2025年7月22日 (火)
[カタール/コンゴ民主共和国(DRC)/ルワンダ]
7月19日、カタールの首都ドーハでDRC政府と、ルワンダ系反政府勢力・コンゴ川同盟(Alliance Fleuve Congo:AFC)および「3月23日運動(M23)」の間で停戦に向けた「原則宣言(Declaration of Principle)が署名された。6月27日に米・ホワイトハウスでDRC政府とルワンダ政府との間で「和平協定(Peace Agreement)」が締結されたが(2025年6月30日SCGRデイリーアップデート参照)、紛争当事者間での停戦に向けた文書の署名は1月の衝突激化以降、初めてとなった。署名式典はカタールのフライフィ外務省国務大臣が主宰し、DRCのマンブ大統領特使、M23のムボニンパ事務総長、米国のブーロス大統領上級顧問(中東アフリカ担当)らが参加した。
停戦の合意内容は公表されていないが、各種報道機関が入手した情報によると、6月に米国が仲介した和平協定の内容にほぼ即したもので、「領土の完全性の尊重」と「国家権威の回復」が含まれているとのこと。7月29日までに合意した条項を実施し、8月8日までに永久合意に向けた直接交渉を開始、8月18日までに和平協定に署名することを約束したと報じられている。タイムラインは6月の和平協定との整合性がみられることから、カタール政府と米国政府が強調して実務的な作業を進めてきたことがうかがえる。
今回の紛争当事者同士の停戦合意の発表に対し、ルワンダ政府は3月から仲介を続けているカタール政府への謝意を表明。また、平和維持ミッションを行ってきた国連のほか、アフリカ連合(AU)、米国、トルコ、フランスなども今回の和平合意の動きを歓迎する声明を出している。
他方で、今回の停戦合意の履行については懐疑的な見方もある。独ドイチュ・ヴィレ紙は、原則宣言の発表後、DRC政府は「M23ら武装勢力が支配地域から即時撤退する」と報じた一方で、それを受けて武装勢力側は「1メートルも支配地域から撤退しない」とSNS上で表明するなど、両者間の見解の隔たりは埋まっていない点を指摘している。また、ルワンダ国防軍(RDF)のDRC領土内からの撤退や武装解除についても言及はみられなかった。米戦争研究所などはかねてから、M23およびAFC(M23の広報組織)は和平合意後にDRC国内の「合法的な政治勢力」と認めるようDRC政府に圧力をかけ、タンタルやスズなど重要鉱物が豊富な実効支配地域を合法的に管理し続けるとの見方を示している。
[米国] ミシガン大学の「消費者調査」によると、7月の消費者信頼感指数は61.8となり、6月(60.7)から上昇し、2月以来、5か月ぶりの高水準になった。市場予想(61.5)を小幅に上回った。内訳を見ると、足元の状況を表す現状指数は6月(64.8)から66.8へ上昇した。
先行きの状況を表す期待指数も6月(58.1)から58.6へ上昇した。また、1年先の期待インフレ率(中央値)は4.4%となり、6月(5.0%)から低下した。5年先の期待インフレ率は3.6%であり、6月(4.0%)から低下した。それぞれ2月以来5か月ぶりの低水準だった。ただし、いずれも大統領選前の2024年10月(それぞれ2.7%、3.0%)を上回ったままであり、物価上昇への警戒感が消費者に残っている。
[米国] 全米不動産業者協会(NAR)の新しい報告によると、過去1年間の米国住宅の外国人購入者で中国人が最大の割合を占めた。NARが発表した米国住宅不動産の国際取引に関する最新の報告書によれば、中国人購入者は2024年4月から2025年3月の1年間、米国住宅市場における外国人購入者の総支出560億ドルのうち137億ドルを占めた。これは前年同期の2倍以上の金額となる。中国のあとにはカナダ、メキシコ、インド、イギリスと続いている。州別ではカリフォルニア州が中国人購入者の最大の行き先となっており、購買額の36%を占めた。続いてメリーランド州とニューヨーク州、ハワイ州(5%)となっている。カリフォルニアに惹かれる理由は、中国に近いという地理的心理的要因や、世界第1位の経済大国への進出によるビジネスチャンス、そして特定の市場では文化的なつながりが強いことによるものと指摘されている。
