ロシア経済(2015年10月)

2015年10月21日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
宮之原 正道


1. 現況

 ロシア経済は、2015年初めから後退局面にある。同国の実質GDP成長率は2014年第4四半期にわずかにプラスを保ったが、翌2015年第1四半期にはマイナスに転じ(▲2.2%)、さらに第2四半期にはマイナス幅が拡大した(▲4.6%)【図表1】。需要項目別寄与度(第1四半期)では、内需、特に消費の落ち込みが激しい。

 

ロシアの寄与度別実質GDP成長率
(出所:ロシア連邦国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

 この落ち込みの背景には、インフレ率上昇に伴う実質賃金の減少が考えられる。同国にとって重要な輸出品目である原油の価格下落に加えて、ウクライナ情勢を巡る欧米諸国の経済制裁(2014年8月発動)が加わり、ルーブルの下落→輸入物価押し上げ→インフレ率上昇→実質賃金の減少、という負のスパイラルによって消費が大きく押し下げられたと考えられる【図表2】。

 

図表2油価とルーブル相場
(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 インフレ率上昇に対して、ロシア中央銀行は2014年12月に政策金利を17.0%へ引き上げた。しかし、年初以降は5度にわたって利下げを実施し、9月迄に11.0%迄引き下げている【図表3】。これは油価が年初を底値に4月頃迄上昇に転じ、ルーブル安が解消に向かうことで、インフレ率の上昇が抑制される見通しがついたと判断したと考えられる。そして、2014年以来落ち込んでいる景気を回復に向かわせるため、緩和政策へかじ切りした。しかし、5月以降油価が再度下落に転じたのに伴い、再びルーブル安が進行したため、インフレ圧力の高まりを警戒し、9月には据え置きを決定したものとみられる。

 

図表3政策金利
(出所:ロシア中央銀行より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

2. 今後の見通し

 10月6日にIMFが公表した世界経済見通し(WEO)では、ロシアの2015年及び2016年の経済見通しを、其々▲3.8%、▲0.6%とし、2年連続のマイナス成長に陥るとしている【図表4】。これは、前回7月に公表されたWEOに比して、2015年及び2016年其々0.4%ポイント、0.8%ポイント下方修正している。

 

図表4IMFによるロシアの経済見通し
(出所:2015年10月、IMF世界経済見通しより住友商事グローバルリサーチ作成) (注)GDPのカッコ内は前回(7月)からの改定幅

 

 

 今後のロシア経済の見通しを考える上で、景気悪化をもたらした2つの要因(①油価、②経済制裁の行方)に注目する必要がある。

 

 まず油価については、世界的な供給過剰と新興国経済の成長鈍化によって当面低迷が続くものとみられ、これにより、ルーブル安も続くとみられる。そして、経済制裁の行方については、年内の和平プロセス完了を想定した2015年2月の停戦合意(ミンスク2)が順守されるかどうかが鍵となる。しかし、9月末にはシリアにおけるイスラム過激派勢力との戦闘を巡り、ロシアと欧米との対立が深まり、関係悪化に拍車をかけていることから、経済制裁が解除に向かう兆しが見えない状態にある。

 

 以上から、ロシアはインフレ率上昇と景気悪化の両課題に対処しなければならず、非常に厳しい経済運営が続くものとみられる。

 

以上

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