2026年2月2日 (月)
[南アフリカ/イスラエル]
1月30日、南アフリカ(南ア)外務省(DIRCO)は在南ア・イスラエル大使館のアリエル・サイドマン臨時代理大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」とみなし、同氏に72時間以内に国外退去するよう命じた。DIRCOは公式声明において、「この断固たる措置は、南アの主権に対する一連の容認できない外交規範・慣行の違反を受けたものである」と強く非難している。具体的には、在南ア・イスラエル大使館が南アのラマポーザ大統領に対してSNS上で繰り返し侮辱的な攻撃を行ったこと。また、イスラエル高官の南ア訪問の予定を意図的にDIRCOに報告しなかった行為は外交特権の重大な濫用であり、ウィーン条約に対する根本的な違反だと主張している。
南アとイスラエルの二国間関係は、2023年10月にハマスがイスラエル南部を攻撃した報復としてイスラエル軍がガザに侵攻した後に急速に悪化した。2023年11月には南ア議会はイスラエルとの外交関係の断絶を決議し、12月には南アはイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)にジェノサイドの容疑で提訴した。背景には、現在も南アの最大政党で、アパルトヘイト政権を廃止に追いやった「アフリカ民族会議(ANC)」が掲げる「民族自決」の強いイデオロギーがある。ANC(南ア黒人が母体)とパレスチナ人との連帯の姿勢は、故ネルソン・マンデラ元大統領(元ANC党首)も、1990年に釈放された直後に、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長と熱い抱擁を交わし、「パレスチナ人の自由なくして、我々(南アフリカの非白人)の自由は不完全だ」と述べたことにも表れている。
しかし、こうした南ア(ANC)のイスラエル批判に対してイスラエル側は「荒唐無稽」だとして猛烈に反発している。特にネタニヤフ政権は親イスラエル派の米・トランプ政権と緊密な関係を築いていることから、米国と南アとの外交関係も急速に悪化している。第2期トランプ政権発足後間もない2025年3月に米国は、在米・南ア大使のイブラヒム・ラソール氏を人種差別的な発言があったことから「ペルソナ・ノン・グラータ」とみなし国外追放している。また、2025年11月に南アで開催されたG20首脳会合でも米国は参加をボイコットしたほか、G20議長国を南アから引き継いだ米国は南アの出席を排除するなど緊張がなおも続いている状況だ。
今回のサイドマン臨時大使の国外退去の引き金になったイスラエル大使館のX上での投稿は、米国がG20のボイコットを発表した際にラマポーザ大統領が「ボイコット政治は機能しない」と発言したことを受けて、これを「ラマポーザ大統領のまれに見る英知と外交的明快さ」と皮肉ったこと。そして、南アのICJ提訴は「無駄遣い」であり、「南ア国民にとって(訴訟の)価値はゼロパーセント、政治的な見せ物に百パーセントだ」と非難したものとみられる(2月1日付、英FT紙等)。また、イスラエル高官の南ア訪問については、1月初旬に東ケープ州のアバテンブ族のダリンディエボ王と会談し、イスラエル政府が王に対して農業、水、医療などの支援を行うと一方的に約束した内容を指しているとみられる。マンデラ元大統領と同じくコサ族の中の有力王家であるアバテンブ族を率いるダリンディエボ王は親イスラエル派とみられており、2025年12月にはイスラエルを訪問し、ギドン・サール外相と会談を行っていた。イスラエル側やダリンディエボ国王の意図は明らかになっていないが、イスラエルが南ア(黒人グループ)内部の分断を図ろうとしている可能性はある。これに対して東ケープ州のオスカー・マブヤネ知事(ANC出身)は、州訪問の許可を得ずにイスラエル高官らが同州を訪問したことは外交違反だと非難している。
イスラエル当局は南アによるサイドマン臨時大使の国外追放の命令を受けて、パレスチナのヨルダン川西岸自治区のラマッラに駐在するショーン・エドワード・バイネヴェルト在パレスチナ・南ア大使を「ペルソナ・ノン・グラータ」に指定し、72時間以内の退去を命じるなどの対抗措置をとっている。南アとイスラエルの関係が悪化する中、2月2日にも米・下院で審議される予定の「アフリカ成長機会法(AGOA)」の3年間の延長法案にこれまでどおり南アが対象に含まれたまま可決されるかにも注目が集まる。
[日本/英国]
1月31日、中国訪問を終えたスターマー首相が訪日し、同日日英首脳会談およびワーキングディナーが行われた。
