デイリー・アップデート

2025年7月18日 (金)

[EU] 

EUは、米国の自動車関税の引き下げを再び提案し、ドイツの自動車メーカーが当初提案していた複雑な「ネッティングメカニズム」を放棄した。自動車関税は、EUと米国の貿易協定における最大の障害のひとつとなっている。EUの最新の提案では、トランプ政権が自動車セクターに対する課税を20%以下に引き下げた場合、EUは米国の自動車輸出に対する10%の関税を引き下げることになる。

 

トランプ大統領は3月、外国製の自動車と部品に25%の関税を課し、その後、ほぼすべての貿易に相互関税を提案した。また、8月1日までに貿易協定に合意できなければ、EUに対する関税率は10%から30%に引き上げられる。

 

報道によれば、EUが米国の自動車輸入に対する関税をなくせば、米国がEUの自動車に対する関税を17.5%に引き下げることが検討されているとのことだ。これまでは、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどのドイツの自動車メーカーや、スウェーデンのボルボ・カーズなどが主導する形で「ネッティングメカニズム」という、OEM(相手先ブランド製造)が米国で生産した車両を輸出している場合に、同額分の米国への輸出については関税を相殺できるという提案を行っていた。

 

ドイツやスウェーデンは、自国の産業を保護しようとより良い条件で交渉しようとしていたが、これはほかのEU諸国との間の緊張を引き起こしていた。特に、米国の工場を持たない自動車メーカーを抱えるいくつかの加盟国は、ネッティングにより低い関税が適用された場合、ドイツなどのライバルに負けることを危惧していた。

 

また、ドイツ政府自身も、ネッティングメカニズムが自国のOEM全員にとって優れているわけではなく、仕組みも複雑で、トランプ大統領もそれにあまり乗り気ではなかったため、態度を軟化させていた。

 

しかし、その他にも米国の自動車輸出には障壁が残る。米国とEUでは安全基準が異なり、米国の自動車メーカーが専門とする大型エンジン車にはチキンタックスと呼ばれる税率が課せられる。EUは、EU域内に輸出する自動車に必要とされる試験について、米国の機関を認定することには前向きだが、それでもEUが設定したのと同じ要件を満たす必要がある。

 

自動車以外においても、医薬品や半導体や農産物に対する関税についての協議は未解決のままである。

[ボリビア] 

ボリビアでは8月17日に大統領選と議会選が予定されており、決選投票がほぼ確実視されている。世論調査では右派候補への支持が拡大しており、左派の有力候補が不在であることや、アルセ政権の経済政策への不満が背景にある。元大統領モラレスは憲法裁判所の判断と刑事告発により出馬できず、支持者に白票や無効票を呼びかけている。これにより、選挙結果の正当性に異議を唱える動きや抗議行動の激化が懸念されている。

 

有力候補は右派のドリア・メディナ氏(18.7%)とキロガ氏(18.1%)で、両者の間で決選投票が行われる可能性が高い。左派では社会主義運動(MAS)出身のロドリゲス氏(11.8%)が注目されているが、モラレスとの関係悪化や選挙運動の出遅れが課題となっているほか、補助金制度の見直しを訴えるも具体策は不透明で、支持拡大には課題が残る。経済状況は悪化しており、インフレ、成長停滞、貧困の増加、燃料不足などが選挙の争点となっている。

 

議会も分裂が予想され、統治の困難が増す見通し。候補者の乱立により、右派内でも統一候補を求める声があるが、現時点で譲歩の動きは見られない。ロドリゲス氏は補助金制度の見直しを訴えるが、具体策は不透明で、支持拡大には課題が残る。世論調査では、まだ決めかねている人や白票・無効票の割合が高く、選挙結果に大きな影響を与える可能性がある。

[米国/アフリカ] 

7月16日、米・国土安全保障省は、米国で有罪判決を受けた不法移民5人を載せた「第三国送還便」が南部アフリカのエスワティニ(旧スワジランド)に到着したと発表した。5人はベトナム、ジャマイカ、ラオス、キューバ、イエメン出身でいずれもアフリカ出身者ではない。同省のトリシア・マクラーリン次官補は、「これらの犯罪者は、極めて残虐な行為を犯した者たちで、彼らの本国も受け入れを拒否した」と自身のSNS(旧Twitter・現X)上に投稿した。

 

トランプ2.0政権では「最悪中の最悪(The worst of worst)」の不法移民を米国から強制送還すると公約に掲げている。不法移民らの出身元である国が強制送還の受け入れを拒む場合は、受け入れに協力する第三国への送還を開始している。

 

6月23日、米・連邦最高裁は、下級裁判所が求めていた第三国への送還対象となる不法移民本人の異議申し立てには最低15日の猶予を与えるべき、との命令を差し止めた。裁判官9人のうち、6人が保守派だったと報じられている。この最高裁の判決により、「当面の間」は米国政府が強制送還を決定した場合、直ちに第三国への送還が可能となった。この判決に基づき、7月5日、米国で有罪判決が下されていた8人が判決の間に拘留されていたジブチの米軍基地から、南スーダンの収容所に移送された。8人のうちアフリカ出身者は南スーダン人1人のみだった。今回のエスワティニの受け入れはサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)では南スーダンに続き2例目となるが、両国政府ともその受け入れの代わりに米国から何がもたらされたかは明らかにしていない。

 

7月9日、トランプ大統領はホワイトハウスで開催したアフリカ5か国(セネガル、モーリタニア、リベリア、ガボン、ギニアビサウ)の首脳を招いた昼食会(2025年6月10日デイリー・アップデート参照)において、「安全な第三国協定の進展について」と発言をし、米国内の不法移民の受け入れを暗に要求するような姿勢を示した。同5か国や南スーダン、エスワティニは、サブサハラにおいても比較的経済規模が小さい国であり、米国の対外援助停止による影響が不可避な中、トランプ氏が不法移民受け入れの引き換えに経済的なインセンティブを与える「取引的」な動きをとっているとみられる。

