2016年大統領選挙、共和党はホワイトハウスを奪還できるか

2015年09月10日

米州住友商事会社 ワシントン事務所
渡辺 亮司

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ワシントンの町中に点在する共和党(象)と民主党(ロバ)のマスコット(写真:筆者)
ワシントンの町中に点在する共和党(象)と民主党(ロバ)のマスコット(写真:筆者)

 「共和党のビジネスモデルは、21世紀の有権者に対して時代遅れ」2014年中間選挙で共和党が圧勝し興奮さめやらぬ2015年2月、同党を代表する世論調査専門家ウィット・アイヤーズ氏は著書『2016 and Beyond』の中で上記のように警鐘を鳴らしました。そして、今回の共和党勝利は必ずしも次期(2016年)大統領選挙での同党の勝利を約束していないことも示唆しています。中間選挙と比較して大統領選挙では民主党支持の投票者の割合が増え、さらに前回の大統領選挙と比べて米国の人口動態で共和党支持の割合が徐々に減少しており、同党にとって向かい風が吹いています。一方、行き詰まり状態の米国政治に変革を求める国民も多く、共和党に追い風が吹く可能性も大いにあります。次期大統領選挙の勝敗は、共和党がいかに4年前の大統領選挙での敗北を教訓に効果的な戦略を組み立て、追い風を作りだせるかにかかっています。

 

 

• 中間選挙で圧勝、しかし大統領選挙では連敗の共和党

 2010年中間選挙の下院で過半数を奪還した共和党は、2014年中間選挙でさらに14議席を追加し下院では1928年以来、最大となる議席数を確保しました。さらに同じ中間選挙で上院でも9議席を追加し1980年以来、最大となる議席数を確保して多数党に返り咲きました。このように過去2回の中間選挙で大勝している共和党ですが、大統領選挙では民主党出身のオバマ大統領に2008年、2012年と続けて大敗しています。さらにさかのぼれば、共和党候補は過去6回の大統領選挙のうち4回、民主党候補に敗北しており、得票数も5回、民主党候補を下回っています。大統領選挙で連敗している共和党にとって、次期大統領選挙でもさまざまな向かい風が吹いています。

 

 

• 共和党に向かい風(1):大統領選挙には足を運ぶ多くの民主党支持者

 共和党が中間選挙で圧勝できても大統領選挙で苦戦する背景には、4年に1度の大統領選挙にのみ足を運ぶ民主党支持者の存在が挙げられます。米議会専門誌『ナショナル・ジャーナル』のロナルド・ブラウンステイン編集ディレクターは、共和党の中間選挙での勝利の手法が、そのまま大統領選挙で適用できない点を、米公共放送サービス(PBS)のテレビ・インタビュー(2014年11月12日)で過去の数値をもとに説明しています。同氏は、2010年および2014年の中間選挙で共和党議員は60%の白人票を獲得して大差で当選している一方、2012年の大統領選挙でミット・ロムニー共和党大統領候補が59%の白人票を獲得したにも関わらず、大差(5百万票)でオバマ民主党大統領候補に敗北している矛盾を指摘しています。

 

 それは、民主党支持が多い若者、マイノリティ、女性などの投票者の割合が中間選挙と比べて大統領選挙では増加するためです。CNNが2012年の大統領選挙及び2014年の中間選挙で行った出口調査結果がこれを顕著に示しています。若者、マイノリティ、女性の投票者の割合はいずれも2012年大統領選挙と比べて2014年中間選挙で減少し、共和党に有利、民主党に不利となっています。2014年の中間選挙の投票者は2012年の大統領選挙と比べ、18~29歳の若者は6%減少、マイノリティは3%減少、女性は2%減少しています。2016年大統領選挙では、2012年と同様にこれら民主党支持者が投票所に足を運ぶことが予想され、共和党が勝利するには若者、マイノリティ、女性の票を多く獲得できるかにかかっています。

 

 

• 共和党に向かい風(2):民主党有利に変わりつつある人口動態

 米国の人口は、伝統的に共和党支持層の多い白人の割合が減る一方、民主党支持層が多いマイノリティの割合が増加しています。CNNの出口調査によると、1996年大統領選挙で投票者の83%を占めていた白人(ヒスパニック系を除く)は、2012年大統領選挙では72%まで低下しています。

 

