デイリー・アップデート

2026年5月7日 (木)

[インド/州議会選挙結果] 

5月4日、インド選挙管理委員会は、4月下旬より開催された4つの州及び連邦直轄地であるプドゥチェリーにおける選挙の開票を行った。開票結果は以下のとおり。これらのうち、特に西ベンガル州の選挙結果が注目を集めた。同州では2011年よりマムター・バナジー氏率いる地域政党「草の根会議派(TMC)」が州政府の与党となっていたが、今回選挙では15年ぶりに与党の座から転落した形となる。以下のとおり汚職問題の深刻化やそれによる雇用創出不足が特に若年層の不満拡大に繋がったことが要因とされている。

 

・西ベンガル州:定数294議席のうち、与党BJPが206議席を獲得

・タミルナドゥ州:定数234議席のうち、新興政党TVKが108議席を獲得 ・ケララ州:定数140議席のうち、最大野党国民会議派の率いる政党連合UDFが102議席を獲得

・アッサム州:定数126議席のうち、BJPが82議席を獲得

・プドゥチェリー:定数30議席のうち、BJP率いる与党連合NDAが18議席を獲得

 

西ベンガル州はインド北東部・バングラデシュとの国境に位置する州で、地域GDPは約2,100億ドル。人口は約1億人。バングラデシュ同様にガンジスデルタに位置する。紅茶生産など農業のほか、ジュート・繊維業や鉄鋼・化学品も主要産業である。今回選挙によりBJPが州議会の与党となることで、州政府によるインフラ整備の執行ペースが加速するほか、民間企業による設備投資に対する許認可が下りやすくなることが期待される。インドでは、中央政府が土地収用法など州に跨る事項に関する法律・規制等を規定する一方、それらの施行は州政府が担う。例えば環境規制に関しては、中央政府が基準を策定し、各州の公害防止委員会(SPCB)が許認可権限を持っている。TMCは経済改革志向のBJPに比べ農家や既得権益からの政治的支持を優先するような保守的な立場が鮮明であった。例えば2006年から2008年にかけて、タタ・モーターズが自動車工場建設に当たり農地を収用したことに対し当時野党であったTMCが激しい抗議運動を展開し、建設撤回に追い込んだ。またTMCの地元幹部やTMCの支持層から構成される団体が建築用資材の供給等を独占し、民間企業が工場を新設するに際し、これら団体に支払う上納金・仲介手数料上乗せを迫る「シンジケート・ラージ」問題が深刻化した。これらにより西ベンガル州のビジネス環境は大きく悪化し、約6,300~6,900社が生産拠点を州外に移転したとされている(Organiser、2025年12月5日付記事)。今回の選挙によりBJPが州議会の与党となることでビジネス環境が改善し、それにより民間企業の投資を呼び込めることが期待される。現にSensex株式指数は約1,000ポイント急伸し、とりわけ西ベンガル州に拠点を置く企業の株価が高騰した。

 

なお、今回の選挙結果が足元で続くバングラデシュとの外交関係改善を後押しすることも一部で期待される。バングラデシュでは2026年2月の総選挙の結果を踏まえ、新たにタリク・ラーマン氏が首相となった。ユヌス元暫定政権時代には、インドに逃亡したハシナ前首相の身柄引き渡しなどを巡りインドとの外交関係悪化が顕在化したが、4月8日にはインドのジャイシャンカル外相がラーマン氏と会談を実施し、これまで制限されていたバングラデシュ人のインド渡航に対するビザ発給につき数週間のうちに医療ビザとビジネスビザについて発給を緩和することを保証するなど足元では外交関係改善の兆候がみられる。今回選挙によるTMCの敗北・BJPの勝利により、両国間で対立が続いていたティスタ川水資源分配協定の交渉再開が期待される。本協定は、インド北東部シッキム州から西ベンガル州を経由し、バングラデシュを流れる国際河川であるティスタ川の水資源の配分を規定するもの。2011年に両国政府が、乾季(12月~3月)の間は水資源の42.5%をインド側が、37.5%をバングラデシュ川が受け取ることで合意していたが、当時の州首相であったバナジー氏が灌漑(かんがい)用の水が減少することを根拠に反対したことで署名が見送られた。今回の選挙結果を受けてBJPが州議会の与党となり、協定への署名が実現すれば、両国の外交関係改善が期待される。

[メキシコ/経済減速] 

メキシコ統計地理情報院(INEGI)は2026年第1四半期のGDP速報値を公表した。季節調整後の実質GDPは前期比で▲0.8%となり、市場コンセンサスを下回った。部門別では、農林水産業が前期比▲1.4%、鉱工業が同▲1.1%、サービス業が同▲0.6%といずれも活動が縮小している。

 

足元の減速は、景気の基調が弱いこともあるが、特殊要因の影響も指摘されている。ハリスコ新世代カルテル(CJNG)の指導部解体を狙った治安作戦が、経済活動に一時的かつ広範な混乱をもたらした。物流や人の移動が阻害されたため、商業、運輸、観光、外食などサービス業が打撃を受けた。この混乱は、少なくとも表面上は沈静化していることから、今後の経済活動が復調する可能性がある。また、貿易パターンの急激な変動が、季節性を歪めた可能性もある。トランプ政権の関税政策に加え、メキシコ側も貿易協定を結んでいない国からの輸入品に関税を課すなど、政策要因で輸出入が大きく変動した。2025年第4四半期に中国からの輸入が駆け込みで大幅に増えたことから、前期の輸送関連サービスなどが一時的に押し上げられていた。こうした環境下では、統計値の季節調整後の前期比が下振れしやすく、後日の改定で上方修正される余地がでてくる。

