの、パウエル議長の姿勢が想定よりもタカ派的という受け止めが広がった。 声明文では、経済の現状については、純輸出の振れが指標に影響を及ぼし続けているものの、直近の指標は、経済活動が上半期に緩やかに成長したと評価した。前回会合の「堅調なペースで拡大」から「緩やかに成長」に下方修正された。物価と雇用については前回同様の評価で、物価上昇率は高止まりしており、労働市場は堅調さを保っている。経済見通しを巡る不確実性も依然として高いという認識を維持した。また、政策金利の追加の調整幅やタイミングを考える際には、入手するデータ、進展する見通し、リスクバランスを注意深く評価するという姿勢も変わらなかった。

[中国] 

7月30日、中国で中国共産党中央政治局会議(以下、政治局会議)が開催され、2025年10月に北京で中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(以下、4中全会)を開催することが発表された。4中全会の主要議題は、政治局による活動報告と、「国民経済・社会発展の第15次5か年計画の策定に関する提言の検討」である。

 

今回の政治局会議では、現在の経済情勢の分析や、2024年下半期における経済政策について議論が行われた。発表された文書からは、中央政府が中国の直面するリスクや課題に懸念を示しつつも、全体としては比較的安定しているとの認識を持っていることがうかがえる。現時点では、既存の政策に加えて新たな大規模な景気刺激策が打ち出される可能性は低いとみられる。

 

また、すでに打ち出されている政策ではあるが、市場競争秩序の継続的な最適化の推進、企業間の無秩序な競争を法に基づき適切に規制すること、重点業界における生産能力の調整、地方によるビジネス誘致行為の規範化などが盛り込まれた。党幹部には、正しい業績観の確立と新しい発展理念に基づく経済運営を、企業家には高品質な製品とサービスによって市場競争の主導権を握ることを求めている。

 

今回の会議では、第15次5か年計画(2026?30年)を、社会主義現代化の基礎を固める重要な時期と位置づけた。複雑かつ不確実性が増す国際環境の中でも、中国は依然として強固な経済基盤と政治的優位性を保持していると強調している。中国式現代化に向けた課題に対しては、戦略的な自信と対応力をもって取り組んでいくとしている。

 

さらに、マルクス・レーニン主義や毛沢東思想を継承しつつ、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を全面的に貫徹し、社会主義現代化強国の全面的な建設と、第2の百年奮闘目標の達成を目指すとしている(第1の目標は中国共産党創立100周年の2021年までに「小康社会」を実現すること、第2の目標は建国100周年の2049年までに「社会主義現代化強国」を実現すること)。これらの目標に向けて、習近平氏が提唱してきた政治・経済・安全保障などの戦略を引き続き推進していく方針が示された。

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