[ウクライナ侵攻] 7月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で、停戦などを巡るロシアとの直接協議について、次回は7月23日に行われるという見通しを明らかにした。ウクライナ代表団を率いてきたウメロフ国家安全保障・国防会議書記(前国防相)から「23日の予定」と報告を受けたという。21日、ロシア国営タス通信は関係筋の話として、両国代表団のイスタンブール到着が23日になる可能性はあるものの「協議は24日に計画されている」と報道した。5月と6月に行われた過去2回の直接協議と同様、トルコのイスタンブールが会場になる見通しである。2国の代表団は捕虜の交換や児童の帰還、両大統領の首脳会議の準備について話し合う予定である。
[中国/インド]
7月19日、李強首相はチベット自治区ニンティ市で開催されたヤールン・ツァンポ川下流水力発電工事の着工式に出席し、正式な着工を宣言した。計画では、年間3,000億キロワット時の発電能力を持つ5つのカスケード式水力発電所で構成され、約50kmの区間に2,000mの落差が設けられる。総投資額は約1.2兆元(約24兆6700億円)で、操業開始は2030年代を予定している。発電された電力は主にチベット自治区外への送電・消費に充てられ、一部は現地の需要にも対応する見込みだ。
インドは、自国の国境に近いこのダムの建設について、自国とバングラデシュの数百万人の生活に影響を及ぼす可能性があるとして、環境面および戦略面での脅威に対する懸念を表明してきた。アルナーチャル・プラデーシュ州のペマ・カンドゥ州首相は、「このダムは地域住民の存亡に関わる危機であり、中国によって”武器”として利用される可能性がある」と述べた。また、中国が水資源に関するいかなる国際条約にも加盟していない点についても同氏は批判した。
一方で、長江の三峡ダム以来、中国で最も野心的な水力発電プロジェクトの開始は、国内市場では景気刺激策の一環と受け止められ、7月21日(月)には株価と債券利回りが上昇した。中国のCSI建設・エンジニアリング指数は4%上昇し、7か月ぶりの高値を記録。中国電力建設集団とアークプラス・グループ(華東建築集団股?有限公司)の株価は連日で10%高となり、急伸した。
[米国/シリア/イスラエル]
7月19日、シリア南西部のスワイダ県で7月13日から続いた、同地のドルーズ派コミュニティとイスラム教スンニ派の地元遊牧民との衝突に関し、バラック米シリア特使が、シリア軍と、ドルーズ派支援のために介入したイスラエル軍との間で停戦が成立したと自身のSNS上で発表した。同日、シリア大統領府も停戦を発表し、すべての当事者に対し戦闘行為をやめるよう訴えた。在英NGOのシリア人権監視団は、今回の衝突による死者が1,000人を超えたと発表している。ただ、翌20日にも一部での衝突やイスラエルによる攻撃があったとの報道もある。15日、16日にも一旦停戦が発表された後に攻撃が再開された経緯がある。
2024年12月にシリアでアサド旧政権を倒したシャラア新暫定政権にとって、シリア国内の宗派間の暴力の制御や少数派コミュニティの保護が大きな課題となっているが、今年に入って既にドルーズ派や同じく少数派のアラウィー派との大規模な衝突、キリスト教会に対する攻撃などが発生している。
米ホワイトハウス報道官は、今回のシリアに対するイスラエルの空爆についてはトランプ大統領も「不意を突かれた」ことを認めており、米紙AXIOSも米政府高官の話として、トランプ政権内でネタニヤフ首相の行動に対する不満が高まっていることを報じている。 トランプ政権はシリアに対する制裁解除を進め、シャラア新政権を支えようとしているが、イスラエルによる対シリア攻撃がシリア新政権を脆弱化させ、地域の不安定化につながることを懸念している。
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