デイリー・アップデート

2025年7月30日 (水)

[世界経済] 

7月29日、国際通貨基金(IMF)は、世界経済見通し(WEO)の改定版を公表した。サブタイトルは「不確実性が続く中、レジリエンス希薄(Tenuous Resilience amid Persistent Uncertainty)」とされた。世界経済成長率は2025年に3.0%、2026年に3.1%と予想され、4月時点からそれぞれ0.2pt、0.1pt上方修正された。 パンデミック前の平均(3.7%)を下回る成長が続く見通しになっている。

 

上方修正の理由としては、以下の4点があげられた。①関税引き上げ前の駆け込みの動きが予想以上に強かったこと、②米国の関税引き上げ幅が4月から縮小したこと、③ドル安などから金融情勢が改善したこと、④一部の主要国で財政拡大したこと。

 

また、見通し作成時点の関税政策が継続するという前提で作成されている。すなわち、一時停止されている高い関税率はそのまま停止されたままという前提である。これを踏まえると、米中の相互関税24%の一時停止もそのままになる。例えば、8月12日とされた猶予期間は、7月29日までの米中協議でさらに延長されることになっている。また、日本と米国、米国とEUとの貿易協議の合意の内容も反映されていない。4月時点の見通しでは米国の実効関税率は24.4%だったものの、今回は17.3%の前提になっている。そのかほの国では、平均で4月時点の4.1%から3.5%に引き下げられた。

 

金融政策について、米国と英国の政策金利は、2025年後半に引き下げられる想定。ユーロ圏の政策金利は据え置きの一方で、日本では徐々に上昇する想定になっている。

 

国別に見通しをみると、米国は2025年に1.9%、2026年に2.0%、それぞれ0.1pt、0.3pt上方修正された。潜在成長率(1.8%)並みの成長にとどまる。2026年には「OBBBA(One Big Beautiful Bill Act)」が企業投資を後押しするとみている。ユーロ圏では2025年に1.0%へ0.2pt上方修正され、2026年に1.2%に据え置かれた。2026年は潜在成長率並み。国別に見ると、ドイツは2025年に0.1pt上方修正された0.1%、2026年は0.9%で据え置かれた。日本は2025年に0.7%へ0.1pt上方修正され、2026年には0.5%へ▲0.1pt下方修正された。中国は4.8%、4.2%へそれぞれ0.8pt、0.2ptの上方修正となった。2025年上半期の経済活動が想定以上に好調だったことや、米関税の引き下げなどが上方修正の要因だった。

[コートジボワール] 

7月29日、アラサン・ワタラ大統領は10月25日に実施される大統領選に出馬すると表明した。2011年から大統領職を務めるワタラ氏が勝利すれば、2030年まで通算4期19年の任期となる。

 

ワタラ氏が率いる与党連合「民主主義と平和のためのウッフェ主義者連合(RHDP)」は6月に開催された党大会で、ワタラ氏を大統領候補として推薦していたが、同氏は出馬の意向を明言していなかった。ワタラ氏は83歳とすでに高齢のため、後継者として別の候補者を立てるとの見方もあったが、ワタラ氏はテレビ演説で「私は立候補する。なぜなら憲法が再選を認めているから。そして私の健康状態も許すからだ」と述べた。

 

コートジボワールでは2016年の第2期ワタラ政権下で国民投票により改正された憲法で、大統領の任期は「5年2期」と定められた。ワタラ氏は2020年の大統領選でアマドゥ・ゴン・クリバリ首相(当時)を後継者とし、大統領選に出馬しない意向を表明していた。しかし、選挙の3か月前にクリバリ氏が急逝したことを受け、ワタラ氏は急遽自身が出馬すると翻意。ワタラ氏は2020年の大統領選は新憲法下で初めて実施される選挙のため、これまでワタラ氏が務めた2期はリセットされ、「1期目」になると主張。野党はこれを違憲だと猛反発し、ボイコットが行われた中で実施された前回2020年の大統領選でワタラ氏は94.3%の得票で圧勝した。