両首脳は、両国の協力を更なる高みに引き上げることで一致し、特に、産業戦略パートナーシップおよび経済安全保障パートナーシップを踏まえ、包括的な分野で具体的な協力を進めることを確認。今回の日英首脳会談の主要成果は以下のとおり。
・両首脳は、サイバー安全保障に関する両国の協力関係を「戦略的サイバー・パートナーシップ」に格上げ。
・次期戦闘機の共同開発を加速および、外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の本年中の開催で一致。
・重要鉱物を含むサプライチェーン強靱化のための同志国連携を確認。
・日英科学技術協力合同委員会を3年ぶりに開催すること、また、新たに宇宙協議を立ち上げることで一致。さらに、洋上風力や原子力などエネルギー・脱炭素化分野での連携を強化しつつ、デジタル・パートナーシップに基づき、Beyond 5G/6Gに関する共同研究を推進していくことを確認。
なお、スターマー首相からは、訪英招待が行われ、高市総理からも諸般の事情が許すタイミングで訪英したいとの応答があった。
[EU]
EU統計局(Eurostat)によると、ユーロ圏の2025年Q4の実質GDP成長率は前期比+0.3%となりQ3と同じだった(Q4の前期比は0.34%、Q3は0.27%であり、小数点1位までならば同じ)。前期比年率は+1.4%であり、Q3(+1.1%)から加速した。
2025年を振り返ると、米国の関税引き上げ前の駆け込み輸出などもあり、実質GDP成長率はQ1(+0.6%)に加速した。その後のQ2(+0.1%)に反動減が表れて成長ペースが減速した後、Q3に+0.3%に持ち直した。
域内を見ると、ドイツ(+0.3%)はQ3(▲0.0%)から加速した。Q3が小幅マイナスであり、Q4には3四半期ぶりにプラスを回復した。 フランス(+0.2%)は、Q3(+0.5%)から減速した。予算案を巡る混乱などが景気の下押し要因になったものの、15四半期連続でプラス成長を維持した。イタリア(+0.3%)はQ3(+0.2%)から加速し、2四半期連続でプラス成長になった。スペイン(+0.8%)もQ3(+0.6%)から加速し、コロナ禍時の2020年Q3以降、22四半期連続プラス成長を保っている。一方で、アイルランド(▲0.6%)はQ3(▲0.3%)に続いて、2四半期連続のマイナス成長になった。米国の関税引き上げ前の駆け込み需要によるQ1(+7.4%)の大幅増の反動減の影響が表れている。
[パナマ]
1月29日、パナマ最高裁判所は29日、香港のCKハッチソン・ホールディングス傘下のパナマ港湾会社(PPC)との港湾運営契約を違憲と判断した。世界の海上貿易の約5%が通過するパナマ運河は国際物流の要衝であり、この判断は同地域における米中の地政学的な影響力争いに大きな転換点をもたらした。判決は全会一致で、PPCの譲許契約と2021年に行われた延長措置を支えてきた法的枠組みが無効であると断じた。とくに、延長が公開入札を伴わずに決定された点が決定的な違憲の判断材料となった。また、パナマ会計監査院は、1997年にハッチソンが運営を開始して以来、不正行為が重なり、国家に約13億ドルの損失が生じた可能性があると結論付けている。
こうした司法判断を受け、パナマのムリーノ大統領は港湾運営の混乱を避けるため、デンマークに本拠を置くA.P.モラー・マースクの現地子会社を暫定的な運営者に指名した。これはあくまで一時的な措置であり、政府は透明な新規入札手続きを開始する方針を示している。また、港湾の権益集中リスクを避けるため、将来的に2つの港を別々の事業者に委ねる可能性も検討されている。パナマは外交面では米中双方に対し、行政府が司法の独立性を尊重していると説明しているが、同国がすでに中国の一帯一路構想から離脱している点を踏まえると、西側へ明確に軸足を移したと評価される。
一方で、この一連の判断はパナマの投資環境に深刻な影響を及ぼす懸念がある。今回の件は、2023年にカナダのファースト・クアンタム社の鉱山契約を無効とした判断に続くものであり、主要な外国投資契約が司法判断によって覆されるという不安を投資家に与えている。こうした状況は契約の信頼性を損ない、FDI(外国直接投資)に逆風となる可能性が高い。
米国にとって今回の判決は、中国企業の運河に対する影響力を弱めるという長年の戦略の前進を意味し、明確な政治的勝利として歓迎されている。一方、中国政府は強い不満を示し、中国企業の合法的権益を守るため必要な措置を講じると主張している。PPCは判決の控訴ができないため、国際仲裁に訴える可能性を示唆しているが、中国政府は米中間の貿易休戦の安定を優先し、対立を激化させないよう抑制的な対応にとどまるという見方もある。今後、両国がどのようなアプローチを取るかが国際社会の注目を集めることになる。