 

サブサハラで2位の経済規模を有するナイジェリアのトゥガー外相は「米国はアフリカ諸国に対し、米国から送還されるベネズエラ人を受け入れるよう相当な圧力をかけている。」と米国の一方的な態度に対して不快感を露わにしている。

[ジョージア] 

7月16日、欧州連合(EU)の移民・内務委員会のベアテ・グミンダー事務局長は、旧ソ連のジョージア(グルジア)ボチョリシヴィリ外務大臣宛てに書簡を送り、その中でEU加盟候補国のジョージアが欧州の価値観を侵害していると非難し、このままだと制裁を科すと警告した。また、7月15日、カラス・EU外交安全保障上級代表も、ジョージアでの民主主義が後退していると非難し、政府に対し、集会と表現の自由の保護、プライバシー権の尊重、差別禁止法令の順守などに関して2025年8月末までに姿勢を修正するよう求めた。制裁の選択肢としてEU域内のビザなし渡航や、EUとのパートナーシップ協定の一時停止をすることが検討されている。

 

ジョージアは2023年にEU加盟候補国と認められたが、2024年8月に外国から20%以上の資金援助を受ける組織について「外国の影響を持つエージェント」として登録する法案を可決し、また、2024年9月に性的少数者(LGBT)の権利を制限する法案も可決され、欧州から大きな批判を招いた。さらに最近、ジョージア政府が野党勢力にも抑圧を強めており、6月末までの1週間で親欧州路線の野党指導者ら6人が相次いで拘束された。現政権は市民団体や独立系メディアを厳しく制限し、ロシア寄りともみられる動きも示している。

[米国/バーレーン] 

7月16日、バーレーンのサルマン皇太子兼首相がホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領との会談を実施した。今回の訪問中に米国とバーレーンは、170億ドルの投資協定に署名。バーレーン国営航空会社ガルフ・エアが、ボーイング社製航空機B787型機18機とゼネラル・エレクトリック社製エンジン36基を購入する約70億ドルの契約を締結。その他、オラクルやシスコからのコンピューターサーバーの購入、アルミニウム生産や人工知能への投資などが含まれる。また、両国は民生用原子力エネルギーに関する協力を進めるための協定にも調印した。サルマン皇太子兼首相は米国滞在中に、ヘグセス国防長官やグリア通商代表部(USTR)代表との会談も実施した。

 

バーレーンには米海軍第5艦隊が駐留しており、また2020年にはイスラエルとの国交正常化にも合意(アブラハム合意)しており、地域における米国の重要な安全保障パートナーである。2025年末までにバーレーンのハマド国王がワシントンを訪問する予定。

[米国/中国] 

2025年3月から5月にかけて米中ビジネス協議会(US-China Business Council:USCBC)が行った調査によると、在中国の米国企業が2025年に計画している新規投資は過去最低水準となっており、収益性に対する期待も後退している。

 

調査結果から懸念されているのは、今後の米中関係の不透明さや関税である。企業はまた、中国経済の減速にも直面しており、内需の弱さや地場産業の過剰生産能力が進出企業の収益性をさらに侵食している様子がうかがえる。

 

この調査は、130社の会員企業から情報を収集したもので、レアアース磁石や先端コンピューター・チップなどの重要な製品に対する輸出規制を含む関税および非関税措置を巡って対立している中で実施された。調査回答の半数以上が2025年、中国での新たな投資計画を持っていないとしている。

 

こうした調査結果は過去の調査では見られなかったと担当者は述べている。また、調査によると、約40%の企業が米国の輸出規制措置による悪影響を報告しており、多くが売上の減少、顧客との関係の断絶、供給者としての信用失墜といった被害を経験しているという。

 

なお、中国における欧州連合(EU)商工会議所が5月に実施した調査によれば、欧州企業は中国経済の減速と激しい競争による価格下落を背景に、コスト削減や投資計画の縮小を進めていることが分かっている。

[日本] 

総務省によると、6月の消費者物価指数(総合)は前年同月比+3.3%となり、5月(+3.5%)から上昇率が縮小した。物価の基調を表す生鮮食品を除く総合(いわゆるコア指数)は+3.3%であり、5月(+3.7%)から縮小した。また、食品及びエネルギーを除く総合(コアコア指数)も+3.4%、5月(+3.3%)から小幅に拡大した。物価上昇率は総じて5月よりも縮小したものの、高い伸びを保っている。なお、生活実感に近い帰属家賃を除く総合も+3.8%と、5月(+4.0%)から縮小したものの、総合指数などよりも高い伸びであり、物価上昇の痛みが大きいことを示唆している。

 

内訳を見ると、食料は+7.2%で5月(+6.5%)から拡大した。うるち米は+99.2%とほぼ2倍になった。おにぎり(+19.1%)や、すし(外食、+6.5%)、コーヒー豆(+40.2%)などの上昇が引き続き目立った。その一方で、光熱・水道が+3.4%と、5月(+7.7%)から縮小した。電気代が5月の+11.3%から6月の+5.5%へ、都市ガス代が+6.3%から+2.8%へ上昇率を縮小させ、ガソリンが+4.8%から▲1.8%へ、定額補助金の効果から、低下に転じた。 また、財は+4.8%となり、5月(+5.3%)から縮小した。石油製品と電気・都市ガス・水道の物価上昇率の低下が主因だった。サービスは+1.5%で、5月(+1.4%)から小幅に拡大した。公立高等学校授業料の下落がサービス価格の上昇を抑制していた。

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