2025年8月29日 (金)
[南アフリカ(南ア)]
8月22日、バーバラ・クリーシー運輸相は、運輸公社・トランスネットが保有する鉄道上での民間鉄道運行会社(TOC)の選定プロセスを完了したと発表した。トランスネットは南ア国内の鉱石や一般貨物の鉄道輸送・施設管理を一元的に行ってきたが、インフラの老朽化や経営不振、大規模な銅ケーブルの盗難などにより取扱量は2017年の2億3千万トンから2023年には1億5千万トンに減少。同じく経営難により電力の不安定な供給が続く電力公社エスコムとならんで、トランスネットは低迷する南ア経済浮揚における「二大ボトルネック」となっている。
こうした状況を打開すべく、南ア政府はエネルギー・物流インフラなどの近代化・改革を進める「Operation Vulindlela(注)」というスローガンのもと、2029年までに鉄道貨物輸送量を2億5千万トンまで拡大する計画。今回発表されたTOCの参画により年間2千万トンの増加を予測している。TOCの事業者名は公開されなかったが、南アの重要な輸出産品である、石炭、クロム、鉄鉱石、マンガンなどの専用輸送を含む41路線に11社が今後参画する見込みだ。民間事業者の参画により効率性が上昇して業界全体の輸送コストが減少し、これまで代替手段として用いられていたトラック輸送によって発生していた道路渋滞の緩和が見込めるなど、経済全体への波及効果は大きいとみられる。
政府は並行して老朽化が進む鉄道インフラ自体への民間企業による投資を呼びかけている。しかし、TOCはまず運営事業参入後の初期費用を回収した後にインフラ整備に着手するため、実際の投資までには数年を要するとの見方もある。輸送量の減少と管理コストの増大によりトランスネットの経営状況の悪化は顕著となっており、7月に大手格付け会社S&Pグローバルは同社の格付けをBB-からB+に格下げした。南ア政府もトランスネットの信用改善と緊急資金支援のために2025年会計年度単独で総額948億ランド(約7,800億円)の政府保証の付与を決定。これはエスコムを含む国営企業向け政府保証総額の2割弱に相当する水準で、22年度の35億ランド(290億円)から大幅に増加している状況だ(エスコム向け政府保証は全体の6割を占める)。
トランスネット向けの政府保証の増大は、南ア政府・国債の信用低下を招く恐れがある。資金調達コストの増加の結果、財政赤字が拡大し、さらに信用低下を助長させる負のスパイラルにつながりうるだけに、政府によるトランスネット改革の着実な進展に注目が集まる。
(注)2020年に南ア政府が提唱した改革。2025年にフェーズ2が開始された。”Vulindlela”は南アの公用語の一つであるズールー語で「道を開けろ」の意味。アパルトヘイト廃止後の1997年に南アの黒人女性歌手ブレンダ・ファッシーが発表した”Vulindela”は国民的人気を博すポップス曲であり、改革の意味合いが込められていることからこれにちなんで名付けたとされる。
[日本]
総務省によると、8月の東京都区部の消費者物価指数(総合)は前年同月比+2.6%だった。上昇率は7月(+2.9%)から縮小し、2か月連続で3%を下回った。また、物価の基調を表す生鮮食品を除く総合(コア指数)は+2.5%、7月(+2.9%)から縮小、2か月連続の3%割れだった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア指数)は+3.0%で7月(+3.1%)から小幅に縮小し、5か月連続の3%台を維持した。これらを踏まえると、物価上昇率は7月からやや縮小したものの、高い伸び率を維持している。
内訳を見ると、食料(+6.9%)は7月と同じだった。うるち米(+67.8%)やすし(外食)(+10.0%)、チョコレート(+56.0%)、おにぎり(+19.2%)などの価格が引き続き上昇した。鶏肉(+16.0%)やトマト(+18.2%)も上昇した。一方で、光熱・水道(▲8.8%)が7月(▲4.5%)から下げ幅を拡大した。これには、東京都の基本料の無償化を反映した水道料(▲34.6%)の低下に加えて、電気代(▲6.5%)やガス代(▲5.9%)も低下した影響が表れた。電気・ガス料金負担軽減支援事業によって、消費者物価を▲0.24pt押し下げたと試算されている。その他の費目では、家具・家事用品(+2.0%)も7月(+3.0%)から鈍化した一方、携帯電話通信料などを中心に交通・通信(+3.3%)は0.3pt拡大した。なお、家賃(+1.2%)が民営家賃(+1.7%)を中心に上昇した。
生活実感に近いとされる持家の帰属家賃を除く総合は+2.5%、7月(+2.9%)から縮小した。依然として2%の物価上昇が家計の負担になっている様子がうかがえる。
[メキシコ]