 

今回の選挙でも政府に近いとみられる司法機関や選挙管理委員会(CEI)の判断により、有力野党候補者らが大統領選から除外されており、ワタラ氏が圧勝するとの見方が強い。二重国籍を理由に出馬を認められなかった元クレディ・スイスCEOで野党コートジボワール民主党(PDCI)党首のティジャン・ティアム氏は「ワタラ氏の出馬は憲法違反であり民主主義に対する攻撃だ」と非難している。

 

コートジボワールでは、2010年の大統領選で勝利したワタラ氏に対して、敗れたローラン・バグボ前大統領陣営が選挙結果を不服として大規模な暴動が発生し、少なくとも3,000人が死亡するという痛ましい過去がある(バグボ氏はその後、国際刑事裁判所(ICC)で無罪が確定。しかし、国内での有罪判決歴により今回の選挙の立候補資格は認められていない)。今回の選挙に関してユーラシア・グループは、「ワタラ氏の立候補は広く予想されていたものであり、野党も結集しておらず、治安当局も準備を整えていることから選挙後に大きな混乱は発生しない」との見方を示している。

[ロシア] 

7月28日、ロシアの航空大手アエロフロート・ロシア航空はシステム障害のため、50便以上を欠航したと発表した。ウクライナ支持を表明するハッカー集団がベラルーシのハッカー集団と共同でサイバー攻撃を仕掛けたとした犯行声明を出しており、ロシア検察当局は刑事捜査を開始した。現地メディアによると、関係者の話を基に、欠航によるアエロフロートの一日の損害額は2億6,000万ルーブル(約4億7,000万円)に上ると報じた。

 

事件をめぐっては、「サイレント・クロウ」と名乗るハッカー集団が犯行声明を発表。ベラルーシのルカシェンコ大統領に反対し、ベラルーシを独裁から解放する活動を行っているとする「ベラルーシ・サイバーパルチザン」と共同で作戦を実行したとした。サイレント・クロウは声明で、今回のサイバー攻撃は1年に及ぶ作戦の成果だとした上で、アエロフロートのネットワークに深く侵入し、7,000台のサーバーを破壊し、上級管理職を含む従業員のパソコンを掌握したと主張。「アエロフロートを利用したことのあるすべてのロシア人の個人データ」を近日中に公開すると警告した。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、事件に対する憂慮を表明。「ハッカー行為は国民にサービスを提供するさまざまな企業にとって脅威になっている」と述べた。

[イスラエル/パレスチナ] 

7月29日、英国のスターマー首相は、イスラエルが停戦に合意し、ガザの惨状を終わらせる具体的な行動を取り、二国家解決への道筋となる長期的で持続的な和平にコミットしない場合、9月の国連総会でパレスチナを国家として承認すると発表した。パレスチナを国家承認するとの発表は、フランスのマクロン大統領の発表に次ぐもので、どちらの国が先に承認しても、G7の国としては初めてとなる。

 

国連に加盟する世界140か国以上が既にパレスチナを国家承認しているが、G7や西側の主要国はこれまでそれを拒否してきた。英国では25日、下院議員221人がパレスチナを国家承認するよう政府に圧力をかける書簡を送るなど、国内からの圧力も強まっている。

 

2023年10月7日以降のイスラエルによるガザ攻撃における死者数がついに6万人を超えた。現在もガザでは、毎日数十人から数百人を超える死者が発生している。負傷者数は14万人を超えており、いまだ瓦礫(がれき)の中に埋まったままの行方不明者も多数存在する。7月28~30日には、ニューヨークの国連本部で、イスラエルとパレスチナの二国家解決案を話し合う閣僚級会合が、フランスとサウジアラビアの主催で開催されている。トランプ大統領も、ガザの人々が飢餓に苦しんでいると発言。恐ろしいガザの惨状を前に、改めてパレスチナ問題が世界の注目を集めている。

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