[ロシア]
ロシアはウクライナ侵攻後の制裁により、重要技術での外国依存から脱却方針を掲げるものの、軍需・製造・エネルギーを中心に外国、特に中国の技術依存から脱却できていない。禁輸によって外国製電子部品などの調達が難しくなり、依存先は事実上中国に一極化している。制裁下で部品密輸や「ラベル付け替え」などの実態も散見される。必要とされるR&D投資の倍増も、現状の経済構造では困難と専門家は指摘し、政府は2030年までの技術自立や輸出増加を掲げるが、実現性は低い。
[中国]
中国の高所得層の間で、先行きに対する慎重姿勢が一段と強まっている。胡潤研究院が1月30日に発表した「2026年中国高資産層の質の高い生活に関する報告書」によると、資産1,000万元(約2億2,300万円)以上の富裕層470人を対象にした調査で、今後2年間の中国経済に対する信頼感指数は5.4(10点満点中)で4年連続の低下となり、2012年以来の最低水準を記録した。「非常に自信がある」と回答したのは26%で、「まあまあ自信がある」との回答は59%だった。
調査対象者の平均家庭総資産は6,100万元(約13億6,000万円)で、過去5年平均を38%上回った。一方で、世界経済の不確実性や国内成長への警戒感から、消費・投資行動はより理性的かつ防衛的になっている。2025年の中国のラグジュアリー市場規模は前年比で約5%縮小し、富裕層家庭の年間物質消費も減少する見通しだ。特に日用品の高級品、美術品・収蔵品、贈答品の支出削減が目立っている。高級車市場も低迷しており、50万元以上の車種で二桁の減少が報告されている。
一方で、消費の重点は「モノ」から「体験」へ移行している。今後増やしたい支出分野として、旅行、健康・保健、子どもの教育が上位を占め、サービス・体験型消費は12%増加する見込みだ。投資面では、リスク回避と分散志向が鮮明で、今後1年で増やしたい資産は金と海外投資(米国株・香港株)である。金は3年連続で投資選考の首位にあり、逆に、不動産や美術品・収蔵品は保有を減らす対象となっている。
胡潤研究院は、富裕層の留学・移住意向が低下しつつも、海外資産比率は超富裕層で依然高い点を指摘する。中国経済への一定の信頼は維持されているものの、富裕層の行動からは、成長期待よりも不確実性への備えを重視する姿勢が浮き彫りになっている。
[インド]
2月1日、インド財務省は、中央政府にかかる2026年度(2026年4月~2027年3月)の予算案を公表した。歳出に関し、前年比+5.6%の約53兆4,731億ルピーとした。歳出のGDP比は13.6%と、2025年度(13.4%、IMF予想)よりも微増した。一方で歳入は、前年比+7.2%増の約36兆5,155億ルピーと推計しており、これにより財政赤字は約16兆9,577億ルピーになるとみられる。財政赤字GDP比は4.3%になることを見通している。2025年度は4.4%となる見込み(インド財務省)であるため、赤字幅は微減する見通しとなる。これにより、中央政府の公的債務にかかるGDP比は55.6%と、2025年度予想値(同56.1%)よりも0.5ポイントほど減少する見込み。インドではモディ首相・シタラマン財相の下で財政健全化策が実施されていたが、本予算にてもその方針の継続性が確認された形となった。
本予算案にかかる主な注目点に関し、以下のとおり。
・ 関税収入の抑制 ・中央政府によるインフラ投資
・地方政府向け交付金など資本支出(Capital Expenditure)の増額
1点目に関し、インドでは長年、原材料や中間財に課す高関税が企業の価格競争力向上を阻む要因となっており、企業や政府系のエコノミストより批判が挙げられていた。本予算案では、原子力発電向けの原料および太陽光パネルなど再生可能エネルギー設備に使用されるクリティカルミネラルに課す関税を撤廃するとしている。
2点目に関し、中央政府の支出は経常支出(Current Expenditure)と資本支出(Capital Expenditure)に大別されるが、後者については中央政府が所掌するインフラ投資向け予算や、中央政府から地方政府にインフラ投資向けに使途を限定した交付金が含まれる。本予算案における資本支出GDP比は4.4%と、2025年度(3.9%)や2024年度(4.0%)より大きく増額された形となった。これにより、地方政府によるインフラ整備を促進する狙いがあるとみられる。
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