タイ国王の逝去と今後の展望

2016年10月17日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
石井 順也

1. 国王の逝去

 2016年10月13日、タイのプミポン国王が逝去した。

 在位70年に及び、国民から敬愛を集め、タイの政治の安定に大きな役割を果たした国王の逝去は、国民に深い悲しみを与えている。

 

 

2. 政府の対応

 プラユット首相は、13日午後7時にテレビで演説を行い、「国王は44年前の1972年12月28日に後継者を任命している」と述べ、この日に皇太子に任命されたワチラロンコン皇太子が新国王になることを示唆した。

 さらに、同首相は、15日、皇太子の王位継承は国王の葬儀終了後になるとの見通しを示した。

 また、15日、ウィサヌ副首相は、国王の葬儀は少なくとも1年後になるとの見通しを示した。

 新国王が即位するまでは、新たに摂政に就任したプレーム前枢密院議長が国王の職務を代行することになった。

 政府は、①すべての政府の建物は30日間にわたり半旗を掲げること、②公務員は1年間にわたり喪に服すること、③国民は適切な行動を心がけ、今後30日間は祝い事などを控えることを求めた。

 政府は、実体経済への影響を最小限にとどめるべく積極的に情報を発信しており、金融機関や産業界に対して通常通りの稼働を呼びかけている。

 

 

3. 当面想定される事態

 政府の対応は事前の予想に沿ったものであり、政治的・社会的混乱が生じることはないと考えられる。

 なお、2017年後半に予定されていた総選挙は延期される可能性が高いとみられていたが、15日、ウィサヌ副首相は、国王の逝去が総選挙の実施時期に影響することはない、予定通りに進むと述べた。

 ビジネスに及ぶ影響は短期的で、限定されるとみられるが、マーケットすなわち株式市場とタイバーツには影響が及ぶ可能性がある。国王の容体が不安定であると発表された10月9日から12日にかけて、タイの株式市場は約6.5%、タイバーツは対ドルで約3.0%下落し、その後反発するなど、不安定な動きを見せている。

 

 

4. 長期的な展望

 新国王に即位する予定の皇太子は、公式行事に参加することが少なく、どのように政務に関与するのか予測が困難な面がある。その振る舞いによっては不安定要因となり得るとも指摘される。

 2016年8月7日に国民投票で承認され、これから制定される予定の新憲法の下では、総選挙後5年間は軍が引き続き政権を維持できることから、軍としては、その間に新たな体制を確立させたい考えとみられる。

 

タイ国王の逝去と今後の展望(写真:Wikimedia Commonsより。著作権者は写真下に記載)

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