 次期大統領選挙で、共和党候補が民主党候補に勝利するためには、仮に2012年ロムニー元大統領候補と同じレベル(59%)の白人票を獲得した場合、合わせて30%ほどのマイノリティ票を獲得せねば民主党大統領候補に勝利できないとアイヤーズ氏は分析しています。過去の選挙ではロムニー元大統領候補はわずか17%、2008年ジョン・マケイン元大統領候補は19%、2004年に勝利したジョージ・W・ブッシュ元大統領候補ですら26%しかマイノリティ票を獲得できませんでした。一方でマイノリティ票をロムニー候補と同レベルの17%しか獲得できなかった場合、白人票を65%ほど獲得する必要があるとアイヤーズ氏は分析しています。白人票をそこまで獲得できたのは過去40年で1度だけ、共和党のロナルド・レーガン元大統領が1984年の大統領選挙で圧勝した時だけで、非常に困難なことが推測できます。

 

 

• 共和党に向かい風(3):共和党への期待を反映していない中間選挙の勝利

 米国政治アナリストのチャーリー・クック氏は、中間選挙は現職大統領の過去2年間(1期目の場合)あるいは6年間(2期目の場合)の信任投票であるのに対し、大統領選挙は将来に対する期待を反映すると分析しています。CNN/ORC世論調査によると、2014年の中間選挙での共和党勝利の理由として、有権者の16%だけが「共和党の政策運営に期待」と答えており、必ずしも共和党の政策を支持して同党に投票したわけではないことがうかがえます。アイヤーズ氏は、「2010年、2014年の共和党の成功体験が共和党の直面する長期的な問題を覆い隠し、共和党大統領を当選させるために必要な改革を先延ばしにする危険性がある」と指摘しています。つまり、アイヤーズ氏は次期大統領選挙に勝利するには共和党は政策を改革しなければならない点を訴えています。過去に有権者の心をつかみ大統領選挙で勝利できた共和党の政策は今日の社会では通用しない点を、共和党を代表する戦略アドバイザー自らが認めているのです。

 

 

• 共和党が勝つための戦略

 マイノリティの割合が増加しつつある人口動態を誰も変えることはできません。2004年大統領選挙でブッシュ元大統領が当選した白人票58%、マイノリティ票26%の割合では、人口動態が変わった今日では当選することができません。大統領選挙で勝利するには、共和党はまずは実情を認識し、勝てる戦略を練る必要性をアイヤーズ氏は訴えています。具体的には、従来の支持基盤である白人票を維持あるいは増やすと同時に、マイノリティ票を増やす戦略が不可欠です。マイノリティの投票者の中で、特に顕著に増加しているのがヒスパニック系です。CNNの出口調査によると、1996年大統領選挙では投票者の5%を占めるに過ぎなかったヒスパニック系が2012年大統領選挙では10%まで上昇しています。移民政策をはじめヒスパニック系が共感できる政策を掲げることが大切です。また中西部の白人票の拡大においては、米国経済の構造変化で悪影響を被っている人々が支持する政策を打ち出す重要性もアイヤーズ氏は指摘しています。今後、共和党予備選が本格化する中、これらの政策を訴 える候補者を共和党が指名できるかが鍵です。

 

ホワイトハウス近くでトランプ候補が建設中のホテル(写真:筆者)
ホワイトハウス近くでトランプ候補が建設中のホテル(写真:筆者)

 アイヤーズ氏は、米国の国民の大半は今でも役割・規模が小さい政府、個人の自由、自由経済といった価値観を好み、政治は中道右派が占めていると分析しています。すなわち、共和党にとっては追い風になる要素もあるということです。また、国民の民主党政権疲れや変革を求める動きが共和党支持を高める要因にもなり得ます。1948年以降、同じ政党が3期連続で大統領選挙に勝利したのはレーガン大統領(当時)の後にジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)が当選した1988年の1回のみです。現在、支持率トップを走るトランプ候補の人気の背景には一部の共和党有権者が行き詰まり状態の政治に落胆しており、トランプ候補が提示する保守的な外交政策や移民政策などに魅力を感じていることが指摘されています。年初までオバマ大統領の上級顧問を務めていたダン・フェイファー氏は、トランプ候補は共和党の移民政策に対する議論をより保守的な方向にシフトさせていると述べています。他の共和党候補は共和党予備戦を勝利した後、本選で民主党候補と争うことを想定して、トランプ候補の移民政策などと一線を画す戦略が不可欠です。トランプ候補の支持者の多さに圧倒されず、前回の大統領選挙の惨敗を教訓にマイノリティ、若者、女性などの票獲得を念頭に選挙戦を進めることが重要でしょう。

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