 

そのためGDPは弱く見えるものの、財務省はメキシコ経済に対する楽観的な見通しを崩していない。2026年の実質GDP成長率を1.8%から2.8%の範囲とする従来の見通しを変更せず、国内外の経済環境が不透明さを増す中でも、中期的な成長シナリオは維持できるとの認識を示した。一方で、物価動向の見通しを以前の3.0%から3.7%へと引き上げ、インフレ率について、中央銀行の公式目標である3%を、従来の想定よりも長期間上回る可能性が高いことを示唆した。実際、メキシコの年間インフレ率は4月前半にかけてやや鈍化したものの、依然として4.53%と高水準にとどまっている。

 

また、財政面では2026年のメキシコ産輸出原油バスケットの平均価格を1バレル当たり77.3ドルとし、当初の予算で前提としていた54.9ドルを大きく上回る水準とする一方、2026年の歳入はペソ高と原油生産量の減少を主因として、当初見込みより590億ペソ下振れするとの見通しを示した。ただ、全体としては2026年の財政赤字目標をGDP比4.1%に維持する方針を確認し、第1四半期終了時点での公的債務残高はGDP比50.4%と財政の持続可能性を確保できる水準にあるとの認識を示している。

[米国/中東紛争に伴う供給網への懸念] 

ニューヨーク連邦銀行によると、4月の世界サプライチェーン・プレッシャー指数(GSCPI)は1.82となり、3月(0.68)から急上昇した。これは、2022年7月以来の高水準だった。また、その上昇幅は2020年3月以来の大きさだった。中東紛争の影響から、供給網の混乱が大きくなっている。

 

一方、物流担当者指数(LMI)は4月にかけて4か月連続で上昇し、2022年4月以来の高水準になった。米供給管理協会(ISM)の製造業購買担当者景気指数(PMI)でも、供給網の遅延や原材料などの投入価格や販売価格の上昇などが報告されている。中東紛争に伴う原油などエネルギー価格の上昇に加えて、供給網など米国の実体経済への悪影響の広がりが懸念される。

[ウクライナ/汚職犯罪捜査] 

ウクライナで進行中の「ミダス事件」と呼ばれるエネルギー部門の大汚職事件の捜査を巡り、新たな情報漏洩が発覚し、政権中枢の信認低下が懸念されている。4月28日と5月1日、国内主要紙『ウクラインスカ・プラウダ』は、盗聴記録の書き起こしを公開した。捜査対象は、エネルギー分野における大規模な資金環流・不正契約疑惑に及ぶもので、この事件は政権の反汚職姿勢と統治能力を試す象徴的案件と位置づけられている。

 

公開された書き起こしでは、国家安全保障・国防会議書記で前国防相のルステム・ウメロフ氏を名指しで言及し、交渉責任者として非難する内容が含まれているほか、「Vova」と呼ばれる人物に触れる部分については、メディアではゼレンスキー大統領を指す可能性が取り沙汰されている。このため、ミダス事件を巡る疑惑の射程が大統領周辺にまで接近したとの受け止め方が国内外で広がっている。

[中東/最新情勢] 

米国とイランは現在、ホルムズ海峡の封鎖問題と戦闘終結に向けた交渉を続けている。トランプ米大統領は、イランが核開発を放棄しない限り最終合意は認めない姿勢を示している。一方のイランは、まずホルムズ海峡の封鎖解除や安全保障を優先すべきだと主張しており、双方の隔たりは依然として大きい。ただ、水面下ではパキスタンを仲介役として協議が続いており、14項目程度の覚書をもとに停戦や海峡開放を模索しているとされる。

 

5月4日、米国はホルムズ海峡を通航する商船を護衛する「プロジェクト・フリーダム」を開始し、米軍艦艇が民間船の航行支援に乗り出した。これに対しイラン側は反発し、UAE周辺へのミサイルやドローン攻撃を実施した。双方とも停戦は維持されていると説明しているものの、海峡周辺では緊張状態が続いている。翌5日には、トランプ大統領がイランとの合意に向けて大きな進展があったと主張し、同作戦の一時停止を発表した。

 

エネルギー市場でも大きな変化が起きている。アラブ首長国連邦(UAE)は、1967年から加盟していたOPECからの脱退を表明し、生産制限に縛られず増産を進める方針を示した。背景には、将来的に座礁資産化する可能性のある石油を、価格が高いうちに輸出し、その収益をAIや宇宙産業など次世代分野への投資に振り向けたいという狙いがある。OPECの盟主であるサウジアラビアとUAEの間では、イエメン情勢への対応などを巡って対立も生じており、以前から両国の方向性の違いが指摘されていた。

 

UAEのOPEC脱退によって、産油国の結束力低下や「自国優先」の動きが一段と強まり、原油市場の構造変化につながる可能性も指摘されている。今回の戦争を通じて、世界各国は中東依存のリスクを改めて認識しており、エネルギー調達先の多角化や再生可能エネルギーの拡大など、エネルギー戦略の見直しが進み始めている。

 

現在の焦点は、米国とイランがホルムズ海峡の安全確保と停戦に向けてどこまで歩み寄れるかにある。交渉がまとまれば緊張緩和につながる一方、決裂すれば軍事衝突とエネルギー危機が再び深刻化する可能性も残されている。

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