9月1日からメキシコ連邦議会の会期が始まるが、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し期限が迫る中、シェインバウム大統領にとってこれがより緊急性の高い課題となる見通しで、前AMLO政権から引き継いだ議題は後回しとなるとみられる。国民再生運動とその同盟勢力は、これまでの議会において前大統領のレガシー政策の大半を承認したが、国家水域法の抜本的な改正や採掘制度の見直しなど、特に民間部門への影響の大きい項目については合意形成が難航しており、協力関係を損なうリスクのある政策は避ける傾向となっている。それでも、党内の圧力により、週労働時間を48時間から40時間に短縮する法は進展する可能性が高いとみられている(ただし、この法案も段階的に導入され、企業団体や労働組合との交渉を通じて影響を最小限に抑えることが想定される)。
一方、財政健全化を重視する現政権にとって、2026年度予算は最優先課題となる。財務省は、裁量的支出の削減、徴税の効率化、社会支出の拡大の先送りなどを通じて財政の安定化を図る。また、与党は行政権の強化を目的とした立法を引き続き推進する。前回の立法期間で主要な法案は承認されたが、司法制度の見直しを含む法律の整備が不可欠であり、行政施策の妨げとなる司法の権限を縮小する法整備も進める。
他方、財政的制約により、医療制度の大幅な改革は困難で、政権は低所得層や無保険者向けの医療サービスを提供する「IMSS-Bienestar」制度を全国に拡大し、医療格差是正を目指すが、AMLO前大統領が提案した基本的医療の無償提供を実現するには予算が不足している。
また、党内の結束維持には依然として課題が残る。シェインバウム大統領は連立政権の団結を図っているが、議員たちが2027年の中間選挙を見据えてポピュリズム的な提案、例えば労働手当の拡充や社会支出の増加を推進する可能性があり、大統領の慎重な財政方針と対立する場面が増えることが予想されている。
未完の「プランC」関連施策、新たな法案への圧力、連立政権内の緊張が重なることで、立法環境は今後ますます不透明になると予想され、シェインバウム氏は依然として支持率も高く、政治的にも優位な立場にあるものの、米国との関係管理を優先する中で、政策の推進力については徐々に制約を受ける可能性がある。
[米国/EU]
トランプ米大統領は、米国のテクノロジー企業に対してデジタル規制を課す国々に報復措置を取ると警告した。発言は主に欧州連合(EU)を念頭に置いたものと見られ、EUが導入した「デジタルサービス法」および「デジタル市場法」は、米国の大手テック企業に大きな影響を与えている。これに対し、EU側は「技術規制は主権に基づく権利である」と反論するとともに、アリババやTemuなど中国企業に対する最近の規制事例を挙げ、規制が特定国に偏っていないことを強調している。
EUのデジタル規制は以前から議論の的となっており、域内外の政策担当者から「負担が大きい」との批判もある。これを受けてEUは、域内のテクノロジー企業を支援するため、柔軟な運用を約束し、慎重な執行姿勢を取っている。
トランプ大統領の発言は、米EU間の通商交渉を背景に、圧力をかける意図があると見られる。EUが米国の要求にそのまま屈する可能性は低いが、米国企業への規制は控えめになる可能性がある。仮に規制の柔軟化が見られた場合でも、それはEU自身の競争力強化を目的とした内部的な判断として説明される可能性が高い。
[イラン/英国・フランス・ドイツ(E3)]
8月28日、E3は、2015年にイランとの間で締結した核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」の義務に対してイランが重大な違反を犯したことを国連安全保障理事会に通告し、JCPOAで解除された対イラン国連制裁をすべて復活させる「スナップバック」の措置を発動したことを共同声明で発表した。この後30日間の審議期間で、安保理がイランに対する制裁解除を継続する決議を採択しない限り、JCPOA締結後に解除されていた対イラン国連制裁が復活することになる。E3外相は、これから30日間も、イランの約束遵守回復に向けた外交努力を続けるとしている。
イラン外務省はこれに強く反発しており、「E3が安保理に提出した違法な通知を断固として拒否し、最も強い言葉を持って非難する」とXに投稿した。イラン側は、E3側こそが、これまでJCPOAに規定された自らの約束を果たしてこなかったため、「E3にスナップバックを発動する権利は存在しない」とし、「彼らの通知は無効であり、何らの法的効力も有しない」と切り捨てた。また、「このような挑発的で不必要なエスカレーションには、相応の対応が取られるべき」として、何らかの報復措置を取る可能性があることも示唆した。
スナップバック手続きの発動期限は、JCPOA発効後10年と規定されているため、10月18日以降は使えなくなる。また、10月は、スナップバックの発動に反対しているロシアが国連安保理の議長国となるため、何らかの妨害工作を行われる可能性もあり、E3としてはこのタイミングがスナップバックの発動を通知する最後のタイミングだった。
[米国]
8月28日、米連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事は、トランプ大統領が8月25日に発表した理事解任命令は無効であることを主張し、ワシントンDCの連邦地方裁判所に提訴した。トランプ大統領は、クック理事が自宅購入に際して行ったローン申請において不正があったことを理由に挙げ、クック理事の解任を決定している。
連邦準備法の規定では、正当な理由があれば、大統領はFRB理事(任期14年)を解任できることになっているが、クック理事は不当な解任であると主張している。住宅ローン申請に関わる事実関係について、クック理事側は詳細を確認中であるとして具体的なことは明かしていない。
訴状では、トランプ大統領のみならず、パウエルFRB議長やほかのFRB理事も訴えられており、大統領の解任支持に従うことのないよう提訴したもの、とクック理事側は説明している。
まずは、8月29日に審問が行われ、トランプ大統領の解任命令に対する差し止め請求が認められるか否かが注目される。大統領によるFRB理事解任は前例がない。第2期トランプ政権下では、従来、政治的動機に基づく人事からはほぼ無縁であった政府内ポジションにおいても解任される例が続いている。直近では、労働統計局長、米疾病予防管理センター(CDC)所長の解任が話題になっている。
[インド]
日本でもレアアース(希土類)不足による影響が製造業の一部で生じたと報じられたことがあったが、インドでも急成長するEV産業を停滞させる要因となっている。インドで最も人気があるという電動スクーター、バジャージ・オート社のチェタックの生産は障害に直面した。レアアースの不足が生産計画に影響し、同社は生産量をほぼ半減せざるを得なかった。報じられているところでは、バジャージは2024年7月に20,384台生産したチェタックを2025年の7月には原料不足の影響で10,824台しか製造できなかったという。バジャージ・オート社は「レアアース磁石の供給不足が制約要因となり、7月の生産が急激に落ち込むこととなった」とメディアに語った。
同社はその後、軽希土類磁石を使用するようモーターを再設計し、需要に対応できるようサプライチェーンの見直しを進めていると説明した。この変更により、8月と9月には通常生産台数の約6割に回復する見込みだとしている。インドの自動車販売店協会連合会(FADA)は、こうした原料不足が自動車業界に深刻な影響を及ぼす可能性があることについて深い懸念を示した。
インドは世界第5位のレアアース資源を保有すると言われているが、インフラ不足や技術的な課題、環境問題といった深刻な課題に直面していることもあって、世界のレアアース採掘量の1%未満しか占めていない存在で多くを輸入に依存している。専門家は現在の供給混乱を機に国内探査を加速させ、精製能力への優遇措置を提供し、信頼できる国々との鉱物同盟を構築すべきだと語った。
既に、インド地質調査所はアッサム州と西ベンガル州で探査を開始しており、自給達成を目指すインドの長期戦略ビジョンの一環であり、技術・産業発展のための国内鉱物供給確保という政府政策に沿った動きと見られている。
一方で、レアアースの加工処理が難題となるとの指摘もあり、その上で「レアアースの精製加工設備を完全に整備するには10年以上かかる可能性があるが、その頃には自動車向けレアアース技術が陳腐化しているリスクもある」との意見もある。
[中国]
8月28日、中国政府は9月3日に北京・天安門広場で開催する「抗日戦争勝利80周年」記念行事(軍事パレード)に、26か国の首脳が参加すると発表した。
前回の「抗日戦争勝利70周年」記念行事(2015年)にも参加し、今回も出席を予定している国は、ロシア、ベトナム、カンボジア、カザフスタン、キルギス、モンゴル、セルビア、ベラルーシ、ラオス、ミャンマー、ウズベキスタン、タジキスタン、パキスタン。
また、今回初めて首脳が参加を予定する国は、北朝鮮、インドネシア、マレーシア、イラン、キューバ、モルディブ、ネパール、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、コンゴ共和国、ジンバブエ、スロバキア。
2015年には首脳が出席していたが、今回は参加しない国は、韓国、南アフリカ、エジプト、東ティモール、チェコ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スーダン、コンゴ民主共和国、エチオピア、ベネズエラ、バヌアツ。
インドのモディ首相は、8月31日から9月1日に天津で開催される上海協力機構(SCO)首脳会議には出席するが、9月3日の記念行事には参加しない予定である。
日本からは鳩山由紀夫元首相が参加すると報じられている。 北朝鮮の金正恩総書記が、複数の国家首脳が集う国際舞台に登場するのは今回が初めてであり、訪中は2019年1月以来、約6年半ぶりとなる。金総書記は、プーチン大統領および習近平国家主席との首脳会談を行う見通しである。韓国政府は、韓国代表と金総書記との会談予定は「現時点ではない」としている。
中国政府は、カイロ宣言やポツダム宣言を戦後国際秩序の根幹と位置づけ、サンフランシスコ講和条約を「違法かつ無効」とする立場を取っている。これにより、中国は自国が第二次世界大戦後の秩序形成を主導してきたとのナラティブを強調し、西側主導の秩序に代わる新たな国際秩序のリーダーとしての地位を確立しようとする意図がある。
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